「簿価ゼロ資産」「簿価1円資産」の除却

償却が終了したり、税務上の即時償却により取得価額の全額を費用処理した固定資産(減価償却資産)は、帳簿価額がゼロまたは1円です。しかし、そうとう以前から使用されなくなったにもかかわらず、固定資産としてずっと計上されていることがあります。このような簿価ゼロ資産(簿価1円資産)の除却についてコメントします。

逆に、たとえ償却が終了し簿価ゼロや簿価1円となった資産でも、まだ事業の用に供しているものについては、たとえ除却損がゼロだからといって安易に経理上除却処理をしてはなりません。

「簿価ゼロ資産」「簿価1円資産」とは

ここで、簿価ゼロ資産とは、残存価額がゼロの固定資産のうち、取得価額と減価償却累計額が同額になっているものをいいます。簿価ゼロとなる「主な」理由としては、耐用年数が経過して償却が終了したことがありますが、その他のものもあります(これが重要。後述)。

同様に、簿価1円資産とは、残存価額が1円の固定資産のうち、耐用年数が経過して償却が終了したものをいいます。

どの企業にも、少なからず簿価ゼロ資産、簿価1円資産が存在しているはずです。

会社計算規則による貸借対照表の固定資産の表示

固定資産に関する勘定科目体系では、貸借対照表の表示形式にならっているものが多数見受けられます。有形固定資産については原則である「間接控除方式」(会社計算規則79条1項)で、無形固定資産については「直接控除方式」(会社計算規則81条、なお、会社計算規則は無形固定資産について間接控除方式を認めていません。)にならって勘定科目を設定するのです。

間接控除方式

間接控除方式の勘定科目の構成の場合、減価償却累計額a/cを使います。減価償却費の仕訳は次のとおりとなります。

(借) 減価償却費 XXX (貸) 減価償却累計額 XXX

直接控除方式

いっぽう、直接控除方式の勘定科目の構成の場合、減価償却累計額a/cは使いません。減価償却費の仕訳は次のとおりとなります。

(借) 減価償却費 XXX (貸) 建物 XXX
(借) 減価償却費 XXX (貸) 建物附属設備 XXX
(借) 減価償却費 XXX (貸) 機械装置 XXX
(借) 減価償却費 XXX (貸) 器具備品 XXX
(借) 減価償却費 XXX (貸) ソフトウェア XXX

勘定科目体系の設計を、会社計算規則の貸借対照表の表示に忠実にしようとすると、有形固定資産については減価償却累計額a/cを使い、無形固定資産については、償却累計額a/cは使わないことになります。

勘定科目体系の設計が貸借対照表の表示に拘束されていないか

しかし、会社計算規則に従うのは「最終的な貸借対照表の表示」についてであって、会計ソフト等の勘定科目の体系が縛られる必然性はありません。

最終的な貸借対照表の科目と残高にデータが集計されるような調整を行えばよいのです。

たとえば、固定資産の科目ごとに減価償却累計額a/cを設けることで、仕訳チェック、固定資産台帳との照合やデータエクスポートまたはデータインポートのチェックも容易になります。

さらに、減価償却累計額a/cは有形固定資産の各科目のみならず、ソフトウェア等の無形固定資産の各科目にも設定すればよいのです。

仮に、諸事情により会社計算規則の構成に縛られたとしても、有形固定資産や無形固定資産の各a/cの補助科目としての減価償却累計額を設定すれば補完的な役割を果たせます。

これなら、残高試算表レベルでは直接控除方式のように各科目の残高は簿価となりますが、各科目について補助科目レベルでブレイクダウンすれば、取得価額と減価償却累計額で区分されています。

いずれにしても、少なくとも帳簿の勘定科目の体系上は、間接表示方式、すなわち、減価償却累計額a/cを、無形固定資産の科目にも付すべきだと思います。

この場合、実務上の最大のメリットといえるのが、「簿価ゼロ円資産」と「簿価1円資産」の処理です。

簿価ゼロ資産、簿価1円資産の除却仕訳

冒頭申し上げたとおり、どの企業にも簿価ゼロ資産、簿価1円資産が存在しているはずです。

では、これらの資産の除却処理はどうすればよいでしょうか。簿価ゼロ資産の備品(取得価額400,000、減価償却累計額400,000)と、簿価1円資産の備品(取得価額500,000円、減価償却累計額499,999円)を例にしてみましょう。

間接表示方式

簿価ゼロ資産の仕訳は次のとおりです。

(借) 減価償却累計額 400,000 (貸) 器具備品 400,000

また、簿価1円資産の仕訳は次のとおりです。

(借) 減価償却累計額 499,999 (貸) 器具備品 500,000
固定資産除却損 1

直接表示方式

会計ソフト等での勘定科目の体系も直接控除方式ですと、固定資産科目の残高は簿価となるため、簿価ゼロの場合には仕訳のしようがありません。

その意味でも、間接控除方式の勘定科目体系がベターです。 別の見方をすると、直接控除方式によると、償却が終了したり税務上の即時償却を行うと、これらの資産は簿外資産となることを意味します。

(借) 固定資産除却損 1 (貸) 器具備品 1

簿価ゼロ資産や簿価1円資産の除却のタイミング

簿価ゼロ資産や簿価1円資産の除却のタイミングはいつになるでしょうか。これは、原則どおり、除却した日(の属する事業年度)ということになります。

未償却の残高(帳簿価額)がある資産となんら変わりません。

除却した日、というか、実際には「もう使わなくなった日」が正しいかもしれません。

ところが、簿価ゼロ円資産の場合、除却したところで、PLインパクトはゼロ、すなわち、固定資産除却損は発生しないことから、とっくに使用していない資産について、うっかり「取得価額と減価償却累計額が両建てされたまま放置されている」ことになります。

本来ならば、何か新規の固定資産の取得、あるいは、改修などのいわゆる資本的支出が行われたときは、条件反射的に「既存の資産(の一部)の(部分的)除却はできないか」という問題意識を持っていなければなりません

これを読んで「ヤバい」と思われた方、頃合いを見計らって処理されることをオススメします。

税務上の裏取り

「会計と税務は違う」というのはお勉強の世界であり、実務上は、税法の規定が固定資産会計に深く浸透しています。

どういうことかと申しますと、固定資産に関連する費用(減価償却費や除却損や減損損失など)が、法人税の計算においても、その前提となる法人所得の計算で益金(収益)から差し引ける損金として認められるかどうかが重要になります。

そこで、税務上の裏取りがどうしても必要となるのです。

有姿除却(法人税基本通達7-7-2)

「その使用を廃止し、今後通常の方法により事業の用に供する可能性がないと認められる固定資産については、たとえ当該資産につき解撤、破砕、廃棄等をしていない場合であっても、当該資産の帳簿価額からその処分見込価額を控除した金額を除却損として損金の額に算入することができます。

特定の製品の生産のために専用されていた金型等で、当該製品の生産を中止したことにより将来使用される可能性のほとんどないことがその後の状況等からみて明らかなものについては、たとえ当該資産につき解撤、破砕、廃棄等をしていない場合であっても、当該資産の帳簿価額からその処分見込価額を控除した金額を除却損として損金の額に算入することができます。

ソフトウェアの除却(法人税基本通達7-7-2の2)

自社で利用するソフトウェアについて、そのソフトウェアによるデータ処理の対象となる業務が廃止され、当該ソフトウェアを利用しなくなったことが明らかな場合、又はハードウエアやオペレーティングシステムの変更等によって他のソフトウェアを利用することになり、従来のソフトウェアを利用しなくなったことが明らかな場合には、当該事実が生じた日の属する事業年度の損金の額に算入することができます。

複写して販売するための原本となるソフトウェア(市場販売目的のソフトウェア)について、新製品の出現、バージョンアップ等により、今後、販売を行わないことが社内りん議書、販売流通業者への通知文書等で明らかな場合には、当該事実が生じた日の属する事業年度の損金の額に算入することができます。

ポイント

この通達で重要なのは、有姿除却やソフトウェアの除却損が損金となるのは、「その事実が発生した日の属する事業年度」です。

ほったらかした滞留売掛金と同様に、後になってからではダメということです。この場合は損金不算入(社外流出)として法人税申告書上の処理が必要となります。

もっとも、簿価ゼロ資産や簿価1円資産の場合、(償却終了によって)簿価ゼロ資産はそもそも除却損がなく、簿価1円資産も1円しか除却損とならないため、インパクト的には軽微と思われます。

そこで、税務上のリスクをヘッジするには、「現実の除却」や「償却終了まで待つ」などの対応となります。

簿価ゼロ、簿価1円でも除却してはいけない場合

ここで、逆の事情を考えてみましょう。

減価償却が終了した資産でも、帳簿上、あるいは、少なくとも固定資産台帳上は、取得価額と減価償却累計額が計上されています。

貸借対照表の固定資産の表示を原則的な間接控除方式にすると、「多額の取得価額」と「ほぼ同額の減価償却累計額」が掲記され、差引の簿価はほぼゼロということになります。

ついつい「除却損はほぼゼロで損益に対するインパクトもほとんどないので、見映えをよくするために除却処理しようか」という気持ちになります。

しかし、原点に立ち返る必要があります。

すなわち、簿価がゼロになっても、1円になっても、まだその資産を事業の用に供している場合には除却処理はできません

簿価ゼロ資産や簿価1円資産が多く存在し、簿価の数値に比して取得価額と減価償却累計額の数値が(相当)大きくて見映えが悪いのならば、貸借対照表の有形固定資産の表示を直接控除法方式に変更すべきです。

(参考)簿価ゼロ資産の数々

通常の有形固定資産の場合、償却が終了しても備忘価額1円が計上されます。

いっぽう、ソフトウェア等の無形固定資産の場合、残存価額はゼロであることから、償却終了後は簿価ゼロとなります。

ただし、下記のような(有形)固定資産については、簿価ゼロ資産となります。

一括償却資産

事業年度中に事業の用に供した固定資産(減価償却資産)のうち、取得価額10万円以上20万円未満のものについて、「一括償却資産」として処理した場合、資産の種類(そして本来の耐用年数)にかかわらず取得価額を一括して3年にわたって償却します(残存価額はゼロ)。そして、。なお、事業年度の途中に取得した資産についての減価償却は月数によって償却しますが、一括償却資産の場合には、期中のいつ取得したかにかかわらず取得価額の1/3ずつ償却していきます。

一括償却資産の残存価額はゼロであるため、3年償却後は簿価ゼロとなります。つまり、償却が終了した後は簿価ゼロ資産(取得価額=減価償却累計額)となります。

また、一括償却資産の経理方法として、取得価額全額を費用処理する方法があります。この方法では、会計上は固定資産とはなりませんが、税務上は固定資産として取得価額の1/3ずつが損金となります。固定資産台帳上は固定資産として把握し、法人税の申告では調整計算を行います。

即時償却資産

「中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却」(租税特別措置法42条の12の4)による即時償却や、すでに「特定生産性向上設備等」を取得して即時償却をしている場合も、簿価ゼロ資産となります。

ここで重要なのは、消耗品費等で費用処理され、最初から固定資産として処理されない「少額減価償却資産」「少額減価償却資産の取得価額の特例」「一括償却資産で全額を損金経理する処理」とは異なるという点です。

即時償却資産については、事業の用に供した日の属する事業年度で取得価額を全額費用として処理しますが、この費用の内訳は通常の減価償却費(会計的には正規の減価償却費、税務的には当該事業年度に係る普通償却限度額)と特別償却の費用ということになります。

会計理論に忠実たろうとすれば、特別償却費は「正規の減価償却費」ではないため、準備金方式によって会計処理を行うことになります。

似て非なるもの

会計上は固定資産として処理せずに費用として処理した場合でも、税務上は固定資産として把握しておかなければならないものがあります。これらは、会計上は固定資産として処理する上記の資産とは異なります。

(おわり)