( 5 )フリー・キャッシュ・フローの計算

フリー・キャッシュ・フローは、予測事業年度の税引後の営業利益から設備投資額を控除し、これに1事業年度の運転資本の増減額を加減算して計算します。営業利益から出発しているため、通常の損益計算書上は営業外損益になるものでも、事業用としてフリー・キャッシュ・フローを構成すると判断されれば、一定の組み替えが必要になります。

フリー・キャッシュ・フローの構成要素として運転資本の増減額がありますが、運転資本すなわち予測事業年度末の売掛債権や買掛債務の残高を精緻化すると、損益が変わることなくフリー・キャッシュ・フローが変化します。

(みなし)税引後営業利益

フリー・キャッシュ・フローとは、企業が事業や投資によって生み出した税引後のキャッシュ・フローをいいます。以下の式で計算します。

フリー・キャッシュ・フロー=NOPLAT+減価償却費−設備投資額±運転資本増減額

NOPLATは(みなし)税引後営業利益(Net Operating Profits Less Adjusted Taxes)です。ここで、一般的な損益計算書のひな型をみてみましょう。

  • 営業利益(①)
  • 営業外収益(②)
  • 営業外費用(③)
  • 経常利益(④ = ① + ② − ③)
  • 特別利益(⑤)
  • 特別損失(⑥)
  • 税引前利益(⑦=④+⑤−⑥)
  • 法人税等(⑧)
  • 税引後利益(⑨=⑦−⑧)

ものすごくザックリですと、NOPLATとは、損益計算書の営業利益に実効税率を乗じた額ということができます。

ただし、法人税等(⑧)の額は、必ずしも税引前利益に実効税率を乗じた額とはなりません。たとえ、税効果相当額を調整しても、「交際費等の損金不算入額」や「法人住民税均等割」などがあるためです。 そこで、「営業利益(①)」から、「営業外収益(②)×実効税率」、「営業外費用(③)×実効税率」、「特別利益(⑤)×実効税率」、「特別損失(⑥)×実効税率」と「法人税等(⑧)」を加減算した額をもってNOPLATとする方法が考えられます。

さらに、各予測事業年度における交際費等の損金不算入額や税効果の対象となる項目を織り込んで法人税等を計算すれば、より正確なNOPLATが算定できるかもしれません。

税額でいえば、フリー・キャッシュ・フローの精度をより高めるとしたら、予測法人所得額に適用する税率や、各事業年度末の未払法人税等の残高や翌事業年度の予定納税額の精度を高めるとよいと思われます。

営業利益の範囲

フリー・キャッシュ・フローの計算が営業利益を出発点にしているということは、営業外収益以降については基本的にフリー・キャッシュ・フローを構成しないことになります。ただし、たとえば営業外収益で処理している不動産賃貸料収入があるとします。この賃貸料収入に係る費用(固定資産税など)については販売費及び一般管理費で処理され、結果として収益と費用が営業利益をまたいでしまっていることがあります。このような場合には調整が必要になります。

設備投資

さて、フリー・キャッシュ・フローの算定式は、NOPLATに減価償却費を加算します。これは、NOPLATが営業利益をベースにしており、営業利益は、売上高から売上原価や販管費に含まれた減価償却費も控除されています。減価償却費は会計上のもので現金支出はありません。そこで、NOPLATに減価償却費を加算します。NOPLATに減価償却費を加算した値をグロス・キャッシュ・フローといいます。

そして、設備投資額を控除します(設備売却による収入額が投資額を上回る事業年度は加算します)。設備投資額は会計上減価償却によって費用化しますが、設備投資はあくまで現金支出の金額です。設備投資のタイミング、設備投資に係る減価償却のスタートのタイミングによって、事業計画それ自体にも影響を及ぼすことになります。

運転資本の増減額

フリー・キャッシュ・フローには運転資本の増減額を加減算します。運転資本とは、事業用の流動資産から事業用の流動負債の差額です。事業用の流動資産からは余剰現預金を控除し、事業用の流動負債からは借入金等の有利子負債を控除します。運転資本の期首と期末の増減額がフリー・キャッシュ・フローの構成要素となります。期首から期末にかけて運転資本が減少しているときはフリー・キャッシュ・フローを増加させ、逆に、期首から期末にかけて運転資本が増加しているときはフリー・キャッシュ・フローを減少させます

このことは何を意味しているのでしょうか。

運転資本の構成要素として、流動資産には売掛金や棚卸資産が、流動負債には買掛金や未払金があります。 予測事業年度の貸借対照表とは、各事業年度末の売掛金残高や買掛金残高は、各事業年度の売上高の比率や仕入高の比率によって決定することになりますが、たとえばより分析を進めて、回収サイトや支払サイトにより忠実にしたり、あるいは、年度ごとに右肩上がりの事業計画であれば、これを1事業年度にブレイクダウンすれば期首月と期末月の売上高や仕入高が差が出るはずであり、それをベースにして売掛金や買掛金の残高を精緻化することで、損益はまったく影響がないのにフリー・キャッシュ・フローは異なる値となります。

( つづく )