ソフトウェア原価計算の見直しポイント

IT企業、とりわけ、ソフトウェア開発企業の決算は、正直やろうと思えばどうにでもできます。

労働集約的な企業では、原価計算に労務費(給料や法定福利費等)が含まれることが多く、期間費用になるか資産になるかで劇的に決算の数値が変えられる・・・いや、変わるからです。

チェックするポイント

期中ではある意味暫定的に処理していたものの、期末近くにあらためて事実に照らして再検討してみると、計算的な面(配賦基準や集計の順序など)をより合理的なものにできたり、理論的な面で誤解や誤りを見つけたり、より説得的な解釈があったりするものです。

たとえば、次のようなものが考えられます。

  • あるプロジェクトについて集計していた業務(会計上は研究開発費)が、実は別のプロジェクトについての業務(会計上は固定資産とすべきもの)だったと判明した。
  • いくつかのコストを集計した後の金額をベースにした比率で、別のコストを配賦するほうがより合理的なのに、別のコストを先に集計してしまったことが判明した。
  • 外注費や業務委託費として単純に期間費用にしていたものの、その内容は固定資産に該当するものだったことが判明した。
  • 期中は見積で計上していたコストがあまりにも実額と異なっていた。

実際のインパクトから考えると、もっとも劇的な影響を与えるのが、研究開発費かソフトウェア仮勘定かです。かたや期間費用として処理され、かたや資産として、しかも、償却もしなくてもよいからです。

集計すべきコストに誤りがないか、コストの内容とその理論的取扱いに齟齬がないかを検討します。

利益が減るインパクト

ソフトウェア仮勘定のなかに、当期中に本勘定(ソフトウェア)とすべき部分があったならば、ともすれば当期はまったく費用とならなかったものが、減価償却費という形で費用とすることができます。

また、ソフトウェア仮勘定自体そのものにまったく資産性がないとしたら、本勘定へ振り替えることなく除却したほうが妥当ということになります。

ソフトウェア勘定として集計し、または、ソフトウェア資産としてすでに減価償却を開始していたものについて、実はそのうちの一部が研究開発費に該当するコストであった場合には、当期の費用として処理することができます。

利益が増えるインパクト

研究開発費として処理していたものの、その内容についてよく検討してみると、ソフトウェア仮勘定として、あるいはソフトウェア資産として処理すべきものが出てくるかもしれません。

ソフトウェア資産として処置すべきだった場合には、研究開発費として全額が当期の費用となっていたものは、減価償却費として数年にわたって費用となります。さらには、ソフトウェア仮勘定だった場合では、当期はまったく減価償却しなくてよいことになります。

ソフトウェアを除却したものの、この資産に係る製品の販売は終了してもアフターサービスやメンテナンスやサポート等による収益が発生している場合には、少なくとも全額を除却したことは妥当でないということになるかもしれません。

ソフトウェア仮勘定から本勘定(ソフトウェア)に振り替わると減価償却がスタートするわけですが、ケアレスミスその他何らかの事情でそのタイミングが早すぎた場合には、それだけ多くの減価償却費が計上されていることになります。

償却開始のタイミングについて

期中は資金の支払いによって会計処理を行う「(なんちゃって)発生主義」または「期中現金主義」の経理処理をしていると、固定資産も支払った日をベースに計上されています。そして、その会計処理した日を含む月から減価償却が行われています。 現金支払いでなく、請求書支払いの場合には、支払った前月からすでに事業の用に供しているかもしれません。

逆に、固定資産を請求書や納品書の日付で未払計上していることも少なくありません。そして、その日を含む月から減価償却が行われています。 ここで検討したいのは、固定資産の減価償却の開始は、取得した日ではなくあくまで事業の用に供した日からです。 取得はしたけど事業の用に供してはいないこともあります。

損益区分について

また、最終利益には影響を与えませんが、損益区分に影響を与えるものとして、もし売上原価としたコストのうち、実はその中に研究開発費という部分がありましたねということになれば、営業利益は同じでも、売上総利益が変わってきます。

または、減価償却費についていわゆる法人税法上の法定耐用年数とは異なる短い耐用年数で償却したり、販売目的のソフトウェア資産の会計理論上の減価償却など、およそ法人税法上の償却方法とは異なる方法で減価償却をした場合、いわゆる有税(法人所得の計算上、損金の額に算入できない)となります。

となりますと、ベタな税法ベッタリのものに比べて、売上原価や販売費及び一般管理費が大きくなり、法人税等調整額のマイナスで調整されるイメージになります。

まとめ

「やろうと思えばどうにでもできる」ということは、逆に言えば、「疑われたらとことん疑われる」ことを意味します。

だからこそ、基礎的なデータの集計は、程度の問題はありますが、詳細であればあるほど望ましいことになります。

ゆるゆるな集計で、根拠レスな配賦をして、なんとなくまとめていては、「とことん疑われたとき」「修正を求められたとき」も、最終的なまとめ方は精緻な理論や計算法で武装しただけで、その元ネタはユルユルということもないともいえません。

キチンとした基礎データがあるからこそ、大胆な処理も可能となり、説得力もつくのです。

「計上すべきなのにまったく計上してない」「計上すべきでないのに計上している」とはイチャモンつけられても、「50じゃないだろ60だろ」とイチャモンをつけるのはなかなか困難なのです。50なのか60なのかを決める具体的材料を入手するのは困難だからです。

(おわり)