( 2 )社会保険料の算定の概要

当月分(前月分)の社会保険料の納入告知書の通知が到達するのは翌月(当月)の後半のため、通常は月次決算に取り込むことは困難です。

期間損益をより適正化したり、原価計算の精度を向上させるためには、社会保険料を概算計上する必要があります。

このため、この保険料の算定方法の概要を押さえておく必要があります。

実務的な手続き上のポイントや細かい論点は割愛して、保険料等の算定の概要についてコメントいたします。

社会保険料の算定

社会保険料は各月で実際に発生した給料の額で算定されるわけではありません。

標準報酬月額に料率を乗じることによって算定されます。

そこで、標準報酬月額の決まり方と、料率そして会社と従業員等との負担関係を押さえる必要があります。

標準報酬月額

健康保険、厚生年金保険、厚生年金基金の保険料等は、月給をベースにした標準報酬月額に保険料率を乗じて算定されます。

標準報酬月額は健康保険や厚生年金保険で同一ですが、健康保険のほうが下限と上限が広く、健康保険料(および介護保険料)50等級、厚生年金保険料は31等級からなります。

標準報酬月額は、新たに入社した者については入社時の月給(報酬)を基礎として算定します。また、7月1日現在の被保険者(役員、従業員)について、4月、5月、6月に受けた報酬の平均額を標準報酬月額等級区分にあてはめて、その年の9月から翌年の8月までの標準報酬月額を決定します。このため、9月分から翌年8月までは原則として報酬月額は一定となり、以下の随時改定や保険料等の料率が変更されないかぎり原則として被保険者の保険料額は一定となります。

ただし、昇給や降給で基本給や家族手当など継続的に支払われる固定的賃金に変動があった場合、変動があった月以降継続した3ヶ月間に支払われた平均額が現在の報酬月額との間に2等級以上の差が生じ、かつ、その3ヶ月とも支払の基礎となる日数が17日以上あるときは、報酬月額が改定されます(随時改定)。

賞与を支給した場合にも、標準賞与に料率を乗じた保険料が発生します。ただし、年4回以上の支給については、標準報酬月額の対象となります。標準賞与とは支給額の1,000円未満を切り捨てた額ですが、健康保険では4月から3月までの年度の累計額が573万円、厚生年金保険と子ども・子育て拠出金は1月あたり150万円が上限となっています。

ポイントは次のとおりです。

  • 保険料は標準報酬月額で算定されるため、実際の給料等に料率を乗じたものではありません。
  • 標準報酬月額には、一般的に会計上は別勘定で計上される通勤交通費を含めて判定されます。
  • 実際の給料が変動しても、ただちに標準報酬月額が変動する(随時改定)の事由とはなりません。
  • 随時改定の要件の一つである昇給等があっても、昇給等があった月から保険料は変動しません。
  • 随時改定の効果が発生するのは、昇給等による給料の増減があった月から4ヶ月目となります。

保険料率と負担関係

健康保険、介護保険

健康保険については、全国健康保険協会(協会けんぽ)か健康保険組合が主体となります。介護保険料は40歳以上65歳未満が対象となります。

全国健康保険協会(協会けんぽ)の場合は、健康保険料と介護保険料の料率が都道府県ごとに異なります。2023年3月分(納付は4月末)からは東京都の場合は、10.00%で、40歳以上65歳未満の場合は、11.82%です。その差額分が介護保険料となります。

全国健康保険協会(協会けんぽ)の場合には、保険料は労使折半すなわち事業者と被保険者が保険料を半額ずつ負担します。健康保険組合の場合には事業者の負担割合を増やすことができます。

厚生年金保険料、厚生年金基金

厚生年金保険料のほかに、全額会社負担の「子ども・子育て拠出金」があります。個々の従業員の標準報酬月額に料率(2023年4月分以降は0.36%)を乗じた額の総額を負担します。

年金機構の厚生年金保険料の負担割合(一般の被保険者の場合)は事業主(会社)と被保険者(従業員等)で折半(18.3%を折半)です。なお、厚生年金基金に加入している場合は、18.3%から、基金ごとに定められている免除保険料率(2.4%から5%)を控除します。

厚生年金基金の厚生年金保険料も労使折半ですが、基金に加入している場合の厚生年金保険料は、18.3%から、基金ごとに定められている免除保険料率(2.4%から5%)を控除して計算するため、その分年金機構の場合よりも従業員負担が軽くなります。ただし、この負担軽減部分は、基金への掛金(基本標準掛金)の従業員負担分となるため、結果として厚生年金基金と年金機構とで従業員等の負担の違いはありません。

年金機構の厚生年金保険料の被保険者負担分=厚生年金基金の厚生年金保険料と基本標準掛金の加入員負担分

厚生年金基金の基本標準掛金は会社と加入員(従業員等)と必ずしも折半ではなく、会社負担分が大きいことがあります。さらに、厚生年金基金には加算標準掛金(全額会社負担)や事務費掛金(全額会社負担)があります。なお、過去勤務債務の償却に充てるための掛金(全額会社負担)もあります。

ポイントは次のとおりです。

  • 健康保険組合の場合には、通常は会社負担のほうが大きいため従業員負担分と同額が会社負担分(法定福利費)とはなりません。
  • 厚生年金基金の場合には、会社負担のほうが大きいため従業員負担分と同額が会社負担分(法定福利費)とはなりません。
  • 厚生年金基金の場合には、会社負担分(基本標準掛金、加算掛金、事務費掛金)を基金の料率で算定します。
  • 産前産後休業、育児休業、海外赴任、賞与が発生した場合には保険料や掛金が変動します。
  • 被保険者が40歳以上65歳未満の場合には、介護保険料が発生します。厚生年金基金の場合、従業員等が65歳に達すると会社負担分の加算掛金がなくなります。

まとめ

社会保険料は、従業員の増減、固定的賃金等の大幅な変動などによる随時改定、保険料率の変更がない場合には、毎月の納付額は同じです。このため、従業員の増減、従業員の年齢、随時改定となるタイミング、保険料の料率の変動を適切に押さえれば、社会保険料の額を正確に算定することができます。

これによって、社会保険料の納入告知書の到達を待つことなく発生した月に会計上計上することができるため、給料等の発生と同じタイミングで法定福利費を期間対応させることができます。

このことは、法定福利費の総額レベルの問題だけでなく、個々の従業員ごとの人件費の把握をより精緻化することができるため、原価計算がより正確に行うことが可能になります。

( つづく )