毎年7月にやっておきたい所有不動産の相続税評価額の再計算と相続税対策の再検討

毎年7月に入ると路線価が公表されます。 この時期、不動産を保有している人がやるべきことは、不動産(土地と家屋)について、相続税法の規定による財産評価を行い、評価額を計算することです。

すでに相続税対策を行っていたとしても、不動産の時価は年々変化しているため、対策の見直しやリスクの認識をすることが重要です。

毎年行うことで、推移や今後の見通し、新たな対策を打つタイミングなどを検討できるのです。

評価の概要

毎月7月になると国税庁から路線価が発表されます。

いっぽう、固定資産税の納税通知書と一緒に郵送されるのが課税明細書です。通常は5月、東京都でも6月に送付されます。

とくに、2018年は3年に一度の固定資産税の評価替えの年に当たります。

この7月のタイミングで、所有する不動産の相続税評価額を再計算し、過去からの推移をチェックし、過去に行った相続税対策の有効性についてチェックすることは極めて重要です。

そこで、6月末時点において所有している不動産について相続税評価を行います。

路線価も固定資産税価格(評価額)もその年の1月1日時点のものですが、少なくとも税務上はその年1年間はこの価格を利用できます。

いっぽう、各不動産について、取得の要した借入金については最新の6月末の残高を使用し、賃貸物件である場合には6月末での(預かり)敷金残高を使用することで、不動産ごとの財産(時価)と債務(借入金や預り敷金)のバランスを確認するのです。

土地等について精度の高い評価をしておく

ある年分、今年からでもよいので、ほぼ正確に土地等について相続税評価額を算定しておくことが重要です。

プロに評価を頼むときには、見映えのいい資料ではなく、具体的な算定根拠、ズバリ、相続税の申告書に添付する「土地及び土地の上に存する権利の評価明細書」を入手しましょう。

「ほかの専門家にもレビューしてもらうんで」「セカンドオピニオンもらうんで」と言えば、真剣にやってくれるのではないでしょうか。

あとは、毎年路線価が発表されたら新しい路線価をあてはめて評価額を算出するだけです。

小規模宅地等の特例の適用の可否も併せて検討

相続税がかかるかどうか、その額がどのくらいなのかに大きな影響を及ぼすのが小規模宅地等の特例です。

土地等の一定部分までの面積について、評価額が50%~80%も減額できるのです。

小規模宅地等の特例の要件も毎年の税制改正で変わるので、小規模宅地等の特例が適用されるのかどうかをチェックする必要があります。

また、小規模宅地等の特例が適用されるとして、その影響額がどの程度なのかも把握する必要があります。

たとえば、貸家について、現在は空室はないけれども将来相続が開始したときに(一時的ではない)空室がある場合には、敷地である貸家建付地の評価額、家屋である貸家の評価額は「賃貸割合」で評価額が減額されるため、空室があると評価額が上昇してしまいます。

さらに、空室部分に相当する部分は小規模宅地等の特例(200平方メートルまで50%減額)が適用されないのです。

「今は相続税はかからない」「相続税はたいしたことない」と安心していても、将来小規模宅地等の特例を受けられずドカッと相続税の負担が出てくることもありえます。

現在の賃貸状況(賃貸割合)で、土地(貸家建付地)と家屋(貸家)がどのくらい評価減されているのか、小規模宅地等の特例が適用されることによってどの程度減額されているのかを把握することによって、「将来ぜったいに空室にはできない」などの対策を講じることができるのです。

不動産での相続税対策のおさらい

「不動産を活用することで相続税対策になる」、とくに「貸家を建てれば、その敷地は貸家建付地として評価され自用地としての評価額より減額され、さらに小規模宅地等の特例も使ってさらに効果的」という業者等のアドバイスで不動産を取得する方も少なくありません。

たしかにそのとおりです。ただ・・・

現金で不動産を取得(現金を不動産に)

自己資金で10,000万円の不動産を購入したとします。一般に路線価は実際の取引価格は80%程度で、さらに、その敷地について小規模宅地等の特例を用いようとすると一定の面積まで50%~80%の減額が可能です。

すると、10,000万円で購入した不動産も、相続税法上の時価は5,000万円だった場合、その不動産に係る相続税評価額は、財産(資産、積極財産)は5,000万円となります。

つまり、相続税評価額では、現金ならば10,000万円だったところ、不動産ならば5,000万円となります。相続税対策という点では非常に効果があります。

ただし、注意しなければならないのは、あらかじめ「そもそも現金として持っているとどのくらい相続税を負担するところだったのか」「不動産を取得したことでどのくらい相続税の負担が減るのか」を把握していなければなりません。

しかも、現金は保有コストはゼロですが、不動産は保有コストがかかります(固定資産税や修繕費など)。相続税も固定資産税も修繕費も、外に出ていくおカネとしてはおなじです。

さらに、現金の相続税評価額はまさに額面どおりですが、土地の相続税評価額は路線価の上昇に伴い上昇します。近年の状況では取得時を上回る相続税評価額になってしまうことも十分ありえます。すると、旨味はどんどんなくなっていくことになります。

借入金で不動産を取得

さらに、借入金で不動産を取得した場合はどうでしょうか。

たとえば、10,000万円を借り入れて10,000万円の不動産を購入したとします。一般に路線価は実際の取引価格は80%程度で、さらに、その敷地について小規模宅地等の特例を用いようとすると一定の面積まで50%~80%の減額が可能です。

すると、10,000万円で購入した不動産の相続税法上の時価は5,000万円だった場合(家屋部分の評価額も念頭に入れています。)、その不動産に係る相続税評価額は、財産(資産、積極財産)は5,000万円、債務(負債、消極財産)は10,000となり、純財産(財産から債務を控除した残額)はマイナス(▲5,000万円)となります。

このことは何を意味するのでしょうか。

この不動産以外の財産の相続税評価額が、5,000万円と基礎控除相当額(3,000万円+法定相続人×600万円)との合計額を下回っていれば相続税はかからないことになります。

これは非常に有効だということになります。

ただし、時間が経つにつれ、債務(負債、消極財産)の価額は返済によってどんどん小さくなっていきます。いっぽう、近年の路線価上昇により不動産の時価が上昇し、財産(資産、積極財産)の価額は大きくなっていきます。当初(大きな)マイナスであったはずの純財産(財産から債務を控除した残額)はどんどん小さくなっていきます。

しかも、貸家の用に供していた場合、空室が出てくると、相続税の評価額は賃貸割合により減額されるため、空室が増えれば土地部分も家屋部分も評価額が上昇してしまいます。さらに、土地部分について適用される小規模宅地等の特例についても、空室部分の面積に相当する部分は小規模宅地等の特例が適用されません。すると、財産(資産、積極財産)の価額は激増しかねません。

この不動産の純財産の大きなマイナスによって、他の財産のプラスをカバーすることで相続税がかからないスキームが、純財産のマイナスが減ることで、他の財産の価額の大きさによっては相続税がかかるレベルに達しかねません。

路線価の上昇、借入金残高の減少、空室率上昇によって評価減不可・・・この悪い要因が重なればその不動産自体の純財産がプラスに転じることもありえます。

毎年6月末での財産評価で把握すべきこと

不動産の取得時は万々歳だったとしても、時が流れるとなんともいえなくなってきます。

だからこそ毎年状況を把握することが重要なのです。

私のクライアイントの保有する複数の不動産の財産の価額(土地等、家屋その他)とこれに係る債務(借入金や預り敷金)とのバランスも、数年前は大幅なマイナスで、他の財産を十分カバーできて相続税対策はバッチリでしたが、ここ数年の路線価の上昇により急速にマイナス幅が減少しています。

路線価が上昇しているということは、土地等の価額も上昇していますが、小規模宅地等の特例の恩恵を受ける額も大きくなっています。このことは、もし貸家に空室が出た場合に評価減が適用されないリスクも増大していることになります。

「現実に相続開始が近づいたら何とかするから空室なんてありえない」という楽観論はまちがってはいませんが、そのために手を打つべきかどうかという問題意識が必要といえます。

つまるところ投資の成否の問題

さて、ここで視点を変えて、「相続税も外部に流出するおカネのひとつにすぎない」「いかにおカネが流出するのを抑えて手元のキャッシュを残すのか(殖やせるのか)が重要だよね」としましょう。

不動産を居住用として利用しない場合には、相続税対策あるいは資産運用として不動産を取得することになります。

とすると、不動産からどれだけのキャッシュの純増があったか、つまり、「不動産を取得し、維持し、最終的に売却した後でどれだけのキャッシュが増えますか(殖えてましたか)?」ということになります。

相続税対策も「どれだけ相続税によるキャッシュ流出を減らせますか」ということですが、けっきょくはその程度かもしれません。

相続税でこれだけキャッシュ流出が減らせるとしても、その不動産を保有したことによって最終的にキャッシュが流出超過だったら本末転倒となります。

株式投資であれば、投資額がハッキリしているので、現在の状況が含み益か含み損かは比較的把握しやすいのですが、不動産の場合は少し複雑となります。

そこで、不動産について、取得時からのキャッシュ・フローを把握する必要があるのです。

これを把握することで、今この不動産を売却すると、これまでのキャッシュ・フローや借入金の残債を完済してどの程度手元に残るのか(最終的な投資の成否)を判断できるのです。

不動産に係るキャッシュ・フローの把握

不動産からのキャッシュ・フローを取得時から把握しておくことは極めて重要と考えられます。

ここで注意しなければならないのは、所得税の確定申告のレベルでの不動産所得だけ考えると大きな誤りをしがちです。

まず、不動産所得の計算では、いわゆる固定資産は減価償却によって徐々に必要経費となりますが、キャッシュ・フローで見れば取得時に全額が流出しているわけです。

そして、不動産所得には借入金の利息は必要経費として反映されていますが、借入金の元本返済のキャッシュ流出はまったく反映されていません。

さらに、不動産所得によって追加的に負担が増えた所得税や住民税の納税によるキャッシュの流出は無視されがちです。

これらをすべて反映する形でキャッシュ・フローを把握していきます。

興味深いのは、不動産所得のレベルでは毎年黒字になっている物件が、初期投資や追加の設備投資や借入金の元本返済のために、キャッシュ・フローではむしろ赤字になっていることもあることです。

最終的なチェック

まず、7月に発表される最新の路線価で物件ごとの相続税評価を再計算し、最新の債務の額を織り込んで純財産の現状を把握し、過去からの趨勢をチェックします。

小規模宅地等の特例でどの程度恩恵を受けているのか、空室発生によりどの程度のリスクがあるのかもチェックします。

つぎに、各物件ごとに、取得時からの累計キャッシュ・フローと、現在売りに出したらいくらで売却できるかを調査します。

自己資金で取得した物件ならば、取得時からの累計キャッシュ・フローは大幅なマイナスですが、今それを売却によってプラスに転じるか、転じるとしてどのくらいかをチェックします。

借入金で取得した物件ならば、売却によって借入金や預り敷金の残高を精算し、取得時からの累計キャッシュ・フローを踏まえたうえでキャッシュ・フローはプラスになるか、なるとしてどのくらいかをチェックします。

これらを踏まえたうえで、新たな対策が必要になるかどうかを検討することになります。

(おわり)