そもそも株式とは何なのか
会社というバーチャルな存在が「おカネを集め」「事業活動を行う」ための極めて有用なツールが株式というものです。
株式には、おカネを集める単位という面と、会社を支配する単位という面があります。これが、株式を取得しようとする動機にも大きな影響を与えます。
投資(出資)と融資の違いにも触れています。
株式というもの
株式会社(制度)とは、多くの人からおカネを集め、そのおカネを元手により大きな事業を行い、その利益をおカネを出した人に還元しようというものです。
いっぽうで、株式会社は権利や義務の帰属主体となる能力はありますが、法律によって存在するバーチャルなものであり、みずから意思決定を行い事業活動(経営)にあたることができません。
そんなバーチャルな存在が「おカネを集め」「事業活動を行う」ための極めて有用なツールが株式というものです。
なお、かつては株式を表章する「株券」の発行が義務付けられていましたが、現在は株券を発行しないことが原則となっています(株券不発行会社、会社法214条)。
さて、株式には、大きく二つの面があります。これらは密接に結びついていて、株式を取得したり譲渡しようとする人の動機にも大きな影響を及ぼします。
おカネを集める単位として
株式の一面、まずは、おカネを集め、おカネを還元する単位です。
そもそも株式会社制度とは、多数の者が会社におカネを出して、そのおカネを元手にして事業を行うという面があります。おカネを出す単位が低ければ低いほど多くの人がおカネを出しやすくなりますし、またリスクをコントロールしやすくなります。
おカネが集まりやすければそれだけ元手が多くなり、より大きな投資をしてより大きな事業をしてより大きな利益を生み出し、そしておカネを出した人により多く還元(利益配当)できることになります。
とくに上場会社の経営陣が「企業価値の増大」を訴えますが、企業価値の増大というのは、上場会社にとって株価の上昇にもつながります。株価が上昇すれば、とくに株式を発行して資金調達するとき1株あたりの調達額が増えるため、より有利な資金調達が可能になります。株式を上場していない会社でも、企業価値の増大(基本的には貸借対照表の「純資産の部」の額の増大)は、借入金等による資金調達でも調達額や金利面等で有利となります。
また、株価の上昇は、他者を合併したり買収する場合の比率や対価の点で有利となります。
会社を支配する単位として
株式のもうひとつの側面、それは、会社を支配する権利の単位です。
会社は法律によって人格を付与され(法人格)、権利や義務の帰属主体となることができます。しかし、会社それじたいはバーチャルな存在で、自らが意思決定して事業活動(経営)することができません。
そこで、株式会社の意思決定は、株式を持っている自然人(株主)が行うことになりますが、このとき意思決定のパワーの優劣は、株主のカラダの大きさでも声のデカさでもなく、人数でもなく、会社の意思決定の際に行使できる株式(より正確には議決権)の数で決まります。
会社の支配権の強さが株式(より正確には議決権)の数で決まるということは、出したおカネの金額で決まるのではないことを意味します。それは、証券取引所に上場している会社の株価の変動を見れば明らかです。
「企業価値の増大」とこれによる株価の上昇は、株価が高いほど1株を取得コストが増えるため、その会社を買収しようとする者がより多くの資金調達を要求されることから、買収防衛の側面もあります。
また、株価が上昇すれば、株式を発行して資金調達する場合に1株あたりの調達額が増えるため、あまり新株を発行しなくても目標資金を調達でき、持株比率の低下を最小限にすることができます。
ふたつの単位の関係
通常は、1株について1個の議決権が付いています。
ただし、何株かをまとめて1個の議決権とすることができます(単元株制度、会社法188条)。新規上場株式の場合には、100株を1単元として1個の議決権が原則です。
これは、株式に議決権がないというよりも、まとまった株式(1単元)を保有してはじめて議決権を行使できるというものです。
単元株制度がない場合には、保有している株式が198株の場合には、198個の議決権があります。しかし、単元株制度が導入されて100株で1単元という場合、保有している株式が198株の場合には、1個の議決権しかありません。
このため、この98株(単元未満株式)について、株主は会社に98株買い取ってくれと請求できます(単位未満株式買取請求、会社法192条)。逆に、株主が2株を会社から買い増して1単元とできる制度(単位未満株式買増請求制度、会社法194条)を会社が任意で作ることができます。この場合、株主は会社に対して2株を売ってくれと請求でき、会社は自己株式(いわゆる金庫株)を株主に売り渡します。
この単元株制度は、上場株式の場合、議決権だけでなく、売買単位にも利用されます。
現在の上場株式は、すべて1,000株か100株を1単元として売買され、1単元につき1個の議決権となっています。
出資の動機、その多面性
出資、株式というものをおカネを出して取得するという動機はさまざまです。しかも、これらは択一的なものではなくまじりあっています。しかも、おカネを出した時とその後で変化することもまた実に興味深いものがあります。
出資の動機(支配)
先ほど申し上げた通り、株主にとって、株式会社の意思決定に影響を及ぼすかは、会社の株式(議決権)をどれだけを保有しているかによって決まります。とくに重要な意思決定になればなるほど、より多くの議決権を行使できなければなりません(特別決議、特殊決議)。
このため、会社を支配したいという動機があれば、より多く出資して一定の株式数を保有する必要があります。
ところで、すでに会社を支配する株式(議決権)をもっている株主が、今後もそれを維持しようとすればとくに何もしなければよいのですが、資金調達を借入金などでなく増資(株式を発行して資金を調達すること)によろうとする場合、とくに、議決権のある株式を発行せざるをえない場合、その株式を自分で引き受けなければ、自らの持株比率(議決権行使比率)が減り、会社支配力が弱まることになります。
株主が自分の願望どおりに会社を動かしたい場合には、チカラ技で株式を市場や相対で買い増すことが考えられますが、資金面その他の事情で困難なときは、他の株主を説得するか、株主総会での決議につき委任状を集めるという行動となります。
いわゆる「委任状争奪戦」の理由はここにあります。
出資の動機(インカムゲイン)
会社を支配しようという動機は特にない人からするとどうでしょうか。
出資といっても、経営にはあまり興味がない場合、また、出資しても議決権比率が低く経営への影響力がほとんどない場合には、株主としては経済合理性が主な出資の動機となります。
ひろく多数の者からおカネを集め、そのおカネを集めて事業を行い、そこから得られたもうけを分配する(配当)ことが株式会社というものだとすると、少なくとも定期預金利息よりも高い利回りの配当があるというのなら、出資しようかということになります。
なお、株主であることでいろいろな優遇措置(たとえば株主優待)などを受けられるのであれば、これもまた配当のひとつともいえ、出資の動機となります。
出資の動機(キャピタルゲイン)
証券取引所に上場している株式を取得する動機の少なくない部分がこれに該当するものと思われます。
取得した会社の価値が上がれば、株式を他人に譲渡することによって利益を得られることになります。
いっぽう、いわゆる非上場の株式に対して出資をする場合、その株式は譲渡制限が付されており、譲渡には会社の承認が必要で、また、市場で流通していないために売買価格の決定も交渉ごととなります。このため、将来的に株式を上場する見込みであるなどの事情がないと、もっぱらこの動機で出資する可能性は少ないと考えられます。
出資の動機(おつきあいその他)
その他、主体的または積極的な動機はないものの、友人のおつきあいでとか、ともすれば非自発的に従業員持株会に加入することになっている等で、出資するということがあります。
会社経営などにもあまり口を出さない「モノ言わぬ」安定株主であることから、会社を積極的に支配したい株主にとっては、都合のよい株主といえます。
出資と融資の違い
支配とか配当とかの動機がなく、おつきあい的に出資した株主にありがちなのが、出資したという感覚でなくおカネを貸したという感覚です。
逆に、取締役として業務執行を任された人にありがちなのが、出資した株主から経営を委任されたという感覚でなくおカネを借りたという感覚です。
ここで、出資と融資の違いを考えてみます。
出資
おカネを出した側(株主)
おカネを出した(出資した)人は、株式会社の株式を引き受けてその会社の株主となり、その株式数(金額ではありません)に応じた支配権(議決権)を得ます。
出資した人が持っているのは株式(有価証券)ということになります。
株式が普通株式の場合、配当を受ける権利がありますが、配当が発生するかどうか、その配当がいくらなのかは株式会社に原資があり、かつ、会社が配当をいくら払うと決めたときにはじめて受けることができます。
ただ、株主は議決権を持っているため、会社の機関形態によっては、配当をするか否か、その額はいくらかについての決定に参画できる余地があります。
株主にとって、この出資したおカネの回収手段は、他人(会社も含めて)に譲渡することです。証券取引所などに上場している株式の場合は市場などで売却すればよいわけですが、上場していない株式の場合には、株式会社の機関(取締役会など)の承認を得ないと譲渡ができないことが一般的です(譲渡制限株式)。合併など会社が劇的に変化する場合に、これに反対した場合には会社に株式を買い取ってもらうことができますが、通常は会社に一定の原資がないと不可能です。
おカネを受けた側(会社)
いっぽう、出資を引き受けた株式会社からみると、このおカネは、返済しなければならない借入金(他人資本)ではなく、返済する必要のない元手(自己資本)です。
事情のわからない株主から「返済」を求められても、それに応じる根拠はありません(なお、会社の財政状態によっては自己株式を買い取るという形はあります)。
この返済を要しない資金で、事業を行い利益をあげ、これを株主に配当という形で還元します。配当をするかしないか、するとしてもいくらかは会社(の経営陣)が決めることになります。
いっぽう、利益を蓄積して元手を含めた純資産を増やすということは、いわゆる企業価値(1株当たりの価値、株価)を増大させることになります。企業価値の増大は信用力の増大につながり、借入金などの他人資本による資金調達にも、そして増資等の自己資本による資金調達にも有利となります。また、証券取引所に上場している場合には、株価の上昇は資金調達のみならず、株式の売却による売却益(キャピタルゲイン)を求める(潜在的)株主にとって取得の動機を与え、それがさらに株価の上昇をもたらすことになります。さらに株価の上昇は、M&Aで相手会社に対する優位性にもつながります。
融資
おカネを出した側(貸主、債権者)
おカネを出した(融資した)人は、株式会社の債権者となります。出資の場合には株主は他人に譲渡することで資金を回収しますが、融資の場合は(金銭消費貸借)契約に基づいて利息を受け取り元本を返済してもらえます。
株主と違って会社を支配する権限はありませんが、会社の債権者として、貸付債権の回収を確実にするために会社経営に対して一定の影響力を持つことになります。
なお、所有と経営が一致している大多数の株式会社の場合、大株主兼代表取締役(社長)から借り入れる、つまり、株主でもあり債権者でもあることはむしろ一般的です。この貸付金は「あるとき払い(返し)」になることが多く、ずっと残高が残ったままになっていることが少なくありません。
この貸付金、これは、大株主兼代表取締役(社長)の相続財産を構成します。どうしても大株主兼代表取締役(社長)の保有する株式をどう承継するのかばかり議論がいきがちですが、ここが重要です。
おカネを受けた側(会社、借主、債務者)
いっぽう、おカネを受けた会社は、おカネを借りている債務者となります。返済しなければならないおカネ(負債)が増えたことを意味します。
契約どおり返済し利息を支払わなければなりません。
株主でないため、会社経営に直接関与されることはありませんが、相当の影響を受けることになります。
( つづく )