( 6 )共有不動産を借入金で取得した場合の処理 Part1
共有者の1名の単独名義で金融機関と金銭消費貸借契約を締結して共有不動産を取得した場合に、借入れをした共有者が他の共有者に対して貸付金を観念する仕訳方法を紹介いたします。
共有者の1名の単独名義で金融機関と金銭消費貸借契約を締結して共有不動産を取得した場合でも、実質的に共有で借入れをしたとした場合の処理は「第7回」をご覧ください。
なお、仕訳例は唯一絶対なものではなく、必ずこれによらなければならないものではありません。
共有不動産を共有者のひとりの単独名義の借入金で取得したした場合
不動産は共有名義で登記したとしても、その取得資金は借入金、しかも、共有者のひとりが単独名義で借りていることがあります。
この場合の最大のリスクもやはり贈与税課税です。
つまり、不動産は共有名義とし、不動産所得も各共有者が共有持分に従って申告していても、その取得資金がある共有者の単独名義による借入金によって調達されたとすると、他の共有者は「不動産を共有で取得したのにそのための資金を負担していないことになり、資金を借り入れた他の共有者から資金の贈与を受けたとして贈与税を課税されるリスクがあります。
ちなみに「名義人になっていない他の共有者は連帯保証人になっている」ことはあまり意味がありません。 なぜなら、連帯保証人は債務者ではないからです。 保証債務は主たる債務とは別個であり、債権者(金融機関等)に返済する債務とは異なります。
なお、相続税の場合でも、保証債務は相続税が課税される財産の価額の計算で常に控除できるとは限りません。保証債務を債務控除できるのは、相続開始の時に、主たる債務者がその債務を弁済することができないため保証人(被相続人)がその債務を履行しなければならない場合で、主たる債務者に求償しても補填を受ける見込みがないことが客観的に認められる場合に限られます。
共有不動産の取得資金を単独名義の借入金で調達した場合の会計処理
共有者の1人が単独名義で金融機関から借り入れたという形式を重視した処理です。
金融機関との関係では債務者は単独名義人(主たる債務者Aとします。)のみとし、単独名義人と他の共有者との間に共有持分に従った貸付金と借入金の関係があるものとします。
借入時
不動産の取得価額と借入額はともに100,000とします。
(金融機関から借り入れた共有(予定)者Aの処理)
(借) | 預金等 | 100,000 | (貸) | 借入金 | 100,000 |
(他の共有(予定)者Bの処理)
仕訳なし |
他の共有(予定)者は金融機関等との間では債務者とはなっていないため、この段階では(借入金)債務を認識しません。
不動産取得時
金融機関から借り入れた共有(予定)者Aがその資金で不動産を取得すると、他の共有者Bの持分も含めて取得したことになります。このタイミングで、主たる共有者Aは、他の共有者Bに対する貸付金を、他の共有者Bは、金融機関からの借入金ではなく、共有者Aに対する借入金を認識します。
(主たる共有者Aの処理)
(借) | 土地建物等 | 100,000 | (貸) | 預金等 | 100,000 |
(借) | 貸付金(B) | 50,000 | (貸) | 土地建物等 | 50,000 |
(他の共有者Bの処理)
(借) | 土地建物等 | 50,000 | (貸) | 借入金(A) | 50,000 |
なお、取得資金の一部が特定の共有者の自己資金や親族等からの借入金による場合には、他の共有者も同じ割合によるものとします。このうち、特定の共有者の自己資金が含まれる場合には、他の共有者はその特定の共有者から借入れを行ったものとして処理します(そうでないと贈与税課税のリスクがあります。)。
金融機関への借入金返済時
ある月の金融機関からの口座引き落としは1,200であり、その内訳は元本返済1,000、支払利息が200だったとします。
(主たる共有者Aの処理)
(借) | 借入金 | 1,000 | (貸) | 預金等 | 1,200 |
支払利息 | 200 |
(借) | 未収金(B) | 100 | (貸) | 支払利息 | 100 |
銀行との関係ではAの単独名義での借入れですが、実質的には他の共有者Bとの共有での借り入れといえるため、Aが負担した利息には、他の共有者Bが負担すべき部分も含まれることから、その部分は他の共有者Bに対する未収金とします。
(他の共有者Bの処理)
(借) | 支払利息 | 100 | (貸) | 未払金(A) | 100 |
金融機関から主たる共有者Aの単独名義での借入れであり、主たる共有者Aと他の共有者Bとの借入れとは異なります。
ただし、金融機関からの借入れは、実質的には共有不動産を取得するための借り入れといえるため、Aの金融機関に対する利息を共有割合に従って他の共有者Bと負担します。
他の共有者Bから主たる共有者Aへの借入金返済
(Bの処理)
(借) | 借入金(A) | 500 | (貸) | 預金等 | 500 |
(Aの処理)
(借) | 預金等 | 500 | (貸) | 貸付金(B) | 500 |
主たる共有者Aによる金融機関への借入金元本返済に対応して、他の共有者BからAに対して(債権債務の相殺ではなく)直接送金します。これは、贈与税課税のリスクを回避することが目的です。
返済額については、ここではAの金融機関に対する返済額(1,000)のうち共有割合に対応する額(500)としています。
ちなみに、ここでは、Aの金融機関に対する借入金利息についての精算は実際の資金による精算ではなく、債権債務の相殺によって行うものとしています。
なお、この例では、Aの金融機関への返済と同じタイミングで、返済額の1/2(共有割合)でBからAへの「返済」が行われたことにしていますが、この送金はあくまで共有者間での貸付金と借入金の精算です。よって、必ず単独名義人(A)の金融機関への元本の返済のスケジュールに従ったり、返済額を共有割合に対応する額にしなければならないわけではないと思われます。
そもそもこの処理の原点は、贈与税課税の回避にあります。
単独名義での借入金でも、実質的に共有で借り入れていると認められうる場合
共有不動産の取得資金がひとりの共有者の単独名義での借入金であっても、金融機関が金銭消費貸借契約の締結の段階で当該不動産は共有による取得であることを明確に承知していること、返済資金はもっぱら取得した不動産からの収入(共有者の合計)で充てられていることなどの事情がある場合には、債務者は単独名義だとしてもそれは便宜的なもので実質的には共有による借入れと認められる可能性はあると思われます。
ただし、この処理が妥当かどうかについては、個々の事案によって異なりうるので、所轄税務署に照会すべきです。
単独名義で金融機関から借り入れ、預金口座も単独名義であるものの、実質的に共有者がそれぞれ金融機関から借り入れ返済しているとした仕訳例は次回 をご覧ください。
( つづく )