専門的サービス業のゆくえ(私見)
専門的サービス業のゆくえについて、会計事務所をベースに考察したいと思います。
立ち読みやネットから得られる専門的知識、吊るしの服のようにほぼなりゆきで作成された会計帳簿、なりゆきにまかせた税務申告、ネットで容易に入手できるような情報を提供するだけの相談料などは限りなく無償に近づいていくことになるでしょう。
専門家自身がAI含めたIT技術を駆使できれば、専門家と依頼者との関係はよりダイレクトになります。
補助者等は不要になるため、依頼者に転嫁されるコストが減ることになります。 また、依頼者が専門家のレベルやクオリティを直接かつ適切に評価できるようになります。
かつて(?)の状況
かつて、インターネットも市販の会計ソフトも存在しない時代、中小事業者である依頼者はもっぱら会計事務所の会計システムに依存していました。会計事務所の補助者あるいは外注先が伝票を作成し、別の補助者等がシステムに伝票を打ち込んで会計帳簿を作成していたのです。
会計事務所が慈善活動ではなくビジネスであるとすると、一定の利益を生み出すには、この補助者等に支払うコスト(給料等)を上乗せした対価を上乗せして依頼者に請求することになります。すると、補助者等のコストが高ければ高いほど依頼者が負担する報酬は高いものとなります。
会計事務所は報酬の高さを正当化するため、依頼者が自前で経理事務要員を雇うよりは安いという低原価要因、長年の実績などをうたうことより差別化要因を主張することになります。
いっぽう、依頼者サイドも、市場が閉鎖的で流動性がなく、また、専門サービスのレベルやクオリティを判断できないという事情もありました。
現在の状況と需給ギャップ
時は流れ、誰もが容易に専門情報を入手し、低価で会計ソフトを入手することができ、誰でも(自動も含めて)仕訳を入力できるようになりました。
すると、依頼者サイドから「昔じゃあるまいし、自分のところでもできるのに無意味に高い報酬を支払っている」という考え方が出てくることになります。
いっぽう、会計事務所サイドも、市場に流動性が出てくると報酬を下げざるを得なくなります。会計事務所がビジネスである場合、その下げた分は、利益が減るか、あるいは、補助者等に支払うコストに転嫁しなければなりません。
実際に、作業が極めて単純かつ定型的である場合、会計や税務に対する知識など要りません。 タテマエやキレイゴトは無視すれば、専門的知識が十分でないが時給が低くて済む人に任せることになります。
依頼者サイドは「誰がやっても同じなら安いほうがよい」「すでに高い報酬を払っているのだから、他のアドバイスを受けるだけの報酬を出す余裕がない(出す必要がない)」という考え方になります。
いっぽう、会計事務所サイドも「(補助者や外注でのコストにより)儲けが少ないのだから、薄利多売でサービスのクオリティもそれなりなのはやむをえない」となります。
この社会的損失ははなはだしいと思われます。
近未来展望
立ち読みやネットから得られる専門的知識の対価は無償になるでしょう。
吊るしの服のようにほぼなりゆきで作成された会計帳簿、なりゆきにまかせた税務申告、ネットで容易に入手できるような情報を提供するだけの相談料などは限りなく無償に近づいていくことになるでしょう。
定型的、反復的で、経済合理的でなりゆきな意思決定、それに基づく作業や手続はあっという間にAIが行うことになるでしょう。
そして、「AIにどういう情報を与えて作業をさせるか」「AIから出てきた情報が妥当かどうかチェックできるか」「チェックを楽にするためにはどういう情報をAIに与えるべきか」「情報を依頼者に説明し依頼者の次の意思決定に資するか」が専門家に求められることになります。
しかも、ニンゲンには感情があり、経済合理性だけで動いているだけではありません。さまざまな非合理的な事情に基づいて意思決定しています。
すると、けっきょく、現場を知っているか、ニンゲンを知っているかということになってしまいます。
依頼者に特有な問題を的確に発見し、専門的知識を正確にあてはめ、なりゆきを超え依頼者の意思や感情を可能な限り反映できる知恵が、これまで以上に求められると思われます。
文字(メール)ではニュアンスも含めて十分伝わらず、また、情報漏えいやセキュリティなどの問題も踏まえれば、最終的には、事前に入念な仕込みを行ったうえで、情報も依頼者もいる現場で直接聞き、可能な限り現場で即完結してしまうことがもっとも効率的ということになります。
すると、専門家と依頼者の距離がますます近くなるため、中間管理職が不要になるのと同じく補助者等が要らなくなります。補助者等が要らなくなるということは、補助者等へのコストを依頼者に転嫁しなくて済むため、依頼者はより安価で質の高いサービスを受けられる可能性が高まります。
また、専門家と依頼者の距離がますます近くなることは、依頼者が専門家の専門サービスのクオリティを直接確かめられるようになるのです。
そういう意味では、いい時代になりつつあると思われます。
( おわり )