非上場株式の法人税法上の価額(時価)についてのまとめ

法人が非上場株式を取得(保有)または譲渡する場合の税務上の価額(時価)については、法人税基本通達9-1-14による法人税法上の時価によるとされるのが一般的です。

この方法は、個人が相続や贈与で取引所の相場のない株式を取得したときの相続税や贈与税の課税金額の計算(財産評価基本通達による方法)を一部修正して適用するものです。

実務上は長らく定着してるものですが、一般的な文献ではあまり触れられていない事項(中心的な同族株主の判定時期など)その他についてまとめました。

目次

( 1 )非上場株式の譲渡における取引価額(時価)と、税務上のルールの関係

株式の時価とは、正常な取引において形成された価格、すなわち、客観的な交換価値とされます。

上場株式等は大量かつ反復継続的に取引が行われており、多数の取引を通じて一定の取引価額が形成され、そのような取引価額は、市場原理を通じることによって、当事者間の主観的事情に左右されず、当該株式の客観的交換価値を正当に反映した価額であると考えられています。

いっぽう、非上場株式は、上場株式等のように大量かつ反復継続的に取引が行われることが予定されていません。このため、取引価額の形成も取引当事者間の主観的事情に左右されやすく、当該株式の客観的価値を必ずしも正当に反映している価額とは限りません。このため、仮に取引事例が存在するとしても、その数が少数にとどまる場合には、取引当事者間の主観的事情に影響されたものでないことをうかがわせる特段の事情がない限り、当該取引価額は客観的交換価値を正当に反映した価額とはいえないと考えられています。

逆に、取引価額の形成が、純然たる第三者間において種々の経済性を考慮して定められた価額であれば、取引当事者間の主観的事情に影響されたものでない特段の事情があると考えられるため、合理的なものとして税務上も是認されると考えられています。

当事者間の取引価額の交渉ではなく、課税処分にあたり財産の客観的交換価値を評価する場合、これを個別に評価しようとすると、評価方法や基礎資料の選択などにより異なった評価額が生じるために納税者間の公平が図れないおそれがあるだけでなく、課税当局の事務負担が重くなり迅速な課税処理が困難となります。

そこで、財産評価の一般的基準が定められ、これに定められた評価方法によって画一的に評価する方法が採用されています。このような扱いは、租税負担の実質的公平を実現することができ、租税平等主義にかなうとされます。そして、課税当局の徴税コストの削減ばかりでなく、納税者にとっても課税の予測可能性という点で有益といえます。

( 2 )法人税法上の時価の根拠規定

法人税法上、法人が非上場株式を取得、保有または譲渡する場合に、課税上の価額(いわゆる「法人税法上の時価」)の算定の基準となる規定として一般的に知られているのが法人税基本通達9-1-14です。

ざっくり申し上げますと、法人税法上の時価の算定方法について、個人が相続または贈与によって非上場株式を取得した場合の課税金額を算定するルールを修正した方法で行うことができるというものです。

法人税基本通達9-1-14 上場有価証券等以外の株式の価額の特例

法人が、上場有価証券等以外の株式(9-1-13の(1)及び(2)に該当するものを除く。)について法第33条第2項《資産の評価換えによる評価損の損金算入》の規定を適用する場合において、事業年度終了の時における当該株式の価額につき昭和39年4月25日付・直資56直審(資)17「財産評価基本通達」(以下9-1-14において「財産評価基本通達」という。)の178から189-7まで《取引相場のない株式の評価》の例によって算定した価額によっているときは、課税上弊害がない限り、次によることを条件としてこれを認める。

  • (1) 当該株式の価額につき財産評価基本通達179の例により算定する場合(同通達189-3の(1)において同通達179に準じて算定する場合を含む。)において、当該法人が当該株式の発行会社にとって同通達188の(2)に定める「中心的な同族株主」に該当するときは、当該発行会社は常に同通達178に定める「小会社」に該当するものとしてその例によること。
  • (2) 当該株式の発行会社が土地(土地の上に存する権利を含む。)又は金融商品取引所に上場されている有価証券を有しているときは、財産評価基本通達185の本文に定める「1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)」の計算に当たり、これらの資産については当該事業年度終了の時における価額によること。
  • (3) 財産評価基本通達185の本文に定める「1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)」の計算に当たり、同通達186-2により計算した評価差額に対する法人税額等に相当する金額は控除しないこと。

( 3 )法人税基本通達9-1-14の位置づけとは

法人税基本通達9-1-14は「第9章 その他の損金」の「第1節 資産の評価損 第3款 有価証券の評価損」のところに位置しています。

この規定は、法人が事業年度末に有価証券の評価減を行った場合の損金算入(法人税法33条2項)、すなわち、資産(有価証券)の価額が著しく低下した(法人税法施行令68条1項2号)ために当該有価証券の評価換えをして損金経理により帳簿価額を減額したときに、評価換え直前の帳簿価額とその評価換えをした日の属する事業年度終了の時における当該資産の価額との差額に達するまでの金額をその評価換えをした日の属する事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入する規定に関するものです。

この「その評価換えをした日の属する事業年度終了の時における当該資産の価額」つまり、「事業年度終了の時における当該資産の価額」はどのように算定するのかについて定めているのが通達9-1-14です。

ところで、通達9-1-14のタイトルは「上場有価証券等以外の株式の価額の特例」です。このひとつ前の通達9-1-13が「上場有価証券等以外の株式の価額」として原則があり、特例として通達9-1-14が位置づけられています。

原則としての通達9-1-13

通達9-1-14に対する原則的規定である通達9-1-13は、上場有価証券以外の株式を評価減する基準となる「事業年度終了の時における当該資産の価額」について、次のように規定してます。

  • (1)売買実例のあるもの・・・当該事業年度終了の日前6月間において売買の行われたもののうち適正と認められるものの価額
  • (2)公開途上にある株式(金融商品取引所が内閣総理大臣に対して株式の上場の届出を行うことを明らかにした日から上場の日の前日までのその株式)で、当該株式の上場に際して株式の公募又は売出し(以下9-1-13において「公募等」という。)が行われるもの((1)に該当するものを除く。)・・・金融商品取引所の内規によって行われる入札により決定される入札後の公募等の価格等を参酌して通常取引されると認められる価額
  • (3)売買実例のないものでその株式を発行する法人と事業の種類、規模、収益の状況等が類似する他の法人の株式の価額があるもの((2)に該当するものを除く。)・・・当該価額に比準して推定した価額
  • (4)(1)から(3)までに該当しないもの・・・当該事業年度終了の日又は同日に最も近い日におけるその株式の発行法人の事業年度終了の時における1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額

( 4 )法人税基本通達9-1-14の対象となる有価証券の範囲

法人税基本通達9-1-14が適用される有価証券は、「上場有価証券等以外の株式(9-1-13の(1)及び(2)に該当するものを除く。)」です。いったいどういうものでしょうか。

上場有価証券等以外の株式とは

そもそも上場有価証券等以外の株式とは何でしょう。その前に、「上場有価証券等」とは何でしょう。

「上場有価証券等」の定義、それは法人税基本通達9-1-14の少し前、通達9-1-8(上場有価証券等の価額)にあります。なお、通達4-1-4も同様の規定があります(詳しくは後ほど)。

それによれば、上場有価証券等とは、「令第68条第1項第2号イ《上場有価証券等の評価損が計上できる事実》に掲げる有価証券(同号イの括弧書に規定する株式又は出資を含む。)」です。

なんだかさっぱりわかりません。

では、その「令第68条第1項第2号イ《上場有価証券等の評価損が計上できる事実》」とは何なんだということで、法人税法施行令68条1項2号イを見てみますと・・・

「イ 第119条の13第1号から第3号まで(売買目的有価証券の時価評価金額)に掲げる有価証券(第119条の2第2項第2号(有価証券の1単位当たりの帳簿価額の算出の方法)に掲げる株式又は出資に該当するものを除く。)」とあります。

なかなかたどりつきません。

根気よく、その「第119条の13第1号から第3号までに掲げる有価証券」とは何なんだということで、法人税法施行令119条の13を見てみますと・・・

  • 一 取引所売買有価証券(その売買が主として金融商品取引法第2条第16項(定義)に規定する金融商品取引所(これに類するもので外国の法令に基づき設立されたものを含む。以下この号において「金融商品取引所」という。)の開設する市場において行われている有価証券をいう。以下この号において同じ。) 
  • 二 店頭売買有価証券(金融商品取引法第2条第8項第10号ハに規定する店頭売買有価証券をいう。以下この号において同じ。)及び取扱有価証券(同法第67条の18第4号(認可協会への報告)に規定する取扱有価証券をいう。以下この号において同じ。)
  • 三 その他価格公表有価証券(前2号に掲げる有価証券以外の有価証券のうち、価格公表者(有価証券の売買の価格又は気配相場の価格を継続的に公表し、かつ、その公表する価格がその有価証券の売買の価格の決定に重要な影響を与えている場合におけるその公表をする者をいう。以下この号において同じ。)によつて公表された売買の価格又は気配相場の価格があるものをいう。以下この号において同じ。)

さて、法人税基本通達9-1-8では、「同号イの括弧書に規定する株式又は出資を含む。」と規定しています。

その「同号イの括弧書」は「第119条の2第2項第2号(有価証券の1単位当たりの帳簿価額の算出の方法)に掲げる株式又は出資に該当するものを除く。」です。

このため、結果的には、法人税基本通達9-1-8の上場有価証券等に含まれるわけですが、参考のために「第119条の2第2項第2号(有価証券の1単位当たりの帳簿価額の算出の方法)に掲げる株式又は出資」とは、次のものをいいます。

  • 二 法人の特殊関係株主等(その法人の株主等(その法人が自己の株式又は出資を有する場合のその法人を除く。)及びその株主等と第4条(同族関係者の範囲)に規定する特殊の関係その他これに準ずる関係のある者をいう。)がその法人の発行済株式又は出資(その法人が有する自己の株式又は出資を除く。)の総数又は総額の100分の20以上に相当する数又は金額の株式又は出資を有する場合におけるその特殊関係株主等の有するその法人の株式又は出資

以上から、上場有価証券等とは、取引所売買有価証券(法人税法施行令119条の13第1号)、店頭売買有価証券および取扱有価証券(同1号)、その他価格公表有価証券(同3号)ということになり、それ以外が、「上場有価証券等以外の有価証券」となります。

「9-1-13の(1)及び(2)に該当するもの」とは

さて、有価証券以外の有価証券が明らかになったところで、法人税基本通達9-1-14が適用されない「9-1-13の(1)及び(2)に該当するもの」とはなんでしょうか。

法人税法基本通達9-1-13によれば、上記のとおり(1)売買実例のあるもの、および、(2)公開途上にある株式で、当該株式の上場に際して株式の公募等が行われるもの((1)に該当するものを除きます。)です。

つまり、上場有価証券等以外の株式の価額について、売買実例のあるものについては、当該事業年度終了の日前6月間において売買の行われたもののうち適正と認められるものの価額となり、公開途上にある株式で公募等がが行われるもの(売買実例のあるものを除きます。)については、金融商品取引所の内規によって行われる入札により決定される入札後の公募等の価格等を参酌して通常取引されると認められる価額となります。

法人税基本通達9-1-14の適用を受ける有価証券

以上から、法人税基本通達9-1-14の適用を受ける有価証券とは・・・

有価証券のうち、取引所売買有価証券(法人税法施行令119条の13第1号)、店頭売買有価証券および取扱有価証券(同1号)、その他価格公表有価証券(同3号)に該当しないもののうち、売買実例があるもの(法人税基本通達9-1-13(1))および公開途上にある株式(同(2))を除いたものです。

あるいは・・・

有価証券のうち、取引所売買有価証券(法人税法施行令119条の13第1号)、店頭売買有価証券および取扱有価証券(同1号)、その他価格公表有価証券(同3号)に該当しないもののうち、通達9-1-13の(3)と(4)に該当するものです。

通達9-1-13では、売買実例のないものでその株式を発行する法人と事業の種類、規模、収益の状況等が類似する他の法人の株式の価額があるもの(通達9-1-13(3))については「当該価額に比準して推定した価額」、通達9-1-13(1)(2)(3)のいずれにも該当しないもの(4)については、「当該事業年度終了の日又は同日に最も近い日におけるその株式の発行法人の事業年度終了の時における1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」と規定しています。

しかし、現実問題として「当該価額に比準して推定した価額」「当該事業年度終了の日又は同日に最も近い日におけるその株式の発行法人の事業年度終了の時における1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」を算出するのは困難です。

そこで、これらの価額の算出について助け舟となるのが特例的位置づけの通達9-1-14なのです。

( 5 )非上場株式の法人税法上の価額(時価)における法人税基本通達9-1-14の適用時点

通達9-1-14は、「その評価換えをした日の属する事業年度終了の時における当該資産の価額」です。 法人が評価換えを行うのが「事業年度終了の時」ということなので、株式の譲渡の場面では「株式の譲渡の時」と読み替えるのが自然と考えられます。

( 6 )法人が譲渡人(売主)である場合の根拠規定はどれか

非上場株式(厳密には「上場有価証券等以外の株式のうち一定のもの」)の法人税法上の価額(時価)については、法人税基本通達9-1-14にその根拠を求めるのが一般的です。この通達9-1-14は、通達9-1-13(上場有価証券等以外の株式の価額)の特例です。

実際に、法人が譲渡人(売主)である場合の法人税法上の価額についてこの通達9-1-14を根拠にして裁決が出ています(平成11年2月8日裁決、裁決事例集No.57 342頁。なお、当時は法人税基本通達9-1-15です)。

しかし、この法人税基本通達9-1-14とは、法人が保有する非上場株式について事業年度終了時に評価減を行う場合の規定(法人税法33条2項)に関する通達です。つまり、非上場株式の譲渡の際の価額というよりもむしろ非上場株式の保有(取得)の際の価額により妥当する規定と思われます。

そこで、法人が非上場株式の譲渡の際の価額についてもっとも妥当する規定は何かというと、法人税基本通達2-3-4(低廉譲渡等の場合の譲渡に係る対価の額)と同4-1-5(上場有価証券等以外の株式の価額)、さらにその特例である同4-1-6です。

法人税基本通達2-3-4 低廉譲渡等の場合の譲渡に係る対価の額

法人が無償又は低い価額で有価証券を譲渡した場合における法第61条の2第1項第1号《有価証券の譲渡損益の益金算入等》に規定する譲渡に係る対価の額の算定に当たっては、4-1-4《上場有価証券等の価額》並びに4-1-5及び4-1-6《上場有価証券等以外の株式の価額》の取扱いを準用する。
(注) 4-1-4本文に定める「当該再生計画認可の決定があった日以前1月間の当該市場価格の平均額」は、適用しない。

法人税基本通達2-3-4は「第2章 収益並びに費用及び損失の計算」の「第3節 有価証券等の譲渡損益、時価評価損益等 第1款 有価証券の譲渡損益等」のところに位置しています。

この規定は、もともと法人が有価証券の譲渡に係る対価の額(法人税法61条の2第1項1号)について、法人が無償または低額で譲渡した場合の対価の額の算定については、法人税法25条3項の規定を準用する、すなわち、再生計画認可の決定等の事実が生じた場合に、法人が有する資産(有価証券)の価額につき評定を行っているときに当該有価証券の評価益の額を当該事実が生じた日の属する事業年度の所得の金額の計算上益金の額に算入するときの、更生計画認可の決定があった時の当該株式の価額の算定方法によるというものです。

この「その評価換えをした日の属する事業年度終了の時における当該資産の価額」つまり、「再生計画認可の決定があった時における当該資産の価額」はどのように算定するのかについて定めているのが、原則としての通達4-1-5と特例としての通達4-1-6です。通達4-1-4は上場有価証券等についての規定なのでここでは割愛させていただきます。

法人税基本通達4-1-5 上場有価証券等以外の株式の価額

上場有価証券等以外の株式について法第25条第3項《資産評定による評価益の益金算入》の規定を適用する場合において、再生計画認可の決定があった時の当該株式の価額は、次の区分に応じ、次による。

  • (1)売買実例のあるもの 当該再生計画認可の決定があった日前6月間において売買の行われたもののうち適正と認められるものの価額
  • (2)公開途上にある株式(金融商品取引所が内閣総理大臣に対して株式の上場の届出を行うことを明らかにした日から上場の日の前日までのその株式)で、当該株式の上場に際して株式の公募又は売出し(以下4-1-5において「公募等」という。)が行われるもの((1)に該当するものを除く。) 金融商品取引所の内規によって行われる入札により決定される入札後の公募等の価格等を参酌して通常取引されると認められる価額
  • (3)売買実例のないものでその株式を発行する法人と事業の種類、規模、収益の状況等が類似する他の法人の株式の価額があるもの((2)に該当するものを除く。) 当該価額に比準して推定した価額
  • (4)(1)から(3)までに該当しないもの 当該再生計画認可の決定があった日又は同日に最も近い日におけるその株式の発行法人の事業年度終了の時における1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額

法人税基本通達4-1-6 上場有価証券等以外の株式の価額の特例

法人が、上場有価証券等以外の株式(4-1-5の(1)及び(2)に該当するものを除く。)について法第25条第3項《資産評定による評価益の益金算入》の規定を適用する場合において、再生計画認可の決定があった時における当該株式の価額につき昭和39年4月25日付直資56・直審(資)17「財産評価基本通達」(以下4-1-6において「財産評価基本通達」という。)の178から189-7まで《取引相場のない株式の評価》の例によって算定した価額によっているときは、課税上弊害がない限り、次によることを条件としてこれを認める。

  • (1)当該株式の価額につき財産評価基本通達179の例により算定する場合(同通達189-3の(1)において同通達179に準じて算定する場合を含む。)において、当該法人が当該株式の発行会社にとって同通達188の(2)に定める「中心的な同族株主」に該当するときは、当該発行会社は常に同通達178に定める「小会社」に該当するものとしてその例によること。
  • (2)当該株式の発行会社が土地(土地の上に存する権利を含む。)又は金融商品取引所に上場されている有価証券を有しているときは、財産評価基本通達185の本文に定める「1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)」の計算に当たり、これらの資産については当該再生計画認可の決定があった時における価額によること。
  • (3)財産評価基本通達185の本文に定める「1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)」の計算に当たり、同通達186-2により計算した評価差額に対する法人税額等に相当する金額は控除しないこと。

つまり、通達4-1-5と通達9-1-13、通達4-1-6と通達9-1-14はパラレルとなっており、ほぼ内容は同一となっています。違いは、「再生計画認可の決定のあった時」と「事業年度終了の時」くらいなものです。ということは、どちらを根拠にしても実務上は影響はありません。

通達9-1-14と通達4-1-6は、それぞれ通達9-1-13と通達4-1-5の特例としての規定です。しかし、実務上は、この特例の規定があたかも原則であるかのように利用されています。

特例とは、法人税法上の価額(時価)の算定を、個人が相続や贈与で非上場株式(正確には「取引相場のない株式」)を取得した場合の相続税や贈与税の課税金額の算定に用いる財産評価基本通達による方法に一定の調整をした方法で行うことを容認したものです。ただし、「課税上弊害がない場合に限られ」ます。

( 7 )「中心的な同族株主に該当する」かどうかの判定は譲渡の前か譲渡の後か

非上場株式の法人税法上の価額(時価)について、その根拠を法人税基本通達9-1-13および9-1-14に求めるにせよ、同通達4-1-5および4-1-6に求めるにせよ、解釈上意見が分かれる点があります。

それは、「当該法人が当該株式の発行会社にとって同通達188の(2)に定める「中心的な同族株主」に該当するときは、当該発行会社は常に同通達178に定める「小会社」に該当するものとしてその例によること」という部分、つまり、中心的な同族株主に該当するかどうかの判定のタイミングは、譲渡の直前で判断するのか、それとも、譲渡の後で判断するのかという点です。

と申しますのも、個人が法人に対して贈与や低額で譲渡した場合に適用される所得税法上の「みなし譲渡」課税(所得税法59条1項)の基礎となる「その時における価額」についての所得税基本通達59-6でも、「株式を譲渡又は贈与した個人が当該株式の発行会社にとって同通達188の(2)に定める「中心的な同族株主」に該当するときは、当該発行会社は常に同通達178に定める「小会社」に該当するものとしてその例によること」の規定があります。ところが、所得税基本通達59-6は、法人税基本通達9-1-14や4-1-6とな異なり、「財産評価基本通達188の(1)に定める「同族株主」に該当するかどうかは、株式を譲渡又は贈与した個人の当該譲渡又は贈与直前の議決権の数により判定すること」と明文で定められているからです。

このことは、単なるコトバ遊びではなく、非上場株式の法人税法上の価額について常に小会社として評価しなければならないかどうか、小会社で評価しなければならないとすると価額が少なからず大きくなることもあるからです。

ちなみに、「同族株主」とは、課税時期における評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者(法人税法施行令第4条《同族関係者の範囲》に規定する特殊の関係のある個人または法人をいいます。以下同じです。)の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の30%以上(その評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が最も多いグループの有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の50%超である会社にあっては、50%超)である場合におけるその株主及びその同族関係者をいいます(財産評価基本通達188(1))。

そして、「中心的な同族株主」とは、課税時期において同族株主の1人並びにその株主の配偶者、直系血族、兄弟姉妹及び1親等の姻族(これらの者の同族関係者である会社のうち、これらの者が有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の25%以上である会社を含む。)の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の25%以上である場合におけるその株主をいいます(同通達188(2))。

本来、財産評価基本通達は相続や贈与で利用されるので課税主体は個人ですが、これを法人で考えてみますと、課税時期というのは、法人が株式を譲渡したり取得したりする時や評価換えを行うときの事業年度終了の時といえます。また、法人には配偶者や直系血族などはありえないため、個人の場合よりは多少シンプルに判定できます。

中心的な同族株主に該当するかどうかは譲渡前で判定すべきとする説

  • 法人税基本通達9-1-14と同通達4-1-6は、所得税基本通達59-6と文言がほぼ同一であることから、平仄を合わせるべきである。
  • 所得税基本通達59-6のように明文で規定されていないからといって、ただちに譲渡前で判定してはならないというわけではない。
  • 法人税基本通達9-1-14に譲渡前か譲渡後かについての文言がないのは、もともと事業年度終了時に保有する非上場株式について評価減を行う場合の規定であり、譲渡前や譲渡後という文言自体がなじまないからである。
  • 法人が非上場株式を譲渡した場合、当該事業年度末においてもなお当該株式の一部を保有していた場合にはその一部の議決権保有状況によって中心的な同族株主に該当するかどうかを判定することからすると、譲渡に当たっては譲渡前の保有状況によって中心的な同族株式に該当するかどうかを判定すべきである。
  • 法人が保有する非上場株式についてそのすべてを譲渡した場合、譲渡後の議決権保有はゼロとなり中心的な同族株主に該当する余地はなくなる。

中心的な同族株主に該当するかどうかは譲渡後で判定すべきとする説

  • 個人(所得税)と法人(法人税)は異なる。
  • 所得税基本通達59-6のように明文で規定されていないことは、譲渡後で判定すべきということである。
  • 法人税基本通達9-1-14に譲渡前か譲渡後かについての文言がないのは、もともと事業年度終了時に保有する非上場株式について評価減を行う場合の規定であり、譲渡前や譲渡後という文言自体がなじまないからというのであれば、明らかに譲渡について規定している法人税基本通達4-1-5でさえ明文で規定されていない。
  • 法人が譲渡人であった平成11年2月8日の裁決の別表2「純資産価額方式による一株当たりの価額の計算」の(注)1では、「本件株式の譲渡後のG社における持株割合は、請求人が42.5パーセントであることから、法人税基本通達9-1-15(1)の定めにより、評価通達178における会社規模の区分を「小会社」に該当するものとして、純資産価額方式(評価通達185の例により8割評価)により計算した。」との記述がある。まさに、譲渡後で判定していることの証左である。

私見

平成11年2月8日の裁決の事案では、請求人(譲渡人である法人)と譲受人(請求人の代表取締役である個人)との取引の対象となった株式と譲渡前後の持株状況は次のとおりです。

  • 取引の対象となった株式の発行会社の発行済株式総数・・・20,000株
  • 譲渡株式数・・・3,000株(発行済株式総数の15%)
  • 譲渡人の持株の異動・・・譲渡前11,000株(55%)、譲渡後8,000株(40%)
  • 譲受人の持株の異動・・・譲渡前5,500株(27.5%)、譲渡後8,500株(42.5%)

重要と考えられるのは、この事例では、譲渡人、譲受人ともに、譲渡の前後でともに中心的な同族株主に該当することです。

このため、当裁決の別紙2では「譲渡後の」とありますが、実質的には譲渡前でも結論は同じことになります。

個人的には、有価証券の譲渡についての規定である法人税基本通達4-1-6で譲渡前なのか譲渡後なのかを明文で規定してほしいという気がしますが、これがかなわない場合には、次の点を考慮しながら、そもそも法人税基本通達4-1-6や9-1-14の適用が認められるのは「課税上弊害ない場合に限」られることを踏まえ、課税当局にも照会しながら対応すべきと考えます。

  • 譲渡人(法人)について、譲渡前は中心的な同族株主で、譲渡後に中心的な同族株主でなくなるかどうか
  • 譲受人(法人または個人)について、譲渡前ですでに中心的な同族株主に該当するか、譲渡後に中心的な同族株主に該当するか
  • 譲受人は、譲渡後に同族株主以外の株主に該当するか

( 8 )財産評価基本通達による算定の修正

法人税基本通達9-1-14または同通達4-1-6は、上場有価証券等以外の株式の法人税法上の時価の算定について、財産評価基本通達に一定の修正をした方法を規定しています。

これは、財産評価基本通達が個人が相続または贈与によって取引相場のない株式を取得した場合の相続税や贈与税の課税金額を算定するためのものであるため、法人の場合(法人税法)や個人でも所得税法の適用を受ける場合には、財産評価基本通達をそのまま適用するのではなく、一定の修正をすることになっています。

逆にいえば、一定の修正を要するものを除けば、財産評価基本通達どおりに法人税法上の時価を算定することになります。

たとえば、法人であっても、非上場株式の発行法人にとって同族株主以外の株主に該当すれば「配当還元価額」が法人税法上の時価となるのです。

修正(1)中心的な同族株主に該当する場合には小会社で評価

法人税基本通達9-1-14(1)によれば、「当該株式の価額につき財産評価基本通達179の例により算定する場合(同通達189-3の(1)において同通達179に準じて算定する場合を含む。)において、当該法人が当該株式の発行会社にとって同通達188の(2)に定める「中心的な同族株主」に該当するときは、当該発行会社は常に同通達178に定める「小会社」に該当するものとしてその例による」としています。

まず、「財産評価基本通達179の例により算定する場合」というのは、ウラを返せば「財産評価基本通達179の例により算定しない場合」があるということです。

財産評価基本通達179のタイトルは「取引相場のない株式の評価の原則」であり、「前項(同通達178)による区分された大会社、中会社及び小会社の株式の価額は、それぞれ次による」として、3つの会社ごとの評価方法が示されています。

では、その前項である通達178を見てみますと、「取引相場のない株式の価額は、評価しようとするその株式の発行会社(以下「評価会社」という。)が次の表の大会社、中会社又は小会社のいずれに該当するかに応じて、それぞれ次項の定めによって評価する。ただし、同族株主以外の株主等が取得した株式又は特定の評価会社の株式の価額は、それぞれ188《同族株主以外の株主等が取得した株式》又は189《特定の評価会社の株式》の定めによって評価する。」とあります。

「財産評価基本通達179の例により算定」しない場合とは、通達178の但書に求められそうです。すなわち、同族株主以外の株主等が取得した株式は通達188で、特定の評価会社の株式の価額は通達189で評価されるため、通達179では算定しません。

同族株主以外の株主等が取得した株式は、配当還元方式による価額となります(通達188-2)。

また、特定の評価会社(比準要素数1の会社、株式保有特定会社、土地保有特定会社、課税時期において開業後の経過年数が3年未満の会社や比準要素0の会社(開業後3年未満の会社等)開業前または休業中の会社または清算中の会社に該当する場合にも、通達179は適用されません。

よって、以降はさしあたり「通達179の例」すなわち原則的評価方式で評価することを前提に展開します。

原則的評価方式とは、会社の規模に応じて「大会社」「中会社」または「小会社」に区分し、それぞれ所定の方法で評価します。この会社の規模は、業種(卸売業、小売業・サービス業、それ以外の業の3つ)ごとに、直前期末の総資産価額(帳簿価額)、直前期末以前1年間の取引金額(売上高)および従業員数で判定します。

会社区分の違いは、ズバリ、類似業種比準価額(通達180)の斟酌率(同通達180(注)(2))と、類似業種比準価額(通達180)と1株当たりの純資産価額(通達185)の併用割合に影響を与えます。会社区分が取引相場のない株式の相続や事業承継対策として重要なのはこのためです。

類似業種比準価額は、評価対象会社と類似する業種について1株当たり配当金額、年利益金額(税務上の所得)および純資産価額(ここでの純資産価額は法人税申告書別表五(一)の額)の3つの比準要素について割合(比準割合)を出し、これに類似業種の株価を乗じ、さらに会社規模ごとの斟酌率を乗じて計算されます。

1株当たりの純資産価額は、基本的に資産から負債を控除した額を発行済株式数で除して計算されます。しかし、会計上の貸借対照表のそれとはまったく異なります。まず、純資産価額の算定の対象となる資産または負債が会計と異なるばかりでなく、価額は財産評価基本通達によって評価された価額(時価)となります(法人税法上の時価では一部修正されます。後述)。

「大会社」は類似業種比準価額のみで評価します。類似業種比準価額の計算では最後に流動性ディスカウント的な斟酌率を乗じるのですが、大会社は70%を乗じます。ただし、納税義務者の選択により1株当たりの純資産価額で評価できます。つまり、1株当たりの純資産価額の方が類似業種比準価額よりも小さければ、1株当たりの純資産価額を選択することになります。

「中会社」は類似業種比準価額と1株当たりの純資産価額を併用し、総資産価額と従業員数によって類似業種比準価額の併用割合が90%から60%となります。中会社で類似業種比準価額の計算で乗じる斟酌率は60%です。ただし、納税義務者の選択により1株当たりの純資産価額で評価できます。つまり、1株当たりの純資産価額の方が類似業種比準価額よりも小さければ、1株当たりの純資産価額を選択することになります。

「小会社」は1株当たりの純資産価額のみで評価します。小会社で類似業種比準価額の計算で乗じる斟酌率は50%です。ただし、納税義務者の選択により類似業種比準価額と1株当たりの純資産価額の併用割合が50%ずつとして計算した金額によって評価することができます。

「中心的な同族株主に該当するかの判定は譲渡前か譲渡後か」についてはすでに申し上げましたが、中心的な同族株主に該当しない場合には、当該株式の発行法人が「大会社」「中会社」に該当すれば、それぞれの方法で評価できます。

中心的な同族株主に該当して「小会社」で評価しなければならない場合でも、類似業種比準価額を50%使うことはできるのです。

修正(2)土地等や上場有価証券を譲渡時の時価で評価

個人が相続や贈与によって土地および土地の上に存する権利(借地権など、以下「土地等」といいます。)や上場有価証券を取得した場合、相続税や贈与税の課税金額を算定する場合のこれらの財産は、土地等については原則として路線価方式または倍率方式を基礎として評価し、上場有価証券については、課税時期(相続や贈与で取得した日)の最終価格、課税時期の月の毎日の最終価格の平均額および課税時期の月の前月の毎日の最終価格の平均額、課税時期の月の前々月の毎日の最終価格の平均額のうち最も低い価額で評価します。

これらの財産の評価の方法は、取得した取引所の相場のない株式を発行する会社が土地等や上場有価証券を資産として保有していても基本的に同様ですが、課税時期前3年以内に当該会社が取得・新築した土地等ならびに家屋およびその附属設備または構築物については、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価します。ただし、これらの資産の帳簿価額が課税時期における通常の取引価額に相当すると認められる場合には、当該帳簿価額に相当する金額で評価できます。

さて、法人税法上の時価を算定する場合には、法人税基本通達9-1-14(2)による修正が入ります。

まず、土地等については、取得時期にかかわらずすべての土地等について「事業年度終了時の価額」で評価します。通達9-1-4が法人が保有する非上場株式について事業年度終了時に評価減を行う場合の規定のため、「事業年度終了時」となっていますが、株式の譲渡の場合には、「事業年度終了時」は「株式譲渡時」に読み替えることになります。

「通常の取引価額」と「(事業年度終了時の)価額」を実質的に同じととらえると、路線価は実際の時価(通常の取引価額)の80%とされているため、路線価方式による土地等の評価額は「通常の取引価額」の80%ということになるため、実務上は、路線価方式によって算定した価額に0.8を除した額をもって「通常の取引価額」としていることも少なくありません。

いっぽう、上場有価証券は、「株式譲渡日の最終価格」で評価することになります。

土地等と上場有価証券以外は、法人税基本通達9-1-14は財産評価基本通達の算定の修正を求めていません。たとえば、家屋については固定資産税評価額で評価します(財産評価基本通達89)ただし、課税時期前3年以内に取得・新築した家屋については、譲渡日における通常の取引価額に相当する金額によって評価します(同通達185)。

これらの修正により、財産評価基本通達どおりの計算よりも明らかに土地等や上場有価証券の評価額は増えることになり、1株当たりの純資産価額も大きくなります。しかし、もっと恐ろしいのは、土地等や上場有価証券の評価額の増大によって、財産評価基本通達179の例が適用できない土地保有特定会社や株式保有特定会社に該当してしまうことです(通達189)。

土地保有特定会社や株式保有特定会社は、土地や株式の時価ベースの価額が総資産に占める割合が一定以上になると該当しますが、これらの特定会社に該当すると1株当たり純資産価額のみで評価しなければならず、類似業種比準価額を併用する余地はまったくなくなってしまうのです(通達189-3、189-4)。

(修正3)評価差額に対する法人税等相当額を控除しない

財産評価基本通達の原則的な方法でも、取引相場のない株式を発行する会社について、保有する資産のなかに取引相場のない株式がある場合、この資産の一部である取引相場のない株式の1株当たり純資産価額の計算では評価差額(時価ベースの評価による含み益等)に対する法人税等相当額は控除しないのですが(通達186-3(注))、最終的な1株当たり純資産価額の算定にあたっては評価差額に対する法人税等相当額(税率は38%)は控除します(通達186-2)。

法人税法上の時価の場合には、取引相場のない株式の発行会社の最終的な1株当たり純資産価額の計算で法人税等相当額の控除は行わないため、1株当たり純資産額は、原則的な算定結果よりもさらに大きくなります。

( 9 )まとめ

裁決や判決を見ると、税法ルールを基礎にして当事者の取引価額を決定したと思われるふしがありながら、その税法ルールを批判したり、税法ルールによって当事者間の取引価額が拘束されると誤解しているかのような主張があります。

訴訟上の戦術でそうなっているかもしれませんし、裁決や判決の文章に出てこないいろいろなことがあるでしょうが、好むと好まざるとにかかわらず、課税当局とトラブルになった場合には、税法ルールそのものを叩くよりも、取引当事者間で定めた取引価額が主観的事情に影響されたものでないという特段の事情があり、客観的交換価値を正当に評価したものであることを証明しつつ、通達等に定められた評価方法を画一的あるいは形式的に適用するとかえって実質的な租税負担の公平を著しく害するというような特別な事情が認められることを証明する必要があると考えられます。

それから、専門家は、取引相場のない株式の評価もソフトで行うことが多いのですが、法人税法上の時価への修正の場合、評価差額に対する法人税等相当額を上書き処理でゼロにしたり、「小会社」評価に修正ということで、つい単純に類似業種比準価額と1株当たり純資産価額の併用割合を調整して終わらせそうですが、類似業種比準価額の計算で最後に乗ずる斟酌率も会社規模によって異なります。小会社の斟酌率は50%です。簡単に損害賠償事案になりそうなのでくれぐれも注意しましょう。

なお、釈迦に説法とは存じますが、法人税法上の時価にまつわる問題の本質は、その額がいくらなのかを計算して終わることにとどまりません。

法人が非上場株式を時価より高く買ったり、あるいは、売ったりした場合に、どのような課税が発生するのか・・・ここにこそ、法人税法上の時価の本質があると考えます。

(おわり)