部門別会計における消費税勘定の精算仕訳と部門別消費税額の把握とその利用

本稿は、消費税の経理処理を税抜経理方式によっている場合に妥当します

部門別会計を行うと、仮受消費税等と仮払消費税等が部門別で捉えられます。まずは、決算時に行う消費税勘定の精算仕訳でもキチンと反映させることが重要です。

さらに、部門別で仮受消費税等や仮払消費税等が把握できているとすれば、部門別での消費税の納付額や還付額も算定することが可能です。

このことで、実際の納付額等と帳簿残高との差額の処理(控除対象消費税等など)がより厳密になり、部門別損益の精度が上がるばかりでなく、部門別キャッシュフローや個別の投資回収状況の分析の精度も向上させることになります。

ごく一般的な消費税勘定の精算処理

決算での消費税勘定の精算は、仮受消費税a/cと仮払消費税a/cを相殺し、いっぽうで、消費税の申告計算を行って期末の申告額(納付あるは還付)が未払消費税a/cまたは未収消費税a/cの残高とし、仮受消費税a/cと仮払消費税a/cを相殺額との差額は雑収入または雑損失として処理するのが教科書的です。

設例

中間納付の消費税について仮払金a/cを使っている場合

(借) 仮払金 200 (貸) 預金 200
(借) 仮受消費税 888 (貸) 仮払消費税 555
仮払金 200
未払消費税 133

中間納付の消費税について仮払消費税a/cではなく仮払金a/cを使う理由として、消費税申告にあたって課税取引と消費税勘定の残高との関連性をチェックするときに、中間納付額が仮払消費税a/cで処理されていると(その額を除いてチェックすればよいとはいえ)わかりずらいことがあります。

そこで、中間納付の消費税について未払消費税a/cのマイナスとすることもあります。

(借) 未払消費税 200 (貸) 預金 200
(借) 仮受消費税 888 (貸) 仮払消費税 555
未払消費税 333

いずれにしても、未払消費税a/cの残高は133です。

いっぽう、消費税の確定申告作業の結果、申告納付額は130だったとします。未払消費税a/cの残高を申告納付額と一致させます。なお、便宜上、控除対象外消費税等は発生していないものとします(後述)。

(借) 未払消費税 3 (貸) 雑収入 3

決算スケジュールがタイトな場合の処理

しかし、決算スケジュールがタイトな場合には、とりあえず仮受消費税a/cと仮払消費税a/cを相殺し、相殺後の金額を未払消費税a/cまたは未収消費税a/cに振り替えてとりあえず決算を確定させることになります。上記の設例では、未払消費税a/cの期末残高は133で確定することになります。

いっぽう、消費税の確定申告期限までに正確な納税額または還付額を算定されます。しかし、すでに決算が確定している場合には、仮受消費税と仮払消費税の相殺後の金額(残高)との差額についてはすでに仕訳を入れられません(翌事業年度となります)。

ただし、法人税法上、この差額(の一部)は当該事業年度の損金または益金に算入しなければならないため、法人税申告書上で調整計算(加算または減算)します。上記の設例では法人税申告書別表四で3を当期利益に加算(留保)します。なお、翌事業年度に減算するいわゆる一時差異のため税効果の対象となります。

近年の決算スケジュールが早期化していることと、消費税法の改正で課税売上5億円超の事業者は仕入税額控除を厳密に計算して申告するため消費税の申告計算に以前より時間を要することから、この流れが加速していると思われます。

複数税率を取り込んだ精算仕訳

当初の消費税(平成元(1989)年4月から)の税率は3%でした。すべて国税としての消費税です。

平成9(1997)年4月から税率は5%となりました。内訳は(国税としての)消費税4%と地方消費税1%です。

平成26(2014)年4月から消費税の税率は8%となりました。内訳は(国税としての)消費税6.3%と地方消費税1.7%)です。

さらに、令和元(2019)年10月から消費税の税率は10%となりました。内訳は(国税としての)消費税7.8%と地方消費税2.2%)です。いっぽう、軽減税率としてそれまでと同じく8%が維持されていますが内訳が異なり、(国税としての)消費税6.24%と地方消費税1.76%と変わりました。

よって、同じ8%でも、経過措置等による従前からの8%(「旧税率」)と軽減税率による8%は異なるため、日常の仕訳入力では区分して経理しなければなりません。

新たな消費税申告書も、「3%」「5%」「8%(旧税率)」「8%(軽減税率)」「10%」でそれぞれ税額を計算することになっています。

とはいえ、一般的には「8%(旧税率)」「8%(軽減税率)」「10%」の3つとなると思われます。

さて、消費税の申告にあたり、会計ソフトでも消費税申告のために勘定科目別に複数税率ごとに金額が集計できるようになっています。

とはいえ、仮受消費税a/cや仮払消費税a/cで、8%(旧税率)や8%(軽減税率)や10%という補助科目が存在しているわけではないため、試算表などから一目で集計額を確かめることはできませんが、会計ソフトの消費税情報から複数税率ごとの金額を集計することができます。

このようなことから、アカデミックに処理すると、次のような仕訳になります。

(借) 仮受消費税(旧8%) XX (貸) 仮払消費税(旧8%) XX
仮受消費税(軽8%) XXX 仮払消費税(軽8%) XX
仮受消費税(10%) XXX 仮払消費税(10%) XX
未払消費税 XX

もっとも、複数税率とはいえ申告上は合算されるため、未払消費税a/cを複数税率ごとに分けるのは無意味と考えられます。申告プロセスまで仕訳するようなものですから。

部門情報の入力

会計ソフトで部門別会計を行っている場合、取引を仕訳入力するときに部門情報を入力することになります。 これによって、会計ソフトから部門別の損益や部門別の資産残高を出すことができます。

さて、個々の取引に部門情報を付しているということは、各取引の仮払消費税等や仮受消費税等も各部門に分かれていることになります。

つまり、会計ソフトで試算表を部門別で出力させると、各部門に仮払消費税a/cと仮受消費税a/cの残高があるはずです。

ということは、消費税勘定の精算仕訳についても厳密には仕訳に部門を付して、各部門の仮払消費税a/cと仮受消費税a/cの残高をゼロにし、これを全社部門(共通部門)に振り替えることになります。

設例

A部門、B部門、C部門およびD部門(管理部門で売上なし(仮受消費税が発生しない))の4つがあるものとします。会計ソフトにあらかじめ部門設定をして、個々の仕訳で計上する勘定科目に部門を付せばそれに対応する消費税にも部門が付されます。

仕訳が長くなる場合、実務上は「複合a/c」「諸口a/c」などの中間的な勘定科目を使うことが一般的です。

(借) 仮受消費税(A,旧8%) X (貸) 複合 XXXXX
仮受消費税(A,軽8%) X
仮受消費税(A,10%) X
仮受消費税(B,旧8%) X
仮受消費税(B,軽8%) X
仮受消費税(B,10%) X
仮受消費税(C,旧8%) X
仮受消費税(C,軽8%) X
仮受消費税(C,10%) X
(借) 複合 XXXX (貸) 仮払消費税(A,旧8%) X
仮払消費税(A,軽8%) X
仮払消費税(A,10%) X
仮払消費税(B,旧8%) X
仮払消費税(B,軽8%) X
仮払消費税(B,10%) X
仮払消費税(C,旧8%) X
仮払消費税(C,軽8%) X
仮払消費税(C,10%) X
仮払消費税(D,旧8%) X
仮払消費税(D,軽8%) X
仮払消費税(D,10%) X
(借) 複合 XXXXX (貸) 複合 XXXX
未払消費税(共通) X

「複合a/c」「諸口a/c」は最後に残高がない(ゼロ)になっているかを確認します。

「未払消費税a/c」は特定の部門というわけではなく全社的なものなので仕訳では部門を設定ないことが一般的かと思われます。

消費税勘定の相殺後の額と消費税申告額との差額について

ここで、一般論を確認したいと思います。

仮受消費税a/cと仮払消費税a/cの各残高を相殺した後の額と、消費税の確定申告での申告額(納付額または還付額)は必ず一致しません。

これは、消費税の申告の計算上、課税売上高が1,000円未満切り捨てとなるばかりでなく、納付額も100円未満切り捨てとなるからです。

消費税勘定の相殺後の金額と申告額との差額は、当然に雑収入または雑損失となります。

一般論として、消費税の経理処理と消費税の申告計算が正確であれば、消費税勘定の相殺後の金額と申告額との差額は申告上の端数の影響程度のごく少額となります。

簡易課税制度による申告による差額

ただし、消費税の申告を簡易課税によって行うと、消費税勘定の相殺後の金額と申告額とに小さくない額の差額が生じます。

通常は、実際に支払った仮払消費税等の額よりも、簡易課税制度の「みなし仕入率」によって算定された金額のほうが大きいため、消費税勘定の相殺後の金額よりも申告納付額は少なくなります。この場合には、多額の雑収入が計上されます。

いっぽう、業績不振や多額の設備投資により相対的に仮払消費税等の額が大きいため、消費税勘定の相殺後の金額よりも申告納付額が大きいことがあります。極端な場合、仮受消費税よりも仮払消費税のほうが大きく、消費税勘定の相殺後の金額は借方残(還付)なのに、申告納付額があることになります。これが「一般課税方式なら消費税の還付を受けられたのに簡易課税制度だったために納税になってしまった」という税理士損害賠償事案になりうるものです。いずれにせよ、この場合には、多額の雑損失が計上されます。

控除対象外消費税等による差額

さて、消費税の経理処理と消費税の申告計算が正確であれば、消費税勘定の相殺後の金額と申告額との差額は申告上の端数の影響程度のごく少額となるはずですが、間違いがないはずなのに申告額が大きいことがあります。

いわゆる課税売上割合が95%未満の(消費税の)課税事業者および当事業年度の課税売上高が5億円を超える課税事業者は、仮払消費税等の全額を差し引くことができません。ここで細かい解説をすると大展開してしまうので割愛いたしますが、この差し引くことができない仮払消費税等を「控除対象外消費税等」といいます。

この場合、消費税勘定の相殺後の金額と申告額との差額は、「申告計算上の端数調整」に起因するものと「控除対象外消費税等」に起因するものとに分けられます。「控除対象外消費税等」は費用となりますが、「申告計算上の端数調整」に起因する部分は収益(雑収入)となることもあります。実務上は相殺されてしまいますが、イメージ的には有利差異(貸方)を不利差異(借方)を上回るということです。

さて、会計処理上は、消費税勘定の相殺後の金額と申告額との差額は雑収入や雑損失とするの一般的です。ただし、法人税法上は、「申告計算上の端数調整」に起因する差額は、当該事業年度の益金または損金となりますが、「控除対象外消費税等」に起因する差額は、必ずしも全額が当該事業年度の益金または損金とはなりません。資産に係る控除対象外消費税等で一定の場合は、60ヶ月にわたって損金となります(資産の取得価額に算入して当該資産の耐用年数にわたって損金とする方法も選択できます)。 会計上全額費用処理してしまった場合には、法人税の申告上調整を行うことになります。そして、税効果会計の対象となり、とくに翌事業年度の損金にならない部分については表示や税率に留意しなければなりません

部門別の消費税納付額の算定とその利用

部門別の消費税納付額の算定

まずは全社的な消費税の申告計算を行います。すると、当事業年度の消費税申告にあたっての算定ルールが明確になります。具体的には、申告方法、課税売上割合、仕入税額控除の方法です。

つぎに、各部門をひとつの法人と擬制して、消費税の申告計算を行います。ただし、算定ルールは全社的な申告と同一にします。ある部門について、部門単独では課税売上高が5億円以下であったり課税売上割合が95%超であっても、全社的な課税売上割合で控除対象外消費税等を算定します。

そして、各部門が負担する消費税額を算定するには、中間納税の額を部門別に分けなければなりません。

中間納付額といっても、と前事業年度の消費税年税額を当期の中間申告回数(1回、3回、11回)に応じて分割して納付する場合と、当事業年度の中間申告対象期間の実績で仮決算して申告・納付するものがあります。

仮決算して申告・納付する場合は、上記の方法で各部門ごとの消費税額を算定すればよいのですが、前期の年税額をベースにする場合には、前期の年税額の計算にあたってその中間納付額をさらに前々期の実績で部門別に分けなければならないなどより不毛になりかねないため、前事業年度の部門別の仮受消費税と仮払消費税の相殺後の額の比率で各部門に配分するのも一定の合理性があると考えられます。

この結果、各部門をひとつの法人と擬制した消費税額が算定されます。重要なのは、各部門で算定された消費税額をすべて合計すると全社の額になることを確かめることです。部門に分割して、それを合計すると合わないというのはおかしな話です(端数調整が雑だとよくある話ですが)。

部門損益の精度向上

部門別の会計を行うと、部門別に当事業年度中の仮払消費税等と仮受消費税等の発生額を捉えることができますが、多くの場合には発生額を捉えたことでとどまり、その後の処理(納付額等と帳簿上との差額調整)はすべて全社部門での損益としてとらえられます。

部門別に集計された仮受消費税a/cと仮払消費税a/cの各残高を相殺した後の額だけ見ると、部門によって納付(貸方残)であったり還付(借方残)であったりすることもあります。

しかし、実際に部門別の消費税額を算定してみると、借方残にみえた部門には、実は控除対象外消費税等の額が多く実際は納付であったりすることもあります。つまり、「申告計算上の端数」は収益(雑収入)なのに、「控除対象外消費税等」のほうが大きいために全体として差額は費用となるケースです。

この「申告計算上の端数」や「控除対象外消費税等」は、会計上は損益となることから、各部門の損益に影響することになります。より厳密には、控除対象外消費税等について会計上は全額損益として処理したものの法人税法上は全額が当期の損金にならない場合にはその税効果の調整も行って部門利益も調整されることになります。

もちろん、これらに係る損益は部門長にとっては管理不能なものです。

キャッシュフロー分析の精度向上

ディスクロージャー的な要請ではなく、もっぱら経営管理上の要請からキャッシュフローをチェックしようとするならば、帳簿上の残高から技巧的に作られるキャッシュフロー計算書(間接法)ではなく、ひな型などにとらわれることなく純粋に直接資金の増減によって把握するほうが望ましいという考え方が出てきます。

この場合、現実の取引が消費税込みの額で入金または出金している以上、キャッシュフローも消費税込みの金額で捉えるのが一般的です。

このため、消費税の納税や還付も部門ごとに厳密にとらえれば、部門別のキャッシュフローの精度を向上させることになります。

相手方との消費税相当額の受払いのタイミングと、国との納税や還付のタイミングは異なりますが、部門別の納付額や還付額が判明すれば、このキャッシュフローのタイミングの違いも踏まえ、税込額や税抜額でそれぞれ作成したり分析することも可能となりえます。

経営管理上の目的であれば期間にこだわる必要もなく、個別的な投資効率性を判定する場合にも、初期投資において支払った消費税がどの程度回収(全社的な納税額の減少も含めて)されたのか、または、その後のキャッシュフローでどう程度回収されているのかについて、消費税を含めあるいは除外して分析することも可能となりえます。

(おわり)