( 3 )消費税を税込経理しているときの(納付)消費税額

個々の取引金額について、消費税および地方消費税(以下「消費税等」といいます。)を除いた本体価格(税抜価格)で経理する方法を税抜経理方式といい、税込金額で経理する方法を税込経理方式といいます。

税込経理方式では、預かった消費税や支払った消費税が収益や費用に含まれるため、消費税の申告による納付額は費用になります。

ということは、月次決算において消費税納付額(または還付額)を損益として認識していないと、決算時に突然に多額の租税公課が発生して「なんのための月次決算だったのか」ということになります。

税込経理方式と税抜経理方式の違い

個々の取引金額について、消費税および地方消費税(以下「消費税等」といいます。)を除いた本体価格(税抜価格)で経理する方法を税抜経理方式といい、税込金額で経理する方法を税込経理方式といいます。

税抜経理方式の場合、本体価格と消費税等を区分して経理するのは煩雑にも思えますが、会計ソフトでは、税込金額を入力すると自動的に本体価格と消費税等を分離して仕訳されるようになっています。、

売上高が11,000(うち消費税等1,000)、家賃が2,200(うち消費税等200)、人件費が7,000であったとします。なお、給与等の人件費は消費税が課税される取引ではありません(いわゆる不課税取引)。

税抜経理方式

税抜経理方式では、収益や費用は税抜きの本体価格で計上されます。売上等により預かった消費税は仮受消費税等a/c(負債)に計上され、また、仕入や設備投資などに支払った仮払消費税等a/c(資産)に計上されます。

(借) 売掛金 11,000 (貸) 売上高 10,000
仮受消費税等 1,000
(借) 人件費 7,000 (貸) 未払金 7,000
(借) 家賃 2,000 (貸) 未払金 2,200
仮払消費税等 200

税抜経理方式による消費税申告前の損益計算書は次のとおりとなります。

売上高 10,000
人件費 7,000
家賃 2,000
税引前利益 1,000

このとき、仮払消費税a/cに200が、仮受消費税a/cに1,000が計上されています。

税込経理方式

税込経理方式では、収益や費用は消費税等の額を含んだ税込金額となります。つまり、消費税等の額が損益の一部を構成するということになります。

(借) 売掛金 11,000 (貸) 売上高 11,000
(借) 人件費 7,000 (貸) 未払金 7,000
(借) 家賃 2,200 (貸) 未払金 2,200

税込経理方式による消費税申告前の損益計算書は次のとおりとなります。

売上高 11,000
人件費 7,000
家賃 2,200
税引前利益 1,800

収益や費用に消費税が含めて経理される税込経理方式では、仮払消費税等a/cや仮受消費税等a/cはありません。

決算時(消費税申告時)の処理の違い

事業者に対する消費税は、ざっくり申し上げると、事業者が売上等により顧客から預かった消費税から、仕入等により支払った消費税を差し引いた額を申告・納税し、あるいは還付されます。

例外として、簡易課税制度によって申告する場合や、課税売上高が5億円を超えたり課税売上割合が95%未満の場合があります。

税抜経理方式

仕訳で消費税取引の処理に誤りがないかぎり、仮受消費税等a/cの残高から仮払消費税等a/cの残高を差し引いた額が、消費税申告書の納付額(または還付額)とほぼ一致します。「ほぼ一致」というのは、実際には、消費税申告書の端数処理の関係で、仮受消費税a/cと仮払消費税a/cの差額が申告書の納付額と完全に一致することはありません(この差額は雑収入や雑損失で処理されることになります。)。

上記の例では、税抜経理方式では、仮払消費税a/cに200が、仮受消費税a/cに1,000が計上されています。消費税の申告では、預かった消費税から支払った消費税を差し引いた800を納税することになります。

(借) 仮受消費税等 1,000 (貸) 仮払消費税等 200
未払消費税等 800

この仕訳では、損益に対するインパクトはまったくありません。このため、消費税の申告を反映した損益計算書は同様となります。

売上高 10,000
人件費 7,000
家賃 2,000
税引前利益 1,000

税込経理方式

取引価格が消費税込みの金額となる税込経理方式では、消費税等の額が損益を構成します。このため、消費税の申告による納付額(あるいは還付額)もまた損益を構成することになります。

(借) 租税公課 800 (貸) 未払消費税等 800

アカデミックな議論でいくと、消費税納付額も、営業損益項目や営業外損益項目や特別損益項目でそれぞれ発生しているわけで、販売費及び一般管理費ではなく、それぞれの項目で分けるべきという議論もありうるかもしれません。もっとも、そういう議論をする前に、そもそも税込経理方式を採用すべきかどうかの議論のほうがはるかに有益だと思われます。

この仕訳を入れた後の損益計算書は次のとおりとなります。

売上高 11,000
人件費 7,000
家賃 2,200
租税公課 800
税引前利益 1,000

とすると、税抜経理方式の損益計算書と一致することになります。

月次決算での問題点

税抜経理方式では、月次決算ベースでは仮受消費税等a/cの残高と仮払消費税等a/cの残高の差額が、現段階での消費税納付額(あるいは還付額)だという目安がつきます。しかも、この額は、損益に影響を与えません。

しかし、税込経理方式では、仮受消費税等a/cや仮払消費税等a/cなどはありません。消費税は収益や費用を構成しています。しかも、消費税はすべての取引に課されるわけではないため、損益計算書のすべての収益や費用が消費税込みの金額ではありません。

このため、会計ソフトで仕訳入力時の消費税の取引区分などで集計した金額などから、簿外で現段階での消費税納付額(あるいは還付額)を把握するしかありません。しかも、この納付額(あるいは還付額)は、損益に影響してしまうのです。

決算で突如生じる費用

上記の例でいくと、税込経理方式では、消費税申告の作成前では税引前利益が1,800だったのに、消費税申告での期末の未払消費税等の額が800となると、いきなり800が費用(租税公課)として計上されることになります。

これは、月次決算でまったく減価償却費を計上せず、期末決算で計上したらいきなり利益がガクッと減るのと似たような影響があります

このインパクトは、不課税取引である人件費が多い労働集約的な事業所にはとくに大きくなります。しかも、将来さらに消費税率がアップすればなおさら大きくなるでしょう。

「いったい月次決算ってなんなのか?」と思うところですし、月次決算を鵜呑みにして決算対策としていろいろお買い物をしたりして利益を減らしたつもりなのに、思ったより利益が少なく(あるいは赤字となっ)て「いったいどういうことだ!」ということになります。

会計事務所としては、クライアントから「いったいどういうことだ!」と怒られるのをおそれ、未払消費税等を期末に計上せず、実際に納税する翌期にちゃっかり費用処理するという(考えようによっては)愚行も犯しかねません。

未払消費税等を期末に計上しない場合には、それだけ当期純利益すなわち課税所得が大きいために法人税等の負担が大きくなってしまいます。

税込経理方式の場合の消費税の納税額等に係る損益が法人税法上の損益(損金または益金)となる時期は、消費税の申告書を提出する日を含む事業年度すなわち翌期が原則ですが、費用計上して(損金経理)未払計上した場合にはその事業年度の損金(または益金)として認められるからです。

税込経理方式で月次決算を安定させるヒント

もし、税込経理方式で月次決算を安定させようとする場合には、月次決算で通常埋没している「簿外費用」ともいえる消費税の潜在的な納付額を計上していくことが考えられます。

その方法も、各月に発生した課税売上の額や課税仕入れの額から計算するか、それとも期首からその月までの累計額ベースで計算して毎月洗い替えを行うかに分かれると思われます。

さらに、消費税の中間申告の額の処理です。当期の消費税の中間申告の額は、前期末の消費税の確定申告によって判断できます。月次決算の平準化のために固定資産税を各月に按分するように、消費税の中間申告の予定額を各月に按分するのです。そして、上記の実際の当期の消費税の納付額の計上しながら、中間申告の額を消し込んでいくのです。この処理は、労働保険料の概算納付額の処理に似ています。

(参考)法人税法上の処理について

税込経理方式と税抜経理方式の法人税法上の処理については、法人税関係の個別通達のひとつである「消費税法等の施行に伴う法人税の取扱いについて」で規定されています。「消費税関連通達」ともいわれます。法人税法でも法人税法施行令でも法人税法基本通達でもないのでなかなか検索しずらいですが、国税庁のサイトにも掲載されています。

(仮払消費税等及び仮受消費税等の精算)

6  法人が消費税等の経理処理について税抜経理方式を適用している場合において、消費税法第37条第1項((中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例))の規定の適用を受けたこと等により、同法第19条第1項((課税期間))に規定する課税期間の終了の時における仮受消費税等の金額から仮払消費税等の金額(控除対象外消費税額等に相当する金額を除く。)を控除した金額と当該課税期間に係る納付すべき消費税等の額又は還付を受ける消費税等の額とに差額が生じたときは、当該差額については、当該課税期間を含む事業年度において益金の額又は損金の額に算入するものとする。

すでに申し上げたとおり、税抜経理方式で消費税の申告を行う場合、たとえ仮受消費税等a⁄c の残高と仮払消費税等a⁄c の残高が完璧に正しいものとして申告書を作成しても、消費税の申告書の作成の過程で端数処理が生じるため、必ず両勘定の差額と納付額は一致しません。この差額は雑損失や雑収入として処理することになりますが、諸事情で決算を締めなければならず、その計算が間に合わないこともあります。この場合、仮受消費税等a⁄c の残高と仮払消費税等a⁄c の残高を相殺した額をもって期末の未払消費税a⁄c の残高とし、これと実際の納付額の差額は、法人税申告書上で調整することになります。なぜなら、損金経理が要求されていないからです。

(消費税等の損金算入の時期)

7  法人税の課税所得金額の計算に当たり、税込経理方式を適用している法人が納付すべき消費税等は、納税申告書に記載された税額については当該納税申告書が提出された日の属する事業年度の損金の額に算入し、更正又は決定に係る税額については当該更正又は決定があった日の属する事業年度の損金の額に算入する。ただし、当該法人が申告期限未到来の当該納税申告書に記載すべき消費税等の額を損金経理により未払金に計上したときの当該金額については、当該損金経理をした事業年度の損金の額に算入する。

すでに申し上げたとおり、税込経理方式で消費税の申告を行う場合、当該事業年度に係る消費税額を未払計上すれば損金に算入されます。ただし、損金経理(費用として計上する)ことが要求されているため、法人税申告書上で減算処理することは認められません。

(消費税等の益金算入の時期)

8  法人税の課税所得金額の計算に当たり、税込経理方式を適用している法人が還付を受ける消費税等は、納税申告書に記載された税額については当該納税申告書が提出された日の属する事業年度の益金の額に算入し、更正に係る税額については当該更正があった日の属する事業年度の益金の額に算入する。ただし、当該法人が当該還付を受ける消費税等の額を収益の額として未収入金に計上したときの当該金額については、当該収益に計上した事業年度の益金の額に算入する。

上記の逆です。税込経理方式の場合、消費税の還付額は収益(益金)となるため、期間損益対応の原則を貫けば収益計上すべきということになりますが、当期の法人税負担をなるべく少なくしたいなどの諸般の事由があるならば、上記の原則処理として翌期に収益計上すべきという考え方もあるでしょう。

( つづく )