( 3 )生前贈与と相続税対策の関係

「生前贈与をしておくと税金が有利だ」と言われます。ただし、生前贈与をした場合にも贈与税がかかります。

贈与税は相続税の補完としての役割があります。このため、相続税対策を行うためには、贈与税についての知識が必須となります。

ところが、ほとんどの書籍やサイトは、ただ制度の説明やその要件についての説明だけであり、相続税との関係についての説明が薄いものとなっています。

贈与税と相続税の関係で重要なのは、生前贈与(と納付した贈与税額)が相続税の申告に影響を及ぼすかどうか、すなわち、生前贈与した財産が相続税が課税される財産になるか(相続税の課税金額に算入されるのか)どうかという視点です。

贈与税と相続税との関係

生前に(想定)相続人に贈与を大量に行って、その後に相続が開始された場合、イメージ的には被相続人が相続の開始の時に有していた財産はその分だけ減少しています。ここで、被相続人が相続の開始の時に有していた財産にのみ相続税が課される一方で、生前の贈与にまったく税金がかからないとしたら、少なくとも国家的には好ましくありません。

そこで、生前の贈与についての税金を課すというのが贈与税です。この点で、贈与税は相続税の補完としての役割があります。

実際に、法体系としてみても「贈与税法」という独立した法律はなく、相続税法の中に規定されています。

贈与税が課される贈与

さて、実際の贈与税は、現金や不動産といった財産を無償で取得したという典型的な贈与にとどまらず、より広く「無償の経済的利益を受けた」ときにも贈与があったものとみなされて課税されます(みなし贈与財産)。

  • 保険契約に基づいて保険金を取得した場合、その保険契約の保険料の負担は本人ではなく他人であったときは、保険料を負担した他人から贈与したものとして贈与税が課されます(相続税法5条、ただし、保険料の負担していた者が被相続人で保険金は死亡保険金であった場合は贈与税ではなく相続税が課されます。)。
  • 個人間の財産の取引で時価よりも著しく安く購入できた場合には買い手はそれだけトクしたことになりますが、この時価との差額について「無償の経済的利益を受けた」として贈与税が課されます(相続税法7条)。たとえば、いわゆる取引相場のない株式を、大株主が少数株主から著しく安く取得したりするとその大株主に贈与税が課されます。
  • 借入金などの債務について、その返済や支払を相手方から免除された場合も、贈与として扱われます(相続税法8条)。
  • 夫婦が一定の割合で資金を負担して共同で不動産を取得したのに、登記は夫または妻の単独名義で行ったり、負担割合と異なる共有名義で行った場合で、夫婦間で対価についての資金負担の調整が行われていないときには、贈与があったものとして贈与税が課されます。逆に、夫または妻の単独の資金負担で取得したのに、夫婦の共有名義で登記した場合も同様です(相続税基本通達9-9)。
  • 親族間の名義変更については、贈与契約書などの書面によらないことが多いため、ただちに贈与に該当するかどうかは判断するのは困難です。いっぽう、財産の名義変更は、第三者に対して所有権を主張するために行うことが多いため、その財産の名義人に所有権があると推定されています。このため、不動産や株式などの名義変更が行われた場合に、当事者間で対価の授受が行われなかった場合には、贈与があったものとして名義人に贈与税が課されます。ただし、名義変更などが当事者間に贈与の意思に基づくものでなく他のやむを得ない理由によって行われたことが明らかで、名義を実際の所有者の名義にしたときには贈与がなかったものとなります。
  • 親族間で土地や建物や金銭の貸し借りをしている場合も、借りている親族は地代や家賃や利子に相当する経済的利益を受けているため、贈与税が課税されますが、その経済的利益が少額だったり課税上弊害がないと認められる場合は課税されません。ただし、親族間で賃貸借契約書が存在しても契約どおりの履行がなく、「ある時払いの催促なし」「出世払い」のような場合は贈与となります。

贈与税が課されない贈与

その一方で、本来ならば贈与税が課されるところが政策的に贈与税が課されないものもあります(非課税財産)。主なものは次のとおりです。

  • 法人からの贈与(相続税法21条の3第1項1号)。個人からの贈与は贈与税の対象となりますが、法人からの贈与は所得税の対象となります。この場合の所得税の所得区分は一時所得となります。
  • 扶養義務者から生活費や教育費に充てるために取得した財産のうち通常必要と認められるもの(同法21条の3第1項2号)。ここで「生活費」とは、その人にとって通常の日常生活を営むのに必要な費用をいい、治療費、養育費その他これらに準ずるもの(保険金または損害賠償金により補てんされる部分の金額を除きます。)も含まれます(相続税基本通達21の3-3)。「教育費」とは、被扶養者の教育上通常必要と認められる学資、教材費、文具費等をいい、義務教育費に限られません(同21の3-4)。「通常必要と認められるもの」は、被扶養者の需要と扶養者の資力その他一切の事情を勘案して社会通念上適当と認められる範囲の財産をいいます(同21の3-6)。贈与税が課されないのは、生活費または教育費として必要な都度直接これらの用に充てるために取得した財産です。よって、生活費または教育費の名義で取得した財産を預金口座に預け入れたままであったり、株式の買入代金もしく家屋の買入代金に充当したような場合は、贈与があったものとして贈与税が課されることになります(同21の3-5)。
  • 相続または遺贈により財産を取得した者が相続開始の年に取得した贈与財産(同法21条の2第4項)。これは、被相続人が亡くなった年に、亡くなる前に生前贈与があった場合です。この生前贈与の額は、贈与税ではなく相続税がかかる財産となるため、贈与税はかかりません。ただし、被相続人が亡くなった年に、被相続人が生前に婚姻期間20年以上の配偶者に不動産等の贈与を行って配偶者控除の適用を受けられる場合には異なります(下記参照)。
  • 個人から受ける香典、花輪代、年末年始の贈答、祝物または見舞い等のための金品で、社交上の必要によるもので贈与者と受贈者との関係等に照らして社会通念上相当と認められるもの(相続税基本通達21の3-9)。

贈与税の税額の計算

贈与税の計算は、大きく分けて2種類あります。

相続時精算課税制度(相続税法21条の9)と暦年課税です。

相続時精算課税制度の適用を受ける場合には、適用を受ける旨の届出を税務署に提出する必要があります。届出をしなければ、暦年課税です。いったん相続時精算課税制度を選択してしまうと、暦年課税に戻ることはできません。

暦年課税の概要

まず、「何もしない場合」の暦年贈与です。

暦年課税の場合は、毎年110万円の基礎控除額があります。このことが「110万円以下の贈与だったら贈与税はかからない」「毎年110万円以下の贈与をしていれば税金はかからない」という根拠です。

ここで陥りやすい間違いが、複数の人から贈与を受けている場合です。たとえば、ひとりから110万円、もうひとりからも110万円の贈与を受けていた場合です。

贈与税の申告は、その年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与された額を合計して行います。ということは、贈与された金額の合計額は220万円(=110万円+110万円)となります。基礎控除は110万円ですから、課税される金額は110万円(=220万円-110万円)となります。この場合、贈与税の額は11万円となります。

極めて基本的なことですが、基本的すぎるためにサラッと流されているため誤解されている方が多いです。

異なる税率

さて、暦年課税の場合、贈与者と受贈者(贈与税を申告納税する人)との関係性によって、異なる税率が適用されます。

特例贈与と一般贈与です。

特例贈与は、贈与者が直系尊属、受贈者が1月1日で20歳以上の者(2022年からは18歳)の場合の贈与です。具体的には、祖父母や父母から成年の子や孫への贈与です。

一般贈与は、特定贈与以外の贈与です。祖父母や父母から未成年の子や孫への贈与、夫婦間、兄弟間、第三者間の贈与です。

年300万円を超えると、特例贈与のほうが負担する税額が少なくなります。

贈与税の配偶者控除

婚姻期間が20年以上の配偶者から居住用不動産の贈与または居住用不動産の取得資金の贈与を受けた場合は、その贈与の額から2,000万円までの額を控除できます(贈与税の配偶者控除(相続税法21条の6))。これは基礎控除とは別枠の控除額です。

相続税の申告では・・・

その後、贈与者に相続が開始すると、相続税の申告では、相続の開始の日からさかのぼって3年間に行われた贈与財産の価額を、相続税が課税される財産の価額(相続税の課税金額)に加算して相続税額を計算します。

相続税の課税金額に加算される贈与財産の価額は、相続開始時の価額ではなく、贈与時の価額となります。ただし、贈与税の配偶者控除(相続税法21条の6)の適用を受けた場合には、配偶者控除の額(2,000万円)は加算されず、配偶者控除の額を超えた額が加算されます。

もっとも、過去の贈与財産が加算されるのは、相続または遺贈によって財産(死亡保険金など相続税の申告では相続によって取得したとみなされる財産(みなし相続財産)を含みます。)を取得した相続人等です。相続または遺贈によって財産を取得していない者が受けた生前贈与の額は加算されません。

ここで陥りやすい間違いが、贈与税の申告をしていたかどうかは無関係であるということです。

相続の開始の日以前3年間ということは、数回贈与税の計算期間である暦年(1月1日から12月31日まで)があったことになります。暦年ベースで110万円以下の贈与の場合には贈与税の申告義務はなく、また贈与税もゼロです。しかし、相続税の申告では、そのような贈与もすべて加算の対象となります。

たとえば、相続の開始の日の前年の1年間に被相続人から生前贈与された価額が100万円の場合には、贈与税の申告は不要です(贈与税額もゼロ)。しかし、この100万円も相続税の課税される財産に加算されます。

逆に、相続の開始の日が10月1日で、ちょうど3年前の10月1日を含む1年間(1月1日から12月31日)までの贈与額が1,000万円で、このうち9月30日までの贈与額が800万円、10月1日以後が200万円だった場合には、相続税の課税される財産に加算されるのは200万円となります。

また、相続が開始した年に、生前贈与があったということは多々あります。この場合の生前贈与の価額は、贈与税ではなく相続税がかかる財産となります。よって、被相続人の相続が開始した年における被相続人からの生前贈与に係る贈与税の申告は要りません。

ただし、被相続人の相続が開始した年に、婚姻期間20年以上の配偶者に対する不動産等の生前贈与に係る配偶者控除の特例の適用を受けられる贈与があった場合には、別途贈与税の申告を行います。この場合、相続税の課税金額に算入されるのは、配偶者控除(2,000万円)を超える部分となります。

そして、納付すべき相続税の額から、相続税が課される財産に加算した贈与財産の価額に対応する贈与税額を控除します。

上記の例で、相続の開始の日が10月1日で、ちょうど3年前の10月1日を含む1年間(1月1日から12月31日)までの贈与額が1,000万円で、このうち9月30日までの贈与額が800万円、10月1日以後が200万円だった場合には、相続税が課される財産に加算されるのは200万円となります。贈与税の申告では1,000万円に対する贈与税を納付していますが、相続税が課される財産に加算されたのは200万円のため、200万円に対応する贈与税額を控除します(相続税法基本通達19-7)。

相続税の申告の準備の過程で、本来ならば贈与税の申告が必要な贈与(暦年で110万円以上)を受けていたのに贈与税の申告が漏れていた場合には、贈与税の申告を行い(期限後申告)、贈与税の納付を行います。この贈与税は相続税の納付額から控除することができます。なお、期限後申告の場合には、不納付加算税や延滞税がかかりますが、これら附帯税は相続税の納付額から控除できません。

極めて重要なのは、ある相続人について相続開始前3年間の贈与財産の価額に対応する贈与税額が、その相続税の申告で算定された相続税額よりも大きくても、相続時精算課税制度のように還付を受けることはできません。

相続時精算課税制度の概要

相続時精算課税制度とは、文字通り、生前贈与した財産とそれに係る贈与税の額を、相続税の申告で精算する制度です。

相続時精算課税制度は、贈与者(贈与をした年の1月1日において60歳以上である祖父母や父母)と直系卑属(贈与を受けた年の1月1日において20歳(2022年以後は18歳)以上である子や孫)です。たとえば父からの贈与は相続時精算課税制度として、母からの贈与は相続時精算課税制度にしない(暦年課税)とすることもでき、また、父から長男への贈与は相続時精算課税制度として、父から長女への贈与は相続時精算課税制度にしない(暦年課税)とすることもできます。

110万円は暦年課税の論点のため、相続時精算課税制度の当事者である贈与者(将来の被相続人)からの贈与の場合は無関係です(それ以外の者からの贈与については暦年課税が適用されるため110万円は関係あります。)。

よって、相続時精算課税制度の適用を受ける贈与者からの贈与が年間どんなに僅少な額であっても贈与税の申告をしなければなりません。その税率は金額にかかわらず20%です(暦年課税の場合は課税金額の大きさによって高率となる累進税率)。

ただし、相続時精算課税制度の場合には、2,500万円の特別控除額があります(翌年以降に繰り越されます)。よって、相続時精算課税制度適用年以後の贈与の累計額が2,500万円に達しなければ贈与税額はありません。累計2,500万円を超える年分以後、超過した額に20%の贈与税が課されます。

令和3(2021)年12月31日までの間に、直系尊属(祖父母または父母)から、住宅取得等のための資金の贈与を受けた場合、一定の非課税限度額までの額が贈与税が非課税になります(直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税(租税特別措置法70条の2)。相続時精算課税制度の贈与者の要件は「贈与をした年の1月1日において60歳以上」ですが、令和3(2021)年6月30日までの間に、住宅取得等のための資金を贈与により取得した場合、贈与者の年齢がその年の1月1日において60歳未満であっても、相続時精算課税制度の適用を受けることができます(租税特別措置法70条の3)。この場合は、この特例の非課税限度額と相続時精算課税制度の特別控除の合計額を超えた部分について贈与税が課されます。

相続税の申告では・・・

その後、相続時精算課税制度の贈与者に相続が開始すると、相続時精算課税制度の受贈者(相続人)は、相続税の申告において、相続時精算課税制度の適用を受けた年分以後のすべての贈与財産の価額を、相続税が課税される財産に加算して相続税額を計算します。

さて、相続時精算課税制度の適用を受けて被相続人から生前に贈与を受けた受贈者(相続人)のなかには、相続または遺贈によっては新たに財産を取得しなかった人もいます。この場合の相続人は、相続時精算課税制度の適用を受けて贈与を受けた財産は相続または遺贈によって取得したとみなされて(みなし相続財産)相続税の申告をします。

このとき、加算される贈与財産の価額は贈与時の価額、すなわち、各年分の贈与税の申告書に記載した贈与の価額となります。

そして、納付すべき相続税とすでに納付した贈与税を比較して、不足額があれば納税し、超過額があれば還付されることになります。まさに、相続時に精算するのです。

贈与税の非課税制度と相続税の関係

贈与税が課される贈与であっても、一定の限度額(非課税限度額)までは贈与税の課税金額に算入されず、非課税限度額を超えた部分についてのみ贈与税が課される制度があります。

重要な視点は、贈与税が非課税になるかどうかだけでなく、贈与者に相続が発生した場合に相続税が課されるのかどうかということです。

直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合(租税特別措置法70条の2)

直系尊属から一定の要件を満たした住宅取得等資金の贈与を受けた場合、一定の限度額(非課税限度額)までが贈与税の課税金額に算入されません。非課税限度額は、住宅の新築等の契約日と省エネ等住宅かそれ以外の住宅かによって異なります。非課税限度額を超えた部分が贈与税の課税金額となります。

直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税(租税特別措置法70条の2)の適用を受けて、贈与税の課税価格に算入しなかった金額(非課税部分)については、暦年課税適用で相続開始前3年以内の贈与であっても、相続時精算課税適用の贈与であっても、相続税の課税金額に加算されません。

直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合(租税特別措置法70条の2の2)

直系尊属から一定の要件を満たした教育資金の一括贈与を受けた場合、1,500万円(学校等以外の場合は500万円)までが贈与税の課税金額に算入されません。非課税限度額を超えた部分が贈与税の課税金額となります。

直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税(租税特別措置法70条の2の2)の適用を受けて、贈与税の課税価格に算入しなかった金額(非課税部分)については、暦年課税適用で相続開始前3年以内の贈与であっても、相続時精算課税適用の贈与であっても、相続税の課税金額に加算されません。

直系尊属が信託受益権や金銭等の贈与をした日から教育資金管理契約の終了の日前に死亡した場合には、一定の額(管理残額)を相続または遺贈により取得したものとみなされて相続税の課税金額に算入され相続税がかかります(死亡日に受贈者が23歳未満である場合などを除きます)。

教育資金管理契約が終了した後に贈与者である直系尊属が死亡した場合で、終了した日の属する年分の贈与税の課税価格に算入される金額があった場合は、相続時精算課税適用では相続税の課税金額に加算され、暦年課税適用では相続開始前3年以内である場合に相続税の課税金額に加算されます。

直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合(租税特別措置法70条の2の3)

直系尊属から一定の要件を満たした結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合、贈与を受けた子や孫1人につき1,000万円(結婚に際して支出する費用は300万円)までが贈与税の課税金額に算入されません。非課税限度額を超えた部分が贈与税の課税金額となります。

直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税(租税特別措置法70条の2の3)の適用を受けて、贈与税の課税金額に算入しなかった額(非課税部分)については、、暦年課税適用で相続開始前3年以内の贈与であっても、相続時精算課税適用の贈与であっても、相続税の課税金額に加算されません。

直系尊属が信託受益権や金銭等の贈与をした日から結婚・子育て資金管理契約の終了の日前に死亡した場合には、一定の額(管理残額)を相続または遺贈により取得したものとみなされて相続税の課税金額に算入され相続税がかかります。

結婚・子育て資金管理契約が終了した後に贈与者である直系尊属が死亡した場合で、終了した日の属する年分の贈与税の課税価格に算入される金額があった場合は、相続時精算課税適用では相続税の課税金額に加算され、暦年課税適用では相続開始前3年以内である場合に相続税の課税金額に加算されます。

贈与税の納税が猶予される制度

これらとは別に、非課税ではなく贈与税は課税されるものの、その納税が猶予あるいは免除される制度もあります。

  • 農地等を贈与した場合の贈与税の納税猶予・免除(租税特別措置法70条の4)
  • 個人の事業用資産についての贈与税の納税猶予・免除(いわゆる「個人版事業承継税制」、租税特別措置法70条の6の8)
  • 非上場株式等についての贈与税の納税猶予・免除(いわゆる「法人版事業承継税制」の一般措置、租税特別措置法70条の7)
  • 非上場株式等についての贈与税の納税猶予・免除の特例(いわゆる「法人版事業承継税制」の特例措置、租税特別措置法70条の7の5)
  • 医療法人の持分に係る経済的利益についての贈与税の納税猶予・免除(租税特別措置法70条の7の9)

贈与税の納税猶予制度から相続税の納税猶予への受け渡し

これらの特例で贈与税の納税猶予を受けた場合、その贈与者が死亡した場合には、納税猶予されていた贈与税は免除されます。ただし、これらの受贈者(相続人)について、相続または遺贈によって納税猶予の対象となった財産を取得したものとみなされて(みなし相続財産)、相続税の課税対象となります。ただし、一定の要件を満たせば、相続税の納税猶予の対象となります。

農地等を贈与した場合の贈与税の納税猶予・免除(租税特別措置法70条の4)の適用を受けている場合において、贈与者が死亡した場合、受贈者が納税猶予されていた贈与税額は免除されます。そして、この農地等は贈与者(被相続人)の生前に受贈者(農業相続人)に生前贈与されていますが、相続税の申告においては、受贈者(農業相続人)が贈与者(被相続人)からこの農地を相続または遺贈によって取得したものとみなされて、相続税が課されます(法70条の5)。もっとも、受贈者(農業相続人)は、農地等に対する相続税の納税猶予の特例の適用を受けることができます(法70条の6)。さらに、受贈者(農業相続人)が、自らの後継者に贈与税の納税猶予の特例の適用を受けられる贈与をすれば、納税猶予されていた相続税額は免除されます(法70条の6第39項)。

個人の事業用資産を贈与した場合の贈与税の納税猶予・免除(租税特別措置法70条の6の8)の適用を受けている場合において、贈与者が死亡した場合、受贈者が納税猶予されていた贈与税額は免除されます。そして、この事業用資産は贈与者(被相続人)の生前に受贈者(事業後継者)に生前贈与されていますが、相続税の申告においては、受贈者(事業相続人)が贈与者(被相続人)から事業用資産を相続または遺贈によって取得したものとみなされて、相続税が課されます(法70条の6の9)。もっとも、受贈者(事業相続人)は、個人の事業用資産に対する相続税の納税猶予の特例の適用を受けることができます(法70条の6の10)。さらに、受贈者(事業相続人)が、自らの後継者に贈与税の納税猶予の特例の適用を受けられる贈与をすれば、納税猶予されていた相続税額は免除されます(法70条の6の10第15項)。

非上場株式等を贈与した場合の贈与税の納税猶予・免除(租税特別措置法70条の7、70条の7の5)の適用を受けている場合において、贈与者が死亡した場合、受贈者が納税猶予されていた贈与税額は免除されます。そして、この非上場株式等は贈与者(被相続人)の生前に受贈者(相続人等)に生前贈与されていますが、相続税の申告においては、受贈者(相続人)が贈与者(被相続人)からこの非上場株式等を相続または遺贈によって取得したものとみなされて、相続税が課されます(法70条の7の3、70条の7の7)。もっとも、受贈者(相続人等)は、非上場株式等に対する相続税の納税猶予の特例の適用を受けることができます(法70条の7の4、70条の7の8)。

(参考)取引相手と贈与税、所得税の関係性

混乱しやすいのが、個人から贈与により財産を得た個人にかかるのが贈与税であり、法人から贈与により財産を得た個人にかかるのは所得税です(所得区分は一時所得)。いっぽう、個人・法人問わず財産を手放した(譲渡した)個人にかかるのが所得税です。

たとえば、法人(個人ではありません!)に時価の1/2に満たない金額で財産を譲渡(売却)した場合、譲渡所得の金額の計算上、収入金額は時価になります(所得税法59条1項、所得税法施行令169条)。つまり、時価100万円の財産を40万円で法人(個人ではありません!)に売却した場合、譲渡所得の金額の計算では、譲渡収入金額を40万円ではなく100万円として申告することになります(実際は税務調査を受けて指摘され修正申告で行うのが一般的と思われます。)。

ちなみに、買い取った法人のほうは、時価100万円の財産を40万円で取得したため、差額60万円は無償の経済的利益を供与されたということで受贈益があったということで法人税が課せられます。所得税や贈与税と税目が分かれる個人とは異なり、法人の所得(利益)に課されるのは法人税(と地方法人税)のみです。

ちなみに、法人でなく、個人に時価の1/2に満たない価額で譲渡した場合には、譲渡所得の金額の計算では、譲渡収入金額を40万円で申告することになります。そして、譲渡を受けた個人のほうは財産を著しく低い価額で取得したために時価との差額60万円について贈与税が課されます。

( つづく )