( 1 )労働保険料の会計処理の特殊性

労働保険料の計算期間が一律に4月1日から翌年の3月31日までであり、必ずしも法人の事業年度と一致していません。

しかも、保険料は概算額を前払いする必要があり、その概算保険料の納付のタイミングが年1回から3回であるため、会計上重要な「期間損益」をどれだけ厳密に反映させることができるのかという問題もあります。

さらに、概算保険料の支払いがある一方で月々の給料から天引きする雇用保険料の従業員負担分をどう処理するのかという問題もあります。

労働保険とは

労働保険にはさまざまな論点がありますが、とくに経理処理に関係する部分について簡単にご説明いたします。

労働保険料の内訳と負担関係

労働保険料は、労災保険料と雇用保険料と一般拠出金の3つから構成されます。

別の言い方でいえば、雇用保険や労災保険は「労働保険の一部」ということになります。

労働保険料を納付するのは事業主(法人)ですが、雇用保険料については、その一部を被保険者(従業員等)が負担します。よって、雇用保険料の被保険者(従業員)負担分は、給料支払いの際に天引きすることが一般的です。

労働保険料は、賃金総額に料率を乗じて算定します。賃金総額には、月々の給与のみならず、賞与や(所得税が課税されない)通勤交通費やいわゆる現物給与などの経済的利益も含まれます。

労災保険料の料率は業種によって大きく異なります。0.25%(1,000分の2.5、金融業、保険業、不動産業、通信業、放送業、新聞業、出版業ほか)から8.8%(1,000分の88、金属鉱業等)です。

雇用保険料の料率は、「一般の事業」「農林水産清酒製造の事業」「建設の事業」によって異なります。

  • 「一般の事業」1.55%(1,000分の15.5、事業主負担0.95%、従業員等負担0.6%)
  • 「農林水産清酒製造の事業」1.75%(1,000分の17.5、事業主負担1.05%、従業員等負担0.7%)
  • 「建設の事業」1.85%(1,000分の12、事業主負担1.15%、従業員等負担0.7%

一般拠出金の料率は0.002%(1,000分の0.02)です。

そして、労働保険料の法人負担分が、会計上は法定福利費となります。

言い換えれば、雇用保険料の一部(従業員負担分)は会社の法定福利費とはなりません。毎月の給料や賞与の時に天引きします。

労働保険料の申告と納付

労働保険料の計算期間(年度)

計算期間は、法人の事業年度(決算期)に関係なく一律に前年4月1日から3月31日までです。

労働保険料の申告

労働保険料の確定申告は6月1日から7月10日までに行います。

労働保険料の申告と納付は、次のふたつの側面があります。

  • 前年度分の確定額の申告と概算納付額の精算
  • 当年度分の概算額の申告

たとえば、2023年の労働保険の申告は、前年度(2022年4月1日から2023年3月31日まで)の確定額を申告しつつ、当年度(2023年4月1日から2024年3月31日まで)の概算額を申告するというものです。

当年度の概算保険料の額は、今年度の賃金総額を予測して算定します。

前年度分の確定申告の結果、前年度の確定した保険料が既に納付した概算保険料よりも多い場合は、今年度の概算保険料の納付に追加して納税し、前年度の概算保険料が確定保険料よりも多かった(過大納付となった)場合は、原則として還付ではなく今年度の概算保険料の納付から差し引く(充当する)ことになります。

なお、年度の中途で事業規模の拡大等により賃金総額の見込額が当初の概算保険料の申告より2倍を超えて増加し、かつ、その賃金総額によった場合の概算保険料の額が申告済の概算保険料よりも13万円以上増加する場合は、増加額を増加概算保険料として申告・納付します。

労働保険料の納付

4月1日から翌年3月31日までの概算保険料は7月10日までに一括払いするのが原則となっていますが、概算保険料が40万円を超えたり、労働保険事務組合に委託している場合には3回に分割払いすることが可能です。分割納付の場合の納期限は、原則として第1期が7月10日、第2期が10月31日、第3期が翌年1月31日となります。

当年度分の概算保険料(および前年度分の不足額)は7月10日までに一括払いするのが原則です。ただし、口座振替の場合には9月6日となります。

ただし、概算保険料が40万円を超えたり、労働保険事務組合に委託している場合には3回に分割払いすることが可能です。分割納付の場合は、原則として第1期が7月10日、第2期が10月31日、第3期が翌年1月31日となります。

分割納付の場合の納期限は、原則として第1期が7月10日、第2期が10月31日、第3期が翌年1月31日となります。労働保険事務組合に委託している場合は、第1期が7月10日、第2期が9月6日、第3期が翌年2月14日となります。さらに、口座振替の場合は、第1期が9月6日、第2期が11月14日、第3期が翌年2月14日となります。

労働保険料の会計処理の特殊性

労働保険料の会計処理が本テーマのポイントなので細かいことは後ほど申し上げます。

労働保険料のうち、労災保険料と一般拠出金は全額が事業主(法人)負担で、雇用保険料が事業主(法人)と被保険者(従業員等)との両者が負担します。よって、雇用保険料の被保険者(従業員等)負担分は、給料支払いの際に天引きすることが一般的です。

すると会計上の損益のポイントは次のとおりです。

  • 労災保険料と一般拠出金は全額が会計上の費用(法定福利費)
  • 雇用保険料は事業主負担分のみが会計上の費用(法定福利費)

しかし、労働保険料の会計処理が悩ましいのは、決算期とは必ずしも一致しない労働保険料の計算期間において、概算保険料を前払いする一方で月々の給料から天引きする雇用保険料の被保険者(従業員等)負担分が生じるという点にあります。

主な論点としては次のとおりです。

  • 保険年度は法人の決算期に関係なく4月1日から3月31日だということ
  • 当年度の保険料は事実上の前払いとなるものの、それは概算額であること
  • 「当年度の概算額」に「前年度の確定額の精算」が入っていること
  • 分割納付もあること
  • よって、概算額の償却というものは理論的に不自然であること
  • 一方で、翌年の申告で確定保険料を構成する実際賃金と労働保険料は発生していること
  • 実際賃金から発生する被保険者(従業員等)の雇用保険料の処理が諸説あること

( つづく )