( 4 )譲渡制限株式の譲渡手続における留意事項 Part1

譲渡手続における留意点をまとめております。

今回は、譲渡等承認請求者の請求と、譲渡を承認するか否かの承認機関の決定とその通知までです。

参照文献

主として以下の文献を軸に構成いたしました(順不同)。

  • 「株式会社法第5版」江頭憲次郎著 有斐閣 2014年7月(以下「株式会社法」)
  • 「論点体系 会社法 1」江頭憲次郎、中村直人編著 第一法規 2012年1月(以下「論点体系」)
  • 「会社法実務解説」宍戸善一監修、岩倉正和、佐藤丈文編著 有斐閣 2011年12月(以下「実務解説」)
  • 「アドバンス新会社法第3版」長島・大野・常松法律事務所編 商事法務 2010年9月(以下「アドバンス新会社法」)
  • 「類型別会社非訟」東京地方裁判所商事研究会編 判例タイムズ社 2009年7月(以下「類型別会社非訟」)
  • 「逐条解説会社法第2巻株式1」坂巻俊雄、瀧田節編集代表 中央経済社 2008年7月(以下「逐条解説」)
  • 「会社法体系第2巻」江頭憲次郎、門口正人編集代表 青林書院 2008年6月(以下「会社法体系」)

譲渡等承認請求の方法

口頭による請求

請求の方法について、旧商法204条ノ2第1項2項、204条ノ5は書面または電磁的方法によることを義務付けていましたが、会社法には明文の規定はありません。

つまり、請求は書面である必要がありません。会社法138条の事項(譲渡制限株式の数、譲受人(株式取得者)の氏名または名称および住所、会社が承認をしない旨の決定をする場合会社または指定買取人が当該株式を買い取ることを請求する旨)を明らかにして請求する意思を口頭やメールで表示すれば有効な請求となります。

すると、譲渡等承認請求として法的な要件を満たしてしまうと、請求の日から2週間の経過によって会社が譲渡等を承認したものとみなされてしまう可能性もあります(会社法145条1項)。

そこで、あからじめ定款で、または定款から委任を受けた社内規程で、『譲渡等承認請求には書面等によるものに限る』などの定めをすることが考えられます(逐条解説P311、実務解説P159、論点体系P457)。

実務上は、譲渡等承認請求者としても請求をした日(みなし承認の起算日)を明確にしておくことが事後の紛争を防止できることから、請求者側も積極的に書面で請求するのが一般的です。

請求で明らかにする事項

譲渡等承認請求にあたっては「譲渡制限株式の数」「譲受人(株式取得者)の氏名または名称および住所」そして「会社が承認をしない旨の決定をする場合会社または指定買取人が当該株式を買い取ることを請求する旨」を明示すれば足ります(会社法138条)。

譲受人(株式取得者)の職業・勤務先、電話番号を記載する必要はありませんし、売買価格などの取引条件も明らかにする必要はありません(論点体系P457)

株式取得者からの請求

譲渡制限株式を会社の承認なく譲り受けた株式取得者も承認等請求することができます(会社法137条)。これは、会社の譲渡承認がなくても当事者間は譲渡が有効であること(最判昭48.6.15)を前提としています(株式会社法P231)

通常の場合は、まずは株式を譲渡しようとする株主が承認を求めます。

なぜなら、株式を譲り受けても譲渡が承認されないと名義書換えができないため、会社との関係で株主であると主張できませんし、株券発行会社における株式でない場合、株券がないと第三者に対して自らが株主だと主張することもできないからです(130条1項、134条)。

このため、株式取得者からの承認等の請求は、担保権の私的実行による取得、強制執行による取得、競売による取得、端数売却許可による取得などの譲渡人の意思と無関係に取得した者が請求する場面が多いと考えられます(論点体系P444)。

株式取得者が承認等請求する場合、同時に名義書換請求(会社法130条)を行うことが合理的です(論点体系P444)。

抱き合わせの請求ができるか

譲渡承認請求をなす株主が、それと抱き合わせの形で他の請求を会社に対して行う場合があります。 譲渡制限株式を発行するような小規模で閉鎖的な会社の場合、株主の地位が他の利害(取締役、取引先としての地位など)と不可分一体であることが少なくないため、株式の譲渡と併せて会社に対する債権債務の精算など他の請求も行うことがありえます。

しかし、このような抱き合わせの請求は無効であると解すべきであるとされます。なぜなら、会社が2週間以内に結論を出すことは困難な場合が多いからです(株式会社法P237、論点体系P458)。

譲渡不承認の場合に会社または指定買取人が買い取る旨の請求の撤回

譲渡等承認請求者は、株式譲渡の承認の請求にあたって「会社が譲渡不承認の場合に会社または指定買取人が対象株式を買い取ること」も請求できます(会社法138条1号ハ、同2号ハ)。

この場合、会社または指定買取人からの買い取りの通知(会社法141条1項、142条1項)を受けた後は、会社または指定買取人の承諾を得ないかぎり、請求を撤回できません(会社法143条、最判平成15.2.27)。なぜなら、買い取りの通知をする時点で、会社または指定買取人は資金を調達して供託している(会社法141条2項、142条2項)からです。

その反対解釈として、譲渡等承認請求者は、会社または指定買取人からの通知を受ける前ならば、「譲渡不承認の場合に当該会社または指定買取人が対象株式を買い取る旨」の請求を自由に撤回できることになります(最判平成15.2.27、株式会社法P238、会社法体系P65、論点体系P475)。

「請求の日」とは

会社法145条は、会社が譲渡を承認したものとみなされる場合について列挙しています。なお、譲渡等承認請求者と会社とで合意により別段の定めをすることは可能です。

このうち、会社が譲渡等承認請求者の請求の日から2週間(これを下回る期間を定款で定めた場合はその期間)以内に譲渡を承認するか否かの決定内容の通知をしなかった場合には譲渡が承認されたものとみなされます(会社法145条1項)。

そこで、「請求の日」というのがいつなのかが問題となります。

会社法では、会社が株主に発する通知または催告について、その通知または催告が通常到達すべきであった時に到達したものとみなされる規定があります(126条2項)が、それ以外は特段の定めがないため、一般規定である到達時(民法97条1項)となります。

よって、譲渡等承認請求者の請求が会社に到達した日が請求の日となります。書面ならば書面が到達した日となります。

なお、「2週間以内」「通知」については後ほど申し上げます。

譲渡を承認するか否かの決定と通知

譲渡を承認するか否かを決定する承認機関

譲渡等承認請求者からの請求に対して、会社が譲渡等を承認するか否かを決定する機関(承認機関)は、取締役会設置会社については取締役会で、それ以外の会社では株主総会です(会社法139条1項)。

会社法139条1項により取締役会設置会社は取締役会が承認機関となりますが、取締役会を廃止した場合は株主総会が承認機関となります。なお、あえて定款で別段の定めとして譲渡制限株式の譲渡について取締役会を承認機関として定めた場合でも、取締役会を廃止したときは当該別段の定めは無効となるため、原則どおり株主総会が承認機関となります。

承認機関については定款で別段の定めをすることが可能です(会社法139条2項)。

委員会設置会社以外の取締役会設置会社では、定款で別段の定めをして承認機関を株主総会とすることも可能です。しかし、委員会設置会社においては取締役会決議によって執行役に委任することはできない(会社法416条4項1号)ことから、代表取締役の広い裁量に委任するのは好ましくなく、承認の基準を取締役会が決定し、個別案件の処理を代表取締役に委ねるのが望ましいとされます。

公開会社(会社法2条5号)である取締役会設置会社の場合は、承認機関を株主総会にするのは現実的に困難です。なぜなら、株主の全員の同意がないかぎり適時に株主総会を開催できず(会社法300条)、株主総会の招集通知(会社法299条1項)の関係で、譲渡等承認請求者からの請求から2週間以内に承認するか否かを決定して通知しないと譲渡を承認したものとみなされるからです(会社法145条)。

この点、公開会社でない会社は招集通知が株主総会の1週間前までなので、承認機関を取締役会から株主総会とすることに特段の支障はないと考えられます。

なお、会社の発行する株式の一部の株式が譲渡制限株式である場合(会社法108条1項4号)、この譲渡制限株式は種類株式のひとつであり、この株式を有する株主で構成される種類株主総会を承認機関とすることも可能です。

また、株式の類型ごとに異なる承認機関を定めることも可能とされます。

譲渡を承認するか否かを決定する取締役会について

譲渡人または譲受人が取締役がである場合には、「特別な利害関係を有する取締役」(369条2項)に該当するため議決に加わることができないと考えられます(実務解説P161)。

譲渡を承認するか否かを決定する株主総会について

取締役会を置かない取締役会非設置会社は株主総会が承認機関となります。上述のとおり、取締役会設置会社でも定款で別段の定めをして株主総会を承認機関とすることもできます。

この株主総会での譲渡を承認するか否かの決定は普通決議となります(会社法309条1項)。つまり、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行います(定款に別段の定めがある場合を除きます)。

みなし譲渡承認(会社法145条1項)における「通知をしなかった場合」

会社法145条は、会社が譲渡を承認したものとみなされる場合について列挙しています。なお、譲渡等承認請求者と会社とで合意により別段の定めをすることは可能です。

このうち、会社が譲渡等承認請求者の請求の日から2週間(これを下回る期間を定款で定めた場合はその期間)以内に譲渡を承認するか否かの決定内容の通知をしなかった場合には譲渡が承認されたものとみなされます。

先ほど申し上げましたが、「請求の日」とは、請求(意思表示または書面)が会社に到達した日(民法97条1項)です。

そこで、「通知をしなかった場合」の「通知」が問題になります。

譲渡等承認請求者が譲渡人(会社法136条)である場合、請求者は株主名簿に記載・記録されている株主です。このため、会社は株主たる譲渡等承認請求者に通知を発することになります。

会社法126条によれば、株式会社が株主に対してする通知または催告は、株主名簿に記載・記録した当該株主の住所にあてて発すれば足り(1項)、その通知または催告が通常到達すべきであった時に到達したものとみなされます(2項)。

しかし、譲渡等承認請求は譲渡人(株主)だけでなく譲受人(株式取得者)もできます。譲受人(株式取得者)は少なくともこの段階では株主名簿上の株主ではありません。このため、譲渡等承認請求者が譲受人(株式取得者)であった場合、株主に対する規定である会社法126条は適用されず一般原則である民法97条1項が適用されます。

この結果、譲渡等承認請求者が譲渡人(株主)の場合は「通知」とは「通常到達すべきであった時」(会社法126条2項)ですが、譲渡等承認請求者が譲受人(株式取得者)の場合は「通知」とは「実際に到達した時」(民法97条1項)となり異なることになります。

そこで、譲渡等承認請求者が譲渡人(株主)であっても、会社法126条は適用されず民法97条1項が適用され「書面が実際に到達した時」となります(論点体系P494、類型別会社非訟P81)。

よって、「通知をしなかった場合」とは、譲渡等承認請求者に通知が到達しなかった場合ということになります。

みなし承認(会社法145条1項)における「2週間」

会社法には期間について具体的な定めがありません。このため、一般法としての民法の規定に従います。

まず、日、週、月または年によって期間を定めたときは、期間の初日は算入しません。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りではありません(民法140条)。

「請求の日」「通知(をしなかった場合)」がありますが、いずれも午前0時からではありません。民法140条但書は適用されず、「初日不算入」となります。 よって、譲渡等承認請求者の請求が会社に到達した日(民法97条1項)の翌日から2週間となります。

つぎに、期間はその末日の終了をもって満了します(民法141条)。 期間の末日が日曜日、国民の祝日に関する法律に規定する休日その他の休日に当たるときは、その日に取引をしない慣習がある場合に限り、期間はその翌日に満了します(民法142条)。週によって期間を定めたときは、その期間は暦に従って計算します(民法143条1項)。 週の初めから期間を起算しないときは、その期間は最後の週においてその起算日に応当する日の前日に満了します(民法143条2項)。

「請求の日」は午前0時からではなく、週の初めから期間を起算しないことになるため、2週間目の起算日に応当する日の前日に満了します。たとえば、月曜日から2週間以内の場合には、初日を不算入した火曜日から2週間目の起算日に応当する日(翌々週の火曜日)の前日(月曜日)に満了します。期間の末日が休日にあたる場合には、その翌日となります。

以上から、譲渡等承認請求者と会社とで合意による別段の定めがなく、定款で期間を短縮していない場合には、譲渡等承認請求者の請求が会社に到達した日から2週間以内(期間の末日が休日の場合には翌日)に、会社による譲渡を承認するか否かの決定内容の通知が譲渡等承認請求者に到達しなかった場合には譲渡が承認されたものとみなされます。

( つづく )