( 4 )資産取得(簡易課税 仮受超過)

前回に引き続き、資産取得によって税込経理方式と税抜経理方式で利益の額が一致しない事例です。

なぜ一致しないのか、逆に、なぜ一致していたのかを分析します。

今回は、簡易課税制度による消費税申告の場合で検討します。

数値と税額

数値

売上高(税抜) 10,000
売上高(税込) 10,800
売上原価(税抜) 3,500
売上原価(税込) 3,780
給料 4,000
固定資産取得(税抜) 5,000
減価償却費(税抜) 500
固定資産取得(税込) 5,400
減価償却費(税込) 540

消費税を預かる売上高(課税売上高)によって発生した消費税等の額(仮受消費税等)は800、消費税の支払いを伴う資産の取得や費用の発生(課税仕入れ)によって発生した消費税等の額(仮払消費税等)は680(売上原価280および固定資産400)です。給料支払いは消費税が課される取引(課税取引)ではありません(いわゆる不課税取引)。

固定資産は期首に取得したものとし、その耐用年数は10年としています。

簡易課税による消費税額

  • 課税売上による消費税等・・・800
  • みなし仕入率(50%)による消費税等・・・400
  • 差引・・・400(納税)

簡易課税制度とは、前期末までに消費税簡易課税制度選択届出書を提出し、前々事業年度(基準期間)の課税売上高が5,000万円以下の場合に適用される制度です。課税売上に係る消費税等から差し引く消費税等の額(仕入税額控除の額)は、実際に発生した仮払消費税等の額ではなく、課税売上高に「みなし仕入率」を乗じて算定した額となります。みなし仕入率は課税売上の事業によって異なりますが、ここでは50%としています。

みなし仕入率によって乗じた額が、実際に発生した仮払消費税等の額よりも大きければ、一般課税の場合より納税額が減って利益となります(益税)が、逆の場合には、一般課税の場合よりも納税額が増えることになります(今回はこれに当たります)。

ここでは、簡易課税制度によって、課税売上に係る消費税等(800)から差し引く消費税等の額(仕入税額控除の額)が、実際の額(680)よりもみなし仕入率による額(400)の方が小さいため、一般課税の場合よりも納付額が280増えています。

この額は、簡易課税制度のために消費税の申告で控除できなかった消費税等ということになります。そして、会計上は費用となり、法人税の計算上も損金となります。

結局、簡易課税制度のために課税売上に係る消費税等の額から控除できなかった消費税等の額は、「その額に実効税率を乗じた部分について法人税等の納税を節約できた」という形でしか回収できないことになります。

組み合わせ一覧

( 1 )簡易課税 & 税込経理方式

数値

売上高(税込) 10,800
売上原価(税込) 3,780
給料 4,000
固定資産取得(税込) 5,400
減価償却費(税込) 540

簡易課税による消費税額

  • 課税売上による消費税等・・・800
  • みなし仕入率(50%)による消費税等・・・400
  • 差引・・・400(納税)

税込経理方式による仕訳

(借) 売掛金 10,800 (貸) 売上高 10,800
(借) 売上原価 3,780 (貸) 未払金 3,780
(借) 給料 4,000 (貸) 未払金 4,000
(借) 固定資産 5,400 (貸) 未払金 5,400
(借) 租税公課 400 (貸) 未払消費税等 400
(借) 減価償却費 540 (貸) 減価償却累計額 540

税込経理方式による損益計算書

売上高 10,800
売上原価 3,780
給料 4,000
減価償却費 540
租税公課 400
利益 2,080

税込経理方式は、取引を税込金額で経理して消費税等の額を損益に含める経理方式です。仮受消費税等の額は売上高等の収益を構成し、仮払消費税等の額は費用を構成し、申告による納税額も費用となります。

( 2 )簡易課税 & 税抜経理方式

数値

売上高(税抜) 10,000
売上原価(税抜) 3,500
給料 4,000
固定資産取得(税抜) 5,000
減価償却費(税抜) 500

簡易課税による消費税額

  • 課税売上による消費税等・・・800
  • みなし仕入率(50%)による消費税等・・・400
  • 差引・・・400(納税)

税抜経理方式による仕訳

(借) 売掛金 10,800 (貸) 売上高 10,000
仮受消費税等 800
(借) 売上原価 3,500 (貸) 未払金 3,780
仮払消費税等 280
(借) 給料 4,000 (貸) 未払金 4,000
(借) 固定資産 5,000 (貸) 未払金 5,400
仮払消費税等 400
(借) 仮受消費税等 800 (貸) 仮払消費税等 680
雑損失 280 未払消費税等 400
(借) 減価償却費 500 (貸) 減価償却累計額 500

税抜経理方式による損益計算書

売上高 10,000
売上原価 3,500
給料 4,000
減価償却費 500
雑損失 280
利益 1,720

税抜経理方式は、取引を税抜金額で経理して消費税等の額を損益に含めない経理方式です。期中は仮受消費税等の額は負債科目(仮受消費税等a⁄c )、仮払消費税等の額は資産科目(仮払消費税等a⁄c )として処理され、期末の決算整理で相殺されます。

一般課税によって申告した場合、仮受消費税等a⁄c の残高は800、仮払消費税等a⁄c の残高は680なので、消費税は120の納付となります。しかし、簡易課税制度による申告のため、税額は400となっています。この差額280は、雑損失として処理されます。

( 3 )税込経理方式と税抜経理方式との利益の差額についての分析

税込経理方式による利益金額は2,080、税抜経理方式による利益金額は1,720です。

この差異はなぜ生じたのでしょうか。なぜ差異が生じたのかを検討する前に、なぜ差異が生じなかったのかから先に検討したいと思います。

税込経理方式と税抜経理方式で利益が一致しない理由

税込経理方式では消費税等の額が損益に含まれ、税抜経理方式では消費税等の額が損益に含まれません。 このため、損益計算書では税込経理方式のほうが消費税等の額が収益や費用に含まれ金額的に膨らんでいますが、税抜経理方式と利益金額は一致しています(第1回、第2回参照)。

その理由は、収益や費用について繰延べがなくすべて当期分として処理されたからです。

消費税の申告で納税または還付を受ける額は、あくまでその期間中に発生した消費税等の額で行います。このため、税込経理方式か税抜経理方式かで納税額または還付額が変わることはありません。当然といえば当然です。

いっぽうで、事業年度中に発生した収益や費用には繰延べなどはなく、すべて当期分の損益となっています。

このため、取引金額(税込経理方式と税抜経理方式のいずれも損益を構成)と消費税等の額(税込経理方式のみ損益を構成)とで会計期間でズレが生じず、税込経理方式と税抜経理方式で利益が同じになるのです。

では、税抜経理方式と税込経理方式でズレが生じるのはどういうときか、それが固定資産の取得なのです。

そして、そのズレは2点で生じます。期間的なズレと取得価額のズレです。

期間的なズレとは、固定資産の取得価額はその全額が当期分の費用にならず耐用年数にわたって費用処理されますが、消費税の申告はあくまでその期間中に発生した消費税等の額で行うため、固定資産の取得に要した消費税等の額はすべて当期分の消費税の申告計算に反映されることによるズレです。

取得価額のズレとは、税込経理方式では固定資産の取得価額は取得に要した消費税等の額も含めるため(税込金額)、減価償却費にも消費税等相当額が含まれることになります。この消費税等相当額の分だけ、すべて本体価格で処理する税抜経理方式での減価償却費よりも額が大きくなることによるズレです。

そこで、この2つのズレを分析するため、減価償却費を計上する前の損益計算書と減価償却費を計上した後の損益計算書で検討します。

実務での決算整理作業も、まずは消費税のチェックと消費税の申告計算を行って消費税がからむ仕訳をすべて終わらせてから、消費税が関係しない仕訳(減価償却や法人税等の計上)を行います。

具体的な差異分析(減価償却費計上前の状況)

まず、減価償却費を計上する前の損益計算書を比較してみましょう。ちなみに、消費税の申告計算後です。

(税込経理方式)

売上高 10,800
売上原価 3,780
給料 4,000
租税公課 400
償却前利益 2,620

(税抜経理方式)

売上高 10,000
売上原価 3,500
給料 4,000
雑損失 280
償却前利益 2,220

さて、当期分の消費税の申告は簡易課税方式によっています。このため、固定資産を取得して消費税等が発生しても、あくまでも課税売上による消費税等の額(800)から差し引く消費税等は、課税売上高による消費税等の額にみなし仕入率(ここでは50%)を乗じた額(400)となり、納税額は400となります。

ところで、もし一般課税によって申告した場合、課税売上による消費税等の額(800)から課税仕入れによる消費税等(680)を差し引くと納税額は120です。このため、一般課税よりも簡易課税のほうが280税額が多くなっています。

簡易課税による申告のため一般課税の場合より増えた280については、税込経理方式ではもともと消費税等の額が損益に含まれるため、租税公課の額が280から400になったことで終わります。いっぽう、税抜経理方式では消費税等の額は損益に含まれませんが雑損失280が計上されています。

これは、税抜経理方式なのに消費税等の額が損益となったというよりも、仮受消費税等a⁄c の残高(800)、仮払消費税等a⁄c の残高(680)の相殺額(120)が未払消費税等a⁄c の残高となるところ、簡易課税制度による申告で消費税等の税額は400で固まっているため、あるべき未払消費税等a⁄c の残高(400)との差額(280)を雑損失として処理したというものです。

結局、税込経理方式と税抜経理方式の差額400は、固定資産の取得に要した消費税等(400)の分ということになります。

なぜなら、この段階の分析は、固定資産に係る減価償却費を計上する前です。つまり、固定資産の取得それ自体は税込経理方式も税抜経理方式も損益になっていません。

消費税の申告は簡易課税によるため、課税仕入れによる消費税等の額はみなし仕入率によるため固定資産の取得に係る消費税等の額は無視されます。すると、税込経理方式によると、この段階では固定資産を取得してもしていなくても利益の額は同じということになります。

いっぽう、税抜経理方式の場合には、固定資産の取得による消費税等の額は仮払消費税等a⁄c に計上され、簡易課税により納税が増えた分(280)が雑損失となっています。つまり、税抜経理方式では、固定資産の取得による消費税等の額が結果的に損益に反映されているのです。

具体的な差異分析(減価償却費計上後の状況)

つぎに、減価償却費を計上した後の状況です。

(税込経理方式)

償却前利益 2,620
減価償却費 540
償却後利益 2,080

(税抜経理方式)

償却前利益 2,220
減価償却費 500
償却後利益 1,720

税込経理方式の場合、固定資産に係る消費税等(400)は取得価額に含まれ(5,400)、耐用年数(10年間)にわたって費用化されます(当期は540、うち消費税等相当額が40)。

税抜経理方式の場合、固定資産に係る消費税等は取得価額に含まれず(5,000)、耐用年数(10年間)にわたって費用化されます(当期は500)。

このため、耐用年数にわたって、税込経理方式のほうが消費税等相当額の分だけ減価償却費が大きくなり、その分だけ税込経理方式のほうが税抜経理方式よりも利益が小さくなります。

以上から、減価償却費計上の前の段階では、固定資産の取得に要した消費税等の額(400)だけ税抜経理方式のほうが利益が大きかったのですが、減価償却費の計上で、税込経理方式では消費税等相当額が含まれるため(40)、税抜経理方式のほうが利益が小さくなります。

よって、最終的に、税込経理方式の損益計算書と税抜経理方式の損益計算書とで差額360が生じたのです。

まとめ

固定資産を取得した事業年度では、次の金額だけ税抜経理方式のほうが利益が小さい(税込経理方式のほうが利益が大きい)ことになります。

固定資産の取得に係る消費税等−税込経理方式での減価償却費に含まれる消費税等相当額

固定資産を取得した翌事業年度以降は、次の金額だけ税抜経理方式のほうが利益が大きい(税込経理方式のほうが利益が小さい)ことになります。

税込経理方式での減価償却費に含まれる消費税等相当額

耐用年数が終了した場合には、税込経理方式と税抜経理方式の利益は一致することになります。

実際には、毎期のように固定資産の取得があり、それぞれの減価償却費が計上されているとすると、税込経理方式と税抜経理方式の違いを厳密に分析するのは容易なことではないと思いますし、その実益もあるのかと思います。

そして、何より重要なことは、固定資産取得時には税抜経理方式のほうが利益が小さくなることです。

( つづく )