( 2 )個人による株式の取得に対する課税

個人が非上場株式を取得する場合の課税関係についてご説明いたします。

株式について税金が問題となるのは、売主として株式を譲渡した場合が一般的です。

ところが、買主なのに課税されることがあるのです。

時価より著しく低い価額で取得した場合に時価までの部分に対する課税、法人から時価より高い価額で取得した場合に時価を超える部分に対する課税です。

なお、「取得に対する課税」なので、この取得した株式を将来譲渡した場合の譲渡所得金額の計算における取得費はどうなるのかについても併せて検討いたします。

目次

( 1 )個人が個人から「時価」より著しく低額で取得する場合

みなし贈与課税

買主である個人が株式を取得したときの取引価額が時価よりも著しく低い場合は、 実際の取引価額と時価の差額については売主である個人から贈与されたものとみなされます。このとき課されるのは所得税等(所得税、復興特別所得税および住民税を意味します。以下同じとします。)ではなく、贈与税です。

たとえば、買主である個人が、時価100の株式を40で取得した場合、本来100を支払わなければならないところ40の支払いで済んでいることになります。この差額60は、個人である売主から贈与を受けたものとして贈与税が課税されるのです。

これが「みなし贈与課税(相続税法7条)」です。

みなし贈与課税が適用される場合の「時価」

みなし贈与課税が適用される場合の「時価」とは、いわゆる「相続税法上の時価」といわれるものです。具体的には、個人が贈与または相続もしくは遺贈によって取得する財産について贈与税または相続税の課税金額を算定する場合の時価で、財産評価基本通達による価額です。

注意したいのは、この「時価」は、買主である個人について、株式取得「後」に、当該株式の発行会社の株主構成における状況(同族株主(例外あり)か同族株主以外の株主か)によって異なることです。

同族株主の場合の「時価」は、同族株主以外の株主の場合の「時価」に比べて(少なからず)大きいのが一般的です。

たとえば、買主である個人が取得前は同族株主以外の株主のために「時価」は低いため、これに基づいて取引価額を決定したところ、取得後は同族株主等に該当してしまい「時価」が高くなってしまい、この結果、時価よりも著しく低い価額で取得したことになってしまうおそれがあります。

この株式を将来譲渡するときの取得費

個人が株式を譲渡した場合、(それ事業所得や雑所得に該当しない場合には)譲渡所得として所得税等が課税されます。譲渡所得の金額は、譲渡による収入金額から当該株式の取得費および譲渡に要した費用を控除して算定します(所得税法33条3項)。

個人が、株式を著しく低い価額で取得した場合にはみなし贈与課税が生じますが、では、将来この株式を譲渡する場合に、譲渡所得金額の計算で譲渡収入金額から控除する取得費(所得税法38条1項、48条)はいくらになるでしょうか。

この場合の取得費は、譲渡の際の取引価額と贈与を受けたとみなされる額の合計額となります(所得税法施行令109条2項2号、所得税法40条1項2号、同2項2号)。上記の例では、取引価額40と贈与とみなされる60との合計額100となります。結果的に、取得した時の「時価」ということになります。

( 2 )個人が個人から「時価」より著しくない低額で取得する場合

みなし贈与課税の適用の有無

さて、相続税法7条によれば、「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合」に、取引価額と「時価」との差額が贈与を受けたものとみなされます。

このことからすると、「取引価額よりも低い価額だが著しく低くない」場合には、みなし贈与課税は適用されないことになります。つまり、「時価」100の株式を20で取得した場合には「著しく低い価額の対価」となり、そうすると時価との差額80について贈与税が課税されることになります。いっぽう、80で取得した場合に「著しく低い価額」とならないとすれば、時価との差額について贈与税が課税されないことになります

この「柔軟性」は、売主も買主もともに個人であり、必ずしも経済合理性に従って行動するわけではないところが影響しているのかもしれません。

もっとも、相続税法7条は「著しく低い価額」と規定していて「著しく低い1株当たりの価額」とは規定していません。よって、1株当たりの価額(株価)が著しく低くなくても、これに株式数を乗じた「価額」が、社会通念上多額でありこれに課税をしないと課税の公平を害するような場合には、株価レベルでは著しく低くなくても課税の対象とされるリスクはあると考えられます。

この株式を将来譲渡するときの取得費

では、「著しく低くない価額」での譲渡による取得した有価証券を譲渡する場合の取得費はどうなるのかについて検討しましょう。

時価より著しく低い価額での譲渡により取得した有価証券を譲渡する場合の取得費(取得価額)については、所得税施行令109条2項2号(所得税法40条1項2号、同2項2号)が適用されます。

しかし、「著しく低い価額」での譲渡ではないため所得税法施行令109条2項2号は適用されないと考えられます。

そこで、結局は所得税法施行令109条1項4号の「購入した有価証券」として「その購入の代価」、すなわち、現実に売主に支払った取引価額となると考えられます。

たとえば、「時価」100の株式を取引価額80で取得し、これが「著しく低い価額で取得したもの」ではなく「時価」と取引価額の差額20にみなし贈与課税が行われない場合、将来において当該株式を譲渡したときの譲渡所得金額の計算上、譲渡収入金額から控除する取得費の金額は、購入の代価である80となります。

理論的にも、取引価額と「時価」との差額はみなし贈与として課税されていませんから、この部分は取得費を構成せず譲渡所得を構成するほうが妥当と考えられます。また、取得費が小さいということで譲渡所得が大きく計算されることから税務リスクの面で保守的とも考えられます。

いっぽう、別の構成もあります。

「取引価額よりも安く購入しているということは贈与を受けたことにほかならず、みなし贈与課税がされるされないは関係ない(所得税法と相続税法は異なる)」と解し、一部は購入(所得税法施行令109条1項4号)で一部が贈与による取得(所得税法施行令109条2項1号、所得税法40条1項1号、2項2号)だと構成する考え方です。

贈与より取得した有価証券を譲渡した場合の取得費は、所得税法40条2項2号によれば、贈与の時における有価証券(所得税法施行令87条)の価額とみなされます。

この場合、上記の例で行くと、取引価額80は購入した部分として、取引価額と「時価」との差額20は贈与を受けた部分として、合計して取得費は100となり、取得時の「時価」となります。

( 3 )個人が法人から株式を「時価」より低額で取得する場合

売主が法人である場合にのみ適用

上記の課税は、「個人が売主」で「個人が買主」の場合で、その取引価額が買主である個人にとって「時価」より著しく低い場合には、取引価額と「時価」との差額について買主である個人に贈与税が課税されるというものでした。

これからご説明する課税は、「法人が売主」である場合に限られます

法人はもっぱら経済合理性に従って行動するため、法人が行う取引は常に「時価」によるものとされ、「取引価額」が「時価」と異なると「相手方から利益を受けた」「相手方に利益を与えた」となり、法人には法人税が課税され、相手方も反射的に課税されるという理屈です。

低額で取得したことによる経済的利益

買主である個人が、売主である法人から、たとえば、「時価」100の株式を40で取得したとします。この場合、本来100を支払うべきところ40で済んでいます。

株式を「時価」よりも安く取得できたということは、利益(経済的利益)があったことになります。どこから利益を得たのかというと、売主である法人です。

この利益、すなわち、経済的利益は、所得税等の課税対象となります(所得税法36条1項、所得税基本通達36-15(2))。 そして、買主である個人に対する所得税等の課税にあたって、この経済的利益がどの種類の所得に該当するのかは、売主である法人と買主である個人との関係によります

まず、買主である個人が、売主である法人の役員・従業員である場合、本来なら役員・従業員に100支払うべきところ40で済んでいます。この差額60は売主である法人が買主である役員・従業員に無償の経済的利益を供与したことになります。この経済的利益は、買主である個人に給与を支給したものとされます。よって、給与の支給を受けた買主である個人には、給与所得として所得税等が課税されます。

つぎに、買主である個人が、売主である法人の役員・従業員でない場合も、売主である法人が無償の経済的利益を供与したことになります。この経済的利益は、買主である個人に対する寄附金(法人税法37条)となります。よって、寄附金を受けた買主である個人には、一時所得として所得税等が課税されます(所得税法34条、所得税基本通達34-1(5))。

この株式を将来譲渡するときの取得費

個人が株式を譲渡した場合、(それ事業所得や雑所得に該当しない場合には)譲渡所得として所得税等が課税されます。譲渡所得の金額は、譲渡による収入金額から当該株式の取得費および譲渡に要した費用を控除して算定します(所得税法33条3項)。

将来この株式を譲渡する場合に、譲渡所得金額の計算で譲渡収入金額から控除する取得費(所得税法38条1項、48条)はいくらになるでしょうか。

ポイントは、買主である個人としては「時価」より安く取得したことにより、取引価額と「時価」の差額(経済的利益)について所得税の課税を受けているということです。

買主である個人が売主である法人の役員・従業員でない場合

まず、買主である個人が売主である法人の役員・従業員でない場合には、売主である法人から無償の寄附(贈与)を受けたことになります。

取引価額が「時価」よりも著しく低い場合には、取引価額および「時価」と取引価額との差額の合計額が取得費となります(所得税法施行令109条2項2号、所得税40条1項2号、2項2号)。

所得税法40条2項2号によれば、著しく低い価額の対価による譲渡で取得した有価証券を譲渡した場合における取得費の額については、当該対価の額と当該譲渡の時におけるその有価証券(所得税法施行令87条)の価額との差額のうち実質的に贈与をしたと認められる額の合計額とみなされます。

この「実質的に贈与をしたと認められる」というのが、買主である個人が売主である法人と関係がない場合に、売主である法人から無償の寄附(贈与)を受けたこととシチュエーション的にも重なると考えらえます。

よって、取引価額および「時価」と取引価額との差額の合計額というのは、結論的に取得時の「時価」ということになります。

なお、平成16年1月29日の裁決において、売主である会社から著しく低い価額の対価による譲渡で株式を取得した個人が、当該株式を譲渡した場合の取得費の額については原処分庁の主張でも裁決文でもその根拠条文は明らかにされていませんが、結論的には当該譲渡を取得時の「時価」となっています。

ところが、取引価額が「時価」より低いけれども著しく低額には該当しない場合には、著しく低い価額での譲渡により取得した株式を譲渡した場合の取得費について規定した所得税法施行令109条2項2号は適用できません。

そこで、取引価額が「時価」よりも著しく低額か、それとも、著しくない低額かという二分論ではなく、当該株式の取得は複合取引により取得したと構成し、すなわち、一部を購入により、一部を(実質的)贈与により取得したと解します

購入については所得税法施行令109条1項4号を、実質的な贈与(一時所得とされた経済的利益)については所得税法施行令109条2項1号の除外となる所得税法40条2項1号を適用すると、取得費は「取引価額」と「取引価額と「時価」との差額(経済的利益)」の合計額となります。すなわち、結論的に取得時の「時価」ということになります。これは、所得税法施行令109条1項5号を適用した場合(その取得の時におけるその有価証券の取得に通常要する価額)と実質的に一致すると思われます。

こう解すれば、取引価額と「時価」との差額が著しいか著しくないかにかかわらず同じ結論となるばかりでなく、取引価額と「時価」との差額(経済的利益)は一時所得として課税を受けていることから、当該経済的利益も取得費を構成するほうが妥当と考えられます。

買主である個人が売主である法人の役員・従業員である場合

つぎに、買主である個人が、売主である法人の役員・従業員である場合は、取引価額と「時価」との差額については給与所得として課税されており、役員・従業員以外の場合の一時所得とは異なります。

しかし、「買主である個人が、売主である法人との関係で所得区分上で給与所得か一時所得になっただけで、経済的利益そのものに違いはないのだから、買主である個人が売主である法人の役員・従業員であっても、実質的な「贈与」であることは変わらない」と解することもできなくはないと考えられます。

そこで、買主である個人が法人の役員・従業員でない場合と同様に、購入については所得税法施行令109条1項4号を、実質的な贈与(給与所得とされた経済的利益)については所得税法施行令109条2項1号の除外となる所得税法40条2項1号を適用すると、取得費は「取引価額」と「取引価額と「時価」との差額(経済的利益)」の合計額となります。すなわち、結論的に取得時の「時価」ということになります。これは、所得税法施行令109条1項5号を適用した場合(その取得の時におけるその有価証券の取得に通常要する価額)と実質的に一致すると思われます。

こう解すれば、取引価額と「時価」との差額が著しいか著しくないかにかかわらず同じ結論となるばかりでなく、取引価額と「時価」との差額(経済的利益)は給与所得として課税を受けていることから、当該経済的利益も取得費を構成するほうが妥当と考えられます。

( 4 )個人が個人から「時価」より高額で取得する場合

買主である個人が、売主である個人から、たとえば、「時価」100の株式を150で取得したとします。この場合、本来100支払えば済むところを150も支払っています。

この取引価額と「時価」の差額50は、売主である個人に対して経済的利益を供与していることになります。

これが仮に買主が法人であったら課税関係が生じますが(受贈益課税)、個人の場合には特段の規定がありません。 買主は個人であり、必ずしも経済合理性に従って行動するわけではないことが影響していると考えられます。

この株式を将来譲渡するときの取得費

時価より高額で取得した株式を譲渡する場合、譲渡所得金額の計算にあたり譲渡収入金額から控除する取得費の額はいくらになるでしょうか。

株式を「時価」より高く取得した場合、その取引価額のなかには「時価」を超えた部分が含まれています。すなわち、取引価額は「譲渡の対価としての性格をもつ部分」と「そうでない部分」からなります((上場株式の場合につき東京高裁平成26年5月19日判決、原審は東京地裁平成25年9月27日判決)。 この「時価」を超えた部分は、売主である個人に対して別の利益を与えたことになります

つまり、「時価」までの部分が株式の取得のために支払った額、時価を超えた部分は売主である個人に対する金銭の贈与ということになります。

逆の立場、すなわち、「時価」より多くの金額を受け取った売主である個人に対する課税については、取引価額のうち「時価」までの額が譲渡所得の収入金額として所得税等が、そして、「時価」を超える額が譲渡の対価としての性格を持たない部分として贈与税が課税されます

だとすると、「時価」より高額で取得した株式を譲渡した場合における、譲渡所得金額の計算にあたり譲渡収入金額から控除する取得費の額は取得時の「時価」、上記の例では100となります

規定上の根拠としては、所得税法施行令109条1項5号に「前各号に規定する方法以外の方法により取得した有価証券」については「その取得の時におけるその有価証券の取得のために通常要する価額」とあります。この「前各号」(1号から4号)の取得態様は、金銭の払込みによる取得(1号)、発行法人から与えられた所得税法施行令84条(株式等を取得する権利の価額)の規定に該当する権利の行使による取得(2号)、発行法人に対し新たな払込み・給付を要しないで取得した当該発行法人の株式または新株予約権のうち、当該発行法人の株主等として与えられる場合の当該株式または新株予約権の取得(3号)および購入による取得(4号)です。そこで、「前各号に規定する方法以外の方法」に、「時価」より高額で取得することが含まれると解するのです。

もっとも、取得費の額は、実際に支払った取引価額の額、上記の例では150だとする解釈も不可能ではありません

所得税法施行令109条1項5号によれば、「前各号に規定する方法以外の方法」には、「時価」より高額で取得することが含まれないと解し、時価より高額で取得したとはいえ、所得税法109条1項4号の「購入した有価証券」に該当するため、実際のその購入の代価(150)となります。

( 5 )個人が法人から「時価」より高額で取得する場合

買主である個人が、売主である法人から、たとえば、「時価」100の株式を150で取得したとします。この場合、本来100支払えば済むところを150も支払っています。

この取引価額と「時価」の差額50は、売主である法人に対して経済的利益を供与していることになります。

これが仮に買主が法人であったら課税関係が生じますが(受贈益課税)、個人の場合には特段の規定がありません。 買主は個人であり、必ずしも経済合理性に従って行動するわけではないことが影響していると考えられます。

この株式を将来譲渡するときの取得費

時価より高額で取得した株式を譲渡する場合、譲渡所得金額の計算にあたり譲渡収入金額から控除する取得費の額はいくらになるでしょうか。

株式を「時価」より高く取得した場合、その取引価額のなかには「時価」を超えた部分が含まれています。すなわち、取引価額は「譲渡の対価としての性格をもつ部分」と「そうでない部分」からなります((上場株式の場合につき東京高裁平成26年5月19日判決、原審は東京地裁平成25年9月27日判決)。 この「時価」を超えた部分は、売主である法人に対して別の利益を与えたことになります。

つまり、「時価」までの部分が株式の取得のために支払った額、時価を超えた部分は売主である法人に対する金銭の贈与ということになります。

だとすると、「時価」より高額で取得した株式を譲渡した場合における、譲渡所得金額の計算にあたり譲渡収入金額から控除する取得費の額は取得時の「時価」、上記の例では100となります。

規定上の根拠としては、所得税法施行令109条1項5号に「前各号に規定する方法以外の方法により取得した有価証券」については「その取得の時におけるその有価証券の取得のために通常要する価額」とあります。この「前各号」(1号から4号)の取得態様は、金銭の払込みによる取得(1号)、発行法人から与えられた所得税法施行令84条(株式等を取得する権利の価額)の規定に該当する権利の行使による取得(2号)、発行法人に対し新たな払込み・給付を要しないで取得した当該発行法人の株式または新株予約権のうち、当該発行法人の株主等として与えられる場合の当該株式または新株予約権の取得(3号)および購入による取得(4号)です。そこで、「前各号に規定する方法以外の方法」に、「時価」より高額で取得することが含まれると解するのです。

もっとも、取得費の額は、実際に支払った取引価額の額、上記の例では150だとする考え方も不可能ではありません。

所得税法施行令109条1項5号によれば、「前各号に規定する方法以外の方法」には、「時価」より高額で取得することが含まれないと解し、時価より高額で取得したとはいえ、所得税法109条1項4号の「購入した有価証券」に該当するため、実際のその購入の代価(150)となります。

なお、売主である法人が買主である個人との関係で一定の同族会社等に該当し、当該法人からから高額な価額で株式を取得した買主である個人が、将来当該株式を譲渡したときの譲渡所得の金額の計算において当該高額な価額を取得費にすることで所得税の負担が不当に減少する場合には、税務署長の認めるところにより当該行為または計算の否認が行われることになると考えられます(所得税法157条)。

( つづく )