( 5 )共有不動産の取得における税務リスクとその回避
不動産を取得し共有名義として登記をした場合、共有者間での取得資金の負担が問題となります。 取得資金の負担割合が共有割合と異なる場合には贈与税が課税されます。
これを回避するための仕訳例についてご説明いたします。
なお、仕訳例は唯一絶対なものではなく、必ずこれによらなければならないものではありません。
共有不動産の取得における税務リスク
不動産を共有名義で取得した(登記した)場合、その不動産に係る所得については、各共有者が別々に所得税の確定申告をすることになります。
つまり、単独で所有する場合には、その不動産に係る所得はそのすべてその人に帰することになりますが、他人(配偶者など)と共有にすることで、共有持分だけ他人の所得にすることができます。
「これはすばらしい!所得税の税率は累進税率だから、所得が分割されれば税負担が減る」と勢いづいたところ、思わぬ痛い目に遭うことにあります。
実質所得者課税の原則
まずは、所得税法の実質所得者課税の原則(所得税法12条)です。
所得税法12条によれば、資産または事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であつて、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして、所得税が課税されます。
この点、資産(不動産)から生ずる収益を享受する者が誰であるかの判定基準は、その資産の真実の権利者が誰であるかによります(所得税基本通達12-1)。もっとも、その資産の真実の権利者が誰であるか明らかでない場合には、その資産の名義者が真実の権利者であるものと推定されます。
たとえば、共有名義で登記はしてあっても、その不動産の取得資金はすべてある共有者が出捐し、その不動産の賃貸料収入もすべてその共有者名義の口座に入り、管理手数料や公租公課などもすべてその共有者が支払い、他の共有者への収益の移動(送金)などはまったくなく、あるとしても他の共有者の所得税の納税資金を送金する程度である場合などは、他の共有者は真実の権利者とはいえず、単独所有であるとして所得税が課されるリスクがあります。
贈与税課税
所得税法の実質所得者課税の原則よりもリスクが高いのは、所得税ではなく贈与税の問題です。
つまり、「資産(不動産)を共有名義にしたときの所得税は誰に課されるのか?」というオモテの問題ではなく、不動産を取得したおカネは誰が負担したのか?」というウラの問題です。
対価を支払わないで、または著しく低い価額の対価で利益を受けた場合においては、その利益を受けた時における利益の価額に相当する金額(対価の支払があった場合にはその価額を控除した金額)は贈与を受けたものとみなされます(相続税法9条)。
国税庁サイトのタックスアンサーでも、夫婦で総額3,000万円の住宅を購入し所有権の登記は夫と妻で1/2ずつの共有としたものの、購入資金の負担は夫が2,000万円、妻が1,000万円であった事例を紹介しています。この場合、妻の所有権は登記持分の1/2のため、購入資金の負担額も3,000万円の2分の1の1,500万円とすべきところ1,000万円しか負担していないため、差額の500万円については夫から妻へ贈与があったとみなされます。
贈与税課税を回避するための会計処理
(設例 1 )
まず、共有者は2人(AとB)で共有割合は1/2ずつ、取得資金は一方の共有者のみ(A)が全額負担した場合を検討します。 不動産の取得資金は3,000だとします。
(全額負担した共有者Aの処理)
(借) | 土地建物等 | 3,000 | (貸) | 預金等 | 3,000 |
(借) | 貸付金 | 1,500 | (貸) | 土地建物等 | 1,500 |
なお、次のような仕訳にしないのは、共有者合計の額(3,000)を帳簿上明らかにするためです。
(借) | 土地建物等 | 1,500 | (貸) | 預金等 | 3,000 |
貸付金(B) | 1,500 |
(資金負担していない共有者Bの処理)
(借) | 土地建物等 | 1,500 | (貸) | 借入金(A) | 1,500 |
(設例 2 )
共有者は2人(AとB)で共有割合は1/2ずつ、取得資金の負担はAが2/3とBが1/3だった場合を検討します。 不動産の取得資金3,000について、Aが2,000負担し、Bが1,000負担したとします。
(主たる共有者Aの処理)
(借) | 土地建物等 | 3,000 | (貸) | 預金等 | 2,000 |
諸口 | 1,000 |
(借) | 諸口 | 1,000 | (貸) | 土地建物等 | 1,500 |
貸付金(B) | 500 |
なお、次のような仕訳にしないのは、共有者合計の額(3,000)を帳簿上明らかにするためです。
(借) | 土地建物等 | 1,500 | (貸) | 預金等 | 2,000 |
貸付金(B) | 500 |
(資金負担していない共有者Bの処理)
(借) | 土地建物等 | 1,500 | (貸) | 預金等 | 1,000 |
借入金(A) | 500 |
コメント
上記のように仕訳すると、贈与税課税のリスクはある程度減ると考えられます。
所得税の確定申告において、青色決算書の貸借対照表上で借入金や貸付金という形で税務当局にアピールすることになります。
とはいえ、贈与税課税のリスクがゼロになったわけではありません。実際に共有者間で金銭消費貸借契約を結び、契約に従って返済がなければ、贈与税が課されるリスクは続きます。極めて厳しくとらえれば、貸付金や借入金というのは仮装隠ぺいにあたると解釈することもできないわけではないといえます。
共有者間の債権債務を明確にしておくことは、贈与税課税のリスクを減らすばかりではありません。共有者に相続が開始し相続税の申告をする場合でも、その債権債務が明確を明確にすることができます。
( つづく )