( 5 )法人による株式の譲渡に対する課税

法人税法上では、法人はもっぱら営利を追求し常に経済合理性に従って行動する主体です。

経済合理性に従って行動するということは、取引もその時における価額(時価)で行うものとされ、時価とは異なる価額で取引をした場合には、相手方に対して経済的利益を享受したあるいは供与したということで法人税が課税されます。

今回は、法人が時価とは異なる取引価額で株式を譲渡した場合の税務上の効果を検討します。

目次

( 1 )法人が個人に対して「時価」より低額で譲渡する場合

概要

売主である法人が、買主である個人に対して、譲渡時の(当該法人にとっての)時価よりも低い価額、たとえば「時価」100の株式を40で譲渡したとします。

売主である法人の当該株式の取得価額は50であり、これは取得時の(当該法人にとっての)時価と一致しているものとします。

(借) 現預金 40 (貸) 有価証券 50
有価証券売却損益 10

法人はもっぱら営利を追求し経済合理性に従って行動する存在です。法人税法では、所得金額の計算上、無償による資産の譲渡に係る収益の額を益金の額に算入します(法人税法22条2項)。

つまり、売主である法人は、本来ならば、100を受け取るべきことになるため、このような処理になったはずです。

(借) 現預金 100 (貸) 有価証券 50
有価証券売却損益 50

会計上は有価証券売却損益a/c が借方すなわち売却損10でしたが、譲渡時の時価100で譲渡していたら有価証券売却損益a/c が貸方すなわち売却益50が生じていたことになります。

経済的利益の認識と損金不算入

さて、売主である法人が買主である個人に対して株式を時価(100)より低い価額(40)で譲渡した場合、時価での譲渡なら受け取るべき額(100)よりも少なかった部分(60)は、買主である個人に対して経済的利益を供与したことになります。この部分は(この段階では)損金として認識できます。

上記の例では、次のようになります。

(借) 現預金 40 (貸) 有価証券 50
経済的利益 60 有価証券売却損益 50

この経済的利益がどのような損金になるかは、売主が買主とどういう関係にあるかによって異なります。

  • 当該法人の従業員の場合・・・従業員給与
  • 当該法人の役員の場合・・・役員給与(法人税法34条4項)
  • 当該法人の役員・従業員でない場合・・・寄附金(法人税法37条7項、8項)

ここでやっかいなのが、役員給与や寄附金のうち全額が法人所得の計算上損金とならないことです(後述)。

買主である個人に対する課税と源泉徴収義務

いっぽう、買主である個人にとっても、この経済的利益は所得税等の課税対象となりますが、いかなる所得区分に該当するのかは、やはり売主である法人との関係によります。

  • 当該法人の役員・従業員の場合・・・給与所得
  • 当該法人の役員・従業員でない場合・・・一時所得

買主である個人が売主である法人の役員・従業員の場合には、経済的利益は買主である個人の給与所得として所得税等の課税対象となります。

給与所得ということは、売主である法人は源泉徴収義務者であるため、買主である役員・従業員から所得税および復興特別所得税を源泉徴収して納税しなければなりません。

買主が当該法人の従業員である場合

売主である法人が、従業員に対して、譲渡時の(法人にとっての)「時価」100の株式を40で譲渡したとします。

あらためて会計上の仕訳は次のとおりです。

(借) 現預金 40 (貸) 有価証券 50
有価証券売却損益 10

いっぽう、税務上の仕訳(実際は行いません。イメージです。)は次のようになります。

(借) 現預金 40 (貸) 有価証券 50
従業員給与 60 有価証券売却損益 50

この仕訳をさらに展開します。

(借) 現預金 40 (貸) 有価証券 50
有価証券売却損益 10
従業員給与 60 有価証券売却損益 60

1行目と2行目が会計上の仕訳になり、3行目が税務上で調整する部分となります。

法人税申告書の別表での調整は次のようになります。

  • 有価証券売却益(別表四加算・留保)・・・60
  • 有価証券(別表五(一))・・・60
  • 従業員給与認定損(別表四減算・留保)・・・▲60
  • 有価証券(別表五(一))・・・▲60

会計上は有価証券売却損10ですが、譲渡時の時価100で譲渡した場合には売却益50のため、合計60を別表四で当期純利益に加算します。同時に、別表五(一)では有価証券60を記載します。

会計上は従業員給与を認識していないため、別表四で当期純利益から60を減算します。同時に、別表五(一)で有価証券▲60を記載して、別表五(一)に記載された有価証券は差し引きゼロとなります。

従業員給与は、原則として損金となります。ただし、同族関係者など法人税法上の役員(いわゆる「みなし役員」)に該当すると従業員給与ではなく役員給与となります。

買主が当該法人の役員である場合

売主である法人が、役員に対して、譲渡時の(法人にとっての)「時価」100の株式を40で譲渡したとします。

あらためて会計上の仕訳は次のとおりです。

(借) 現預金 40 (貸) 有価証券 50
有価証券売却損益 10

いっぽう、税務上の仕訳(実際は行いません。イメージです。)は次のようになります。

(借) 現預金 40 (貸) 有価証券 50
役員給与 60 有価証券売却損益 50

この仕訳をさらに展開します。

(借) 現預金 40 (貸) 有価証券 50
有価証券売却損益 10
役員給与 60 有価証券売却損益 60

1行目と2行目が会計上の仕訳になり、3行目が税務上で調整する部分となります。

法人税申告書の別表での調整は次のようになります。

  • 有価証券売却益(別表四加算・留保)・・・60
  • 有価証券(別表五(一))・・・60
  • 役員給与認定損(別表四減算・留保)・・・▲60
  • 有価証券(別表五(一))・・・▲60
  • 役員給与の損金不算入(別表四加算・流出)・・・60

会計上は有価証券売却損10ですが、譲渡時の時価100で譲渡した場合には売却益50のため、合計60を別表四で当期純利益に加算します。同時に、別表五(一)では有価証券60を記載します。

会計上は役員給与を認識していないため、別表四で当期純利益から60を減算します。同時に、別表五(一)で有価証券▲60を記載して、別表五(一)に記載された有価証券は差し引きゼロとなります。

従業員給与と異なり、役員給与は、定期同額給与に該当しない場合には法人所得の計算上損金の額に算入されません(法人税法34条1項)。このため、いったん損金の額に算入した役員給与を再び加算します。 この加算額は、交際費等と同様に翌期以降に繰り越されて調整されることはありません(流出)。

買主が当該法人の役員・従業員でない場合

売主である法人が、役員・従業員ではない個人に対して、譲渡時の(法人にとっての)「時価」100の株式を40で譲渡したとします。

あらためて会計上の仕訳は次のとおりです。

(借) 現預金 40 (貸) 有価証券 50
有価証券売却損益 10

いっぽう、税務上の仕訳(実際は行いません。イメージです。)は次のようになります。

(借) 現預金 40 (貸) 有価証券 50
寄附金 60 有価証券売却損益 50

この仕訳をさらに展開します。

(借) 現預金 40 (貸) 有価証券 50
有価証券売却損益 10
寄附金 60 有価証券売却損益 60

1行目と2行目が会計上の仕訳になり、3行目が税務上で調整する部分となります。

法人税申告書の別表での調整は次のようになります。

  • 有価証券売却益(別表四加算・留保)・・・60
  • 有価証券(別表五(一))・・・60
  • 寄附金認定損(別表四減算・留保)・・・▲60
  • 有価証券(別表五(一))・・・▲60
  • 寄附金の損金不算入(別表四加算・流出)・・・60

会計上は有価証券売却損10ですが、譲渡時の時価100で譲渡した場合には売却益50のため、合計60を別表四で当期純利益に加算します。同時に、別表五(一)では有価証券60を記載します。

会計上は寄附金を認識していないため、別表四で当期純利益から60を減算します。同時に、別表五(一)で有価証券▲60を記載して、別表五(一)に記載された有価証券は差し引きゼロとなります。

寄附金は、損金算入限度額を超えた部分は法人所得の計算上損金の額に算入されません(法人税法37条1項)。このため、いったん損金の額に算入した寄附金を再び加算します。 この加算額は、交際費等と同様に翌期以降に繰り越されて調整されることはありません(流出)。ここでは、全額が損金不算入としています。

( 2 )法人が法人に対して「時価」より低額で譲渡する場合

結論から申し上げますと、売主である法人が、買主である法人に対して、時価よりも低い価額で株式を譲渡した場合の効果は、買主が売主である法人の役員・従業員でない場合と同様です。

売主である法人が、買主である法人に対して、譲渡時の(当該法人にとっての)時価よりも低い価額、たとえば「時価」100の株式を40で譲渡したとします。

売主である法人の当該株式の取得価額は50であり、これは取得時の(当該法人にとっての)時価と一致しているものとします。

(借) 現預金 40 (貸) 有価証券 50
有価証券売却損益 10

法人はもっぱら営利を追求し経済合理性に従って行動する存在です。法人税法では、所得金額の計算上、無償による資産の譲渡に係る収益の額を益金の額に算入します(法人税法22条2項)。

つまり、売主である法人は、本来ならば、100を受け取るべきことになるため、このような処理になったはずです。

(借) 現預金 100 (貸) 有価証券 50
有価証券売却損益 50

会計上は有価証券売却損益a/c が借方すなわち売却損10でしたが、譲渡時の時価100で譲渡していたら有価証券売却損益a/c が貸方すなわち売却益50が生じていたことになります。

さて、売主である法人が買主である法人に対して株式を時価(100)より低い価額(40)で譲渡した場合、時価での譲渡なら受け取るべき額(100)よりも少なかった部分(60)は、買主である法人に対して経済的利益を供与したことになります。この部分は寄附金となります(法人税法37条7項、8項)。

(借) 現預金 40 (貸) 有価証券 50
寄附金 60 有価証券売却損益 50

ここでやっかいなのが、寄附金のうち損金算入限度額を超える部分は損金に算入されません(法人税法37条1項)。

さて、税務上の仕訳をさらに展開します。

(借) 現預金 40 (貸) 有価証券 50
有価証券売却損益 10
寄附金 60 有価証券売却損益 60

1行目と2行目が会計上の仕訳になり、3行目が税務上で調整する部分となります。

法人税申告書の別表での調整は次のようになります。

  • 有価証券売却益(別表四加算・留保)・・・60
  • 有価証券(別表五(一))・・・60
  • 寄附金認定損(別表四減算・留保)・・・▲60
  • 有価証券(別表五(一))・・・▲60
  • 寄附金の損金不算入(別表四加算・流出)・・・60

会計上は有価証券売却損10ですが、譲渡時の時価100で譲渡した場合には売却益50のため、合計60を別表四で当期純利益に加算します。同時に、別表五(一)では有価証券60を記載します。

会計上は寄附金を認識していないため、別表四で当期純利益から60を減算します。同時に、別表五(一)で有価証券▲60を記載して、別表五(一)に記載された有価証券は差し引きゼロとなります。

寄附金は、損金算入限度額を超えた部分は法人所得の計算上損金の額に算入されません。このため、いったん損金の額に算入した寄附金を再び加算します。 この加算額は、交際費等と同様に翌期以降に繰り越されて調整されることはありません(流出)。ここでは、全額が損金不算入としています。

( 3 )法人が「時価」より高額で譲渡する場合

売主である法人が、買主である個人に対して、譲渡時の(当該法人にとっての)時価よりも高い価額、たとえば「時価」100の株式を150で譲渡したとします。

売主である法人の当該株式の取得価額は50であり、これは取得時の(当該法人にとっての)時価と一致しているものとします。

会計上の仕訳は次のとおりとなります。

(借) 現預金 150 (貸) 有価証券 50
有価証券売却損益 100

本来ならば100受け取るべきところを150も受け取っています。この時価100を超えた部分(50)は、買主から経済的利益を供与されたとして受贈益となります(法人税法25条の2第3項)。

そこで、税務上の仕訳(実際は行いません。イメージです。)は次のようになります。

(借) 現預金 150 (貸) 有価証券 50
有価証券売却損益 50
受贈益 50

税務上の調整ですが、会計上の有価証券譲渡益100のなかに受贈益にあたる50があったということにとどまるため、特段の調整は必要ありません。

( つづく )