( 3 )消費税自動仕訳のミスとその対処方法

一般的な会計ソフトでは、消費税(相当額)の計上を自動化しているため、仕訳入力処理が非常に楽になっています。しかし、この消費税(相当額)の自動計上のために、思わぬ落とし穴もあります。とくに、各勘定科目に標準設定されている消費税取引の区分(課税、不課税など)とは異なる消費税取引があった場合には要注意です。また、振替仕訳でも消費税(相当額)が計上されてしまうことがあります。

消費税自動計上とは

一般的な会計ソフトでは、各勘定科目について、その科目に標準的な消費税取引で取引区分が設定されています。

取引区分とは、「課税取引」「非課税取引」「免税取引」「不課税取引」「対象外」などです。

たとえば、消耗品を買うときは消費税を支払うことがほとんどなので、消耗品費a/c(a/cとは「勘定(科目)」を意味します。以下同じです。)の消費税の取引区分は「課税(仕入れ)」となっています。 また、給料a/cや租税公課a/cは「不課税」、受取利息は「非課税」が標準で設定されています。

そして、消費税属性が「課税」として設定された勘定科目では、さらに消費税額の計算区分(入力区分)について設定できます。 通常は、勘定科目での標準的な消費税入力区分を内税入力にして、税込金額を入力することが多いのではないかと思われます。

内税入力の場合には、たとえば、消耗品費a/cに5,500と入力すれば、自動的に消耗品費a/cに5,000、仮払消費税a/cに500と処理されるのです。

これにより、きわめて効率的に消費税取引の仕訳処理をすることができます。

消費税自動計上のミスとその影響

会計ソフトでは、各勘定科目について、その科目で標準的な消費税取引を取引区分で「課税」「不課税」などを設定します。さらに、入力方式による消費税相当額の自動計算もあいまって、ほとんど消費税を意識することなく迅速に仕訳入力処理ができます。

しかし、ある勘定科目については、必ずしも同一の消費税取引だけではありません。課税取引もあれば、不課税取引や非課税取引もあります。

このため、消費税の取引区分を「課税」として標準設定している勘定科目では、別段の処理をしないかぎりすべて消費税の「課税」取引として仕訳計上されてしまいます。消費税の「不課税」取引がある場合には、その取引だけ「不課税」取引に変更しなければなりません。

典型的なものが交際費a/cで、この影響を確認してみましょう。

交際費a/cについては、標準の消費税取引の取引区分は「課税」となっているのではないでしょうか。 他の多くの勘定科目と同じく、その発生(支払)に消費税を支払う取引が多いためです。

多くの交際費は消費税の課税取引(課税仕入れ)なのですが、祝い金や香典や接待ゴルフでのゴルフ利用税や入湯税は課税取引ではありません(不課税)。

取引区分が「課税」としている勘定科目で、消費税の入力区分を「内税」にしている場合、金額を入力すると仕訳した金額は「税込金額」と認識され、ことごとく消費税相当額が自動的に分離されます。

たとえば、お祝い金10,000円を支払った場合、交際費a/cに10,000円と入力すると、「交際費9,091円と仮払消費税909円」と自動処理されてしまいます。

(借) 交際費「課税」 9,091 (貸) 現金 10,000
仮払消費税 909

このミスのコワいところは、「このような取引は消費税の課税取引ではない」と十分に認識しているのに、会計ソフトへの入力レベルでうっかりしていると、結果としてミスになっていることです。

このミスはどのような効果をもたらすのでしょうか。

消費税の申告とは、つまるところ、仮受消費税から仮払消費税を差し引いて納税額を算定します。

もし、上記のような仕訳をそのままにしてしまうと、本来ならば仮払消費税としてはいけない909円を、仮受消費税から過剰に差し引いてしまうので、納税額が過少になってしまうのです(つまり納付もれ) 。ちなみに、現実の消費税申告での消費税の計算は、消費税を支払った他の取引を合計して仮払消費税を算出しさらに申告・納付額は100円未満を切り捨てるなどすることから、必ずしも909円がそのまま納付もれとなるわけではありません。

いっぽう、本来ならば交際費の額は10,000円のはずなのに9,091円になっているので、費用が過少(利益が過大)になっています。利益が過大なので法人税の納税額が過大になります。ただし、過大になる納付額は、法人税等の実効税率を30%とすると、909×30%=272円です。 もっとも、法人税申告での法人税の計算は、所得金額で1,000円未満を切り捨てたり、申告・納付額は100円未満を切り捨てるなどすることから、必ずしも272円がそのまま過大納付となるわけではありません。

以上から、消費税の納付もれが909円、法人税等の過大納付が272円となり、結果として、637円(=909-272)の納付もれということになります。別の見方をすれば、909×(1-30%)=637円です。

仕訳ひとつひとつでしたら、そんなに(?)インパクトはないと思われますが、本当の恐ろしいのは、頻出する取引についての仕訳を定型的なフォーマットとしている場合です。そのフォーマットの消費税処理が間違っていると大量の仕訳が間違っているということになります。税務調査等で指摘されると、まさに芋ヅルという感じでドドドドッと間違いの連鎖となります。あっという間に数年間遡られてしまうのです。

複数の消費税取引が混在する勘定科目

「課税」「不課税」など異なる消費税取引が混在しがちな勘定科目は要注意です。交際費、旅費交通費、福利厚生費、雑費、雑損失、雑収入、地代家賃、支払手数料、受取家賃などです。

「課税」とされる勘定科目での「課税」以外

通常、消費税取引区分が「課税」と標準設定されている勘定科目で発生する不課税取引(非課税取引や課税対象外も含みます。)として次のようなものがあります。

  • 交際費a/cで処理するお祝い金や香典、ゴルフ場利用税や入湯税
  • 旅費交通費a/cで処理する海外出張費や海外での諸費用
  • 通信費a/cで処理する国際電話料金
  • 賃借料a/cで処理する地代や借上げ社宅の家賃
  • 受取賃借料a/cなどで処理する住宅(社宅)の賃貸料収入(非課税売上)
  • 福利厚生費a/cや水道光熱費a/cで処理する社宅関係の費用
  • 福利厚生費a/cで処理するお祝い金や香典などの費用
  • 支払手数料a/cで処理する海外送金手数料
  • 「編集費」a/cといった企業独自の機能別分類による独自の勘定科目を設定している場合に、その中に含まれる人件費(アルバイト代)

とくに福利厚生費a/cなどに、本来なら個人が負担すべき費用を会社が(立替ではなく)負担したとすると、いわゆる現物給与として消費税も不課税となり、仮払消費税相当額の控除しすぎによる消費税過小申告(納付)と所得税及び復興特別所得税の源泉徴収モレという「往復ビンタ」をくらうことになります。

居住用住宅に係る受取家賃収入について仮受消費税を認識してしまうと、その点だけとらえると消費税過大申告(納付)になりますが、それだけでは済まないこともあります。居住用住宅に係る受取家賃収入は非課税売上高です。課税売上高と非課税売上高の比率(課税売上割合)は、特に消費税の課税売上高が5億円以下の場合には、消費税の申告に極めて重要な影響を与えます。課税売上割合が95%未満の場合には、仮払した消費税について売上で預かった仮受消費税から全額控除することはできません。課税売上に係る仮払消費税か、仮払した消費税総額に課税売上割合を乗じた額しか控除できなくなります。

「不課税」とされる勘定科目での「不課税」以外

逆に、消費税取引区分が「不課税」と標準設定されている勘定科目で発生する課税取引として次のようなものがあります。

  • 給料a/cで人材派遣会社に支払う派遣社員費用を処理する場合
  • 固定資産除却損a/cで固定資産の解体撤去費用を処理する場合

消費税自動仕訳で本当にコワいこと

これまでのものは、現実の取引(会計事実)を仕訳にするレベルでの消費税取引の処理に関係するものでした。

実は、消費税が自動計算される会計ソフトで真にコワいのは以下のような場合です。

勘定科目の振替処理を行うとき

勘定科目の振替仕訳で(消費税抜きの)本体価格相当額で仕訳を入れたのに消費税が自動仕訳されてしまうことです。とくに、内税入力になっていると、消費税が自動計算されてしまうため、振り替えられる金額は本体価格からさらに消費税相当額を差し引いた金額になってしまいます。さらに、勘定科目の取引区分が「課税」と「不課税」となっている科目でこの振替処理を行うと、借方(貸方)の「課税」となっている科目では消費税相当額が分離され、貸方(借方)の「不課税」となっている科目では消費税相当額は分離されないという非対称的な仕訳となりますが、内税入力になっていると仕訳金額自体は貸借同一の金額なので仕訳としては成立してしまうのです。

勘定科目を修正するとき

当初の仕訳は消費税取引の調整を完璧に行ったのに、科目の修正をしたときにすっかり消費税取引の調整を失念してしまうことがあります。とくに勘定科目の修正ではなく補助科目の修正のときには要注意です。

収益や費用を概算計上するとき

期間損益を適正化するために、収益や費用を概算計上することがあります。しかし、この概算計上の仕訳で消費税を自動計上してしまうと、本来なら申告する必要のない余分な消費税の計上となって消費税の過大申告(仮受消費税の場合)や過少申告(仮払消費税の場合)となってしまいます。また、内税入力の場合には、消費税相当額が分離してしまうため、本来イメージしている概算計上額と異なった額が計上されてしまいます。

チェックするためのヒント

消費税の間違いはどのように起こるのでしょうか。

  • 現実の取引について、消費税法上、課税取引なのか課税取引でないのかの判断を誤ってしまう。
  • 消費税取引の判断は正しかったが、仕訳伝票を作成するときにケアレスミスしてしまう。
  • 仕訳伝票も適正に作成されたが、仕訳を入力するときにケアレスミスしてしまう。
  • 帳簿上は問題なかったが、申告書作成時にケアレスミスしてしまう。

消費税取引のチェックとしては、会計ソフト上で集計される「課税」取引(課税売上と課税仕入れ)について、消費税a/cの残高(仮受消費税と仮払消費税)との照合作業があります。ただし、消費税が自動計上されている取引については正確に処理されているため、このチェックでは、消費税取引の額と消費税額のバランスを見ているだけで、取引区分の判断の検証とはなりません。

仕訳入力前のチェック

仕訳入力前の段階で、現実の取引について消費税法上の取引区分は何にあたるのかについては、個々人の能力あるいは組織としての体制に依存する問題だと思われます。

複数の消費税取引が多い勘定科目については、「独立した勘定科目」を設定するか(たとえば、「(課税)交際費a/c」と「(不課税)交際費a/c」に分ける)、あるいは、「補助科目」を設定するか(たとえば、「交際費a/c」の中に「不課税分」という補助科目を設定する)などのハード面での手当も考えられます。 とはいえ、これは事後チェックでの効率性が向上することが期待されますが、むしろ科目が分かれているために入力上のケアレスミスの可能性も高まることになります。

なにより、そもそも個々の取引についての消費税の取引区分についての判断が誤っていれば、ハード面でどんなに調整を行ったとしても根本的な解決とはなりません。

仕訳入力後のチェック

仕訳入力後の段階では、ケアレスミスは必ず起こるものなので、チェックを行うことになります。

税務上のリスクからすると、「課税売上なのに課税売上となっていない」「課税仕入れではないのに課税仕入れとなっている」ものについて重点チェックすることになります。そこで、会計ソフト上の消費税チェックのツールでは、「課税売上」以外と「課税仕入れ」以外の取引について取引の摘要などをレビューします。

また元帳の金額欄をレビューしながら、9,091円とか18,182円となっているものは「アヤしい」とチェックすることになります。 これらは、消費税10%のときに税込10,000円や20,000円から消費税分を除いた本体価格相当額にあたります。 つまり、不課税取引なのに会計ソフト上では仮払消費税が認識されていることになります。

そして重要なのは、消費税取引の処理である仕訳について間違いが見つかったら「過去の同様の取引も同じミスをしているかもしれない」と過去も調べることが大切です。

( つづく )