ソフトウェア開発業の損益調整とその理論的根拠

損益計算書は、ざっくり申し上げると、会計期間中の収益から費用を差し引いて当期純利益が計算されます。 よって、当期純利益を増やす(減らす)ためには、収益を増やす(減らす)か費用を減らす(増やす)ということになります。

収益や費用が発生しているのにするの計上しなかったり、発生していないのに計上することは認められません。収益のコントロールは相手方もある問題ですが、ソフトウェア開発業とって費用のコントロールについては、ソフトウェアが目に見えないものであるだけに、その理論構成によって自由度は大きくなります。

理論構成の前に、その基本的考え方について解説いたします。

当期純利益を減らしたいとき

当期純利益を減らすためには、費用を増やします。

費用を増やす手段とは、当期に発生した費用(以下、混乱を避けるために「コスト」とします。)が資産として計上することなく費用として処理することと、資産として計上されたコストをなるべく費用として処理することです。

ここで「資産」の意味ですが、いわゆる一般的に用いられている意味に加えて会計理論的な意味合いがございます。それは、会計理論上は当期中に費用にすることができず、翌期以降に費用になるものを資産というのです。

当期中に仕入れた商品が売れ残り決算日に商品在庫が存在する場合、会計上は資産となります。商品は目に見えますし、換金性があるものなので、一般的なニュアンスでも資産であることに違和感はありません。

会計理論的には、当期に仕入れて決算日現在で売れていない商品について、その仕入金額は当期の費用にすべきではなく、翌期以降にその商品が売れたときに費用にすべき(収益費用対応原則)ために資産として計上するという考え方です。「現実にあるモノ」という意味に加え「翌期以降に費用にすべきもの」というのも会計理論上は資産になるのです。

当期に発生したコストが資産に計上されるようにする

ソフトウェア開発業でコストが資産として処理されなければならないのは、以下のコストです。

  • 新しいソフトウェアの製品の制作に係るコスト
  • 既存製品などについて著しくない機能の改良に要したコスト

「新しいソフトウェアの製品の制作に係るコスト」とは、新しいソフトウェア製品に係る製品マスターが完成した時点から製品が完成する時点までのコストです。

「既存製品などについて著しくない機能の改良に要したコスト」とは、既存製品に係る製品マスターまたは購入したソフトウェアについて著しくない機能の改良(マイナーバージョンアップなど)に要したコストです。

以上から、次の部分のコストは費用として処理することになります。

  • 新しい製品マスターの完成時点までのコスト(研究開発費)
  • 既存製品等について機能の維持に要したコスト(製造費用(売上原価))
  • 著しい機能の改良となるコスト(研究開発費)

よって、新しい製品マスターの完成時点(または、既存製品について著しい改良をした後で新たな製品マスターが完成した時点)から、製品が完成する時点までの期間が短ければ短いほど資産として計上するコストが少なくなり、費用処理できる額が多くなります。

同様に、「著しくない機能の改良」の作業を始めた時点からその作業の終了時点までの期間が短ければ短いほど資産として計上するコストが少なくなり、費用処理できる額が多くなります。

「著しくない機能の改良」に要したコストではなく、「機能の維持」に要したコストだと主張できれば、費用処理できます。

「著しくない機能の改良」に要したコストではなく、「著しい機能の改良」に要したコストだと主張できれば、製品マスター完成時点までのコストは費用処理できます。

そこで、「製品マスターの完成」「機能の維持」「著しくない機能の改良」「著しい機能の改良」といった事実とそのタイミング、そしてそれに係る金額を、非財務データも含めて現実的にも理論的にも固めることになります。

理論上はもっともらしく説けても、事実関係に矛盾があったり、金額の測定や集計の方法がアバウトでは、やはり説得力が欠け、利害対立関係にある当事者から誤解を受けることになります。

資産として計上されているコストをなるべく費用にする

すでに資産に計上されているコストは、新製品あるいは既存製品の著しい改良後の製品の制作に係るコストです。

具体的には、新製品の場合には、最初に製品化された製品マスターの完成時点から製品の完成時点までのコストです。既存製品について著しい改良に係るコストは研究開発費として費用処理しますが、著しい改良によって新たな製品マスターが完成した時点から改良後の製品の完成時点までのコストです。

製品が完成するまでの制作途中のコストは、「ソフトウェア仮勘定」などの科目で資産に計上します。そして、製品が完成した場合には本勘定である「ソフトウェア」に振り替えて減価償却を行います。

ソフトウェア仮勘定に計上されているときは、減価償却費を計上することができません。そこで、制作が早く終われば終わるほど、資産計上するコストを減らすことができるばかりでなく、本勘定に振り替えて減価償却を開始することができます。

よって、「制作の完了」の事実とそのタイミング、そしてその期間中のコストを固めることになります。

なお、会計理論上の減価償却の趣旨である収益費用対応原則からすれば、市場販売目的のソフトウェアの償却は収益発生に応じて行うべきです。とすると、当該ソフトに係る売上高が計上された時点から費用化(償却開始)すべきことになります。しかし、この方法では製品制作が完了しても売上高が計上されなければ償却は開始できなくなってしまいます。そこで、売上高が計上された時点からではなく、販売を開始した時点から償却開始とすることが考えられます。しかも、制作の完了時点と販売開始時点を同月のうちに行えば、月初に制作が完了し月末に販売を開始しても、 1 月分の償却費が計上される通常の会計慣行からすると制作完了と事実上同時に償却費を発生することができ不毛な(?)理論闘争も起きません。

ところで、市場販売目的のソフトウェアの減価償却費については、会計理論上は見込販売数量や見込販売収益などの合理的な方法で行うことになっています。会計期間末日の未償却残高(制作に要したコスト(取得原価)から減価償却費を控除した残額すなわち帳簿価額)について、毎期見込販売数量等の見直しを行い、あるいは、ソフトの残存有効期間についての見直しを行い、減損処理に準じた費用処理を行います。

よって、資産に計上したソフトウェアの減価償却を見込販売数量や見込販売収益などに基づいて行っている場合、会計期間末日で詳細に見込販売数量等を分析し根拠資料をキチンと作れば、減損処理に準じた処理によって減価償却よりも早く費用化することが可能です。

また、これとは別に、新しい製品あるいは著しく改良された製品の完成した場合で、既存あるいは著しい改良前の製品について今後販売しない場合には、既存あるいは著しい改良前の製品に係る未償却残高は除却処理することができます。 もっとも、販売しないことに決めても、たとえば、有償サポートによる収益が見込める場合については、未償却残高全額を除却してよいのかどうかについては意見が分かれると思われます。

なお、制作途中でソフトウェア仮勘定に計上されているコストについても、市場環境や経営環境の変化により制作活動を修了した場合には、本勘定に振り替えることなく、一挙に除却処理することもできることになります。この場合にも、根拠となる資料等を固める必要があります。

当期純利益を増やしたいとき

当期純利益を増やすためには、費用を減らします。

費用を減らす手段は、当期に発生したコストが費用ではなく資産として計上されることと、資産として計上されたコストが費用化するのをなるべく回避することです。

当期に発生したコストが資産に計上されるようにする

ソフトウェア開発業でコストが資産として処理されなければならないのは、以下のコストです。

  • 新しいソフトウェアの製品の制作に係るコスト
  • 既存製品などについて著しくない機能の改良に要したコスト

よって、新しい製品マスターの完成時点(または、既存製品について著しい改良をした後で新たな製品マスターが完成した時点)から、製品が完成する時点までの期間が長ければ長いほど資産として計上するコストが多くなります。

同様に、「著しくない機能の改良」の作業を始めた時点からその終了時点までの期間が長ければ長いほど資産として計上するコストは多くなります。

「機能の維持」に要したコストではなく、「著しくない機能の改良」に要したコストだと主張できれば、資産として計上するコストは多くなります。

「著しい機能の改良」ではなく、「著しくない機能の改良」に要したコストだと主張できれば、資産として計上するコストは多くなります。

資産として計上されたコストが費用化するのをなるべく回避する

製品が完成するまでの制作途中のコストは、「ソフトウェア仮勘定」などの科目で資産に計上します。そして、製品が完成した場合には本勘定である「ソフトウェア」に振り替えて減価償却を行います。

ソフトウェア仮勘定に計上されているときは、減価償却費を計上することができません。そこで、制作の期間が長ければ長いほど、資産計上するコストを多くできるばかりでなく、本勘定に振り替えて減価償却が始まるのを遅らせることができます。

なお、会計理論上の減価償却の趣旨である収益費用対応原則からすれば、市場販売目的のソフトウェアの償却は収益発生に応じて行うべきです。とすると、当該ソフトに係る売上高が計上された時点から費用化(償却開始)すべきことになります。このため、償却開始時点を売上高計上時点とすれば、製品制作が完了しても売上高が計上されなければ償却は開始しなくてすみます。

さらに、制作途中でソフトウェア仮勘定に計上されているコストについて、市場環境や経営環境の変化により、制作活動をいったん中断させた場合には、制作活動が終了していないために本勘定に振り替えていないため、結果として減価償却をしなくてよいことになります。

ところで、減価償却については、会計理論上は見込販売数量や見込販売収益によって、あるいは、有効残存期間によって償却を行いますが、見込販売数量などについて予測が困難な場合には、市場販売目的のソフトウェアの法人税法上の法定耐用年数は 3 年なので、 3 年にわたって償却を行います。

ちなみに、法人税法による減価償却費の思想は、法人が損金経理した額(減価償却費として費用処理した額)のうち、個々の資産について法定の償却方法により法定耐用年数で算定した事業年度における償却額(償却限度額)までを損金(税務上の費用)として認めるというものです(任意償却)。このため、法人が減価償却費を計上しないのであればそれはそれで何の問題もありません。なぜなら損金の額が減って所得金額が増える(法人税額が増える)だけですから。

未償却残高については、販売見込数量や有効残存期間に変動がない、すなわち、減損に準じた処理を行わなければならないような事情がないことを主張する必要があります。

また、これとは別に、新しい製品あるいは著しく改良された製品の完成した場合で、既存あるいは著しい改良前の製品について今後販売しない場合には、既存あるいは著しい改良前の製品に係る未償却残高は除却処理することができますが、除却の俎上にある未償却残高について、たとえば、有償サポートによる収益が見込める場合や、「新製品の制作に一定のノウハウの伝承によるコスト削減効果があるため旧製品の未償却残高を(少なくとも全額)除却することは妥当でない」というような理論的根拠があり、社内的にも決裁等が行われない場合には、未償却残高を全額除却しなければならないことにはならないとも考えれます。

ソフトウェア原価計算のより詳しい内容につきましては「 一人別労務費原価計算の手ほどき 」をご覧ください。

(おわり)