( 1 )適用される時価の種類

税務当局も裁判所も、売買価格を税務上の時価で行えとはまったくコメントしていません。

課税が発生するかどうかを判断するための画一的な尺度が税務上の時価であり、この尺度によって課税処分をすることと、当事者がこの尺度で売買しなければならないということはまったく別なのです。 課税の問題が生じる場合には、正規の納期限までに税金を払えば国家との関係では問題ないわけです。税法のルールで算定された価額に当事者が拘束される必要性はないと思われます。

そして、この税務上の時価は、相続税法上の時価、所得税法上の時価、法人税法上の時価があります。

適用される時価とその算定方法

株式の税務上の価額(時価)は、個人か法人か、または、発行法人にとってどのような地位の株主であるかによって適用される時価が異なります。

相続税法上の時価、所得税法上の時価、法人税法上の時価

個人が、贈与や相続または遺贈、時価より著しく低い額で取得した場合には「相続税法上の時価」が適用されます。

個人が株式を譲渡した場合の時価は「所得税法上の時価」が適用されます。

法人が株式を取得または譲渡した場合の時価は「法人税法上の時価」が適用されます。

基礎となる「相続税法上の時価」

「相続税法上の時価」「所得税法上の時価」そして「法人税法上の時価」と3つの時価がありますが、基本となるのは「相続税法上の時価」です。

と申しますのも、「所得税法上の時価」そして「法人税法上の時価」も、「相続税法上の時価」の算定方法を一部修正した方法で計算した額だからです。

「相続税法上の時価」の算定方法は、財産評価基本通達に規定されています(取引相場のない株式の評価)。

株主構成と保有する議決権数による時価の劇的な違い

そして、当該株式を取得した個人が当該株式の発行会社にとってどんな地位にあるのか、つまり、どのくらいの支配力(議決権)を保有しているのかによって算定方法が異なります。

具体的には、同族株主に該当する場合(一定の場合を除きます。)は原則的評価方式で評価し、同族株主以外の株主または同族株主でも特殊な場合には特例的評価方式で評価します。

原則的評価方式とは、会社の規模に応じて類似業種比準価額と1株当たり純資産価額とを併用して評価する方式です。特例的評価方式とは、会社の配当実績を基にして配当還元方式によって評価する方式です。、

このため、同族株主(一定の場合を除きます)か同族株主以外の株主に該当するかによって「相続税法上の時価」は大きく異なることになります。

所得税法上の時価や法人税法上の時価に与える影響

このため、「所得税法上の時価」は「相続税法上の時価」の算定方法を準用することから、譲渡の当事者(売主または買主)が同族株主(一定の場合を除きます)か同族株主以外の株主に該当するかによってみなし譲渡課税の判定要素となる時価が大きく異なることになります。

また、「法人税法上の時価」も「相続税法上の時価」の算定方法を準用することから、法人によっても同族株主(一定の場合を除きます)か同族株主以外の株主に該当するかによって「法人税法上の時価」は大きく異なることになります。

よって、「法人税法上の時価はすべて時価純資産額となる」という誤解が生じえますが、当該株式の発行法人において同族株主以外の株主に該当すれば、配当還元価額が法人税法上の時価となります。

もちろん、実際の株式の取引価額は法人税法上の時価で行わなければならないということはありません。取引価額は取引価額、課税は課税で別物なのです。

( つづく )