( 6 )従業員単位の作業(時間)の把握・集計

一人別労務費原価計算では、「個々の従業員単位で労務費を把握する」ことと、「個々の従業員単位の作業内容ごとの労働時間を把握する」ことが求められます。

今回は、個々の従業員単位の作業内容ごとの労働時間の把握について検討いたします。

集計対象の特定

原価計算にあたり、とくに必要な要素は次の点です。

  • 一定期間でのコストの把握と集計(いくらかかったのか)
  • 集計対象の特定(ナニを集計するのか)
  • コスト配分のための基礎情報の収集(労務費の場合は主に作業時間)

このうち、「一定期間でのコストの把握と集計」につきましては、前回検討しました。

次に、集計されたコストを、ナニを基準にして原価計算を行うかということになります。

ナニを基準にするか、その集計対象については、原価計算の目的がカギになります。

経営管理のために原価計算を行う場合であっても、経理すなわち会計基準は切っても切れない関係にあります。そこで、作業内容の区分については、会計基準を参考にすることが考えられます。

この点、たとえば、極めて労働集約的であるソフトウェア開発では、現状では「研究開発費等に係る会計基準」に準拠した処理が求められます。

  • 既存ソフトの機能の著しい改良に要した作業
  • 既存ソフトの機能の維持に要した作業
  • 既存ソフトの機能の著しくない改良に要した作業
  • 購入したソフトの導入やカスタマイズの作業
  • 既存ソフトのマイナーバージョンアップの作業
  • 既存ソフトのメジャーバージョンアップの作業

経理的に重要なのは、「その期間に発生したコストは、全額がその期間の費用になりますか?それとも、一部または全額がその期間の費用とはならず(この場合資産になります。)、その期間以降の費用になりますか?」ということです。

コスト配分のための基礎情報の収集

集計対象と特定したところでで、具体的にどう区分するか、労務費の場合、それは作業内容、そして作業時間です。

とはいえ、作業内容の区分にはキリがありません。細かくしようと思えばとことん細かくできます。たんに原価計算だけでなく、いわゆる勤怠管理や人事考課の目的にも利用しようとすれば果てしなくなります。

しかし、あまりにも細かい情報を収集したところで、その細かい情報をうまく評価・活用できなければ意味がありません。しかも、経営管理のために従業員等に情報を求めすぎると、モラル(士気)の低下を招くことになり、本来の業務に支障をきたす本末転倒なことになってしまいます。コストとベネフィットのバランスを取ることが重要といえます。

そこで、集計対象の特定の場面と同じく、会計基準によることが考えられます。

先ほどのソフトウェア開発の場合、「研究開発費等に係る会計基準」の場合、次の時点までの作業時間を把握する必要があります。

  • 最初に完成した製品マスターの完成時点(市場販売目的ソフトウェアの場合)
  • 製品マスターや購入ソフトウェアの著しい改良の終了時点
  • 収益獲得または費用削減が確実になった時点
  • ソフトウェア制作の完了時点

作業時間の具体的な把握

原価計算は、各月に発生した各従業員の給料等の金額を、作業時間を基準に各月における作業内容ごとに配賦する作業です。

そのためには、各従業員が行った作業内容ごとの月間の作業時間合計を集計します。

作業時間の把握は、基本的には日報(タイムシート)をベースにして月単位で集計したものを利用することになると考えられます

タイムシートの内容については、少なくとも経理上では、どういう作業を何時間やっていたかで足りると考えられます。

「どういう作業」というのは、先ほど申し上げた特定された集計対象です。基本的には会計基準をベースに区分していきます。

ただ、この区分についても、当初の判断と事後的な判断が異なることも少なくないため、ついつい作業内容を細かく分けて従業員に報告してもらいがちです。しかし、細かくなればなるほど作業を実際に行う従業員の入力ミス等によりデータそのものの信頼性があやうくなることも考えられます。

このため、実際に従業員に報告してもらう作業内容の区分はできるかぎりシンプルにして、会計上ポイントとなる部分は従業員等にインタビューするなどして調整する方法も有効と考えられます。

作業時間と労働法上のコンプライアンスの問題

作業内容について各従業員の申告に委ねようとする場合、経営サイドにとって躊躇することがあります。

それは、労働基準法上のコンプライアンスの問題です。

もろもろの事情により、本来ならば支払義務が生じる時間外手当、深夜残業手当、休日手当などが支給されていない場合に、これらの時間管理を申告させるということは、あるべき論はともかく現実問題として悩ましいという考え方があります。

ところで、ソフトウェア開発などにかかわる従業員には、専門業務型裁量労働制(労働基準法38条の3)が適用されることがあります。裁量労働制とは、業務の遂行方法が大幅に労働者の裁量に委ねられる一定の業務に携わる労働者について、労働時間の計算を実労働時間ではなくみなし時間によって行うことを認める制度です

しかし、専門業務型裁量労働制に係る労使協定を結んでいても、協定内容に違反していたり、深夜残業手当や休日手当が支給されていない場合もありえます。

裁量労働制が適用される従業員に対しては、労使協定で、対象業務を遂行する手段、時間配分の決定等に関して具体的な指示をしない旨を締結することが必要です。

このため、「裁量労働制なのに、なんで時間管理をされないといけないのか」という従業員からの疑問や誤解が生じるところです。

いっぽう、労使協定で、使用者(企業)が行う労働者(従業員)の労働時間の状況に応じた健康・福祉を確保するための措置と、従業員からの苦情を処理するための措置を講じることとなっており、それを担保する意味もあり、対象従業員の労働時間の状況を記録することを取り決めることが一般的です。

このため、業務を遂行する手段や時間配分については事前に従業員に指示することはできませんが、従業員から事後的に業務の内容を申告してもらうよう依頼することになると考えられます。

( つづく )