( 2 )個人による株式の取得に対する課税
個人が非上場株式を取得する場合の課税関係についてご説明いたします。
株式について税金が問題となるのは、売主として株式を譲渡した場合が一般的です。
ところが、買主なのに課税されることがあるのです。
時価より著しく低い価額で取得した場合に時価までの部分に対する課税、法人から時価より高い価額で取得した場合に時価を超える部分に対する課税です。
なお、「取得に対する課税」なので、この取得した株式を将来譲渡した場合の譲渡所得金額の計算における取得費はどうなるのかについても併せて検討いたします。
目次
( 1 )個人が個人から「時価」より著しく低額で取得する場合
1-1 無償(相続、遺贈、贈与)で取得した場合
まず、前提としまして・・・
個人が個人から「時価」より時価よりも著しく低い価額で株式を取得する場合の究極は「無償」すなわちゼロで取得する場合です。つまり、相続や遺贈や贈与によって相続した場合です。
相続または遺贈によって無償取得した場合は、相続税が課されます。また、贈与によって無償取得した場合は、贈与税が課されます。
1-2 無償(相続、遺贈、贈与)で取得した株式を譲渡する場合の取得費
個人が株式を譲渡した場合、(それ事業所得や雑所得に該当しない場合には)譲渡所得として所得税等が課税されます。譲渡所得の金額は、譲渡による収入金額から当該株式の取得費および譲渡に要した費用を控除して算定します(所得税法33条3項)。
譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は、別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額ならびに設備費および改良費の額の合計額です(所得税法38条1項)。
相続や贈与で無償で取得した株式を譲渡する場合の取得費は次のとおりとなります。
- 相続(限定承認に係るもの)によって相続した財産・・・ 当該相続により取得した時の時価に相当する金額により、当該取得の時において取得したものとみなされます(所得税法60条4項)。
- 相続(限定承認に係るものを除きます。)によって取得した財産・・・ 前所有者がその財産がその資産を保有していた期間を含めて引き続き所有していたものとみなされます(所得税法60条1項1号)。
- 包括遺贈(限定承認に係るものを除きます。)によって取得した財産・・・ 前所有者(被相続人)がその財産がその資産を保有していた期間を含めて引き続き所有していたものとみなされます(所得税法60条1項1号)。
- 包括遺贈のうち限定承認に係るものによって取得した財産・・・ 当該遺贈により取得した時の時価に相当する金額により、当該取得の時において取得したものとみなされます(所得税法60条4項)。
- 特定遺贈によって取得した財産・・・ 前所有者(被相続人)がその財産がその資産を保有していた期間を含めて引き続き所有していたものとみなされます(所得税法60条1項1号)。
- 贈与によって取得した財産・・・ 前所有者(贈与者)がその財産がその資産を保有していた期間を含めて引き続き所有していたものとみなされます(所得税法60条1項1号)。
なお、相続または遺贈(贈与者の死亡により効力を生ずる贈与を含みます。)による財産の取得をした個人で当該相続または遺贈につき相続税額があるものが、当該相続の開始があった日の翌日から相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日までの間に当該相続税額に係る課税価格の計算の基礎に算入された資産の譲渡をした場合、取得費の金額に、当該相続税額のうち当該譲渡をした資産に対応する部分として計算した金額を加算することができます(相続財産に係る譲渡所得の課税の特例、租税特別措置法39条)。
2-1 著しく低い価額で取得した場合のみなし贈与課税
買主である個人が株式を取得したときの取引価額が時価よりも著しく低い場合は、 実際の取引価額と時価の差額については売主である個人から贈与されたものとみなされます。このとき課されるのは所得税等(所得税、復興特別所得税および住民税を意味します。以下同じとします。)ではなく、贈与税です。
本来ならば、贈与税は価値のある財産を無償つまりタダで取得した場合に課される税です。実際に対価を支払っているのだから贈与ではなく贈与税は課税される筋合いはありません。
しかし、買主である個人が、時価100の株式を40で取得した場合、本来100を支払わなければならないところ40の支払いで済んでいることになります。この差額60は、個人である売主から贈与を受けたものみなされて贈与税が課されるのです。
これが「みなし贈与課税(相続税法7条)」です。
2-2 みなし贈与課税が適用される場合の「時価」
みなし贈与課税が適用される場合の「時価」とは、いわゆる「相続税法上の時価」といわれるものです。具体的には、個人が贈与または相続もしくは遺贈によって取得する財産について贈与税または相続税の課税金額を算定する場合の時価で、財産評価基本通達による価額です。
注意したいのは、この「時価」は、買主である個人について、株式取得「後」に、当該株式の発行会社の株主構成における状況(同族株主(例外あり)か同族株主以外の株主か)によって異なることです。
同族株主の場合の「時価」は、同族株主以外の株主の場合の「時価」に比べて(少なからず)大きいのが一般的です。
たとえば、買主である個人が取得前は同族株主以外の株主のために「時価」は低いため、これに基づいて取引価額を決定したところ、取得後は同族株主等に該当してしまい「時価」が高くなってしまい、この結果、時価よりも著しく低い価額で取得したことになってしまうおそれがあります。
2-3 著しく低い価額で取得した株式を将来譲渡するときの取得費
個人が株式を譲渡した場合、(それ事業所得や雑所得に該当しない場合には)譲渡所得として所得税等が課税されます。譲渡所得の金額は、譲渡による収入金額から当該株式の取得費および譲渡に要した費用を控除して算定します(所得税法33条3項)。
個人が、株式を著しく低い価額で取得した場合にはみなし贈与課税が生じますが、では、将来この株式を譲渡する場合に、譲渡所得金額の計算で譲渡収入金額から控除する取得費(所得税法38条1項、48条)はいくらになるでしょうか。
譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は、別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額です(所得税法38条1項)。
この場合は相続税法7条の「著しく低い価額」かどうかの区分ではなく、「時価(いわゆる所得税法上の時価で、財産評価基本通達そのままの評価額ではありません)の1/2未満の譲渡」かどうか、さらに譲渡の対価の額が取得費と譲渡費用の合計額に満たないかどうかの区分となります。
- 個人から著しく低い価額の対価(時価の1/2未満)による譲渡によって取得した財産のうち、譲渡の対価の額が取得費と譲渡費用の合計額に満たない場合・・・ 前所有者がその財産がその資産を保有していた期間を含めて引き続き所有していたものとみなされます(所得税法60条1項2号)。
- 個人から著しく低い価額の対価(時価の1/2未満)による譲渡によって取得した財産のうち、譲渡の対価の額が取得費と譲渡費用の合計額以上である場合・・・ 実際の譲受けの対価をもって、当該取得の時において取得したものとなります。
買主である個人が、時価100の株式を40で取得した場合、本来100を支払わなければならないところ40の支払いで済んでいることになります。この差額60は、個人である売主から贈与を受けたものとみなされて贈与税が課税されたとします。その後、その株式を150で譲渡したとします。
結論からしますと、この場合の取得費は、取得した時の取引価額となります。上記の例では、取引価額40となります。
ここで疑問が生じます。
たしかに取得は40であるけれども、その時の時価は100だとしてその差額60については贈与を受けたとして贈与税が課税されたのだから、取得費は40ではなく100ではないか。
100でなく40だとすると、60については贈与税が課された経済的価値について再び所得税が課されてしまうため、贈与により取得するものについては非課税所得として所得税を課さないとする所得税法9条1項17号にも反するのではないか。
贈与税は、贈与によって財産が移転する機会に、取得した経済的成果である財産そのものに担税力を認め、当該財産の時価によって課されるものです。つまり、贈与税は取得した財産の価値が課税の対象となっていて、納税をするのは財産を取得した人です。
いっぽう、譲渡所得に対して課される所得税は、資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転する機会にこれを清算して課税するものです。つまり、譲渡所得の所得税は、譲渡すなわち財産を手放すことで、財産を保有していた間に生じた利益が実現した(いわゆるキャピタルゲイン)ことに対して課されるもので、納税をするのは財産を譲渡した人です。
つまり、次元が異なるものです。
しかも、贈与税が課されたのは、純粋な贈与すなわち100の財産をゼロで取得したことによって課せられたのではなく、時価より著しく低い価額で取得したとして、贈与を受けたものと「みなされて」贈与税が課されたのです。
100の価値の財産を40で取得した買主に贈与税が課されたのは、100の財産を40で譲渡した前所有者のキャピタルゲインそのものを譲り受けたわけではありません。
相手方の100の価値の財産を40で譲渡した前所有者はその財産を10で取得したのであれば30のキャピタルゲインが実現して譲渡所得に対する所得税が課税されています。
本来ならば、40ではなく100で売っていれば前所有者には90のキャピタルゲインに対する譲渡所得に対して所得税が課されたところ、40で売ったために実現したキャピタルゲインは30にとどまり、残り60が実現しないまま現所有者に引き継がれたことになります。
その前所有者から引き継がれた60の未実現のキャピタルゲインが現所有者で実現するかどうかは現所有者が譲渡するときの時価しだいですが、たまたま150だったため現所有者の保有期間分のキャピタルゲインと併せて前所有者から引き継がれたキャピタルゲインも含めて清算されることになります。
このように、売主から時価より著しく低い価額で取得したことに対して贈与があったものとみなされて贈与税が課された価値は、売主のキャピタルゲインそのものではないため、経済的価値は同一ではなく、いわゆる長崎年金事件(最高裁判決平成22年7月6日)の事案とは異なり、二重課税ともならず所得税法9条1項17号にも反しません(東京地裁平成25年10月22日判決、東京高裁平成26年4月23日判決)。
( 2 )個人が個人から「時価」より著しくない低額で取得する場合
みなし贈与課税の適用の有無
さて、相続税法7条によれば、「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合」に、取引価額と「時価」との差額が贈与を受けたものとみなされます。
このことからすると、「取引価額よりも低い価額だが著しく低くない」場合には、みなし贈与課税は適用されないことになります。つまり、「時価」100の株式を20で取得した場合には「著しく低い価額の対価」となり、そうすると時価との差額80について贈与税が課税されることになります。いっぽう、80で取得した場合に「著しく低い価額」とならないとすれば、時価との差額について贈与税が課税されないことになります。
この「柔軟性」は、売主も買主もともに個人であり、必ずしも経済合理性に従って行動するわけではないところが影響しているのかもしれません。
もっとも、相続税法7条は「著しく低い価額」と規定していて「著しく低い1株当たりの価額」とは規定していません。よって、1株当たりの価額(株価)が著しく低くなくても、これに株式数を乗じた「価額」が、社会通念上多額でありこれに課税をしないと課税の公平を害するような場合には、株価レベルでは著しく低くなくても課税の対象とされるリスクはあると考えられます。
この株式を将来譲渡するときの取得費
では、「著しく低くない価額」での譲渡による取得した有価証券を譲渡する場合の取得費はどうなるのかについて検討しましょう。
個人が株式を譲渡した場合、(それ事業所得や雑所得に該当しない場合には)譲渡所得として所得税等が課税されます。譲渡所得の金額は、譲渡による収入金額から当該株式の取得費および譲渡に要した費用を控除して算定します(所得税法33条3項)。
譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は、別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額ならびに設備費および改良費の額の合計額です(所得税法38条1項)。
別段の定めとしては、上記のように時価の1/2未満での譲渡により取得した株式を譲渡した場合で、譲渡の対価の額が取得費と譲渡費用の合計額未満の場合がありますが(所得税法60条1項2号)、ここでは「著しく低い価額ではない価額での取得」を想定しているため、これには当たらないものとします。
よって、その資産の取得に要した金額、上記の例では80となります。
( 3 )個人が法人から株式を「時価」より低額で取得する場合
(前提)売主が法人である場合にのみ適用
上記の課税は、「個人が売主」で「個人が買主」の場合で、その取引価額が買主である個人にとって「時価」より著しく低い場合には、取引価額と「時価」との差額について買主である個人に贈与税が課税されるというものでした。
これからご説明する課税は、「法人が売主」である場合に限られます。
法人はもっぱら経済合理性に従って行動するため、法人が行う取引は常に「時価」によるものとされ、「取引価額」が「時価」と異なると「相手方から利益を受けた」「相手方に利益を与えた」となり、法人には法人税が課税され、相手方も反射的に課税されるという理屈です。
低額で取得したことによる経済的利益
買主である個人が、売主である法人から、たとえば、「時価」100の株式を40で取得したとします。この場合、本来100を支払うべきところ40で済んでいます。
株式を「時価」よりも安く取得できたということは、利益(経済的利益)があったことになります。どこから利益を得たのかというと、売主である法人です。
この利益、すなわち、経済的利益は、所得税等の課税対象となります(所得税法36条1項、所得税基本通達36-15(2))。 そして、買主である個人に対する所得税等の課税にあたって、この経済的利益がどの種類の所得に該当するのかは、売主である法人と買主である個人との関係によります。
まず、買主である個人が、売主である法人の役員・従業員である場合、本来なら役員・従業員に100支払うべきところ40で済んでいます。この差額60は売主である法人が買主である役員・従業員に無償の経済的利益を供与したことになります。この経済的利益は、買主である個人に給与を支給したものとされます。よって、給与の支給を受けた買主である個人には、給与所得として所得税等が課税されます。
つぎに、買主である個人が、売主である法人の役員・従業員でない場合も、売主である法人が無償の経済的利益を供与したことになります。この経済的利益は、買主である個人に対する寄附金(法人税法37条)となります。よって、寄附金を受けた買主である個人には、一時所得として所得税等が課税されます(所得税法34条、所得税基本通達34-1(5))。
この株式を将来譲渡するときの取得費
個人が株式を譲渡した場合、(それ事業所得や雑所得に該当しない場合には)譲渡所得として所得税等が課税されます。譲渡所得の金額は、譲渡による収入金額から当該株式の取得費および譲渡に要した費用を控除して算定します(所得税法33条3項)。
将来この株式を譲渡する場合に、譲渡所得金額の計算で譲渡収入金額から控除する取得費(所得税法38条1項、48条3項)はいくらになるでしょうか。
譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は、別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額ならびに設備費および改良費の額の合計額です(所得税法38条1項)。
株式の取得に要した金額は、この例では40となります。
もっとも、買主である個人としては「時価」より安く取得したことにより、取引価額と「時価」の差額(経済的利益)について所得税の課税を受けているため、取得費は取得した時の時価ではないかという考えも成り立ちえます。この例では差額60を加えた100となります。
法人からの贈与によって取得した場合その取得の時における価額に相当する金額により取得したものとみなすという規定があり(所得税法59条1項1号、所得税法60条4項)、贈与を無償の経済的利益と解すれば同じ結論となります。
( 4 )個人が個人から「時価」より高額で取得する場合
買主である個人が、売主である個人から、たとえば、「時価」100の株式を150で取得したとします。この場合、本来100支払えば済むところを150も支払っています。
この取引価額と「時価」の差額50は、売主である個人に対して経済的利益を供与していることになります。
これが仮に買主が法人であったら課税関係が生じますが(受贈益課税)、個人の場合には特段の規定がありません。 買主は個人であり、必ずしも経済合理性に従って行動するわけではないことが影響していると考えられます。
この株式を将来譲渡するときの取得費
個人が株式を譲渡した場合、(それ事業所得や雑所得に該当しない場合には)譲渡所得として所得税等が課税されます。譲渡所得の金額は、譲渡による収入金額から当該株式の取得費および譲渡に要した費用を控除して算定します(所得税法33条3項)。
時価より高額で取得した株式を譲渡する場合、将来この株式を譲渡する場合に、譲渡所得金額の計算で譲渡収入金額から控除する取得費(所得税法38条1項、48条3項)はいくらになるでしょうか。
譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は、別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額ならびに設備費および改良費の額の合計額です(所得税法38条1項)。
このケースでは、別段の定めがないため、その資産の取得に要した金額となると考えられます。この例では150となります。
( 5 )個人が法人から「時価」より高額で取得する場合
買主である個人が、売主である法人から、たとえば、「時価」100の株式を150で取得したとします。この場合、本来100支払えば済むところを150も支払っています。
この取引価額と「時価」の差額50は、売主である法人に対して経済的利益を供与していることになります。
これが仮に買主が法人であったら課税関係が生じますが(受贈益課税)、個人の場合には特段の規定がありません。 買主は個人であり、必ずしも経済合理性に従って行動するわけではないことが影響していると考えられます。
この株式を将来譲渡するときの取得費
時価より高額で取得した株式を譲渡する場合、譲渡所得金額の計算にあたり譲渡収入金額から控除する取得費の額はいくらになるでしょうか。
個人が株式を譲渡した場合、(それ事業所得や雑所得に該当しない場合には)譲渡所得として所得税等が課税されます。譲渡所得の金額は、譲渡による収入金額から当該株式の取得費および譲渡に要した費用を控除して算定します(所得税法33条3項)。
譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は、別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額です(所得税法38条1項)。
このケースでは、別段の定めがないため、その資産の取得に要した金額となります。この例では150となります。
( つづく )