( 2 )DCF法によって算定される価値の種類

DCF法による価値評価の算定によって、事業価値、企業価値、株主価値、株式価値が算出されます。

DCF法による株式価値の算定の流れと各価値の内容

DCF法による事業価値や株式価値の算定までの流れは以下のとおりです。

  • 将来数年間(通常は5年程度)の事業計画を立てます。
  • 将来の各予測事業年度のフリー・キャッシュフローを計算します。
  • (同時並行して)フリー・キャッシュフローを現在価値に割り引くための割引率を決めます。
  • 継続価値(残余価値)の値を決定し、各予測事業年度のフリー・キャッシュフローと継続価値を現在価値に変換します。
  • 将来の各事業年度のフリー・キャッシュフローと継続価値の現在価値を加算したものが事業価値になります。
  • 事業価値に、企業が有する非事業資産(余剰の現預金、投資有価証券など)を加算したものが企業価値です。
  • 企業価値から株主に帰属しない有利子負債(借入金など)などを減算したものが株主価値です。
  • 株主価値を株主の態様(大株主あるいは少数株主)や取引等の対象となる株式について調整したものが株式価値です。
  • 株式価値を発行済株式数で除したものが1株当たり株式価値(いわゆる株価)です。

企業の保有する資産は、事業活動に必要な資産(事業用資産)と、事業活動に使用されない非事業用資産からなります。いっぽう、企業の貸借対照表は、資産=負債+純資産という関係にありますが、負債(他人資本)と純資産(自己資本)で資金を調達し、これで資産を取得したとイメージすることもできます。すなわち、他人資本(負債)+自己資本(純資産)⇒資産の関係です。

事業価値=各予測事業年度のフリー・キャッシュフローの現在価値+継続価値の現在価値

事業価値とは、資金を調達して事業を営むことによって創られる価値です。各予測事業年度のフリーキャッシュフローに継続価値(予測最終事業年度のフリー・キャッシュフローあるいは当該フリー・キャッシュフローに一定の調整を加えた額が半永久的に継続するとした値)を加えた額を現在価値に割り引いた値です。

イメージ的には貸借対照表上の正味運転資本(流動資産マイナス流動負債)と事業で使用する固定資産の合計額を時価で評価したことになります。

企業価値=事業価値+非事業資産

企業価値は、事業価値に、余剰資金や余剰投資有価証券や遊休資産といった事業活動に使用されていない資産を加えたもので、企業全体の価値を時価で評価したことになります。

株主価値=企業価値−有利子負債等

企業は資金を金融機関等から借り入れて調達することがあります。この場合、企業価値はすべて株主のものではありません。有利子負債は返済しなければならないため、企業価値のうち有利子負債部分は貸し手(金融機関等の債権者)のものということができます。また、従業員の退職給付債務も株主に帰属するものではありません。これらを控除した価値が株主に帰属する価値となります。

株式価値=株主価値+コントロールプレミアム(または−マイノリティディスカウント)その他

株主価値をベースに、評価の対象となる株式について、支配株主に相当する部分なのか、少数株主に相当する部分なのか、普通株式なのかその他種類株式なのか、株式の取得によって企業の支配権を獲得できるのか、事業上のシナジーを得られるのかなど、対象となる株式についての価値を調整します。

1株当たり株式価値(株価)=株式価値 ⁄ 株式数

評価の対象となる株式価値について、対象となる株式数で除したものが1株当たりの株式価値となります。

( つづく )