貸借対照表と損益計算書の関係を知ったかぶる
簿記の初学者にとって、貸借対照表と損益計算書がごちゃごちゃになることが少なくありません。 ストックだとかフローだとか言われてもなんだかピンときません。
そこで、企業の活動をロールケーキに見立ててみます。ケーキを切る長さが会計期間(事業年度など)、切られた両端の断面が貸借対照表、切られたケーキについて一般に公正妥当と認められる基準で判定された収益や費用の内容を報告したものが損益計算書となります。
会計期間
ここでは、会計の目的を、企業が利害関係者にその活動状況を報告するものとします。
企業活動は常に継続しており、またはこれからも継続することが予定されています(継続性の原則)。
さて、企業が活動を報告しようとする場合、一定の期間を区切らないとなかなか難しいものです。
そこで、一定の規則的な時点を設定し、その規則的に定められた時点と時点とのあいだの期間について活動を報告することになります。
この一定の期間は、一般的に事業年度といい、通常は 1 年間となります。この場合、期間を区切る日がその事業年度の末日すなわち決算日といわれるものです。
もっとも、報告の期間は必ず事業年度(通常 1 年間)でなければならないわけではなく、四半期としたり 1 月単位としたりすることになります。
収支報告
企業が一定期間の活動を報告しようとするとき、まず考えられるのが収支報告です。
つまり、一定期間内の資金(現金や預貯金など)の収入や支出を表したものです。
通常の報告としては、期間の初日(前期間の末日)の資金の残高から出発して、期間中の収入や期間中の支出を差し引いて期間の末日の資金の残高ということになります。
別の見方をすると、期間の初日と末日の資金の差額について、期間中の収入と支出に分けて説明したものといえます。
ちなみに、この報告は、より体裁を整えると「キャッシュフロー計算書」というものになります。
収支から損益へ
収支報告は、期間中の資金の流入や流出の内容を示すもので、企業の活動の報告としてはそれなりの役割があります。
しかし、期間中の企業の活動をより詳しく知りたいとすると、単におカネの出し入れの情報だけでは十分ではありません。
たとえば、期間中にモノを引き渡したりサービスを提供するようなことがあっても、その対価の入金がその期間中にないと、収支報告では反映されません。逆に、企業が活動するためにいろいろなモノを買ったりサービスの提供を受けても、その対価の支払いがその期間中にないと、収支報告では反映されません。
そこで、期間中にどの程度の利益(または損失)があったのかという損益に関する情報が必要になります。
収益や費用というのは、資金の出入りという明らかに客観的なものではありません。「何をもって収益といえるのか」「何をもって費用といえるのか」の判断があまりにも恣意的だとどうにでもなってしまいます。そこで、一般に公正妥当と認められる基準で判断することになります。
この点で、粉飾決算というものは、収益や費用の判断を一般に公正妥当と認められる基準に従っていない、あるいは、基準の趣旨を歪めて適用したことによるものなのです。
貸借対照表と損益計算書の関係
企業の活動を絶え間なく生産されるロールケーキに見立てますと・・・
ケーキを切る長さが会計期間(事業年度など)、切られた両端の断面が貸借対照表、切られたケーキについて一般に公正妥当と認められる基準で判定された収益や費用の内容を報告したものが損益計算書となります。
つまり、ある一定の時点(点)の状態を報告するものが貸借対照表で、点と点を結ぶ期間(線)の活動を報告するものが損益計算書です。
その証拠として、損益計算書は「何月何日から何月何日まで」という期間の情報で、貸借対照表は「何月何日現在」という時点の情報となっているはずです。
切られたロールケーキは、切断面から始まり切断面に終わります。つまり、損益計算書は、時点の異なる貸借対照表と貸借対照表の間の報告になるのです。
とすると、ケーキの長さを極端に短くすれば、朝(昨日の夜)に切断した貸借対照表と昼に切断した貸借対照表の間は、午前中の損益計算書ということになります。
では、時系列的に先の切断面(貸借対照表)と後の切断面(貸借対照表)とその途中(期間)の損益計算書とはどのような関係なのでしょうか。
まず、ロールケーキは金太郎飴ではありません。ですから、切断面である貸借対照表もどこを切っても常に同じではありません。ものすごく太くなったり(合併や買収など)、細くなったり(事業譲渡など)します。
時系列的に先の切断面(期首の貸借対照表)と後の切断面(期末の貸借対照表)の間には、その期間内の企業活動が入っているわけですから、個々の項目(資金や資産や負債)は増加したり減少したりします。
重要なのは、切断面である貸借対照表は、その日現在の資産や負債、そしてその差額概念としての純資産を表しますが、この純資産には、企業が生まれたときからの利益(損失)の蓄積が含まれています(利益剰余金)。
つまり、期末の貸借対照表の純資産には、その期間の損益計算書の最終的な利益(または損失)が加算(または減算)されているのです。
切断面調整(期間対応)
企業活動は絶え間なく続いていますが、一定の期間を区切り、その「期間」での経営成績を損益計算書で、区切られた「時点」(つまり決算日)での財政状態を貸借対照表で表示します。
そうすると、損益計算書は、その期間(当期)に発生した収益と費用がすべて取り込まれるのが原則です。
さて、当期に商品を仕入れたり、製品を製造した場合には、これら仕入額や製造費用は、当期に発生した費用として損益計算書に反映されます。そして、当期中にこの商品や製品を売上げた場合には当期に発生(実現)した収益として損益計算書に反映されます。ここだけとらえますと、収益(売上高)から費用(仕入高など)を差し引いた額がまさに利益(売上総利益)となるのです。
ここで、当期中に売上げられたなかった商品や製品はどうすればよいのでしょうか。
つまり、仕入や製造と売上の間で、期間が切断されてしまったということです。
この場合、当期中に仕入れたり製造した費用のうち、売上げられなかった商品や製品に係る部分をそのまま当期の費用として損益計算書に反映させることは妥当ではありません。
もし、翌期以降にこれらの商品や製品が売上げられると、当期の損益計算書に費用だけが計上され、翌期以降の損益計算書に収益だけが計上されます。そうしますと、損益にアンバランスが生じてしまいます。そこで、これらの商品や製品の仕入や製造に要した費用額は、翌期以降販売したことによる売上高の額と対応させるべきというのが会計的な考え方です。
そこで、当期の損益計算書で費用とするのではなく、貸借対照表の資産とするのです。つまり、貸借対照表の資産の部の棚卸資産(商品や製品)として計上され、翌期以降に売上高(収益)が計上されたときに売上原価(費用)になるのです。
ところで、切断面が貸借対照表ですから、切断した時点で在庫である商品や製品が資産になるというのは自然にイメージできます。
しかし、あるプロジェクトについて、一般に公正妥当と認められる基準によれば当期の収益とはできないものについて、そのために当期中に発生した費用(人件費など)は当期中の費用とすることはできません。翌期以降にプロジェクトが完成して収益が計上されたときに費用となるのです。このため、この費用についても、貸借対照表の資産にすることになります。これは商品や製品とは異なる見えない資産であり、収益と費用の対応という会計的な思想がないと説明できないのです。
切断面調整(費用配分)
企業はその活動にあたって、いろいろなモノを取得したりサービスの提供を受けることになります。
たとえば、融資に対する保証料など、数年分の借入期間に対応する費用を全額支払った場合には、当期の費用とならない翌期以降の期間に対応する部分は貸借対照表の資産としなければなりません。
また、あるモノを取得した場合、そのモノを使用(利用)する期間が当期のみならず翌期以降にも及ぶ場合には、やはりそのモノの取得に要した価額(取得価額)の全額を当期の費用とすることは妥当ではありません。これらのモノは貸借対照表の資産として計上することになります(固定資産)。そして、そのモノが期間の経過または使用(利用)によって価値が減少していくと考えれられる場合には、使用する期間(耐用年数)にわたって取得価額を費用として規則的に減少させることになります(減価償却)。
切断面調整(価値の調整)
ロールケーキの切断面が貸借対照表ですが、貸借対照表の資産や負債に計上されている金額は、個々の取引によって増減しています。
ただ、そのような取引によって増減した額が、切断した時点での価値と必ずしも一致しているわけではありません。
そこで、資産によっては、計上されている価額を切断時の時価とします(時価評価)。この時価との差額(評価損益)は損益計算書に反映されるのが原則ですが、損益とはならず純資産の増減として処理されるものもあります。
さらに、固定資産などでは、将来の収益(正確にはキャッシュフロー)獲得が見込まれない部分については、規則的な減価償却によらず、価額を減少させます(減損)。
まとめ
私も含めて、簿記の初学者は貸借対照表と損益計算書がごちゃごちゃになる傾向があります。
フローだストックだといわれてもピンときません。
そこで、ロールケーキに見立てることによって、なんとなくイメージできるのではないかと思われます。
そして、期間中の損益を適正化したり、あるいは切断面を調整するために行うのが決算というものなのです。
(おわり)