( 3 )消費税とは無関係な取引
「課税取引とは何か」を積極的に検討するアプローチも重要ですが、ここでは、「課税取引でない取引とは何か」を検討することによって課税取引とは何かを消極的に検討するアプローチを採ります。
「不課税取引」とは、消費税が課されない取引を指しますが、消費税法にはない一般的な呼称です。私の場合は、「不課税」と「対象外」を区別します。
課税の対象となる3つの要件
消費税法4条1項は、「国内において事業者が行つた資産の譲渡等には、この法律により、消費税を課する。」と規定しています。
「国内」とは「この法律の施行地」(2条1項1号)であり、日本国内ということです。
「事業者」とは「個人事業者」すなわち「事業を行う個人」(2条1項3号)と「法人」(2条1項3号)です。
「資産の譲渡等」とは「事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供」(2条1項8号)です。
このため、「国内」「事業者」「資産の譲渡等」のいずれかの要件をみたさないものは、消費税が課されない、すなわち、課税の対象とはならないのです。
この課税の対象とならないものは、「不課税取引」と一般に呼ばれ、国税庁サイトや会計ソフト等でも使われる用語です。ちなみに、不課税取引という用語は消費税法上どこにもありません。
「不課税」と「対象外」
会計ソフト等では、消費税の取引区分としてさまざまなものがありますが、「不課税取引」と「対象外」というものがあります。
実質的には「日本語の違い」でしかありません。
しかし、私の場合は次のように区分しています。
「対象外」・・・国外の取引
消費税法が日本の法律で法律が施行されるのが日本国内であることから、先ほどの課税の対象となる要件「国内」「事業者」「資産の譲渡等」のうち、まずすべての前提となるのが「国内」と考えられます。
ただし、消費税の課税の対象となる国内の取引なのか、それとも対象とならない国外の取引なのかについては、取引の内容によって判定基準があるため(内外判定)、これに注意します。
消費税法は国内の取引に適用されるため、取引の相手方が非居住者であっても国内で行われた事業者による資産の譲渡等については課税の対象となります。逆に、取引の相手方が日本人であっても国外で行われた場合には原則として課税の対象とはなりません。
海外で消費税(VATなどの付加価値税)を支払っても、これは外国の消費税のため、わが国の消費税の申告で差し引くことはできません。
このため、同じ消費税の対象とならない取引でも、国外で行った取引についてはそもそも消費税法それ自体が適用されないため「対象外」としています。
なお、消費税法4条2項は「保税地域から引き取られる外国貨物には、この法律により、消費税を課する。」と規定しています。
つまり、輸入を行った場合には、保税地域から輸入品を引き取った者(事業者であるか事業者でないかは問いません。)に消費税が課されます。
「対象外」・・・会計上だけの取引
とすると、国内で行う取引は、課税取引、非課税取引、免税取引そして不課税取引ということになります。ところで、先ほど申し上げましたとおり、消費税の課税の対象となるのは、国内で行われた取引のうち、「事業者」が行う「資産の譲渡等」です。
いずれの取引になるにしても、基本的に「相手方のある取引」です。
いっぽう、消費税の取引は通常は所得税や法人税の目的でも作成される会計帳簿で記録されます。
会計帳簿に記帳される会計取引(仕訳)は、相手方との現実の取引によって生じた取引に限られません。
勘定科目の振替仕訳、部門間の振替仕訳、概算額で計上する仕訳、引当金や評価損益の計上仕分けといった会計独特の仕訳などです。
これらは消費税とはまったく無関係の取引です。
しかし、ほぼすべての会計ソフトは勘定科目ごとに消費税取引が標準設定されているため、その勘定科目の仕訳を行うと、積極的な調整を行わない限り消費税が認識されてしまいます。これによって、他人との取引でいかに消費税の判断が正しく会計上の仕訳での消費税処理も妥当だったのに、消費税がまったく関係ない会計上の内部仕訳で消費税が認識されたために、結果として消費税の正しい申告が行われないリスクがあります。
よって、これらの仕訳では消費税の課税取引とするだけでなく、「相手との取引」で消費税が課税されない「不課税」とも区別して、「対象外」としています。
不課税取引の検討
このため、「国内」「事業者」「資産の譲渡等」(事業として対価を得て行われる、資産の譲渡及び資産の貸付け及び役務の提供)のいずれかの要件をみたさないものは、消費税が課されない、すなわち、課税の対象とはならないのです。
さらに、「何をもって事業というのか」「対価を得て行われるとはなにか」「資産の範囲はなにか」「譲渡とはなにか」「貸付けとはなにか」「役務の提供とはなにか」という細かい論点がありますが、これを申し上げるととんでもないことになってしまいます。申し訳ございません詳細につきましては、消費税法施行令や消費税基本通達をご覧ください。
たとえば、法人が従業員に支払う給料を考えてみます。
「国内」の「事業者」である法人が、従業員の労働という「役務の提供」への「対価」がありますが、この支払いは法人と支払いを受ける従業員との関係は雇用契約によるものであって、「事業として」ではありません。よって、不課税取引となります。 これに対して、フリーランスの個人事業者に対する支払いは、法人との間の請負契約等に基づいた「事業として」の役務の提供への対価であるため、課税取引となります。このため、とくに消費税相当額を加えて支払いをしていなくても、その支払いは消費税が含まれる、つまり、税込みで支払ったとして処理します。
以上のように、取引が課税の対象か課税の対象でないかを判断する場合には、「何をもって事業というのか」「対価を得て行われるとは何か」「資産の範囲は何か」「譲渡とは何か」「貸付けとは何か」「役務の提供とは何か」を検討する必要があります。
さて、消費税の申告における不課税取引のリスクは、主として、資産の譲渡や役務の提供を受ける側すなわち支払い側の立場で起こります。
取引そのものに対する判定ミスまたは会計帳簿への入力(確認)上のミスとして、不課税取引を課税取引としてしまい、消費税の申告で消費税相当額を過大に差し引いて申告してしまうことがあります。
すると、消費税の納付もれ(または過大還付)ということになります。
典型的な例として、交際費勘定があります。交際費で計上される取引は、一般的に消費税を支払う取引が大半ですが、不課税取引である香典等を課税取引(課税仕入れ)として処理してしまうことがあります。
この原因としては、香典等が不課税取引なのに課税取引と判定してしまうミスもありますが、他の大半の取引が課税取引(課税仕入れ)であるために帳簿入力で誤って課税仕入れとして経理してしまい、結果として消費税の申告が誤ってしまうのです。
( つづく )