( 2 )残念な労務費原価計算

原価計算については、もっぱら経理の目的、税金の計算のために消極的にやっていることが少なくありません。

原価計算プロセスそのものや、標準原価(予定原価)との差異分析そのものが目的化してしまい、経営に役立っていないということもあります。

重要なのは、現場には1円レベルでの原価低減を求めておきながら、現場でないところ(経理部門)では「ドンブリ」になってしまうのはバランスを欠くのではないかということです。

労務費原価計算でありがちなこと

労務費原価計算というと、給料は月給でほぼ固定ということもあり、集計額を何らかの基準によっていろいろと配賦するというイメージがあります。

原価計算が現実の事業活動とまったく結びついていない

たとえば、ソフトウェア開発業では、主としてエンジニア部門の活動が原価計算に直結します。どんな作業をいつどれだけやったかによって集計されるコストは異なるはずです。

ところが、一定の期間のエンジニア(部門)の人件費をひとつの製品を制作したような処理をしているケースをがあります。たとえば、四半期ごとにエンジニア(部門)の労務費をまとめて、耐用年数3年(36ヶ月)で費用処理(償却)しているのです。

これでは、現実の事業活動との関連性がまったくありません。

これは、もっぱら税金的な問題、すなわち、エンジニア(部門)の人件費を全額費用(損金)では税務上のリスクがあると考え、「とりあえず一定の基準で全額を損金にしていません」という税務当局へのアピールが主な目的としか思えません。

結局はドンブリ勘定でデータが有効に使われていない

エンジニア部門では異なる給料の従業員等が、それぞれ異なる業務(研究開発、製品制作、バージョンアップ、顧客対応など)をしていることが一般的です。それどころか、ひとりでさまざまな業務を同時並行的に行っていることも少なくありません。

より正確な原価計算をするためには、業務ごとのコストを集計する必要があります。そこで、個々の従業員に業務内容を管理・報告させることが一般的です。

ところが、実際の計算では、部門全体の合計額を、部門全体の総作業時間から各業務の作業時間合計で配賦していることが少なくありません。

これでは、せっかく細かくキレイに小皿に取ったものを、最後はドンブリに入れてかきまぜてアバウトに盛り付けしまうようなものです。

個々の従業員の業務内容を細かく把握しても、少なくとも原価計算ではまったくといっていいほど有効に活用されていないことになります。

業務内容を把握する目的がもっぱら労務管理のためだったとしても、原価計算で有効に利用できるなら活用すべきです。

期間的な整合性がない(給与締め日の調整ができていない)

給料の締め日が20日締めだとします。ということは、給料の計算期間は前月の21日から当月の20日までとなります。いっぽう、会計の締日は末日です(レアに20日もあります)。

裁量労働、あるいは、サービス残業だらけで、給料はいつも一定だから関係ないという考え方もありますが、少なくとも事後的に当月21日から月末日までの給料等は確定するわけです。実際の支給(支払い)とコストの発生は別物なのです。

20日締めの給料のままで、前月21日から当月20日までの給料等のデータなのに、労働時間については月初から月末のデータを使って原価計算をしていたのでは、精緻な配賦基準がどうのこうの以前に、取り扱うデータの整合性がついていないということになります。

給料締日にならって、前月21日から当月20日の給料等のデータと、同期間の労働時間のデータとで計算を行えば精度は向上します。しかし、決算が末日であれば、21日から末日までのデータを取り込まなけばなりません。

経理のための原価計算となると、(月次、四半期、年次)決算の締めとの関係で、いかに速やかに確定データを取り込めるか、一方で、それが不可能な場合にはいかに精度の高い概算値を取り込めるか、そして、事後的に確定値との洗い替えと再計算を行えるかということになります。この場合、経理上は確定値と暫定値が混在するため、いかに勘定科目や補助科目を整備して入力やチェックを帳簿上で確認できるかが問題となります。

原価計算の要素に関するもの

労務費を構成するものはさまざまですが、もっぱら給料だけは精密で細かく集計しているのに、その他の要素となるとユルくなってしまうこともあるようです。

法定福利費が取り込めていない

給料等を支給する場合には、法定福利費がかかります。具体的には、労働保険料や健康保険料、厚生年金保険料などです。

給料になると1人1人について極めて細かく計算するのに、法定福利費となるとまったくザックリ集計・配賦しているアンバランスな事例が散見されます。

法定福利費では、その発生のタイミング(期間対応)にも留意しないといけないにもかかわらず、考慮すらされていないことも少なくありません。たとえば、社会保険料の納入告知書は月遅れです。(月次)決算を早期化している場合には間に合いませんし、税務との関連でいえば「損金算入時期」ともからみます。

給料が発生するところ、法定福利費もセットでついてくるのです。給料だけ細かく集計しても片手落ちといえるでしょう。

賞与発生額が取り込めていない

たとえば、10月に発生した労務費を計算するにあたって、給料も、法定福利費も完璧に計算・集計したとします。

ところで、その後12月には賞与が支給されたとします。そして、この賞与の支給対象期間は7月から12月までの期間だったとします。

だとすると、この賞与の額を、7月から12月までの期間に配分しなければなりません。そうでなければ、賞与支給月の労務費だけ異常に高いことになってしまいます。

もちろん、賞与だけではなく、賞与に係る法定福利費も配分しなければなりません。

なお、経理目的の原価計算では、賞与の確定額が判明しない間は月次ベースで概算額を見積もり計上し、見積額ベースで原価計算を行い、確定額となった段階であらためて原価計算しなおすことになります。

退職給付費用が取り込めていない

退職給付費用が取り込めていないことも少なくありません。

とはいえ、賞与に比べて退職給付費用は性質的には極めて理論的な費用です。とはいえ、潜在的に発生している費用です。

経理のための原価計算ではなく、経営管理のための原価計算の場合には、退職給付費用そのものよりも、現実に支出している掛金のほうが妥当だという考え方もあると思われます。

経理上の退職給付費用とする場合、会計期間(1年)で算定される退職給付費用を12分割にして月次で計上するよりも、期間の中で逓増していくことになるほうが理論的といえますが、金額の重要性によって検討すべきと思われます。

重要な視点は、「監査法人はオッケーだったから」などといった経理上のちっこい問題ではなく、現場には1円レベルでの原価低減を求める一方で、現場でないところではドンブリというのはいかがなものかというお話なのです。

( つづく )