( 3 )DCF法による価値算定のための事業計画

事業計画を作成する目的は、あくまでDCF法で事業価値等を算定するためのフリー・キャッシュ・フローを算出するためです。だとすれば、もっともらしいフリー・キャッシュ・フローが算出されるような事業計画にすることです。事業計画については、ビジネスとしての実現可能性の検討も重要ですが、事業計画の諸数値の整合性を検証すべきだと思います。

事業価値等を算定するための事業計画の場合、将来5年程度の予測をしますが、DCF法による事業価値等の評価では、予測最終事業年度のNOPLAT(またはフリー・キャッシュ・フロー)が極めて重要な意味を持ちます。なぜなら、DCF法の事業価値等の算定にあたっては、継続価値の額の占める割合が極めて大きく、そして継続価値は、通常は予測最終事業年度のNOPLATやフリー・キャッシュ・フローを基礎とするためです。

事業価値等の算定のための事業計画

DCF法の重要なポイントとして、将来の予測事業年度における事業計画の作成(あるいは検証)があります。

そもそも、なんで事業計画を作成しなければならないのでしょうか。事業価値等をDCF法で算定するには、将来獲得する(と期待される)フリー・キャッシュ・フローを基礎にします。そのためには、将来数年間の事業計画を作成して各事業年度のフリー・キャッシュ・フローを作り込む必要があるからです。

DCF法は、将来の予測数値をベースにして事業等の価値を算定する方法です。この算定結果の信頼性は、将来の予測数値の信頼性にかかっているといってもいいと思います。

さて、事業等の価値を算定する立場からすると、ビジネスとしての計画の実現可能性について云々するのも重要ですが、その前に、まずは計画の諸数値間の整合性に矛盾がないかをチェックすべきだと思います。

たとえば、事業計画で、売上高の増加率と同じ割合で増加する減価償却費や受取利息や支払利息といったものは明らかにオカしいですし、本来一定であるはずの事務所賃借料まで一定の増加率で増加するのも奇妙です。 まずはこのあたりを修正して、右肩上がりは右肩上がりとして「もっともらしい」計画にしていくべきです。

重要なのは、事業計画を作成する目的は、あくまでDCF法で事業価値等を算定するためのフリー・キャッシュ・フローを計算するためです。だとすれば、もっともらしいフリー・キャッシュ・フローが算出されるような事業計画にすることです。「すっごく詳細に事業計画を作りました。でもフリー・キャッシュ・フローを算出するための情報が不十分です。」「株式価値を計算したらぜんぜんイメージと違うとんでもない額になってしまいました。」では報われないと思います。

ポイントとなる点を述べたいと思います。

設備投資計画との整合性

なんのために事業計画を作るのか、それは、事業価値等をDCF法で算定しようとする場合、将来獲得する(と期待される)フリー・キャッシュ・フローを予測しなければならないからです。つまり、DCF法の基礎となるのは、各予測事業年度における(最終)利益の額ではなく、フリー・キャッシュ・フローです。

ここで、一般的なフリー・キャッシュ・フローの算式は次のとおりです。

フリー・キャッシュ・フロー=(みなし)税引後営業利益+減価償却費−設備投資額±運転資本増減額

「(みなし)税引後営業利益」とは「NOPLAT(Net Operating Profits Less Adjusted Taxes)」ですが、別のところでまたご説明いたしますが、フリー・キャッシュ・フローの構成要素として、設備投資額があります。 設備投資とは固定資産等を取得するための支出ですが、キャッシュ・フローに大きく関係します。このため、予測事業年度の設備投資計画をいかに正確に行うかが重要になります。

提出された事業計画をチェックさせていただくと、設備投資計画とこれに係る減価償却費が予測損益計算書と整合性が取れていないことがしばしばあります。このあたりの整合性が取れているかどうかが、事業計画の信頼性、ひいては、DCF法による事業価値等の信頼性につながると思われます。

最終事業年度の予測の重要性

事業価値等は以下の式で算定します。

事業価値=各予測事業年度のフリー・キャッシュ・フローの現在価値+継続価値の現在価値

ちなみに、事業価値に非事業用資産を加え、有利子負債などを控除したものが株主価値となります。

ポイントは、継続価値です。これは、予測事業年度終了後に企業が獲得するであろうフリー・キャッシュ・フロー(の現在価値)です。企業の寿命は半永久的であるという継続企業の前提から、企業も半永久的に一定のフリー・キャッシュ・フローを獲得するものとされます。では、半永久的に続くとされる一定のフリー・キャッシュ・フローはどう算定すべきかというと、予測最終事業年度のフリー・キャッシュ・フローを基準にするのが一般的です。

もし、予測最終事業年度のフリー・キャッシュ・フローがその後半永久的に続くとした場合、継続価値は以下の式で算定されます。

継続価値=予測最終事業年度のフリー・キャッシュ・フロー ⁄ 割引率

これは、割引率が10%だとすると、継続価値は予測最終年度のフリー・キャッシュ・フローの10倍になることを意味します。継続価値は、各予測事業年度のフリー・キャッシュ・フローの合計額をはるかに超えることもあります。

このため、とくに予測最終事業年度の損益予測をいかに正確に行うかが重要となります。

あまりにも継続価値のインパクトが大きいため、予測最終事業年度までの各事業年度の数値(フリー・キャッシュ・フロー)の精度などバカバカしいと思いがちですが、各事業年度の予測がつながって最終事業年度の予測数値が出せるわけです。予測最終年度に至るまでのロジックが精緻化されればされるほど、予測最終年度の数値の信頼性が高まり、継続価値の信頼性の向上を通じて最終的な事業価値等の金額の信頼性につながると思われます。このため、とくに予測最終事業年度の損益予測をいかに正確に行うかが重要となります。もっとも、各予測事業年度の損益予測の精度を高めることが間接的に予測最終年度の精度を高めることにつながります。

( つづく )