( 1 )そもそも相続税はどう計算されるのか
相続税対策の前に、そもそも相続税額がどう計算されるのかをアタマに入れておかなければいいイメージも浮かびません。
相続税に関する情報は、国税庁サイトをはじめ無数にあふれています。
ところが、たいていは法令や通達をわかりやすい日本語にしている程度だったり、具体的な数値で、しかも、納税額まできちんと示しているものにヒットすることはなかなかありません。
そこで、その穴を埋めてみたいと思いました。
「軸」を作っておけば、どうすればよいのかいいアイディアも浮かびますし、プロのアドバイスを聴くにもより有意義な時間が期待できると思われます。
相続税額の計算の流れ
( 1 )相続税の申告が必要な人の確認
相続税の申告が必要な人を確認するにあたっては、次の点を考慮します。
- 相続権があるのは誰か
- 被相続人から(その生前も含めて)財産を取得したかかどうか
- 相続税の申告義務があるかどうか
相続権があるのは誰か
相続権があるのは誰か(法定相続人)を確認することは、遺産分割に必須の作業であるとともに、相続税の申告でも重要な意味を持ちます。
- 内縁の配偶者には相続権はありません。
- 養子は養子縁組した日から(離縁するまで)養親の相続権があります。 なお、養子には実親の相続権もあります。相続税法上は養子の数に制限があります。
- 先妻との子は相続権がありますが、後妻の連れ子は養子縁組しなければ相続権はありません。
- 認知した子(非嫡出子)は相続権があります(相続分は嫡出子と同じ)。
- 胎児は既に生まれたものとみなされて相続権がありますが、死産のときは相続権はありません。また、相続税の申告書を提出する日まで出生していない場合には相続人の数に算入されません(相続税基本通達15-3)。
被相続人から(その生前も含めて)財産を取得したかかどうか
民法が定める法定相続人にとどまりません。相続税の申告が必要な人は、被相続人から相続または遺贈(遺言)により財産を取得した人です。
このため、法定相続人以外でも遺言によって財産を取得すれば相続税の申告が必要になります。
また、相続または遺贈によって財産を取得していなくても、死亡保険金や死亡退職金を受け取った場合や、相続時精算課税制度による生前贈与を受けていた場合には、相続税を申告する必要があります。
その他、相続税の納税義務の有無(日本国籍や国内の住所の有無、国外転出時課税制度の適用の有無などを考慮します。
( 2 )正味の財産の課税価格の合計額の集計
相続税の申告の対象となる財産は、基本的には相続人等が被相続人から相続または遺贈によって取得した財産です。 誰が最終的に取得するかは確定していない(遺産分割が確定していない)財産も集計します。
しかし、被相続人に相続が開始したときに存在する財産だけではありません。
相続が開始した後に支払いを受ける生命保険金や死亡退職金も含まれます。なお、受け取った保険金や退職金の額には非課税となる額があります。
相続が開始する以前3年間に贈与された財産も対象となります(相続時精算課税制度の適用を受けない場合)。贈与税の申告をしたかどうかは関係ありません。このため、相続が開始した年について、その年の1月1日から相続が開始した直前までに贈与があった財産も対象となります。
相続時精算課税制度が適用される贈与財産は、すべて対象となります。
以下のものを集計し、加減算します。
- 相続または遺贈により取得した財産の価額
- 相続または遺贈により取得したものとみなされる財産(生命保険金や死亡退職金など)の価額
- 相続税が課税されない財産(非課税財産)の価額(減算)
- 相続時精算課税制度に係る贈与財産の価額
- 相続開始時の債務、葬式費用の額(減算)
- 相続開始3年以内の贈与財産の額
( 3 )基礎控除額
基礎控除額は、3,000万円+600万円×法定相続人の数で計算されます。
「法定相続人の数」については、相続税法で特有のルールがあります。
- 相続の放棄をした相続人もその放棄がなかったものとして「法定相続人の数」を数えます。
- 被相続人に実子がいる場合には養子のうち1名までを「法定相続人の数」に含め、実子がいない場合には2名までを「法定相続人の数」に含めます。
なお、次の場合は、養子であっても実の子として「法定相続人の数」に含めます。
- 被相続人との特別養子縁組により被相続人の養子となっている人
- 被相続人の配偶者の実の子供で被相続人の養子となっている人
- 被相続人と配偶者の結婚前に特別養子縁組によりその配偶者の養子となっていた人で、被相続人と配偶者の結婚後に被相続人の養子となった人
- 被相続人の実の子供、養子または直系卑属(子や孫)が既に死亡しているか、相続権を失ったため、その子供などに代わって相続人となった直系卑属
この相続税法で特有の「法定相続人の数」は、この基礎控除額の計算のほかにも、生命保険金や死亡退職金の非課税限度額の計算、相続税の総額の計算(後述)でも用いられます。
( 4 )課税遺産総額
各人の取得した正味の財産の課税価格の合計額から基礎控除額を差し引いて課税遺産総額を算定します。
各人が取得した正味の財産の課税価格を合計した額が「正味の財産の課税価格の合計額」、正味の財産の課税価格の合計額から基礎控除額を差し引いた額が「課税遺産総額」です。「課税遺産総額」に基礎控除を加えた額が「正味の財産の課税価格の合計額」となります。
課税遺産総額がプラスになると、相続税がかかることになります。よって、相続税の申告が必要になります。
もっとも、相続税はかかっても、結果として財産を取得した人には誰も納付すべき税額が発生しないこともあります(配偶者の税額の軽減や贈与税額控除などのため)。しかし、この場合であっても相続税の申告は必要です。
( 5 )相続税の総額の計算
もっとも誤解が生じるポイントです。財産を取得した人が実際に取得した財産の課税価格を基準にして相続税の速算表を適用してしまいがちです。
遺産が分割されたかどうか、実際に誰がいくら取得したのかとは無関係です。
「法定相続人」が財産を取得していなかったとしても、「法定相続人」が相続を放棄していたとしても、「法定相続人」が法定相続分を取得したとして計算します。
なお、ここでの「法定相続人」とは基礎控除額のところで申し上げた相続税法特有の法定相続人です。
各法定相続人に割り振るのは、正味の財産の課税価格の合計額ではなく、基礎控除額を差し引いた課税遺産総額です。
各法定相続人に配分された課税遺産総額について、各法定相続人ごとに相続税の税額表で相続税額を計算します。 具体的には、相続税の税率(相続税の速算表)に従って「法定相続人」ごとの相続税額を計算します。
そして、「法定相続人」ごとの相続税額を合計した額が「相続税の総額」となります。
( 6 )相続税の総額の割り振り
算定された相続税の総額について、今度は「各法定相続人に法定相続分で」ではなく「実際に財産を取得した人の課税価格のうち、実際に取得したすべての人の正味の財産の課税価格のうちに占める割合(あん分割合)」で割り振ります。
相続税の総額を算定する段階では「課税遺産総額」を割り振りましたが、この段階では、(基礎控除を控除した)課税遺産総額ではなく、基礎控除を控除する前の「正味の課税財産の金額の合計額」を、実際に財産を取得した人の課税価格で割り振ります。
なお、あん分割合は必ずしも割りきれる値とはなりません。
そこで、このあん分割合に小数点以下2位未満の端数がある場合において、その財産の取得者全員が選択した方法により、各取得者の割合の合計値が1になるようその端数を調整して各取得者の相続税額を計算しているときは認められます(相続税法基本通達17-1)。
実は、財産の額が大きいほど、この端数の処理方法により各人が負担する納付額に影響が生じます。
( 7 )納付すべき相続税額の計算
各相続人等の税額から各種の税額控除額を次の順序で差し引いた残りの額が各人の納付税額になります。
次のような調整項目があります。
- 相続税の2割加算
- (暦年課税分)贈与税額の控除
- 配偶者の税額の軽減
- 未成年者控除
- 障害者控除
- 相次相続控除
- 外国税額控除
- 相続時精算課税制度を適用している場合の贈与税相当額の控除
- 医療法人の持分についての相続税の税額控除
主要な加減算項目についてコメントいたします。
2割加算
被相続人の財産を取得した人のうち、相続税額の2割加算をする対象となるのは主に次のとおりです。
- 被相続人のきょうだい
- 被相続人のおいやめい(きょうだいの子)
- 孫養子(代襲相続人に該当しない場合、代襲相続人に該当すれば2割加算なし)
- その他、被相続人の配偶者、父母、子ではない人
配偶者の税額の軽減
配偶者が実際に取得した(正味の)財産の金額が、「1億6千万円」か「配偶者の法定相続分相当額」のどちらか多い額までは配偶者の納付すべき相続税はゼロになるというものです。
このことは、配偶者が法定相続分と同じく被相続人の財産の1/2までの額を取得している場合には、被相続人の財産がいかに大きくても、配偶者に課される相続税額はゼロであることを意味します。逆に、少しでも法定相続分を超えて取得した場合には納付すべき相続税が発生します。
( つづく )