( 1 )経理のための原価計算と経営管理のための原価計算

原価計算を、会計的な事情に基づく消極的なものではなく、よりボジティブに経営に活かしていくために、また、会計的にもよりダイナミックな処理を可能にするため、より精度の高い計算を行うことが考えられます。

まずは、経理のための原価計算と経営管理のための原価計算についてご説明いたします。

経営活動とは

アカデミックな論点はさておき、経営とは、顧客にモノやサービスを提供し、おカネを獲得することです。

しかし、モノやサービスを提供するためにはおカネがかかります。材料を買ったり、給料を支払ったりです。

収入と獲得の差額がいわゆる利益となります。この差が大きければ大きいほどおカネが蓄積されることになります。利益に対して税金がかかりますが、残った部分を、株主に還元したり(配当)、役員や従業員に還元したり(賞与)、新たなビジネスへに回す(設備投資や研究開発)のです。

ところで、支出と収入にはタイムラグがあります。設備投資や従業員採用のための支出が先行します。また、経営が軌道に乗っても、売上代金の入金の前に支払期限が来ることがあります。そのために、資金調達が必要となります。株式を発行して出資を受け入れたり(自己資本)、借入金を行ったり(他人資本)することになります。

経理のための原価計算

さて、経営は常に途切れなく連続していますが、一定の期間を区切り、その期間の経営成績を算出する必要性があります。 その期間は基本的には1年(事業年度)ですが、四半期や月次などより短い期間で計算することもあります。

一定期間中に、どれだけ売上があり、どれだけの費用が発生し、その差額としてどれだけの利益が出たかを算定するのです。

結論から申し上げますと、経理のための原価計算とは、「その期間に発生したコストは、全額がその期間の費用になりますか?それとも、一部または全額がその期間の費用とはならず(この場合資産になります。)、その期間以降の費用になりますか?」がもっとも重要なことです。

この場合、たとえば常時製造している製品、継続して仕入れている商品、継続して提供しているサービスについて、計算上は一定の時点で区切る必要があります。

そして、その期間の末日において、製造はしているが売れていない製品、仕入れているが売れていない商品、顧客にサービスはしているがまだ代金を請求できるレベルには至っていないものがあります。いわゆる「(期末)在庫」といわれるものです。

経理的な処理として、この「(期末)在庫」に係る金額については、この会計期間では対応する売上高が計上がないため、売上高が計上される次の会計期間以降で費用にするのです(費用収益対応の原則)。

たとえば、その期間中に、900の売上高があり、1,000の費用が発生したものの、1,000のうち300は売れ残った(売上がまだ計上できない)部分に係る費用であったとします。この場合、この期間の経営成績は、売上高900、費用1,000、利益▲100となるのではなく、売上高900、費用700(=1,000-300)、利益200となります。

実は、この例における300を算定する作業が「経理のための原価計算」です。

まず、会計期間中に発生した費用について、売上高に対応する部分(原価項目)とそうでない部分(非原価項目)に区分します。非原価項目(販売費及び一般管理費など)は、原則として会計期間中の費用とします。

つぎに、原価項目について、売上げた製品、商品やサービスに対応する部分(売上原価)と「(期末)在庫」に係る部分とに区分します。

そして、この「(期末)在庫」300は、売上が計上される会計期間の費用(売上原価)とするため、それまで(棚卸)資産として貸借対照表に計上されます。

「経理のための原価計算」は、ずばり財務会計そのものです。

このため、「経理のための原価計算」は、ルール(一般に公正妥当と認められる会計基準)と期間(会計期間)という2つによって拘束されます。

経営管理のための原価計算

いっぽう、「経営管理のための原価計算」では、会計上のルールに縛られる必要性もありませんし、会計期間は基本的に考慮する必要性はありません。

会計期間にとらわれないことの最大のメリットは、とくに設備投資や研究開発活動などの先行投資がある場合、その後の販売活動で投資資金を回収できたのかどうかを中長期的にチェックできることです。

会計期間が短ければ短いほど、前期間や前々期間との比較とその要因分析にとどまってしまいます。しかもこれらの情報は、会計基準というルールを介して作られた情報です。会計基準によって作られた情報は、株主への配当金額の計算や、一般投資家への情報提供、金融機関等の債権者への情報提供のためには有用です。とはいえ、内部的な経営管理に使うためには、必ずしも経理のための原価計算の結果に全面的に依拠する必要性はありません。

たとえば、ある製品について、数年にわたって研究開発活動を行い、ようやく製品を完成して販売が開始されたとします。

会計基準では、研究開発費は原則として発生した会計期間の費用として処理されてしまうため、製品が販売された会計期間では、売上高に対応する費用(売上原価)または(期末)在庫しか反映されません。

会計情報とは別に、この製品について過去どれだけの費用が発生しているのかを把握することで、製品の販売価格の設定や生産計画に活かすことができ、また、販売によってどの程度投資額が回収できているのかを観察することができます。

「経営管理のための原価計算」とは、いわゆる管理会計といえます。

経理と経営管理とのバランス

原価計算をする場合、それが経営管理のためであったとしても、財務会計(会計基準)とまったく切り離すことはできません。

なぜなら、もっぱら経営管理のための原価計算の情報が財務会計に何ら有用でない場合には、あらためて財務会計用に原価計算をしなければならず、経営資源を効率的に利用しているとはいえないからです。

そこで、基本的には経理のための原価計算をしつつ、「期間」「会計基準」という縛りがない経営管理のための原価計算を行うのがよいと考えられます。

( つづく )