( 3 )一人別労務費原価計算とは何か

一人別労務費原価計算とは、個々の従業員レベルで労務費を計算することです。

しかし、ただ計算しましたでは意味がありません。メリットがあってこそ行う意味があります。

より正確な期間損益計算を可能にし、いっぽうで、投下資本の回収状況の観察など経営管理上も有用な情報を提供することが期待されます。

一人別労務費原価計算とは何か

一人別労務費原価計算とは、原価を構成する労働に従事する従業員から生じる労務費(金額)について、これを個々の従業員単位で把握し、いっぽうで、個々の従業員の作業内容ごとの労働時間を把握し、これらをつなげることによって、研究開発や製品製造やメンテナンスといった各活動ごとの正確な労務費を算出しようというものです。

一人別労務費原価計算の最大の目的は財務会計上の原価計算に有用な情報を与えることであり、その他経営管理や労務管理などにも有用な情報を与えることが期待されます。

財務会計への影響

財務会計上の原価計算に有用な情報を与えるという意味は、より正確な期間損益計算に資することです。

もし、ある作業に従事する部門の従業員の給料がすべて同じであれば、一人別労務費原価計算は何の意味もありません。

高給な従業員Aが、複数の作業のうちある作業に数時間要して、いっぽうで、Aほど高給でない従業員Bが同じくその作業に数時間要し、Bの作業時間が著しく多かったとします。このとき、その作業に係る労務費原価計算を、AとBの労務費合計額と、AとBの作業時間合計で除して集計していると、明らかに金額に歪みが生じます。

Aの分はAで集計し、Bの分はBで集計して、これを合計するほうがより正確な金額となります。

このように、一人別労務費原価計算はより正確な期間損益計算に資することが期待されますが、もっと実践的で重要なことは、「この作業にかかったコストなのでこの金額を資産計上する」「この作業にかかったコストなのでこの金額を除却(減損)する」といった処理について、明解に、かつ、自信をもって処理できることなのです。

あいまいな基準で集計、配分していると、正確な損益が算定できないだけでなく、「思い切った処理」をするときも、もともとあいまいな金額をさらにあいまいな測定であいまいな理屈づけて処理するために、会計監査や税務調査で時間を浪費することになるのです。

経営管理への影響

経営管理上の効果として、財務会計のルール(資産計上や償却など)や期間にとらわれず、純粋に投下資本とその回収を分析検討することが期待されます。

また、いわゆる裁量労働制などによって合法的に支払いがない作業時間(いわゆる(違法な)未払残業代とは別)に対するコストについても把握することが可能です。

と申しますのも、一般的な労務費原価計算の場合、一定の期間における従業員の総労働時間における労務費を、各作業等に要した時間の比率で割り振るわけです。しかし、労働時間そのものが増加しても、裁量労働制などによって労務費じたいはあまり変わらないと、総労働時間(分母)のみが増えることから、作業種類が多い場合にはひとつひとつの作業に配分される労務費は小さくなってしまいます。

本来ならば、時給換算でこれくらいの給与の従業員が行う作業なのに、支給金額そのものが一定(に近い)額であるために、時給がどんどん薄まったり、その期間でより時間をかけた作業のほうに労務費が割り振られることになります。

このような歪みが生じるわけですが、さりとて、財務会計では「そもそも支払われない給料」を費用に計上しても意味がありません。

そこで、財務会計とはまったく別の視点で、実際に支給された給与を作業時間の大小で相対的に配分するのではなく、「時給換算でこのくらいの従業員が何時間作業した」という絶対的な尺度で原価を計算することもできます。

これによって、「この製品のために研究開発にどのくらいの時間と金額がかかったのか」というデータを持つことができるため、顧客への価格設定や、新たな研究開発に要する予算や外注や内製の判断などに有用な情報となるのです。

ところで、裁量労働制などによって「そもそも支払われない給料(それ自体は合法)」を費用に計上しても意味がありませんが、「本来支払われなければならない給料(これは違法)」は、いわゆるコンプライアンスを考えれば財務会計上も計上しなければならないところです。

この場合でも、「違法な額」を正確に把握して、財務会計に反映すべき基礎情報となりうることが期待されます。

( つづく )