( 2 )日々の取引での消費税の把握と会計処理の重要性

消費税の申告を正しく行うためには、消費税の取引を正しく判定することが重要です。

消費税の取引は、日々の会計処理で記録することになりますが、消費税の取引の判定は正しくても、会計処理で誤ってしまい結果として消費税の申告が誤ってしまうことが少なくありません。

勘定科目名は何がよいかよりも、消費税の取引の正確な入力のほうがよっぽど重要なのです。

消費税の納税義務者

私たちは日常生活で消費税等を支払っています。そういう意味では消費税等を納付しているともいえますが、実際には私たちは、お店などに消費税等の額を支払っていて、お店などが私たちから預かった消費税等を申告して納税する義務があります。

消費税を納税する義務があるのは、国内取引の納税義務者と輸入取引の納税義務者です。

まず、輸入取引をする者、すなわち、保税地域から輸入品を引き取る者(事業者であるかどうかは関係ありません。)は消費税の納税義務者となります。

次に、国内取引をする事業者(個人事業主または法人)は消費税の納税義務者となるのが原則です。

納税義務の免除(免税事業者)

しかし、基準期間(個人事業者の場合はその年の前々年、事業年度が1年である法人の場合はその事業年度の前々事業年度)における課税売上高が1,000万円以下の事業者は消費税の納税義務が免除されます。

ただし、その課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円以下であっても、特定期間における課税売上高が1,000万円を超えた場合、当課税期間から課税事業者となります。 ここで、特定期間とは、個人事業者の場合は、その年の前年の1月1日から6月30日までの期間をいい、法人の場合は、原則として、その事業年度の前事業年度開始の日以後6ヶ月の期間をいいます。

なお、特定期間における1,000万円の判定は、課税売上高に代えて、期間中の給与等支払額の合計額により判定することもできます。必ず両方の要件で判定を行う必要はなく、例えば特定期間の課税売上高の集計を省略し、給与等支払額の基準のみで判定できます。なお、課税売上高が1,000万円を超えていても、給与等の支払額が1,000万円を超えていなければ給与等支払額により免税事業者と判定されます。

免税事業者とならない場合

基準期間や特定期間が存在しない場合には、その売上高もないため、納税義務は免除されるのが原則です。

なお、基準期間のない法人のうち、その事業年度開始の日の資本金の額または出資の金額が1,000万円以上である法人については、免税事業者とはなりません。

さらに、基準期間のない新規設立法人のうち、基準期間のない事業年度開始の日において当該新規設立法人と他の者および他の者の特殊関係法人が当該新規設立法人の発行済株式等の50%超を保有している場合などの「特定要件」に該当し、かつ、当該他の者および他の者の特殊関係法人のいずれかの者が新規設立法人の基準期間に相当する期間の課税売上高が5億円超である場合には、当該新規設立法人は、その事業年度開始の日の資本金の額または出資の金額が1,000万円未満であっても免税事業者とはなりません(特定新規設立法人)。

納税義務の免除の放棄

免税事業者かどうかは各事業年度によって異なりますが、免税事業者に該当するのに積極的に「消費税課税事業者選択届出書」を提出すればみずから納税義務の免除を放棄して納税義務者となることができます(設備投資等によって多額の消費税等の額を支払って還付を受けたい場合など)。なお、2年間の継続義務があり、さらに納税義務期間中に一定の固定資産を取得した場合にはさらに一定の制限があります。

消費税の申告の際のポイント

消費税の納税義務者である事業者は、売上などによって預かった消費税を申告し納付しなければなりません。ただ、事業者も、事業を営むための支払いがあり、その際には私たちと同様に消費税を支払っています。つまり、事業者は、消費税を預かる取引と消費税を支払う取引をともにしているのです。

消費税を支払う取引

消費税を支払う側の立場としての取引の場合には、基本的には「その支払いが消費税を支払った(ことになる)課税取引(課税仕入れ)なのか、それ以外の取引なのか」の判断がポイントとなります。

課税仕入れなのに課税仕入れでないものとして申告すると、売上などで預かった消費税から差し引く消費税が小さくなり税額を過大に申告・納付してしまうことになります。逆に、課税仕入れでないのに課税仕入れとして申告すると、差し引く消費税が大きくなり税額を過少に申告・納付してしまうことになります。

消費税を預かる取引

売上などによって消費税を預かる側の立場としての取引の場合にも、同じく「消費税を預かる(ことになる)課税取引(課税売上)なのか、それ以外の取引なのか」の判断がポイントとなります。

課税売上なのに課税売上でないものとして申告すると税額を過少に申告・納付してしまうことになります。逆に、課税売上でないのに課税売上として申告すると税額を過大に申告・納付してしまうことになります。

課税売上高かどうかの正しい判定は、消費税の申告そのものに影響を与える非常に重要なものです。

  • 消費税の納税義務それ自体が免除されたり、逆にその免除が適用されなくなり納税義務が生じたりします。
  • 預かった消費税から支払った消費税を全額差し引くことができるかどうかに影響します。
  • 実際に支払った消費税を集計しなくてよい簡易課税制度が適用されたりされなかったりします。

さらに、消費税を預かる課税取引(課税売上)以外の取引について、不課税取引と非課税取引(非課税売上)と免税取引(輸出免税売上)とを区分することが重要になります。

とくに、総売上高に占める課税売上高の割合(課税売上割合)によっては、支払った消費税を全額差し引くことができないのです(課税売上割合が95%以下の場合、なお、課税売上高が5億円を超える場合には課税売上高が95%を超えていても全額差し引くことができません。)。なお、簡易課税制度の適用を受ける場合にはこの論点は関係ありません。

この課税売上割合の算定は、とくに総売上高に非課税売上高が入るために、非課税売上高の把握と集計を誤ると課税売上割合によって差し引ける消費税が過少になったり過大になったりするのです。

会計帳簿との関係

さて、消費税の申告を行うのは、基本的には、売上などにより消費税を預かっている事業者(個人事業主や法人)ですが、これらの事業者は、所得税や法人税の申告を行ないます。そのためには、会計帳簿の記帳が求められます。消費税は事業者の行うほぼすべての取引に関係するため、会計帳簿を作成するための日々の取引の記録、すなわち仕訳(入力)のレベルで把握し集計することになります。

資格試験での簿記の学習とは異なり、実務での仕訳の記帳(入力)は消費税の知識が必須です。

このため、取引それ自体の判定は正しかったとしても、これを会計帳簿に記帳(入力)するところで間違ってしまうと、消費税の申告が間違ってしまうことが多々あります。とくに、反復継続されている取引で間違いをしていると、その取引のすべてが誤りとなってしまいます。

また、いかなるすぐれた会計ソフトでも、消費税入力の設定方法によって生じます。ソフト自体は優秀でも、結局はそれをどう使いこなせますかということになります。

( つづく )