( 1 )端数調整とは
ある数値や金額を、比率で複数に配分するときに避けられないのが端数です。円未満に端数が生じても1円単位で配分しなければない場合、どこかを1円大きく、どこかを1円少なく配分しなければなりません。
この場合の最終目標は、「配分後の合計値が比率に応じた値となり、差額は1円にとどめること」「比率で配分した値の合計が、配分前の数値の合計と完全に一致すること」です。
端数がどう発生するのか、それをどう調整(再調整)するのかの例をご紹介します。
端数調整の最終目標
ある数値や金額を、比率で複数に配分するときに避けられないのが端数です。
その理由は、比率によって損益や債権債務を配分すると必ず「割り切れない小数点以下の端数」が生じますが、使用する個々のデータは円未満の端数は何らかの処理をした後の数値を使うためです。
このため、データ数が増えれば増えるほど、「配分した値の合計が比率どおりにならない」「配分されたデータの合計値を足し合わせても、配分前のもともとの数値の合計額に一致しない」という状況となります。
端数がまったく生じない、あるいは、端数をまったく生じさせないようにすることは不可能です。配分する前のオリジナルの値がそもそも端数が不可避的に生じる値で、しかも、外部者との取引で合意した数字であれば変更はできません。
重要なのは、端数を生じさせないというのではなく、個々の取引等で生じる端数をどう配分(配賦)して、合計金額での端数を減少させるよう調整するかということなのです。
端数調整の最終目標は次のふたつといえます。
- 配分後の合計値が比率に応じた値となり、差額は1円にとどめること
- 比率で配分した値の合計が、配分前の数値の合計と完全に一致すること
たとえば、配分すると端数が生じるときに、あるところに大きい方の値を配分してしまうと、別のところは小さい値が配分されます。これが多数累積されると、合計値ベースでは、差額がものすごく出てししまい合計値ベースでは比率どおりに配分されていない、つまり、全体最適がなされないことになります。
Excel上で作業を行う場合、端数処理に対する配慮がラフだと、セルの表示を1円未満まで広げると小数点以下の数値が円周率のように出てくることがあります。このような状態のままで数値を合計すると、Excel上はピタリと一致するかもしれませんが、経理的な仕訳は1円未満の端数は仕訳できないため、配分後の数値を合計すると、配分前のオリジナルの数値の合計と一致しなくなります。
端数処理の概要
ある項目を構成する多くの取引でそれぞれ端数が生じうる場合には、たとえば、ある取引については大きい値をAに配分し、別の取引については大きい値をBに配分するよう処理することで、合計額レベルでの端数を少なくするようにします。
調整、あるいは、再調整で、どの取引を調整するかについては、優先順位によって異なります。外部に出す最終数値を最適化するよう調整するのが最優先ですが、そこをおさえたうえで(部分最適にコダワりすぎるとズレてしまうことがあります)、相手先レベル、部門レベルなどで最適化していきます。
端数調整の例
基本
たとえば、AとBに1:1で配分する場合、100の場合はAもBも50ずつに分けられるため端数による差額は生じません。しかし、101の場合は50.5ずつに分けられないため、Aを51でBを50とするか、Aを50でBを51とするかのどちらかになります。また99の場合にも、49.5ずつに分けられないため、Aを50でBを49とするか、Aを49でBを50とするかのどちらかになります。
ところで、3つの合計額300(100 + 101 + 99)のときは、150ずつに分けられます。しかし、101のときにAを51でBを50とし、99のときにはAを50でBを49とすると、Aが151でBが149になっています(差額が2)。
そこで、101と99のどちらかでAが1小さくBが1大きくなるように調整を行うと、AとBが150ずつになります。
差額を1に調整
ある勘定科目の合計額でのAとBとの差額は3で、AがBよりも3大きくなっています。 このことは、端数が生じた取引が少なくとも3つあり、大きい額をBよりもAに3つ多く配分したことを意味しています。
そこで、3つのうちどれか1つの取引について、大きい額をBに配分することで、AとBとの差額は1になります。
補助科目内での調整
ある勘定科目に、XとYとZという補助科目があるとします。
勘定科目の合計額でのAとBとの差額はAが4大きくなっています。その内訳である補助科目の残高は、XではAのほうが2、Yでは1、Zでは1それぞれ大きくなっています。
そこで、まず、Xでの差額2は、端数が生じた取引が少なくとも2つあり、大きい額をBよりも2つ多くAに配分したことを意味しています。そこで、どちらかの取引について、大きい額をBに配分することで、A(B)がプラス1(マイナス1)とマイナス1(プラス1)となりXでAとBとの差額はなくなります。
この段階で、勘定科目の合計額でのAとBとの差額は2となります。
次に、YやZで差額が1ということは、Xのように差額が偶数であれば差額をゼロにできますが、差額が1(または奇数)の場合にはゼロにすることはできません。しかし、YもZもともに差額がAのほうが大きくなっています。
そこで、YかZのどちらかで Aが1小さくBが1大きくなるように調整を行うと、YはAのほうが1大きくBのほうが1小さく、あるいは、ZのほうはBのほうが1大きくAのほうが1小さくなります。
これによって、勘定科目全体ではAとBとの差額がなくなります。
より大きな分類レベルでの再調整(その1)
ある収益の勘定科目の合計額でのAとBとの差額は1で、AがBよりも1大きくなるように調整しました。いっぽう、別の収益の勘定科目の合計額でのAとBとの差額も1で、同じくAがBよりも1大きくなるように調整しました。
この場合、勘定科目を合計した収益全体でみると差額は2であり、AがBより2大きくなっています。
そこで、どちらかの勘定科目の合計額の差額について、BがAよりも1大きくなるように再調整することで、ある勘定科目はAが1大きく、別の勘定科目はBが1大きくなり、収益全体の差額はゼロになります。
より大きな分類レベルでの再調整(その2)
複数の勘定科目で差額がAとBとの差額は1となるように調整し、しかも、売上高、売上原価、販売費及び一般管理費などの合計金額レベルでも差額がゼロまたは1となるように調整しました。
ところが、売上高合計ではAがBよりも1大きく、売上原価合計ではBのほうがAよりも1大きくなってしまうと、売上総利益レベルではAがBよりも2大きくなってしまいます。
そこで、売上原価合計でもAがBより1大きくなるように再調整することで、売上総利益レベルでの差額はゼロとなります。
部分最適よりも全体最適
AとBに3:2で分けるときは、12の場合は7.2と4.8になるため、Aを7でBを5に分けます。29の場合は17.4と11.6になるため、Aを17でBを12に分けます。
ところで、2つを合計した41は、24.6と16.4となるため、Aを25でBを16に分けるべきです。
しかし、Aが24(=7+17)でBが17(=5+12)となっているため、全体最適を優先して、BからAに1振り替えるのです。
( つづく )