( 8 )「時価」を超える高額での譲渡

時価を超える額での譲渡(高額譲渡)を検討いたします。

目次

( 1 )個人(売主)から個人(買主)への譲渡

Aさんは、Bさんに株式を取引価額120で売却しました。この株式のAさんの取得費は80、譲渡費用は0、Aさんにとって譲渡直前の株式の時価は100、Bさんにとって譲渡後の株式の時価は100でした。

売主である個人

売主である個人には、譲渡所得に対して所得税等が課税されます。

株式を「時価」より高く譲渡した場合、その取引価額のなかには「時価」を超えた部分が含まれています。すなわち、取引価額は「譲渡の対価としての性格をもつ部分」と「そうでない部分」からなります((上場株式の場合につき東京高裁平成26年5月19日判決、原審は東京地裁平成25年9月27日判決)。

この「時価」を超えて売主が取得した額は、買主である個人から金銭の贈与を受けたものとして贈与税が課税されます。

Aさんの譲渡所得金額は、譲渡収入120、株式の取得費が80、譲渡費用が0のため、40となります。

譲渡時のAさんにとっての株式の「時価」は100であるため、Bさんから受け取った120のうち、100は譲渡所得の収入金額となり、20についてはBさんから贈与を受けたものとなります。

Aさんの譲渡所得金額は、譲渡収入100、株式の取得費が80、譲渡費用が0のため、20となります。

Aさんには、このほかに20についてBさんから金銭の贈与を受けたものとして贈与税が課税されます。

買主である個人

買主である個人には株式の取得に関して所得税法の課税はありません。

Bさんは120を支払ってAさんから株式を取得しています。もっとも、支払ったうち「時価」100を超える20については、Aさんに対して金銭の贈与をしたものとされます。

( 2 )個人(売主)から法人(買主)への譲渡

Aさんは、X社に株式を取引価額120で売却しました。この株式のAさんの取得費は80、譲渡費用は0、Aさんにとって譲渡直前の株式の時価は100、X社にとって譲渡後の株式の時価は100でした。

売主である個人

売主である個人には、譲渡所得に対して所得税等が課税されます。

株式を「時価」より高く譲渡した場合、その受け取った金額には「時価」を超えた部分が含まれています。すなわち、取引価額は「譲渡の対価としての性格をもつ部分」と「そうでない部分」からなります((上場株式の場合につき東京高裁平成26年5月19日判決、原審は東京地裁平成25年9月27日判決)。

そうしますと、売主である個人としては、「時価」に相当する額までが「譲渡の対価としての性格をもつ部分」として譲渡所得を構成し、「時価」を超えて支払いを受けた額は、買主である法人から経済的利益(金銭)を受けたことになり、譲渡所得とは別の所得として課税されます。

そして、この経済的利益がどの種類の所得に該当するのかは、売主である個人と買主である法人との関係によります。

まず、売主である個人が、買主である法人の役員・従業員である場合、この経済的利益は買主である法人が売主である個人に給与を支払ったことになり、売主である個人に給与所得として所得税等が課税されます。

つぎに、売主である個人が、買主である法人の役員・従業員でない場合、この経済的利益は買主である法人が売主である個人に金銭(寄附)を支払ったことになり、売主である個人に一時所得として所得税等が課税されます(所得税法34条、所得税基本通達34-1(5))。

AさんがX社の役員または従業員の場合には、X社から「時価」を超えて支払われた20はAさんの給与所得として所得税等が課税されます。

AさんがX社の役員または従業員でない場合には、X社から「時価」を超えて支払われた20はAさんの一時所得として所得税等が課税されます。

買主である法人

買主である法人が「時価」を超える高額で株式を取得した場合、「時価」を超えて支払った額は、売主である個人に経済的利益を供与したことになります。

この経済的利益の法人税法上の性格は、売主である個人と買主である法人がどういう関係にあるかによって異なります。 売主である個人が買主である法人の役員である場合には役員給与(法人税法34条4項)、従業員の場合には従業員給与、役員でも従業員でもない場合には寄附金(法人税法37条7項、8項)となります。

このうち、役員給与については、この経済的利益の供与は定期同額給与に当たらないため法人所得の計算上損金に算入されません(法人税法34条1項)。また、寄附金の場合も、損金算入限度額を超える部分は損金に算入されません(法人税法37条1項)。

X社は、「時価」100の株式を120でAさんに譲渡しています。本来なら100を受け取るべきところ120も支払っています。Aさんは20多く受け取ったことになります。よって、X社はAさんに経済的利益を供与しています。

この経済的利益が、X社としてどのような性格を持つのかは、AさんがX社とどういう関係かによります。

さて、AさんがX社の従業員の場合は従業員給与となり、損金となります。しかし、AさんがX社の役員の場合は役員給与となりますが、この経済的利益は定期同額給与に該当しないため損金に算入されません。AさんがX社の役員・従業員でない場合は寄附金となり寄附金も損金算入限度額を超過した部分は、やはり損金に算入されません。

役員給与や寄附金となる経済的利益の20が全額損金に算入されないとすると、税務上のインパクトは次のとおりとなります。

AさんがX社の従業員の場合には、従業員給与認定(20減算)で、会計上の当期純利益へのインパクトは20減算となります。なお、将来当該株式を譲渡する場合の原価は100となります。

AさんがX社の役員の場合には、役員給与認定(20減算)、役員給与損金不算入(20加算)で、会計上の当期純利益へのインパクトはありません。なお、将来当該株式を譲渡する場合の原価は100となります。

AさんがX社の役員・従業員でない場合には、寄附金認定(20減算)、寄附金損金不算入(20加算)で、会計上の当期純利益へのインパクトはありません。なお、将来当該株式を譲渡する場合の原価は100となります。

なお、AさんがX社の役員・従業員の場合には、この経済的利益はAさんの給与所得になるため、所得税等の源泉徴収を行わなければなりません。

( 3 )法人(売主)から個人(買主)への譲渡

X社は、Aさんに株式を取引価額120で売却しました。この株式のX社の取得価額は80、X社にとって譲渡直前の株式の時価は100、Aさんにとって譲渡後の株式の時価は100でした。

売主である法人

売主である法人には、売却損益に対して法人税が課税されます。

X社は、本来ならば100受け取るべきところを120受け取っています。この時価100を超えた部分は、買主から経済的利益を供与されたとして受贈益となります。

もっとも、個人のように所得の種類ごとに計算された所得に対して課税されるのではなく、法人の場合は、あらゆる益金から損金を差し引いた所得に対して法人税が課税されます。よって、株式の譲渡により受け取った金額から受贈益部分を分けることは(少なくとも実務上は)重要ではありません。

買主である個人

買主である個人には株式の取得に関して所得税法の課税はありません。

Aさんは120を支払ってX社から株式を取得しています。もっとも、支払ったうち「時価」100を超える20については、X社に対して金銭の贈与をしたものとされます。

( 4 )法人(売主)から法人(買主)への譲渡

X社は、Y社に株式を取引価額120で譲渡しました。この株式のX社の取得価額は80、X社にとって譲渡直前の株式の時価は100、Y社にとって譲渡後の株式の時価は100でした。

売主である法人

売主である法人には、売却損益に対して法人税が課税されます。

X社は、本来ならば100受け取るべきところを120受け取っています。この時価100を超えた部分は、買主から経済的利益を供与されたとして受贈益となります。

もっとも、個人のように所得の種類ごとに計算された所得に対して課税されるのではなく、法人の場合は、あらゆる益金から損金を差し引いた所得に対して法人税が課税されます。よって、株式の譲渡により受け取った金額から受贈益部分を分けることは(少なくとも実務上は)重要ではありません。

買主である法人

Y社は、本来ならば100支払うべきところを120支払っています。この時価100を超えた部分20は、X社から経済的利益を供与したとして寄附金となり、損金算入限度額を超過した部分は損金に算入されません。

経済的利益の20が全額損金に算入されないとすると、寄附金認定(20減算)、寄附金損金不算入(20加算)で、会計上の当期純利益に対するインパクトはありません。

( おわり )