( 5 )決算日休日におけるラフな社会保険料の会計処理の破綻

新規のクライアントについて、前任の会計事務所の会計処理をチェックするわけですが、とりわけ決算日が休日の場合でのもったいなさが如実に現れることが多々あります。

つまり、月末(決算日)が金融機関がお休みで、とくに口座振替が翌月初になる部分の処理です。12月決算が典型的です。

従業員等負担分について法定福利費のマイナスで処理している場合、1月4日口座振替の未払計上を行わないと、ムダな益金計上となっています。

さらに、賞与を支給している場合はなおさら傷口が広がっているおそれがあります。

お手軽な社会保険料の会計処理

すなわち、従業員等負担分は法定福利費a/c のマイナスとして処理し、一方で、社会保険料の支払いは従業員等負担分も含めて全額法定福利費とする処理です。

給料発生時

(借) 給料 XXX (貸) 預金等 XX
法定福利費 X

社会保険料納付時

(借) 法定福利費 XX (貸) 預金等 XX

社会保険料には会社負担分(事業主負担分)と従業員等負担分(被保険者負担分)があります。このうち、会社負担分は会社の費用(法定福利費)となりますが、従業員負担分は費用とはなりません。

そこで、社会保険料の納付の会計処理では、従業員等負担分も含めた全額を法定福利費として処理し、一方、給料で従業員等負担分については法定福利費のマイナスとして処理します。

費用と費用のマイナスということで相殺が行われたような形になって、結果として会社負担分のみが会社の費用となります。

月末が休日の場合の破綻

このような処理がほぼほぼ大丈夫なのは、月末にちゃんと納付がされている場合です。

月末日が休日の場合、とりわけ12月決算の場合は確実にそうなるわけですが、翌月の月初日に納付する保険料の未払計上をキチンと行わないと、どうなるでしょうか。

12月分の給料に係る社会保険料の従業員負担分は法定福利費のマイナスにしているわけです。ところが、それに対応する社会保険料の納付額の計上がもれているわけです。

法定福利費のマイナスがまるっとムダな益金となったままとなります。

社会保険料については、ひと月遅れの納付となります。5月末日が納期限の社会保険料はひと月前の4月分です。1月4日に口座振替されるのは前年の11月分です。12月中に納入通知書が届いているので、確実に損金算入もできます。

未払計上していれば、会社負担分も損金に算入できたはずなので、壮絶な納税額のムダとなります。

とくに、12月は賞与も支給しているケースもあるため、これも法定福利費のマイナスのままで終わっていたらさらに悲惨な状況となります(しかし賞与については後述します)。

ちゃちい節税対策だとかそんなのよりも、よっぽど重要なところが抜けているというわけです。

新規のクライアントの前事業年度の会計処理をレビューすると、決算日が平日ならば費用として計上されたであろう部分がまったく未払計上されていないケースが多々あります。

12月決算ならば、1月4日に口座振替されている社会保険料や携帯電話等の通信費などです。

賞与の部分はどうなっている?

話を月末(決算日)が休日となる12月決算で展開しますと、11月や12月に冬季賞与を支給する事業所は多々あります。

賞与を支給した場合、5営業日以内に健康保険組合や年金事務所等に賞与支払についての情報を届け出なければなりませんが、この手続きが遅れてしまうと、11月に支給した賞与に係る社会保険料も11月分の納付額(1月4日が納期限)に反映されません。

賞与に係る社会保険料が含まれている場合には、いつもより相当大きな納付額になっているのでわかりやすいのですが、たとえ11月中に賞与を支給していたとしても、当方の手続や先方の事務処理の関係で1月4日が納期限の11月分の社会保険料にはまだ反映されていないこともあります。

ここまでで何を申し上げたいかややバレバレですが、月末が休日かどうかにかかわらず、賞与に係る社会保険料の未払計上がポイントになります。

たとえば、12月中に届いた納入通知書の納付額が通常の月と大差ない場合には、賞与に係る社会保険料はまだ反映されていないということになります。

ということは、納入通知書に反映されていない賞与分に係る従業員等負担分を法定福利費のマイナスとして処理するのは、さらにムダな益金計上となります。

そこで、賞与分に相当する会社負担分も含めて未払計上することになると思われますが、この場合は、後日、賞与に係る社会保険料が含まれた納入告知書の金額との差額を調整処理することになります。もっとも、もともとイージーな会計処理をしているのにこのような殊勝な処理をする可能性は限りなくゼロに近いと思われます。

現実的な対応

厳密な期間対応を求めるのであれば、賞与分に相当する会社負担分の法定福利費を、賞与を支給した時点で計上すべきです。とくに、12月決算の場合は期をまたいでしまうからです。

もっとも、根本的な問題はムダな益金を計上していることを回避することにあります。だとすれば、賞与に係る従業員等負担分の負担分は法定福利費のマイナスではなく、預り金a/c で処理すべきと考えられます。

もちろんこの場合は、12月決算では賞与に係る社会保険料の法定福利費については翌事業年度に計上されるため期をまたぐことになってしまいますが、「そもそも社会保険料はひと月ズレてるじゃん」と割り切って保守的な処理を求めるのであればそれも妥当といえます。

まあそれならば、通常月の場合も法定福利費のマイナスではなく預り金a/c で処理して、さらに言えば、決算月でなくても月末が休日の場合には社会保険料などは未払計上するのがマトモな月次決算ですよねということになります。

いわゆる「期中現金主義」の会計処理が骨の髄まで染み込んでいると、まったく何の話かわからないかもしれません。申し訳ございません。

( おわり )