( 2 )課税標準額に対する消費税額の計算の特例と帳簿入力

課税標準額に対する消費税額の計算の特例とは、消費税の申告において、課税売上により預かった消費税額を、(課税)売上高を基礎として算出するのではなく、実際に相手方から預かった消費税額で申告できるものです。

消費税の会計処理について税抜経理方式を採っている場合には、実際の取引額(本体価格としての売上高と消費税の額)を帳簿上の金額が一致させることが望ましいと考えられます。

この場合は、会計ソフトの消費税設定で消費税を自動計算することなく、一定期間の取引の合計額を直接入力するのが効率的です。

一般的な消費税の申告における消費税額

消費税の課税標準額、すなわち、事業年度中に相手方から預かった消費税額は次のように計算します。

課税標準額=消費税課税売上高(税抜き本体価格)

税込の消費税課税売上高とは、消費税の経理処理を税込経理方式にしているときは売上高などの額であり、税抜経理方式にしている場合には、売上高等の額に仮受消費税の額を加算した合計額です。

ところで、この額は、基本的には税抜経理をしている場合の売上高(税抜の本体価格)と一致しますが、一致しないこともあります。なぜなら、帳簿上の残高は、多数の仕訳を計上した累計額であるため、個々の仕訳で消費税の端数処理に違いがあると一致しませんし、端数処理を一致させているとしても、個々の仕訳で個々に算定された消費税相当額と、合計金額に10/110を乗じた額とは異なりうるからです。

とはいえ、結果的に課税標準額に(ほぼ)10%を乗じた額が、顧客から預かったとして申告する消費税額となります。実際の計算は、まず7.8%の(国税としての)消費税額を計算し、これに22/78を乗じた地方消費税額との合計額10%となります。そして、顧客から預かった消費税額から、仕入などの取引により支払った消費税を差し引いた額を納税することになります(一般課税による申告の場合です。簡易課税による申告は異なります)。

消費税の申告における売上に係る消費税の計算(原則)

顧客から預かる消費税の計算を1円未満四捨五入で計算する場合

たとえば、本体価格125円の商品を販売する際に相手方から預かる消費税は、125円×10%=12.5円となりますが、1円未満の端数処理の計算を四捨五入とすると13円とし(請求書などをExcelで作る場合には特段の関数(ROUNDDOWN関数)を入れない限りは1円未満は四捨五入計算です。)、税込138円を受領するとします。この場合、領収証の記載は「125円、消費税13円、計138円」または「138円、うち消費税13円」となります。

この商品を1,000個バラバラに売り上げた場合、相手方から受領した金額の合計額は138,000円でこのうち消費税は13,000円になります。

ここで、通常の消費税の申告(一般課税)で納税する税額を確かめてみましょう。なお、便宜上、支払った消費税はないものとします(仕入税額控除はゼロ)。

  • まず、課税標準額は課税標準額は125,000円となります。
  • 次に、(国税としての)消費税の額を計算すると9,700円となります。
    (課税標準額125,000円×7.8%=9,750の100円未満切捨て)
  • さらに、地方消費税の額を計算すると、2,700円となります。
    ((国税としての)消費税の額9,700円×22/78=2,735.89の100円未満切捨て)
  • この結果、納める消費税の額は、12,400円となります。
    ((国税としての)消費税の額9,700円+地方消費税の額2,700円)

この結果、納める消費税の額は、12,400円となりますが、実際に預かった消費税の額は13,000円です。

いわゆる免税事業者や、簡易課税制度で申告できる事業者は、いわゆる「益税」が生じますが、この場合は通常の一般課税申告でもまた「益税」が生じることを意味します。もっとも、これは制度上の問題というよりは、申告書の計算方法(端数処理)の問題です。

顧客から預かる消費税の計算を1円未満切り捨てで計算する場合

上記と同じ数値でいくと、本体価格125円の商品を販売する際に相手方から預かる消費税は、125円×10%=12.5円となりますが、顧客の負担を少なくすべく1円未満の端数処理の計算を切り捨てとすると12円となり、受領するのは税込137円となります。この場合、領収証の記載は「125円、消費税12円、計137円」または「137円、うち消費税12円」となります。

この商品を1,000個バラバラに売り上げた場合、相手方から受領した金額の合計額は137,000円でこのうち消費税は12,000円になります。

ここで、通常の消費税の申告(一般課税)で納税する税額は、税抜きの売上高は125,000円で同じであり、収める消費税の額は12,400円となります。

すると、納める消費税の額は、12,400円となりますが、実際に預かった消費税の額は12,000円です。相手方に負担をさせまいとして1円未満の端数を切り捨てて消費税を預かったのに、国に申告する額はそれを上回ってしまいます

取引数が多ければ多いほど損をしかねないことになり、しかも、消費税率が8%から10%に上昇したために、消費税の計算上1円未満の端数が以前より生じやすくなっています

いわゆる免税事業者や、簡易課税制度で申告できる事業者は、いわゆる「益税」が生じますが、この場合は通常の一般課税申告の場合の「損税」といえるものです。

課税標準額に対する消費税額の計算に関する特例

消費税の申告において、顧客から預かった消費税額の計算は、課税標準額すなわち本体価格の金額(の合計額)を基礎として計算するのが原則です。

しかし、現実には、各々の顧客ごとの個々の取引ごとに消費税の額を計算し、請求し、領収しています。

とすると、消費税の申告において、申告する課税期間中に発生した個々の取引における消費税の金額の合計額は、単純に本体価格の合計額(課税標準)から算定した額とは乖離が生じます。とくに、取引数が多ければ多いほど大きくなります。

そこで、消費税の申告における消費税の額の計算を、課税標準(売上高)から行うのではなく、実際に預かった消費税額の合計額から行うことができます。これが、「課税標準額に対する消費税額の計算に関する特例」と呼ばれるものです。

厳密には、「税込金額を基礎として代金決済を行う場合」と「税抜金額を基礎として代金決済を行う場合」に分かれます。

税込金額を基礎として代金決済を行う場合

代金領収の都度、領収書等で「税込価格」と「その税込価格に含まれる消費税額」をそれぞれ明示し、消費税額の額の累計額を基礎として、課税標準額に対する消費税額を計算する方法です。

根拠条文は、消費税法施行規則の一部を改正する省令(平成15年財務省令第92号)附則2条3項です。

この場合に申告書に記載する課税標準額は、税込価格の合計額から実際に預かった消費税額を差し引いた額(実質的に税抜き本体価格の合計額)となります。

税抜価格を基礎として代金決済を行う場合

代金領収の都度、「本体価格」と「消費税額」とを区分して領収し、その消費税額の累計額を基礎として、課税標準額に対する消費税額を計算する方法です。

根拠条文は、消費税法施行規則の一部を改正する省令(平成15年財務省令第92号)附則2条2項(旧消費税法施行規則22条1項)です。

この場合に申告書に記載する課税標準額は、本体価格を合計した金額(千円未満切捨て)となります。

特例適用の要件

特例計算ができるための要件は、「対価の額(本体価格)と消費税額とを区分して領収すること」「消費税額の端数処理は1円未満ですること」の要件を満たしている場合です。

注意したいのは「消費税額の端数処理は1円未満ですること」です。つまり、「小数点以下はゼロにしろ」ということです。

請求書などをExcelで作るケースは多いと思われますが、Excelのセル表示は1円未満は表示されません。実際は小数点以下の数値が無限にあっても小数点第1位を四捨五入した値で表示されるため、視覚的には小数点以下の数値が見えません。この場合、正確な合計額と「目に見えている数字」での合計額が異なることがあります

これでは、課税標準額に対する消費税額の計算に関する特例の適用を受けることはできないと考えられます。

消費税を計算させるセルには単純な掛け算の関数ではなくROUND関数(四捨五入)、ROUNDUP関数(切り上げ)またはROUNDDOWN関数(切り捨て)を用いて、端数処理をする位を0としなければなりません。

「課税標準額に対する消費税額の計算の特例」による具体的計算

顧客から預かる消費税の計算を1円未満四捨五入で計算する場合

たとえば、本体価格125円の商品を販売する際に相手方から預かる消費税は、125円×10%=12.5円となりますが、1円未満の端数処理の計算を四捨五入とすると13円となり、税込138円を受領することになります。この場合、領収証の記載は「125円、消費税13円、計138円」または「138円、うち消費税13円」となります。

この商品を1,000個バラバラに売り上げた場合、相手方から受領した金額の合計額は138,000円でこのうち消費税は13,000円になります。

ここで、通常の消費税の申告(一般課税)で納税する税額を確かめてみましょう。なお、便宜上、支払った消費税はないものとします(仕入税額控除はゼロ)。

  • 実際に預かった消費税は13,000円となります。
  • このうち、(国税としての)消費税の額を計算すると10,100円となります。
    (13,000円×78/100=10,140の100円未満切捨て)
  • さらに、地方消費税の額を計算すると、2,800円となります。
    ((国税としての)消費税の額10,100円×22/78=2,848.72の100円未満切捨て)
  • この結果、納める消費税の額は、12,900円となります。
    ((国税としての)消費税の額10,100円+地方消費税の額2,800円)

この結果、納める消費税の額は、12,900円となりますが、実際に預かった消費税の額は13,000円です。この差は、消費税の申告における計算での端数処理によるものです。

顧客から預かる消費税の計算を1円未満切り捨てで計算する場合

上記と同じ数値でいくと、本体価格125円の商品を販売する際に相手方から預かる消費税は、125円×10%=12.5円となりますが、顧客の負担を可能な限り少なくすべく1円未満の端数処理の計算を切り捨てとすると12円となり、受領するのは税込137円となります。この場合、領収証の記載は「125円、消費税12円、計137円」または「137円、うち消費税12円」となります。

この商品を1,000個バラバラに売り上げた場合、相手方から受領した金額の合計額は137,000円でこのうち消費税は12,000円になります。

ここで、通常の消費税の申告(一般課税)で納税する税額を確かめてみましょう。なお、便宜上、支払った消費税はないものとします(仕入税額控除はゼロ)。

  • 実際に預かった消費税は12,000円となります。
  • このうち、(国税としての)消費税の額を計算すると9,300円となります。
    (12,000円×78/100=9,360の100円未満切捨て)
  • さらに、地方消費税の額を計算すると、2,600円となります。
    ((国税としての)消費税の額9,300円×22/78=2,623.01の100円未満切捨て)
  • この結果、納める消費税の額は、11,900円となります。
    ((国税としての)消費税の額9,300円+地方消費税の額2,600円)

この結果、納める消費税の額は、11,900円となりますが、実際に預かった消費税の額は12,000円です。この差は、消費税の申告における計算での端数処理によるものです。

重要なのは、課税標準(売上高の税抜き本体価格)を基礎として計算する額では、申告・納付すべき消費税の額が実際に預かった消費税の額を上回るという不都合があったのですが、特例計算によりこれが解消されたことです。

会計帳簿への反映

ここまでは、対外的すなわち対顧客や対課税当局との関係でした。ここからは内部的(帳簿上)の問題です。

先ほどの特例計算の適用を受けるメリットがあるのは、とくに大量の取引により消費税の端数処理の差が大きくなる事業者です。

ところで、先ほどは実際の取引から消費税申告における消費税額の計算を行いましたが、実際の消費税の申告は会計帳簿に記載された額を基礎として行われます。現実に消費税の税務調査も、帳簿に計上された数値を基礎に行われます。

実際の取引をそのまま帳簿に反映させているわけですから、基本的には実際の取引金額と帳簿上で計上された金額は一致するはずです。

ただ重要なのは、一致するのはあくまで「税込金額」ベースであることです。なぜなら、おカネの受け払い(実際の取引金額)は税込金額で行われるからです。

税抜経理方式で処理を行っている場合には、本体価格相当額と消費税等相当額に区分して計上されるわけです。会計ソフトの消費税設定や入力形態によっては、実際の取引金額と差額が生じるおそれがあります。

実際の取引での消費税端数処理と会計ソフトの消費税端数処理を一致させていない場合

税抜経理方式を採用している場合で、会計ソフトでの売上高a/cの消費税の設定を、取引区分を課税、消費税入力区分を内税入力、1円未満の端数処理を切り捨てとします。ここで、上記の数値で検討してみましょう。

本体価格125円の商品を販売する際に相手方から預かる消費税は、125円×10%=12.5円となりますが、1円未満の端数処理の計算を四捨五入とすると13円となり、受領するのは税込138円となります。この場合、領収証の記載は「125円、消費税13円、計138円」または「138円、うち消費税13円」となります。

この商品を1,000個バラバラに売り上げた場合、相手方から受領した金額の合計額は138,000円でこのうち消費税は13,000円になります。

いっぽう、会計ソフトで売上高として税込138円を入力すると、消費税相当額は12円(138×10/110=12.55の1円未満切り捨て)と自動的に計算され、売上高a/cに126、仮受消費税a/cに12と処理されます。この処理が1,000回あると、帳簿上は、売上高126,000円、仮受消費税12,000円となります。

ところが、実際に相手方と取引した金額の内訳は、売上高125,000円、消費税額13,000円です。このため、帳簿上の売上高が実際に相手方との取引額より大きく計上されていることになります。

つまり、端数処理の方法が、実際の取引(1円未満四捨五入)と会計ソフト(1円未満切り捨て)とで違うため、売上高が過大に計上されてしまうのです。

この場合での消費税の申告における税額を算定してみましょう(特例計算は行わないものとします。)。

  • まず、課税標準額は課税標準額は126,000円となります。
  • 次に、(国税としての)消費税の額を計算すると9,800円となります。
    (課税標準額126,000円×7.8%=9,828の100円未満切捨て)
  • さらに、地方消費税の額を計算すると、2,700円となります。
    ((国税としての)消費税の額9,800円×22/78=2,764.10の100円未満切捨て)
  • この結果、納める消費税の額は、12,500円となります。
    ((国税としての)消費税の額9,800円+地方消費税の額2,700円)

この結果、納める消費税の額は、12,500円となります。

このため、実際の取引では「本体価格125,000円、消費税額13,000円」、会計帳簿では「本体価格126,000円、消費税額12,000円」、消費税の申告での消費税額は12,500円となります。

つまり、実際の取引よりも申告・納付すべき消費税は500円少なかったものの、会計上は売上高が1,000円、消費税額は500多くなります。そして、会計上の仮受消費税a/cは12,000円で実際の申告納付額が12,500円のため、実際に納付額が大きいことから雑損失500を計上することになります。よって、会計上は、売上高1,000円から雑損失500円を控除した額すなわち500円に法人税が課されることになります。

以上から、実際の取引での消費税の端数処理の計算方法と、会計ソフト上での消費税の端数処理を一致させることが重要です。

合計額をまとめて入力する場合

また、すべての個々の取引をひとつひとつ仕訳入力するというのは煩雑であり、少なくとも日単位あるいは週単位月単位の合計金額で仕訳することが一般的です。この場合、やはり多少の誤差は不可避的に生じるといえます。

この場合、たとえ消費税の端数処理を一致させたとしても、まとめて処理する仕訳数が増えれば増えるほどその差額が大きくなります。

実際の売上高と帳簿上の売上高を一致させるために会計ソフトで自動計算させない

会計仕訳は、個々の取引のたびにそれぞれ別個の仕訳処理をしなければならないことはありません。とすると、一定期間の取引の合計額をひとつの仕訳として入力することが一般的です。その仕訳の元資料は、実際に相手方との間で収受した本体価格と消費税等の額が個々の取引までブレイクダウンできることになります。

税抜経理方式を採用している場合は、本体価格(の合計額)と消費税の額(の合計額)が、元資料の額とピタリと一致することが望ましいことになります。

そのためには、会計ソフト上で自動計算する消費税の端数処理と、実際に顧客から預かる消費税額の計算の際の端数処理の方法と一致させればよいことになります。しかし、端数処理の方法を同一にしたとしても、個々の取引をすべて入力した額と、一定期間の取引を合計して入力した額には差額が生じます。

それならば、会計ソフトの消費税の設定では、消費税を自動計算させずに別記入力に設定したほうがよいことになります。

( つづく )