固定資産を費用処理してしまった場合の調整方法
「会計上は費用処理したが、税務上は固定資産として処理しなければならない」「でも会計上の数字はもう動かせない」
そんなときは、法人税申告で調整することになりますが、その前に固定資産台帳で減価償却超過額を管理します。
この方法は、会計と税務で、償却方法や耐用年数がまったく異なっていてもコントロールすることに応用できますし、ひとつの固定資産のうち資産除去債務分を分離してふたつの資産として管理することにも応用できます。
修正仕訳できない
決算作業中に・・・
- 「固定資産なのに修繕費や消耗品費にしていた」
- 「損失処理しろって指摘されたからしたけど、それは会計のお話で、税務だとやっぱり一発で落とすのはまずいだろ」
ありがちな話です。
「そんなの修正仕訳入れて資産にすればいいだけじゃん」
おっしゃるとおりなのですが、「もう上に報告(上が承認)しちゃったから数字は動かせない。どうしよう」というのが世の常です。
自分のミスが明らかになるのが怖いのでそのままにしておくのも選択肢の一つかもしれませんが、このままにして後日税務調査が入ると本税のみならずペナルティ(過少申告加算税や延滞税)も課されて会社に現実的な損害が発生してしまいます。
方法論
そのような場合には、法人税の申告で調整することになります。・・・なんですけど、ほとんどの書籍はそれで終わってますよね。
具体的に申し上げましょう。
端的に申し上げれば、次の流れです。
- 固定資産台帳に登録し、当期償却額欄を取得価額の額に上書きします。
- すると減価償却ソフトで当期の償却超過額が計算されます。
- これを法人税申告書の別表四(加算)に記入して法人税額を(再)計算します。
決算の数値は動かせないわけですから、このことによって生じる税効果会計や、負債の未払法人税等の残高が実際と異なってしまいますが、他に見積り計上したものも多々あるでしょうから、そこはやむをえないのではないでしょうか。
とはいえ、財源規制ギリギリで配当をしているとか、赤字が黒字に変わる、融資条件となる財務比率をクリアできるなどの緊迫した状況であれば、別途考慮する必要があるかもしれません。
固定資産台帳に登録
たとえば、消耗品費で計上していた10,000について、税務上は固定資産だと判断した場合には、減価償却ソフト(固定資産台帳)に登録します。
便宜上、期首に取得したものとし、資産は残存価額ゼロのソフトウェア、耐用年数5年とします。
そうしますと、取得価額10,000、当期償却額2,000、期末償却累計額2,000、期末簿価8,000と自動計算されるはずです。
ここで、ソフトの数値を上書き修正します。
・・・ここで話を脱線します
会計と税務の思想の違い
一般の減価償却ソフトは、各資産の会計上の減価償却費(当期償却額)が、法人税法上の償却限度額と一致するようにプログラミングされています。
と申しますのも、圧倒的多数の企業が、会計上の減価償却を法人税法上のルール(耐用年数省令)で行っているからです。
とはいえ、減価償却に対する思想は、会計と法人税法でまったく異なるものです。
会計理論ですと「費用収益対応原則や費用配分原則によって固定資産として資産計上され、利用状況等より見積もった耐用年数にわたって減価償却費として期間配分する」となります。
法人税法ですと「例示したものは固定資産として処理しなければならず、取得した事業年度で全額を損金として処理できない。各資産について法人が減価償却費として処理(損金経理)した額のうち、各事業年度ごとに定められた方法(定額法や定率法)で定められた耐用年数(法定耐用年数)で計算された額(償却限度額)を限度として損金として認める。償却限度額を超えて会計上償却費を計上しても損金として認めないし、償却限度額未満の償却費を計上しても会計上費用処理(損金経理)した額までしか損金として認めない」というスタンスです。
たとえば、ある資産について、当期の償却限度額が100だとします。会計上150の償却費を計上しても、法人税法上は100までしか損金として認められず、50は償却超過額として法人税の申告書で当期純利益に50を加算しなければなりません。また、もろもろの事情で会計上50だけ償却費を計上しても、損金経理したのは50なので法人税法上は50までしか認められず、法人税申告書上で50を減算調整することは認められません。
・・・では話を戻します。
一般の減価償却ソフトは、各資産の会計上の減価償却費(当期償却額)が、法人税法上の償却限度額と一致するようにプログラミングされているため、当期償却額2,000と償却限度額2,000は一致します。より正確に言えば、償却限度額2,000と一致するように当期償却額2,000になっているのです。
ここで、当期償却額2,000を、取得価額と同額の10,000で上書きします。
すると、取得価額10,000、当期償却額10,000、期末償却累計額10,000、期末簿価0となります。
なぜ「当期償却額」を10,000とするのでしょうか。
当期償却額は会計上で計上する減価償却費と一致します。というより、減価償却ソフト(固定資産台帳)で計算された当期償却額と一致するように伝票を切っているはずです。
今回は、消耗品費で10,000と計上してしまい、今さら数字は動かせません。そこで、アタマを切り替えます。
10,000を費用計上したということは、本来ならソフトウェア勘定で資産計上して2,000を減価償却費で計上するところを、ソフトウェア勘定で資産計上して全額を減価償却費として計上したことと同じですよね。
注意したいのは、上書きするのは、「当期償却額」の2,000であって、「償却限度額」の2,000ではありません。
減価償却ソフトでの償却超過額の自動計算
そうしますと、減価償却ソフトで処理しているため、自動的に償却限度超過額8,000が計算されます。
これは、税務上は2,000までしか損金にならないのに、会計上は10,000も計上したから8,000は損金として認められないという意味です。
裏を返せば、10,000のうち2,000は税務上も損金として認められるという意味です。
さらに別の言い方をすれば、何もしないと8,000だけ所得が少ない状態で税金を申告・納税してしまうという意味です。
法人税申告での調整
この8,000を、法人税申告書別表(四)で「加算」します。同時に、別表五(一)に減価償却超過額8,000が出てきます(法人税ソフトを使っている場合には自動的にそうなります)。
この別表五(一)の減価償却累計額8,000は、翌期の法人税申告書に繰り越されます(いわゆる「留保」)。
この結果、あらためて固定資産台帳と帳簿を見ますと、ソフトウェアだけが、取得価額と償却累計額が10,000だけ異なります。さらに、ソフトウェアの減価償却費が会計上の償却費よりも10,000多くなっています。
しかし、期末簿価は一致しますし、減価償却費についても「このうち10,000は消耗品費に入っています」と説明すれば足ります。
翌事業年度以降はどうなるか
では、この固定資産台帳を年次更新して翌事業年度にしますと、当該ソフトウェアについては次のようになっているはずです。
取得価額10,000、期首償却累計額10,000、期首簿価0、当期償却費0、期末償却累計額10,000、期末簿価0となります。
いっぽうで、税務申告用にこのように計算されているはずです。
期首償却超過額8,000、当期償却限度額2,000、当期認容額2,000、期末償却超過額6,000
つまり、普通にソフトウェアとして計上し減価償却すれば、この期は2,000が税務上も損金として認められることになります。そこで、前期に全額を費用処理(税務上の要件である損金経理はこの段階で満たしていることになります。)した結果、損金として否認された8,000のうち2,000はこの期の法人税申告では損金として認められることになるのです(「認容」)。
この2,000を、法人税申告書別表(四)で「減算」します。同時に、別表五(一)の期首の減価償却超過額8,000からこの期の減価償却認容額2,000が減算され、期末の減価償却累計額は6,000となります。
そして、耐用年数最終年の法人税申告で、2,000が減算・認容され、別表五(一)の減価償却超過額はゼロとなります。
応用
このような方法は、会計上と税務上で償却方法や耐用年数がすべて異なっていたとしても、簡単に会計と税務の減価償却超過額の計算と、その後の超過額の減算・認容もコントロールできるのです。
- 会計上の固定資産台帳を作り、会計上の減価償却費を計算します。
- 税務上の固定資産台帳を作り、法定耐用年数に基づく償却限度額を計算します。
- 税務上の固定資産台帳の「当期償却額」に会計上の減価償却費を上書き処理します。
- この結果、固定資産台帳上で、当期の償却超過額の発生または前期以前の償却超過額の認容がコントロールされています。
- その結果を、法人税申告で反映させます。
さらには、ひとつの固定資産のうち、固定資産台帳上は税務上は否認される資産除去債務に係る部分を切り離してふたつの固定資産として管理することも可能です。
ひとつの固定資産は固定資産台帳でひとつの資産として管理しなければならないという規定を見たことがありません。
この方法ですと、償却終了時には、ひとつの固定資産としてみた場合に残存価額が2円となるため、ここはどちらかをゼロにして調整しましょう。
重要なのは、減価償却ソフトを絶対使うべきということです。
法人税法ルールでの定率法の償却限度額の計算はけっこう難しいです。 そのようなものはすべてソフトに勝手に計算させましょう。
会計と税務でズレが生じた場合は、少なくとも法定耐用年数の間はずっとズレが生じています。これを毎期手修正していると計算ミスや申告ミス、担当者の引き継ぎミスなどが起こりやすいです。
(おわり)