( 5 )従業員単位の労務費の把握・集計

一人別労務費原価計算では、「個々の従業員単位で労務費を把握する」ことと、「個々の従業員単位の作業内容ごとの労働時間を把握する」ことが求められます。

今回は、個々の従業員単位での労務費の把握について検討いたします。

従業員単位の労務費の把握のポイント

従業員単位で労務費を把握・集計しようとする場合、とくに次の点に注意する必要があります。

  • 従業員単位の給料を月初日から月末日で測定すること
  • 従業員単位で法定福利費を算定すること
  • 賞与は実際支給額を支給対象期間にわたり配分すること

給料の把握・集計

期間的な整合性を取る

給料の把握・集計で重要なのは、期間的な整合性を取ることです。すなわち、一定期間における労務費を過不足なく把握・集計することです。

原価計算の算定期間の終了日が月末であれば、末日までの期間での労務費を集計しなければなりません。そこで、給料の締めが20日締めである場合には、給料そのものは前月21日から当月20日ですが、原価計算の場合には当月1日から当月末日までの情報を得ることになります。

このため、ただ「〇月分給料」を把握すればよいのではなく、毎月21日から末日までのデータを別途で把握する必要があります。これは、会計処理(仕訳)を行う場合にも極めて重要です。

ベースアップや昇給(あるいはその逆)については、計算経済性の観点から給料の締めに合わせることが多いと思われますが、この場合には、当月1日から当月20日までは旧体系、当月21日から当月末日は新体系によって情報を集計します。つまり、実際の支給額(翌月20日締め)の一部になります。

残業代の精算は、いろいろな方法があります。給料の締めに合わせて前月21日から当月20日までの残業代を精算したり、翌月の給料で前月1日から末日までの残業代を精算したりなどです。ただ、これらは支払いの話であり、原価計算のための情報は、あくまで当月1日から当月末日までに発生する残業代を把握することになります。

会計処理のための情報を踏まえたデータのまとめ方

ところで、経営管理目的の原価計算とはいえ、財務会計に有用な情報を提供できなければ経営資源を効率的に活用しているとはいえません。そこで、財務会計(とどのつまり仕訳処理)のための情報の区分が必要となります。

たとえば、20日締めの給料で、計算期間が末日であるとすれば、会計処理(仕訳)を考えれば、支給(確定)額と概算額を分けるため、次の区分で管理する必要があります。

  • 前月21日から前月末日までの給料(確定額)
  • 当月1日から当月20日までの給料(確定額)
  • 当月21日から当月末日までの給料(概算額)
  • 当月1日から当月末日までの残業手当等(確定額)
  • 当月1日から当月末日までの残業手当等(概算額)

確定額と概算額をキチンと区分できるかどうかは、会計というより税務(法人税法)の問題です。合理的な概算額を計上することはより適正な期間損益を算定することにつながりますが、法人税法上は損金として認められないことがあるからです。

また、会計ソフト上でも確定額と概算額を峻別できるような科目設計と仕訳処理を行うことで、ソフト上で集計額やミスをチェックできます。

給与に係る法定福利費の把握・集計

法定福利費を従業員単位で個別に計算

適切な労務費原価計算を行うには、従業員等に支給する給料等だけでなく、法定福利費も考慮しなければなりません。

法定福利費には、健康保険料、厚生年金保険料、労働保険料(労災保険料や雇用保険料)などがあります。

法定福利費は、一部の保険料(労災保険料など)のほかは、労使すなわち会社等と従業員等でそれぞれ負担して納付します。原価計算で把握するのは、会社負担分(法定福利費)です。

  • 健康保険料会社負担額
  • 介護保険料会社負担額
  • 厚生年金保険料会社負担額
  • こども・子育て拠出金(全額会社負担)
  • 厚生年金基金掛金会社負担額(標準掛金、加算掛金、事務費掛金など)
  • 労災保険料
  • 雇用保険料会社負担額
  • 一般拠出金

一人別労務費原価計算の重要なカギとなるのが、個々の従業員単位で法定福利費を計算できることです。

給料をいかに詳細に集計していようが、法定福利費になるととたんにユルユルになっているケースを散見しますが、バランスが重要と考えられます。

健康保険料(及び介護保険料)、厚生年金保険料等の算定

個々の従業員単位で法定福利費を計算できるためには、健康保険料や厚生年金保険料等の計算のしくみを理解していなければなりません。

詳細な説明は割愛しますが、月々の社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料等)の額は、所得税等の源泉徴収の額のように毎月のリアルな給料等の額をベースに計算するのではなく、標準報酬月額によって行います。

標準報酬月額とは、4月から6月までの3ヶ月の給料(に加えて通勤交通費その他いわゆる現物給与も含みます。)の平均額から決定され、この標準報酬月額の等級に応じて、9月から翌年8月までの各従業員の社会保険料の金額が決まります。

このため、毎月の残業代などの増減によって必ずしも社会保険料の額が変わるわけではありませんが、昇給や降給などの固定的な手当の増減によって2等級以上の変動すると、社会保険料の金額が変更されます(随時改定)。随時改定の要件を満たしても実際に標準報酬月額が変更されるタイミングはズレがあり(増減後4ヶ月目から)、3ヶ月間は低い標準報酬月額が適用されます。 このため、随時改定が生じるときは、社会保険料が増減するタイミングを誤らないようにしなければなりません。

社会保険料にはもうひとつの問題があります。当月の発生額について納入告知書が送付されてくるのは翌月の後半です。社会保険料の「発生月」と、従業員等からの徴収するタイミングがズレている場合には注意する必要があります。月遅れの徴収をしている場合には、給料と期間的な整合性を取る必要があります。

一人別労務費原価計算では、従業員単位で社会保険料(会社負担分)を計算するわけですが、その計算結果の妥当性を検討するため、毎月送付されてくる納入告知書との整合性をチェックする必要があります。

すなわち、従業員から実際に天引きしている社会保険料等の金額(従業員負担額)と、独自で計算した社会保険料等の金額(会社負担額)の合計が納入告知書と(ほぼ)一致しているかどうかのチェックです。

そのためには、あらかじめ過去の実績で確かめてみることをオススメします。定時改定の時を出発点に、従業員の増減、従業員の40歳への到達(介護保険料発生)、随時改定が生じる給料等の増減、賞与の発生、育児休暇等の場合などに、納入告知書とズレが生じないかチェックするのです。

一致しない場合、「計算ロジックのミス」「変更と納入告知書とタイミングのズレ」であればよいのですが、従業員等からの天引きのミスである場合は深刻な問題といえます。

従業員等から社会保険料を控除しすぎると、その分源泉徴収する所得税額が減る(月々の源泉徴収する税額は(通勤費を除いた)給料から社会保険料等を控除した額です。)ため、控除する社会保険料の控除額を減らすと源泉徴収税額は増加することになるかもしれません。いずれにしても、従業員の手取り額が減っていた場合には修正すべきです。なお、この事務作業は現実的には年末調整で行わざるをえないといえます。

労働保険料

労働保険料は、4月1日から翌年3月31日までの期間について年1回の確定申告により最終的な保険料は確定します。いっぽう、納付する保険料は概算額を年1回もしくは年3回で前払納付し、確定申告で概算保険料との差額の精算を行います。

原価計算にあたり概算保険料を期間配分しても意味がありません。なぜなら、概算保険料は前年の実績等にもとづいた「概算額」でしかないためです。

労働保険料(労災保険料や雇用保険料や一般拠出金)については、標準報酬月額ではなく、実際の給料等によって算定することになります。労働保険の申告も、個々の従業員の実際の給料(および通勤交通費や現物給与など)を集計して確定保険料の額を算定します。

つまり、月々の個々の従業員の給料等の額から、従業員単位での労働保険料を計算できるのです。

一見困難なようですが、毎月の給料計算で雇用保険料を天引きしているはずです。これは、雇用保険料の従業員負担分ですが、この料率で逆算することで、雇用保険会社負担分、労災保険料会社負担分や一般拠出金が従業員単位で計算できます。

ただし、所得税等の源泉徴収税額の計算は通勤交通費を除いた額で行いますが、労働保険料の場合には通勤交通費も含めた額で計算するので注意が必要です。

会計処理のための情報を踏まえたデータのまとめ方

ところで、経営管理目的の原価計算とはいえ、財務会計に有用な情報を提供できなければ経営資源を効率的に活用しているとはいえません。そこで、財務会計(とどのつまり仕訳処理)のための情報の区分が必要となります。

さて、給料について、20日締めと仮定した場合の区分をあらためて見てみます。

  • 前月21日から前月末日までの給料(確定額)
  • 当月1日から当月20日までの給料(確定額)
  • 当月21日から当月末日までの給料(概算額)
  • 当月1日から当月末日までの残業手当等(確定額)
  • 当月1日から当月末日までの残業手当等(概算額)

法定福利費のうち、労働保険料については、給料の実際支給額と連動しています。しかし、所得税が課されない通勤費も含めたところで労働保険料の額は算定されます。このため、発生した給料の額だけに直接料率を乗じるのは誤りです。

そこで、従業員単位で各月の労働保険料を算定するためのシートを準備します。具体的には、給料額に通勤費を加算した額を把握します。注意すべきところは、金銭以外のいわゆる現物給料等は、経理上は福利厚生費として計上している場合があるため、この分も加算する点です。

なお、給料のシートで確定額と概算額を分けていましたが、当然のように、労働保険料についても給料の確定額部分と概算額部分に分けて管理することになります。ただし、通勤費や現物給料等(経理上給料としていない額)については確定額に含ませて算出すべきです。たとえば、20日締めの給料の場合には、当月1日から当月20日に対応する確定額の部分に含めることが考えられます。

  • 前月21日から前月末日までの給料(確定額)に係る労働保険料
  • 当月1日から当月20日までの給料(確定額)に係る労働保険料
  • 当月21日から当月末日までの給料(概算額)に係る労働保険料
  • 当月1日から当月末日までの残業手当等(確定額)に係る労働保険料
  • 当月1日から当月末日までの残業手当等(概算額)に係る労働保険料

ところで、「通勤費や現物給料等はそもそも原価性があるのか」という議論はあると思われます。この問題については、「通勤費等はそもそも原価性があるのか」という問いに正面から検討するいっぽうで、「給料の額と通勤費等の額との金額面のバランス」「給料に係る法定福利費の額と通勤費等に係る法定福利費の額との金額面のバランス」を勘案した計算経済性の面からも検討すべきと思われます。「通勤費等そのものは原価計算から除外するが、通勤費等に係る法定福利費については金額も僅少なため原価計算に含める」という選択肢もあるでしょう、学問ではなく実務では。

いっぽう、健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料等については、給料の実際支給額と連動しているわけではなく標準報酬月額に基づいて算定します。よって、発生した給料の額に直接料率を乗じるのは誤りです。

そこで、まず、従業員単位で各月の標準報酬月額を管理するシートを用意することになります。

次に、実際にこれらの保険料等を実際に負担する月(〇月分)で把握・算定すべきです。よって、たとえば、随時改定が行われるときは、随時改定となる事情(固定的賃金の変動等)が発生した月ではなく、あくまで負担額が変動する月で把握・算定することになります。

このため、労働保険料と異なり、確定額や概算額といった形で区分する必要はなく、むしろ保険料が実際に発生するタイミングで把握することが重要です。

そして、これら法定福利費も、会計ソフト上でも確定額と概算額を峻別できるような(補助)科目設計と仕訳処理を行うことで、ソフト上で集計額やミスをチェックできます。

  • 当月の標準報酬月額に係る健康保険料(及び介護保険料)
  • 当月の標準報酬月額に係る厚生年金保険料
  • その他、当月の標準報酬月額に係るこども・子育て拠出金、厚生年金基金掛金など

賞与の把握・集計

ある月(12月とします。)に賞与が支給されたとします。そして、この賞与の支給対象期間は7月から12月までの期間だったとします。

この場合、この賞与の額を、7月から12月までの期間に配分しなければなりません。そうでなければ、賞与支給月の労務費だけ異常に高いことになってしまいます。

そこで、確定した賞与の額について、支給対象期間の各月にそれぞれ割り振ります。そうしますと、その期間の労務費の額は給料に加えて、確定賞与額の月割額が計上されることになります。

ところが、この方法では、賞与が支給される月でなければ原価計算はできないことになってしまいます。

そこで、賞与支給の見込み額を支給対象期間にわたって月割で把握・集計することになります。

同時に、賞与支給の月割見込み額に係る法定福利費の概算額を把握・集計します。労働保険料については、給料等の場合と同様に、賞与の月割計上額に対する労働保険料(会社負担分)を算定します。いっぽう、健康保険料等については、賞与に係る部分は通常の月額給料等(標準報酬月額)とは別個の計算ルールによって算定されるため、賞与見込み額に基づいて健康保険料等の見込み額を算定し、これを月割計上します。

そして、賞与の実際支給額が確定し、これに伴う法定福利費が確定した段階で、賞与確定支給額とこれに係る法定福利費の額を月割にして支給対象期間に配分します。この段階で、支給対象期間中の概算計上額はすべてキャンセルされます。

ところで、賞与支給対象期間が月初から始まる場合ならいいのですが、もしこれがズレている場合(〇月21日から〇月20日までが賞与支給対象期間)には、相応の調整をすることになります。

また、支給対象期間とは無関係の決算賞与などが支給された場合には、先ほどの通勤費の議論と同様に、「原価性があるのか否か」「原価性があるとしたら法定福利費も取り込むか取り込まないか」という検討が必要と考えられます。

会計処理のための情報を踏まえたデータのまとめ方

会計処理のための情報ということからすると、賞与の場合には、概算計上の期間が長いため、法定福利費も加えた概算額を把握しつつ、賞与支給月(確定額が決定)では概算月割額を確定月割額に洗い替えすることになります。

  • 賞与見込み額の月割額(概算額)
  • 賞与月割額(概算額)に対する労働保険料(概算額)
  • 賞与見込み額に対する健康保険料等の月割額(概算額)
  • 賞与見込み額に対する厚生年金保険料等の月割額(概算額)

退職給付費用等の把握と集計

退職金規定があり、従業員の一部でも支給対象となる要件(勤続年数など)を満たした場合には、退職給付費用相当額を計上します。

もし、退職給付費用の計上が必要であり、たとえば期末における自己都合要支給額を基にして各従業員別に退職給付費用を算定することが比較的容易であれば、やはり各月にわたって集計すべきです。

会計処理のための情報を踏まえたデータのまとめ方

退職金は従業員単位で算定されるため、従業員ごとの退職給付費用の把握・集計は相対的に容易と考えられます。 退職給付費用の場合、従業員単位で退職給付費用を把握することが可能です。

ただし、決算時に会計上の退職給付費用が算定されることもあるため、この場合には賞与のように概算額を月割計上し、確定額が判明した段階で確定額に洗い替えることになります。

また、勤続年数の関係で、ある月を境に退職金要支給額が発生したり、ある月を境に退職金要支給額が増加することがあります。この場合には、その月の前後で計上額を増加させることになります。

なお、中小企業退職金共済制度などに加入しており、各従業員別の掛金が定まっている場合、会計処理上は法定福利費で計上することも少なくないため、これに従います。掛金の額は実際の給与支給額とは無関係のため、実際の掛金を従業員単位で把握・集計することになります。

( つづく )