( 4 )中心的な同族株主がいる場合の判定
財産評価基本通達によれば、議決権の保有が少なく、経営への影響力が小さい株主が取得した株式の評価は、通常は低く評価されうる株価(特例的評価方式=配当還元方式による評価額)が適用されます。
「中心的な同族株主のいる会社の株主のうち、中心的な同族株主以外の同族株主で、その者の株式取得後の議決権の数がその会社の議決権総数の5%未満であるもの(会社の役員または役員となる者を除きます。)の取得した株式」が該当します。
配当還元方式で評価される株式
財産評価基本通達によれば、議決権の保有が少なく、経営への影響力が小さい株主が取得した株式の評価は、通常は低く評価されうる株価(特例的評価方式=配当還元方式による評価額)が適用されます。
具体的には、次に該当する株主が取得した株式です(通達188)。
- 同族株主のいる会社の株式のうち、同族株主以外の株主の取得した株式
- 中心的な同族株主のいる会社の株主のうち、中心的な同族株主以外の同族株主で、その者の株式取得後の議決権の数がその会社の議決権総数の5%未満であるもの(役員または役員となる者を除きます。)の取得した株式
- 同族株主のいない会社の株主のうち、課税時期において株主の1人およびその同族関係者の有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の15%未満である場合におけるその株主の取得した株式
- 中心的な株主がおり、かつ、同族株主のいない会社の株主のうち、課税時期において株主の1人およびその同族関係者の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の15%以上である場合におけるその株主で、その者の株式取得後の議決権の数がその会社の議決権総数の5%未満であるもの(役員である者および役員となる者を除きます。)の取得した株式
実務上は、相続税の申告書や贈与税の申告書に添付する「取引相場のない株式(出資)の評価明細書」第1表の1「評価上の株主の判定及び会社規模の判定の明細書」で行われます。
とはいえ、「同族株主のいる会社」「中心的な同族株主」「中心的な株主」という混乱しがちな用語が出てきて、さらに同族関係者の範囲や親族の範囲など若干ややこしいです。
これらを正しく判定できなければなりませんが、すべての出発点は次のとおりです。
- 相続もしくは遺贈または贈与で異動する株式(評価する対象の株式)とその取得者を押さえます。
- 異動後の株主の状況で、株主と同族関係者からなる株主をグルーピングし、各グループの議決権割合を確かめます。
- 筆頭株主グループの議決権割合で同族株主のいる会社に該当するかどうか判定します。
今回の判定
今回の判定は、上記の「中心的な同族株主のいる会社の株主のうち、中心的な同族株主以外の同族株主で、その者の株式取得後の議決権の数がその会社の議決権総数の5%未満であるもの(役員または役員となる者を除きます。)の取得した株式」です。
同族株主がいない会社の場合は、次回で検討します。
- 同族株主がいる会社で、同族株主グループに属する株主が評価対象となる株式を取得した場合には、その株主本人について取得後の議決権割合を確かめます。
- その株主本人の議決権割合が5%以上の場合、取得した株式の評価は配当還元方式ではなく原則的評価方式で評価します。
- その株主本人の議決権比率が5%未満の場合、まず会社に中心的な同族株主グループがあるかどうか判定します。
- その株主本人の議決権比率が5%未満でも、会社に中心的な同族株主グループがない場合は、その株主が取得した株式の評価は配当還元方式ではなく原則的評価方式で評価します。
- 会社に中心的な同族株主グループがある場合、その株主本人を中心にして判定を行い、本人が中心的な同族株主に該当するかどうか判定します。
- その株主本人が中心的な同族株主に該当する場合は、その株主が取得した株式の評価は配当還元方式ではなく原則的評価方式で評価します。
- その株主本人が中心的な同族株主に該当しない場合、その株主本人が課税時期で役員か申告期限までに役員就任予定かどうかを判定します。
- その株主本人が課税時期で役員か申告期限までに役員就任予定ならば、その株主本人が取得した株式の評価は配当還元方式ではなく原則的評価方式で評価します。
- その株主本人が課税時期で役員でもなく役員就任予定もなければ、取得した株式の評価は配当還元方式で評価します。
同族株主グループに属する株主が取得した株式が配当還元方式で評価できる場合
通達188は中心的な同族株主のいる会社で特例的評価方式(配当還元方式による評価額)で評価できる株式を次の3つを満たした者が取得した株式と規定しています。
- 中心的な同族株主のいる会社の株主のうち、中心的な同族株主以外の同族株主であること
- 株式取得者について、株式取得後の議決権の数がその会社の議決権総数の5%未満であること
- 株式取得者が、課税時期において評価会社の役員(社長、理事長ならびに法人税法施行令71条1項1号、2号および4号に掲げる者)でないこと、および課税時期の翌日から法定申告期限までの間に役員となる者でないこと
「課税時期」とは、財産評価基本通達が相続税または贈与税の課税金額を算定するための財産評価の規定であることから、相続もしくは遺贈または贈与のあった日です。
「法定申告期限」とは、贈与税の場合は贈与のあった日の属する年の翌年3月15日、相続税の場合は相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月を経過する日です。
なお、株式の譲渡の場合にこの通達の規定を用いる場合は、課税時期は譲渡の日となります。
株式を取得した株主の議決権割合の確認
上記は、同族株主グループに属している株主にもかかわらず取得した株式を配当還元方式で評価できる場合の規定です。
前提として「同族株主のいる会社である」「株式を取得した株主は同族株主グループに属している」ことになります。
と申しますのも、そもそも同族株主のいる会社で同族株主グループに属していない株主が取得した株式は配当還元方式で評価できるからです。
さて、相続もしくは遺贈または贈与により株式を取得した者について、取得後の議決権割合が5%以上となる株主の場合は、そもそも中心的な同族株主に該当するかどうかとか役員(となる者)かどうかは関係なく取得した株式を配当還元方式で評価できません。
よって、まずは株式を取得した者の取得後の議決権割合が5%以上かどうかを判定します。
中心的な同族株主がいる会社かどうかの判定
「中心的な同族株主」とは、課税時期において同族株主の1人並びにその株主の配偶者、直系血族、兄弟姉妹及び1親等の姻族(これらの者の同族関係者である会社のうち、これらの者が有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の25%以上である会社を含む。)の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の25%以上である場合におけるその株主をいいます。
「同族株主の判定」との違い
「同族株主」かどうかの判定は、株主とその同族関係者でグルーピングし、各グループとしての議決権割合を判定しました。
「中心的な同族株主」かどうかの判定は、判定対象となる株主(株式を取得した者)それぞれについて、判定対象となる株主を中心にした関係者でグルーピングし、議決権割合を集計します。
このため、他の株主から見ると中心的な同族株主グループの一員となっても、本人から見れば中心的な同族株主に該当しないことがあります。
2段階の判定
中心的な同族株主がらみの判定は2段階あります。
まず、会社の同族株主グループのなかに中心的な同族株主グループがあるかどうかの判定です。
次に、中心的な同族株主グループがある場合、評価の対象となる株式を取得した者が中心的な同族株主に該当するかどうかを判定するのです。
もっとも、評価の対象となる株式を取得した者について、その者を中心として判定を行ったところ中心的な同族株主に該当すれば、同時に「中心的な同族株主のいる会社」と判定されていることになります。ちなみに、その株式取得者本人が中心的な同族株主である場合には、取得した株式は配当還元方式で評価することはできません。
混乱しがちですが、筆頭の同族株主グループの議決権割合が50%以下である場合は、複数の同族株主グループが存在しえます(筆頭の同族株主グループの議決権割合が50%超の場合は、他の株主グループの議決権割合が30%以上であったとしても同族株主グループとはなりません。)。この場合は、評価の対象となる株式を取得した者が属する同族株主グループとは別のグループのなかに中心的な同族株主グループが存在することもありえます。
評価の対象となる株式を取得した者が属する同族株主グループ内でも、本人ではない別の者を中心とした中心的な同族株主グループが存在することもあります。
関係者の範囲
中心的な同族株主の判定で含めるのは次の関係者です。
同族株主グループの判定での同族関係者よりも範囲が狭いです。
- 判定対象となる株主
- 判定対象となる株主の配偶者
- 判定対象となる株主の直系血族
- 判定対象となる株主の兄弟姉妹
- 判定対象となる株主の1親等の姻族
- 上記の者の同族関係者である会社のうち、これらの者が有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の25%以上である会社
3.の直系血族の範囲は次のとおりです。
- 父母(1親等血族)
- 祖父母(2親等血族)
- 曾祖父母(3親等血族)
- 高祖父母(4親等血族)
- 五世の祖(5親等血族)
- 六世の祖(6親等血族)
- 子(1親等血族)
- 孫(2親等血族)
- 曾孫(3親等血族)
- 玄孫(4親等血族)
- 五世の孫(5親等血族)
- 六世の孫(6親等血族)
4.の1親等の姻族の範囲は次のとおりです。
- 子の配偶者
- 配偶者のみの子
- 配偶者の父母
議決権数の集計と議決権割合の判定
中心的な同族株主の議決権割合の算定にあたっては、判定対象となる株主とそのの関係者が有する議決権の合計数が評価対象会社の会社の議決権総数の25%以上となるかどうかで判定します。
中心的な同族株主グループがない会社と判断された場合は、評価の対象となる株式を取得した者の取得後の議決権割合が5%未満であっても、その者が取得した株式は配当還元方式で評価することはできず、原則的評価方式(類似業種比準価額や純資産価額)によって行います。
株式取得者本人が中心的な同族株主となるかどうかの判定
中心的な同族株主がいる会社と判定されたら、評価対象となる株式を取得した株主本人が中心的な同族株主となるかどうか判定します。
このため、判定対象となる株主本人の有する議決権割合は5%未満であっても、関係者を含めた議決権数を合計すると25%を超えてしまうと中心的な同族株主グループに該当することになります。
評価対象となる株式を取得した株主本人が中心的な同族株主に該当する場合は、その者が取得した株式を配当還元方式で評価することはできません。
役員に該当するかどうかの判定
中心的な同族株主に該当せず、本人が保有する議決権比率が5%未満であっても、課税時期で役員であったり、申告期限までに就任した場合には、保有株式数は少数でも経営に関与しているため配当還元方式では評価できません。
役員とは、法人税法施行令71条1項1号、2号及び4号に掲げる者をいい、具体的には、代表取締役、代表執行役、代表理事および清算人(以上1号)、副社長、専務、常務その他これらに準ずる職制上の地位を有する役員(以上2号)、取締役(指名委員会等設置会社の取締役および監査等委員である取締役に限ります。)、会計参与および監査役ならびに監事(以上4号)をいいます。
以上から、本人の議決権割合が5%未満で、中心的な同族株主に該当せず、役員(となる者)でなければ、その者が取得した株式は特例的評価方式(配当還元方式)で評価します。
混乱する原因
混乱するのが、通達の文言が「同族株主のいる会社」「中心的な同族株主のいる会社」となっているため、それぞれの判定基準が同じであるかのように思えてしまうことです。
同族株主の判定基準が議決権割合30%で、中心的な同族株主の判定基準が議決権割合25%であること、さらに、同族株主の判定で筆頭株主グループの議決権割合が50%超の場合は、他のグループは30%以上でも同族株主とはならないために、「同族株主でなくても中心的な同族株主となるのではないか???」となりがちです。
しかし、そもそも何をやっているかというと、株主が取得した株式が配当還元方式で評価できるのはどのような場合かということです。
同族株主のいる会社において、同族株主グループ以外のグループに属する株主の場合はすでに配当還元方式で評価できる(通達188(1))ため、同族株主グループに属する株主が取得した株式でも配当還元方式で評価で評価できるのはどんな場合だろうということです。
また、すでに申し上げたとおり、同族株主のいる会社かどうかの判定と中心的な同族株主となるかどうかの判定はまったく異なります。
「中心的な同族株主」かどうかの判定は、判定対象となる株主(株式を取得した者)それぞれについて、判定対象となる株主を中心にした関係者でグルーピングし、議決権割合を集計するのです。
また、株式取得後の議決権割合が5%未満なのに、会社に中心的な同族株主グループがない場合配当還元方式で評価することができないのも若干疑問が生じます。
取得者本人を含めて会社に中心的な同族株主が存在しないということは、議決権割合の高いグループがないことで会社支配が分散され、個々の株主の議決権割合は低くても経営の影響力が高いため、配当還元方式で評価することができないものと考えられます。
( つづく )