( 2 )会社の評価の前に株主判定

財産評価基本通達では、株式を取得した者について、株式取得後の会社の株主構成や取得者の株主としての地位や経営への影響力の状況によって、株式の評価額が大きく異なります。

議決権の保有が少なく、経営への影響力が小さい株主が取得した株式の評価は、通常は低く評価されうる株価(特例的評価方式=配当還元方式による評価額)が適用されます。

株式の評価というと、ついつい「会社区分」だとか「類似業種比準価額」だとかすぐそちらに話が行ってしまいますし、そのテの専門書のそこに大量の紙数が割かれていますが、実はそれ以前の会社の株主判定のほうがよっぽど重要なのです。

株主判定の重要性

上場されていない株式を売買するときには、売主と買主との交渉で売買価格を決めることになります。実務上は税法上のルールで算定された評価額(株価)によることも少なくありません。

税法のルールとは基本的には相続税法のルール、すなわち財産評価基本通達です(ただし、財産評価基本通達はあくまで相続税や贈与税を課すための規定のため、売買(譲渡)の場面では若干変更して適用されます。)。

財産評価基本通達では、株式を取得した者について、株式取得後の会社の株主構成や取得者の株主としての地位や経営への影響力の状況によって、株式の評価額が大きく異なります。

すなわち、取得者についての株主判定によって、(通常は)高く評価されうる株価(原則的評価方式)と(通常は)低く評価されうる株価(特例的評価方式=配当還元方式による評価額)のどちらが適用されるのかが決まるからです。

ついつい「会社区分」だとか「類似業種比準価額」だとかすぐそちらに話が行ってしまいますし、そのテの専門書のそこに大量の紙数が割かれていますが、実はそれ以前の会社の株主判定のほうがよっぽど重要なのです。

株主判定がキチンとできれば、そもそも特例的評価方式(配当還元価額)での評価が適用されると分かれば、どんなに原則的評価方式(類似業種比準価額や純資産価額での算定結果)による株価算定をする必要がありません。

また、高額で売れるかもしれないと高揚感にあふれていたところ、株主判定したら譲渡相手次第では税法ルールでは配当還元価額でしか売却できないのかという脱力感あるいはヌカ喜びとなるかもしれません。

株主判定の概要

財産評価基本通達によれば、議決権の保有が少なく、経営への影響力が小さい株主が取得した株式の評価は、通常は低く評価されうる株価(特例的評価方式=配当還元方式による評価額)が適用されます。

具体的には、次の株主です(通達188)。

  • 同族株主のいる会社の株式のうち、同族株主以外の株主の取得した株式
  • 中心的な同族株主のいる会社の株主のうち、中心的な同族株主以外の同族株主で、その者の株式取得後の議決権の数がその会社の議決権総数の5%未満であるもの(役員または役員となる者を除きます。)の取得した株式
  • 同族株主のいない会社の株主のうち、課税時期において株主の1人およびその同族関係者の有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の15%未満である場合におけるその株主の取得した株式
  • 中心的な株主がおり、かつ、同族株主のいない会社の株主のうち、課税時期において株主の1人およびその同族関係者の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の15%以上である場合におけるその株主で、その者の株式取得後の議決権の数がその会社の議決権総数の5%未満であるもの(役員である者および役員となる者を除きます。)の取得した株式

実務上は、相続税の申告書や贈与税の申告書に添付する「取引相場のない株式(出資)の評価明細書」第1表の1「評価上の株主の判定及び会社規模の判定の明細書」で行われます。

とはいえ、「同族株主のいる会社」「中心的な同族株主」「中心的な株主」という混乱しがちな用語が出てきます。

これらを正しく判定できなければなりません。

株主判定のタイミング

相続税や贈与税は、財産を「取得した」者に課される税金です。

贈与税の場合、贈与者から財産を贈与により取得した者(受贈者)に課されます。

ところが相続税では、つい被相続人をベースにして「被相続人の財産(遺産)がどのくらい大きいのか」という切り口で捉えがちです。しかし、やはり相続税もまた、被相続人から相続または遺贈によって財産を取得した者(相続人等)に課されます。

そのことからすれば、株主判定は、相続もしくは遺贈または贈与によって株式を取得した者について、相続等によって株式を取得した後の状況で行うのは当然といえます。

譲渡の場合の株主判定のタイミング

ではなぜこの当たり前のようなコメントを持ち出すのかと申しますと・・・

相続や遺贈や贈与によって財産を「取得した者」に課税されるのが相続税や贈与税で、これらの税額を計算するための財産の評価を行うためのルールが財産評価基本通達です。

そして、前回コメントしましたとおり、この財産評価基本通達のルールが、相続や遺贈や贈与ではなく、譲渡の場面の株式の評価にも使われているのです。

一般に、財産の譲渡に伴う売却益に対する課税という場合、課税されるのは譲渡により利益を得た「財産を手放した人」です。譲渡した人が個人ならば所得税、法人ならば法人税です。

そこで、非上場株式を譲渡するにあたって税法のルールによって売買価格を決めようとする場合、あるいは、税法のルールでは決めないけれども課税リスクのため税法のルールでの株価を把握しようとする場合には、一定の要件を満たせば財産評価基本通達によって株式の評価を行うことができます。

具体的には、売主が個人の場合には所得税基本通達59-6、法人の場合は法人税基本通達9-1-14です。なお、法人税基本通達9-1-14は譲渡そのものではなく、有価証券の評価損にあたり取引相場のない株式の時価を算定する場合の規定です。

「財産を取得した」ことで課税する相続税や贈与税で適用する財産評価基本通達を、「財産を手放そう」とする場面で適用するわけですから、適用場面の違いから財産評価基本通達の規定をそのまま適用するわけではなく一部変更して適用することとされています。

その出発点が株主判定です。

「財産を取得した」ことで課税する相続税や贈与税で適用する財産評価基本通達を、「財産を手放そう」とする場面で適用するわけですから、株主判定は、売主にとって株式譲渡前の状況で行うのか、株式譲渡後の状況で行うのかということになります。

たとえば無償で取得した(つまり贈与)の場合の時価は、株式を無償取得した買主が贈与税の申告をする場合は「取得後で判定」するので、これとパラレルで見ると、売主についての株主判定も「譲渡後で判定」するものとも思われます。

しかし、個人の場合の譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨のものであるとされます(最高裁第一小法廷昭和43年10月31日判決など)。そして、所得税基本通達59-6のベースの条文である所得税法59条(贈与等の場合の譲渡所得等の特例)は、贈与等の時点において所有者である譲渡人の下に生じている増加益の全部または一部に対して課税できなくなる事態を防止するため、「その時における価額」に相当する金額により資産の譲渡があったものとみなすこととしたものと解されています。

だとすると、譲渡人については増加益がある時点での時価で評価する必要があり、そのためには株主判定は譲渡人が株式を譲渡する直前の状況で行うべきことになります。

もともと、所得税基本通達59-6ではと株主判定は譲渡前の状況で行うと明記されていました。

  • 財産評価基本通達188の(1)に定める「同族株主」に該当するかどうかは、株式を譲渡又は贈与した個人の当該譲渡又は贈与直前の議決権の数により判定すること。

そして、近時の最高裁判決(令和2年3月24日)を受けて文言がわかりやすく改正されました。

  • (1)財産評価基本通達178、188、188-6、189-2、189-3及び189-4中「取得した株式」とあるのは「譲渡又は贈与した株式」と、同通達185、189-2、189-3及び189-4中「株式の取得者」とあるのは「株式を譲渡又は贈与した個人」と、同通達188中「株式取得後」とあるのは「株式の譲渡又は贈与直前」とそれぞれ読み替えるほか、読み替えた後の同通達185ただし書、189-2、189-3又は189-4において株式を譲渡又は贈与した個人とその同族関係者の有する議決権の合計数が評価する会社の議決権総数の50%以下である場合に該当するかどうか及び読み替えた後の同通達188の(1)から(4)までに定める株式に該当するかどうかは、株式の譲渡又は贈与直前の議決権の数により判定すること。

高裁判決後はいろいろと学者や学者肌の専門家が騒いでいましたが、ある意味当然といえば当然です。

なぜ重要であるはずの株主判定が目立たないか

相続税の申告書や贈与税の申告書に添付する「取引相場のない株式(出資)の評価明細書」では、最初に株主判定が行われます。すなわち第1表の1「評価上の株主の判定及び会社規模の判定の明細書」です。

これほど重要な株主判定なのに、専門書などではなぜあまり目立たないのでしょうか。

その理由のひとつは、財産評価基本通達の構成にあると思われます。

財産評価基本通達(以下「通達」といいます。)は第1章から第8章までとなっていて、取引相場のない株式は「第8章その他の財産」の「第1節株式及び出資」にあります。

通達168(評価単位)で、取引相場のない株式は、上場株式(金融商品取引所(金融商品取引法2条16項)に上場されている株式)および気配相場等等ある株式(登録銘柄、公開途上にある株式)以外の株式と定義されています。

そして、通達169(上場株式の評価)から通達177-2(登録銘柄及び店頭管理銘柄の取引価格の月平均額の特例)と続いてから通達178以下で取引相場のない株式の評価についての規定となります。

通達178(取引相場のない株式の評価上の区分)は、取引相場のない株式についての評価についての原則(本文)と例外(ただし書)を規定しています。

本文は原則的評価方式を規定しており、評価しようとするその株式の発行会社を大会社、中会社または小会社のいずれに該当するか区分し、会社区分に応じた類似業種比準価額と純資産価額の併用割合(L割合)で評価します。

そして、ただし書で規定されている例外は、「同族株主以外の株主等が取得した株式」と「特定の評価会社(比準要素数1の会社、株式等保有特定会社、土地保有特定会社、開業後3年未満の会社、比準要素数0の会社、開業前の会社、休業中の会社、清算中の会社)の株式」の評価です。

株主判定についての規定は、このただし書の「同族株主以外の株主等が取得した株式」(通達188)とその評価額(配当還元価額、188-2)です。

つまり、通達179(取引相場のない株式の評価の原則)から通達187(株式の割当てを受ける権利等の発生している株式の価額の修正)までは原則的評価方式についての規定なのです。

逐条解説はじめ専門書の大半は通達の順序に沿っているために、株主判定が出てくるのは順番的にかなり後になってしまうのです。

また、別の理由として、非上場株式の発行会社の大半は議決権の過半数を親族が保有している「同族株主のいる会社」であるため、親族以外の株主はそのまま少数株主となり、細かく判定する必要性はないからです。

そして、最大の理由が、会社の評価方法の前に「同族株主のいる会社」「中心的な同族株主」などを詳細に説明してしまうと、本題の会社の評価の前に「お腹一杯」になってしまうためと思われます。

( つづく )