( 1 )仮受超過
「税込経理方式」「税抜経理方式」、通常の消費税の申告(一般課税)と簡易課税制度による申告について、定義や制度の説明や仕訳の説明だけで終わっているのが圧倒的多数ではないでしょうか。
仕訳と損益計算書で解説いたします。
まずは、ごくごく一般的な形、消費税を預かる売上高(課税売上高)によって発生した消費税等の額(仮受消費税等)の額が、消費税の支払いを伴う資産の取得や費用の発生(課税仕入れ)によって発生した消費税等の額(仮払消費税等)を上回る事例です。
税込経理方式でも税抜経理方式でも損益計算書上の利益の額は一致することを確認します。
数値と税額
数値
消費税を預かる売上高(課税売上高)によって発生した消費税等の額(仮受消費税等)は1,000、消費税の支払いを伴う資産の取得や費用の発生(課税仕入れ)によって発生した消費税等の額(仮払消費税等)は350です。給料支払いは消費税が課される取引(課税取引)ではありません(いわゆる不課税取引)。
一般課税による消費税額
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課税売上による消費税等・・・1,000
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課税仕入れによる消費税等・・・350
-
差引・・・650(納税)
すべての事業者は消費税の納税義務者ですが、前々年(基準期間)の課税売上高が1,000万円以下で、かつ、前年の上半期(特定期間、1月1日から6月30日まで)の課税売上高が1,000万円以下の場合は消費税の納税が免除されます(免税事業者)。ただし、「消費税課税事業者選択届出書」を提出している場合には、過去の課税売上高に関係なく届出書を提出した翌年から、本来なら免税事業者となっても納税義務は免除されません。
消費税の申告にあたり、事業者は、消費税を預かる売上高(課税売上高)によって発生した消費税等(仮受消費税等)の額から、消費税の支払いを伴う資産の取得や費用の発生(課税仕入れ)によって発生した消費税等(仮払消費税等)の額を差し引いた額を納付または還付を受けます。ただし、仮払消費税等を全額差し引けないことがあります(控除対象外消費税等)。
簡易課税による消費税額
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課税売上による消費税等・・・1,000
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みなし仕入率(50%)による消費税等・・・500(=1,000×50%)
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差引・・・500(納税)
簡易課税制度とは、前期末までに消費税簡易課税制度選択届出書を提出し、前々事業年度(基準期間)の課税売上高が5,000万円以下の場合に適用される制度です。課税売上に係る消費税等から差し引く消費税等の額(仕入税額控除の額)は、実際に発生した仮払消費税等の額ではなく、課税売上高に「みなし仕入率」を乗じて算定した額となります。みなし仕入率は課税売上の事業によって異なりますが、ここでは50%としています。
みなし仕入率によって乗じた額が、実際に発生した仮払消費税等の額よりも大きければ、一般課税の場合より納税額が減って利益となります(益税)が、逆の場合には、一般課税の場合よりも納税額が増えることになり、一般課税ならば還付であっても納税ということもあります(第2回の事例がこれです)。
ここでは、簡易課税制度によって、課税売上に係る消費税等(1,000)から差し引く消費税等の額(仕入税額控除の額)が、実際の額(350)よりもみなし仕入率による額(500)の方が大きいため、一般課税の場合よりも納付額が150減っています。いわゆる益税です。益税分は収益となって法人税や所得税が課されるため、実質的には、益税分にいわゆる実効税率を乗じた額が手元に残ることになります。
数値
一般課税による消費税額
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課税売上による消費税等・・・1,000
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課税仕入れによる消費税等・・・350
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差引・・・650(納税)
税込経理方式による仕訳
(借)
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売掛金
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11,000
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(貸)
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売上高
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11,000
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(借)
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売上原価
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3,850
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(貸)
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未払金
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3,850
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(借)
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給料
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4,000
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(貸)
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未払金
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4,000
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(借)
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租税公課
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650
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(貸)
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未払消費税等
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650
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税込経理方式による損益計算書
税込経理方式は、取引を税込金額で経理して消費税等の額を損益に含める経理方式です。仮受消費税等の額は売上高等の収益を構成し、仮払消費税等の額は費用を構成し、申告による納税額も費用となります。
数値
一般課税による消費税額
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課税売上による消費税等・・・1,000
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課税仕入れによる消費税等・・・350
-
差引・・・650(納税)
税抜経理方式による仕訳
(借)
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売掛金
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11,000
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(貸)
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売上高
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10,000
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仮受消費税等
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1,000
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(借)
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売上原価
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3,500
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(貸)
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未払金
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3,850
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仮払消費税等
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350
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(借)
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給料
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4,000
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(貸)
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未払金
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4,000
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(借)
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仮受消費税等
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1,000
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(貸)
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仮払消費税等
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350
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未払消費税等
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650
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税抜経理方式による損益計算書
税抜経理方式は、取引を税抜金額で経理して消費税等の額を損益に含めない経理方式です。期中は仮受消費税等の額は負債科目(仮受消費税等a⁄c )、仮払消費税等の額は資産科目(仮払消費税等a⁄c )として処理され、期末の決算整理で相殺されます。
数値
簡易課税による消費税額
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課税売上による消費税等・・・1,000
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みなし仕入率(50%)による消費税等・・・500
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差引・・・500(納税)
税込経理方式による仕訳
(借)
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売掛金
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11,000
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(貸)
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売上高
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11,000
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(借)
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売上原価
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3,850
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(貸)
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未払金
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3,850
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(借)
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給料
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4,000
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(貸)
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未払金
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4,000
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(借)
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租税公課
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500
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(貸)
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未払消費税等
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500
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税込経理方式による損益計算書
数値
簡易課税による消費税額
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課税売上による消費税等・・・1,000
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みなし仕入率(50%)による消費税等・・・500
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差引・・・500(納税)
税抜経理方式による仕訳
(借)
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売掛金
|
11,000
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(貸)
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売上高
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10,000
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仮受消費税等
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1,000
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(借)
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売上原価
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3,500
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(貸)
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未払金
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3,850
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仮払消費税等
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350
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(借)
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給料
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4,000
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(貸)
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未払金
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4,000
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(借)
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仮受消費税等
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1,000
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(貸)
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仮払消費税等
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350
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未払消費税等
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500
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雑収入
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150
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税抜経理方式による損益計算書
税抜経理方式は、決算整理で仮受消費税等a⁄c の残高と仮払消費税等a⁄c の残高を相殺して各勘定残高をゼロにします。ここでは、簡易課税制度によるみなし仕入率による課税仕入れの額(500)のほうが実際の課税仕入れの額(350)よりも150大きいため、簡易課税制度による納税額(500)が一般課税の場合(650)よりも小さくなっています。この差額(150)は収益(雑収入)として処理します。
まとめ
税込経理方式でも税抜経理方式でも、いずれも損益計算書の利益の額は、一般課税による場合は2,500、簡易課税による場合は2,620となっていることをご確認ください。
( つづく )