( 8 )継続価値
継続価値とは、予測事業年度以降の利益やフリー・キャッシュ・フローの現在価値の総和をいいます。継続価値の算定方法はさまざまですが、予測最終事業年度の利益やフリー・キャッシュ・フローの額をベースにしています。この額を、割引率等で除するために、継続価値は非常に大きな額になることが通常で、事業価値等の算定に大きな影響を与えます。
このため、予測最終事業年度の予測値の信頼性が重要になります。
継続価値
継続価値とは、予測事業年度以降の利益やフリー・キャッシュ・フローの現在価値の総和をいいます。
事業価値等をDCF法によって行う場合、事業価値等に占める継続価値の割合は非常に大きく、継続価値いかんによって価値が左右されることになります。
継続価値を算定する方法として、主なものは次のとおりです。
- 予測最終事業年度のフリー・キャッシュ・フローが一定の成長率で半永久的に続くとして継続価値を算定する方法(ゴードンモデル、フリー・キャッシュ・フロー成長モデル)
- 一定の成長率を続けるためには、フリー・キャッシュ・フローの一定割合を事業に再投資(追加純投資)する必要があることから、予測最終事業年度のNOPLATについて、長期的なNOPLATの成長率とROIC(投下資産利益率、Return On Invested Capital)に対する再投資の割合を見積ることで、より精緻化した継続価値を算定する方法(持続的成長モデル、バリュードライバー法)
- 予測最終事業年度のNOPLATが半永久的に続くとして継続価値を算定する方法(定常状態収斂モデル)
- 予測最終事業年度のフリー・キャッシュ・フローが半永久的に続くとして継続価値を算定する方法
- 予測最終事業年度の数値(EBITDAなど)に類似上場企業の乗数(EBITDA倍率(=EV ⁄ EBITDA)など)を乗じて継続価値を算定する方法(マルチプル法)
- 予測最終事業年度で事業を売却した場合に受け取る売却対価を EBIT倍率(=EV ⁄ EBIT)で計算して継続価値を算定する方法
 a. のフリー・キャッシュ・フロー成長モデルにおける成長率は、マクロ経済の成長率が上限と考えられています。また、最終事業年度のフリー・キャッシュ・フローを除する値は、割引率ではなく「割引率 − 成長率」です。すなわち、成長率は割引率を上回らないものと仮定されていますただし、フリー・キャッシュ・フローが成長しつづけるためには、設備等の事業用資産への再投資(追加投資)が必要であるところ、このモデルでは、成長率とキャッシュ・フローの関係が明確でないとされ、これを組み込んだモデルが b. のバリュードライバー法です。
 b. のバリュードライバー法は、企業の売上やNOPLATは一定の割合で成長しつづけ、グロスキャッシュ・フローの一定割合は再投資に回り、再投資に係るROICは一定であるという前提に基づいています。バリュードライバー法は、フリー・キャッシュ・フローの成長持続に必要な事業用資は産への再投資(追加投資)分を織り込んだという点で、フリー・キャッシュ・フロー成長モデルを精緻化したものといえます。
 a. 及び b. が企業は予測最終事業年度のNOPLAT(によるキャッシュ・フロー)が一定の成長率で半永久的に成長すると仮定するのに対して、 c. は、 a. 及び b. と同じく予測最終事業年度のNOPLAT(によるキャッシュ・フロー)が一定の成長率で半永久的に成長するものの、企業活動の継続のために再投資(追加投資)によって得られる超過利益が競争により食い込まれて、長期的にはROICが資本コストに一致する(収斂する)と仮定しています。つまり、予測最終事業年度のNOPLAT(によるキャッシュ・フロー)が半永久的に継続する(=成長率がゼロ)というのではなく、予測最終事業年度のNOPLAT(によるキャッシュ・フロー)は成長するものの再投資からの利益はすべて資本コストに使用されてしまい、そのプラスとマイナスの効果が一致するために、NOPLAT(によるキャッシュ・フロー)の成長率がゼロであるような状態を意味しています。実務上多く使われている継続価値です。
 d. は、予測最終事業年度のフリー・キャッシュ・フローが半永久的に続くとするもので、長期的にはフリー・キャッシュ・フローの成長率がゼロと見込んでおり、企業活動の継続のための再投資(追加投資)とこれに係る減価償却費も長期的には相殺され、運転資本の増減額も長期的にはゼロに収斂するものとしています。実務上多く使われている継続価値です。
 d. は予測最終事業年度のフリー・キャッシュ・フロー(及びこれに一定の成長率を乗じたもの)を割引率で除するのではなく、予測最終事業年度の利益について類似上場企業の乗数を乗じることで継続価値とする方法です。継続価値の計算でマーケット・アプローチの思想を採り入れたものともいえます。
 e. は予測最終事業年度末の事業用資産を売却した収入から有利子負債を全額返済した残額を基礎として継続価値とする方法です。継続価値の計算でネットアセット・アプローチの思想を採り入れたものともいえます。
これらのほかにも、成長率が途中で変化するモデルや、予測最終事業年度のフリー・キャッシュ・フローがその後数年間だけ継続するとするモデルなどが考えられます。
より理論的なモデルを使おうとすると、仮定や前提が増えてしまい、かえって全体の客観性や信頼性を担保するのが困難になることもあります。単純なモデルにとどめて、その根拠となる数値について説得力を高める考え方もありうると思います。いずれにせよ、特定のモデルを選択した積極的な根拠を説くのみならず、他のモデルを選択しなかった消極的な根拠を丁寧に説くことが大切と思われます。
修正現在価値法で評価する場合の支払利息の節税額の継続価値
DCF法で通常用いられる割引率は加重平均資本コストですが、加重平均資本コストは、予測事業年度中の資本構成(自己資本と他人資本の比率)が一定であることを前提にしたものです。借入金の返済などで資本構成が変動する場合には、DCF法を修正した修正現在価値法(APV法)で評価することがあります。
APV法がDCF法と異なるのは、割引率として自己資本と他人資本を統合した加重平均資本コストではなく、完全自己資本コストを用いることです。そして、DCF法の各事業年度のフリー・キャッシュ・フローの現在価値とフリー・キャッシュ・フロー等の継続価値に加えて、各予測事業年度での支払利息の法人税等節約額の現在価値及び支払利息の法人税等節約額の継続価値(=最終事業年度の支払利息の法人税等節約額 ⁄完全自己資本コスト)を加算します。
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DCF法の割引前事業価値=各予測事業年度のフリー・キャッシュ・フローの現在価値+継続価値
適用する割引率は加重平均資本コスト -
APV法の割引前事業価値=各予測事業年度のフリー・キャッシュ・フローの現在価値+継続価値+各予測事業年度の支払利息の節税額の現在価値+支払利息の節税額の継続価値
適用する割引率は完全自己資本コスト
継続価値が事業価値等の大半の占める最大の要因は、継続価値の基礎となる金額(予測最終事業年度のフリーキャッシュ・フローなど)を割引率等で除するために、非常に大きな数値となることです(この額に予測最終事業年度の現価率を乗じて現在価値に変換します)。
いずれも、予測最終事業年度の数値を基礎とするため、最終事業年度までの各事業年度の数値(フリー・キャッシュ・フロー)の精度などバカバカしいと思いがちですが、各事業年度の予測がつながって最終事業年度の予測数値が出せるわけです。予測最終年度に至るまでのロジックが精緻化されればされるほど、予測最終年度の数値の信頼性が高まり、継続価値の信頼性の向上を通じて最終的な事業価値等の金額の信頼性につながると思われます。
( つづく )