そもそも譲渡制限株式とは何か

譲渡制限株式とは、文字通り譲渡が制限されている株式です。

しかし、それでは何の説明にもなっていません。なぜ譲渡が制限されているのか、その前提として、なぜ株式は譲渡されなければならないのかについて検討します。

株式投資(出資)と資金の回収手段

ある株式会社の株式を取得する(投資する、出資する)動機はさまざまです。特殊な株式でないかぎり、株式(普通株式)には会社を支配する権利(議決権)が付いています。株式を取得すると、取得した議決権によって会社を支配することができます。その会社の議決権の総数に占める比率が高まるほど支配力は高まります。

しかし、大多数の者にとって、株式の取得はその会社の支配することが動機ではありません。経済的動機によるものなのです。

さて、株式を取得するにはおカネを出さなければなりません(投下資本)。その会社の価値(企業価値)が高ければ高いほど多くの資金を出さなければ株式を取得することはできません。

このおカネは、会社への貸付金(融資)とは異なり、会社から返済を受けることはできません。

返済を受けることができないとなると、株式取得に投じた資金は戻ってこないのでしょうか。

そこで、この投下資本の回収の手段としては、長期間にわたって会社の利益から配当を受けたり(インカム・ゲイン)やもろもろの株主優待関係の便益もあるかもしれませんが、基本的には、株式を譲渡(売却)し、その売却資金によって回収することになります。

株式会社の株主は、その有する株式を譲渡することができます(会社法127条)。

株主が、株式の取得に伴う資金、つまり、投下資本を回収するためには、保有する株式を他人に譲渡することになります。と申しますのも、株式会社から出資分の払い戻し(退社)は通常はできないからです。なお、株主が会社に株式を譲渡する(会社が株主から株式を買い取る)のは、払い戻しではなくまさに譲渡そのものです。

株式譲渡の制限の必要性

ところで、我が国の大多数の株式会社は、少数の株主で構成され、その株主または近親者が(代表)取締役として経営を行ういわゆる同族会社です。

このような会社では、株主の個性や各株主の持株比率が重要となります。なぜなら、株式が他人に自由に譲渡できてしまうと、会社にとって好ましくない者が株主となって会社支配や経営に混乱が生じたり(生じさせたり)、また、持株比率が変動して(変動させて)各株主の会社支配力が容易に変わってしまう(変えてしまう)からです。

そこで、会社法は、株主の投下資本回収手段を確保しつつ、会社の支配や運営に支障がないようにするために、株式の譲渡(による取得)について会社の承認を要する株式を発行できるようにしています。

そこで、株式の譲渡(取得)について、当該株式会社の承認を要する旨の定めをした株式を「譲渡制限株式」といいます(会社法2条17号)。

譲渡制限株式とその発行態様

会社が発行するすべての株式について譲渡制限を付すこともできますし、一部の株式について譲渡制限を付すこともできます。

会社が発行するすべての株式について行う場合

株式会社は、その発行する全部の株式の内容として「譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要すること」を定めることができます(会社法107条1項1号)。

そのためには、次の事項を定款で定めなければなりません(会社法107条2項1号)。

  • 当該株式を譲渡により取得することについて当該株式会社の承認を要する旨
  • 一定の場合においては株式会社が譲渡の承認をしたものとみなすときは、その旨および当該一定の場合

わが国の大多数の株式会社は、発行するすべての株式に譲渡制限を付しています。

譲渡制限株式を発行しているかどうかは会社の定款に記載され、かつ、登記事項のため、会社の登記簿謄本ですぐに確認することができます。

会社が発行する一部の株式について行う場合

会社が発行するすべての株式について譲渡制限を付すことが一般的ですが、一部の株式についてのみ譲渡制限を付すことも可能です。この場合、会社は複数の種類の株式(種類株式)を発行していることになります。

この場合には、次の事項を定款で定めなければなりません(会社法108条1項4号、2項4号)。

  • 当該株式を譲渡により取得することについて当該株式会社の承認を要する旨
  • 一定の場合においては株式会社が譲渡の承認をしたものとみなすときは、その旨および当該一定の場合
  • 譲渡承認株式の発行可能株式総数

承認機関と「一定の場合」

譲渡を承認する会社の機関は、取締役会がある会社(取締役会設置会社)では取締役会が一般的ですが、取締役会のない会社(取締役会非設置会社)では、株主総会や代表取締役が一般的です。

また、譲渡の承認をする会社の機関を定めつつ、当該機関の承認を経ずしても承認があったものとみなされる「一定の場合」としては、(既存の)株主間の譲渡の場合や、代表取締役が承認した場合などがあります。

公開会社と「非公開会社」

一般的なイメージでは、公開会社とは株式を上場している会社になりがちですが、会社法の用語でいう「公開会社」は、譲渡制限株式でない株式を1株でも発行していたら公開会社となります。つまり、一般的に言われている非上場会社であっても、会社法では公開会社ということもあります。

いっぽう、譲渡制限株式を発行している会社は、「公開会社でない会社」です。

(おわり)