( 5 )より現実的な会計処理

純理論的な期間損益計算を重視した方法からは後退するものの、法人税法のルールのメリットを活かした現実的な処理をご紹介いたします。

現実的な対応

前回、より理論的な処理を提示いたしました。

  • 保険料が分納であっても、概算保険料の全額を前払費用a/cと未払金a/cで計上する。
  • 実際の給与等で発生する労災保険料と雇用保険料法人負担分と一般拠出金を法定福利費a/cと未払費用a/cで計上する。
  • 実際の給与等で発生する雇用保険従業員等負担分は未払費用a/cを使う。
  • 前払費用a/cの残高(概算保険料)の減少は、時の経過による規則的な償却ではなく、実際の給料等の発生によって労働保険料申告で確定額となるだろう未払費用a/cの発生額との相殺による。

一方で「正確な期間損益計算なんてどうでもいい」「ウチは税務会計事務所だから」という価値観もあるでしょうし、法人税基本通達9-3-3(1)の「概算保険料概算保険料の額のうち、被保険者が負担すべき部分以外の金額は当該労働保険料の申告書を提出した日またはこれを納付した日の属する事業年度の損金の額に算入」できる規定を十二分に利用したいというのはあります。

そこで、より現実的な対応を検討します。

より現実的な会計処理

概算保険料の計上

(借) 法定福利費 ×× (貸) 未払金 ×××
立替金 ×

労働保険料の申告時に、概算保険料の計算結果の基礎となる数値は把握できています。そこから、法定福利費とならない部分、すなわち雇用保険料の従業員負担分の金額を「立替金」として計上します。

この法定福利費の中には、厳密に言えば、前年度分の確定保険料と概算保険料との差額が含まれています。

分納で、納付の都度仕訳計上した場合でも、その額の中には法定福利費とならない雇用保険料従業員負担分が含まれているわけですから、法定福利費と立替金で区分して仕訳します。

とはいえ、いちいち区分するのは面倒ですし、たとえ労働保険料を分割払いする場合であっても、1期分から3期分までの全額を一度に計上すべきです。なぜなら、法人税基本通達9-3-3(1)のオイしいところを十分活用したいからです。せっかく概算保険料の会社負担分を一度に損金算入できるのに、分納の時期に都度計上したのではせっかくの効果が落ちてしまいます。

なお、月次決算を平準化したいという希望があるのならば、会社負担分の分を前払費用a/cで処理することになると思われます。

(借) 前払費用 ×× (貸) 未払金 ×××
立替金 ×

ポイントは、この前払費用a/cは決算時には残高ゼロになるということです。つまり、純会計理論的には、労働保険の年度に合せて翌年3月にわたって償却という考え方もあるかもしれませんが、結局、法人税基本通達9-3-3で認められているため、概算保険料の会社負担分は申告した事業年度分で一気に費用処理してしまうべきです。

だとすると、この前払費用の額は、決算月にわたって償却するということになります。

給料等の支払時

(借) 給料など ×××× (貸) 預金など ×××
預り金 ×

給料等の支給時に天引きする雇用保険料の従業員負担分を預り金として処理します。この預り金は、まさにその時点で現実に発生した給料や賞与に係る雇用保険料の従業員負担分となります。

立替金a/cと預り金a/cとの相殺

(借) 預り金 × (貸) 立替金 ×

立替金と預り金を相殺します。

立替金a/cは、概算保険料のうち雇用保険料従業員負担分であり、預り金a/cは、現実に発生した給料や賞与に係る雇用保険料従業員負担分です。

単純に、給料などで発生した預り金を立替金a/cと相殺してゼロにするだけです。概算保険料の算定基礎には反映されていない昇給があったとか賞与があったとか、そういうのは一切関係なく処理します。

ここでポイントは、労働保険料の年度は前年4月1日から3月31日までであり、労働保険料の申告は6月から7月にかけて行われます。そして、概算保険料の対象期間は、4月1日から翌年3月31日までの期間です。

そこで、労働保険料の申告を6月に行った場合は、4月から6月までに支給された現実の給料や賞与に係る雇用保険料従業員負担分の額について、預り金a/cと立替金a/cを相殺することになります。7月に申告した場合には、4月から6月までに支給された現実の給料や賞与に係る雇用保険料従業員負担分の額について、預り金a/cと立替金a/cを相殺することになります。

つまり、6月分や7月分の給料や賞与の雇用保険料従業員負担分だけではなく、4月からの分まで遡って相殺するということです。

決算時

預り金a/cは給料や賞与が発生した直後に立替金a/cと相殺されているため、預り金a/cは残高ゼロとなります。

いっぽう、立替金a/cの残高は、実際の給料や賞与の発生に伴って預り金a/cの額との相殺を通じて減少していきます。

決算時には、マイナスの残高になることもありえます。

その原因は、概算保険料算定の基礎となった給料や賞与の概算額よりも、実際の給料や賞与の方が大きかったためです。

このような場合には、立替金a/cの残高がゼロとなるように次の仕訳を切りましょう。

(借) 立替金 × (貸) 預り金 ×

純会計理論的からの問題点

この方法は、ある意味でお手軽な方法でありつつ、税務上のルール上の恩恵も受けているため、利用可能なものといえます。

しかし、この方法での会計上の労働保険料の会社負担分(つまり法定福利費)の額は、概算保険料計上の基礎となった額であり、現実に発生した給料や賞与の額から算定された労働保険料の会社負担分の額ではありません。

また、概算保険料は翌年3月までの1年分の額であるため、特に7月決算や8月決算といった申告時期直後が決算月の場合ほど、来年3月分までの法定福利費が費用計上(法人税の計算では損金算入)されることになるため、税務上のメリットは大きいといえます。 しかし、現実に潜在的に発生している労働保険料(確定するのは翌年の申告となります)の額は数ヶ月分しか発生していないため、純会計理論的には、過大計上されていることになります。

また、事業年度も労働保険の年度と同じ3月決算だとしても、計上された法定福利費はあくまで概算保険料であり、実際に発生した労働保険に係る法定福利費とは通常一致しないことになります。被保険者(従業員)の増減や、昇給や賞与の額によって概算保険料の基礎の額とは異なるからです。

もっとも、そういうのはいちいち気にしないからこそこの処理を選択するということです。

( おわり )