みなし解散登記を避けるには(3)役員の任期の伸長と員数の削減

登記官の職権によるみなし解散登記を回避するためには、失念していた登記申請を行うことが必要です。その中心は取締役と監査役の改選(重任、辞任、選任)の登記です。

いっぽう、せっかくの機会ということで、会社法で可能になった役員の任期の伸長や役員の員数の削減(取締役会や監査役の廃止)も反映しようということになります。

役員の任期の伸長

ここで、長期間登記を放置した理由は何だったのかをあらためて分析します。

その大きな理由としては、役員の任期が伸びたことが考えられます。会社法施行後は、一定の株式会社は取締役と監査役の任期を10年に伸長できるようになったからです。

取締役の任期は、選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までと伸長することができます(332条2項)。 監査役の任期も同様です(336条2項) 。

役員の任期を伸長していたならば、改選時期が大きく減り、将来的にも登記費用(登録免許税)の節約にもなります。

そこで、登記簿謄本で、記載されている役員の最新の就任日を確認します。

役員の任期の途中での株主総会で定款変更を行って任期を10年に伸長した場合には、その任期の起算日(登記簿謄本に記載されている就任日)から10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとなります。

たとえば、平成16年5月20日に就任している取締役の場合、そのままでは選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとなります。この会社が3月決算の場合には、選任(平成16年5月20日)後2年(平成18年5月20日)以内に終了する事業年度のうち最終のものは平成18年3月期となるため、平成18年3月期に係る定時株主総会の終結のときまでとなります。

そこで、その取締役の改選時期である平成18年3月期に関する定時株主総会で定款を変更して役員の任期を10年に伸長していたというスキームもありですが、ここは石橋を叩いて、会社法施行日(平成18年5月1日)からその定時株主総会の開催日までの間に臨時株主総会を開催して、取締役の任期を「選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで」に定款を変更する決議を行っていた(ことにする)ほうが無難と思われます。

すると、その取締役の任期は選任(平成16年5月20日)後10年(平成26年5月20日)以内に終了する事業年度(平成26年3月期)に関する定時株主総会の終結の時までとなります。

役員の任期を伸長することで、改選時期は大幅に減っていたことになります。登記申請にあたり、添付する議事録の数も激減することになります。

余談ですが、会社にもし株式に譲渡制限が付されていなかった場合には、監査役が会社法施行日(平成18年5月1日)で任期切れとなるため(前回を参照ください。)、会社法施行日に臨時株主総会を開催して監査役の選任(重任)を行うのと同じタイミングで、譲渡制限を付すと同時に役員の任期を伸長する定款変更の決議をした(ことにする)ことスキームもありえます。

会社法と株式会社の機関

会社法施行日前、旧商法時代に設立された株式会社は、取締役会と監査役を必ず置かなければなりませんでした。

会社法では会社の機関を自由に設計することができ、取締役会や監査役を設置しないことも可能になりました。つまり、会社の役員は取締役1名だけでも可能となりました。

会社法施行日(2006(平成18)年5月1日)よりも前に設立された株式会社の場合、特段の登記をしていないかぎり会社法の施行により登記官の職権で次の登記がなされています。

  • 「株券を発行する定め」として「当会社の株式については、株券を発行する」
  • 「取締役会設置会社に関する事項」として「取締役会設置会社」
  • 「監査役設置会社に関する事項」として「監査役設置会社」

会社法では、株式会社は株券を発行しないことが原則となり、また、会社の機関設計が自由になったため、取締役会や監査役の設置が任意となりました。このため、これらの事項が登記事項となり、登記官の職権で登記が行われています。

さて、この一連の目的は、みなし解散登記を避けて、長年放置されていた登記の内容をいかに現況に即して登記申請を行うことにあります。

旧商法時代、株式会社はどんなに小規模でも、監査役会と監査役を置かなければなりませんでした。このため、役員の人数は、取締役3名、監査役1名の最低4名が必要でした。

そのため、名前だけ貸している人も多々存在していました。

12年前の登記簿謄本の役員欄の内容と、現在の状況を比較すると、(当時から)会社の経営に関与しなくなっていたり、また、死亡していることもあります。

会社法になり、役員の任期が伸長でき、機関設計が自由になったことで、取締役会や監査役を廃止することで役員の員数を削減することにより、現在の実態に合わせることが可能となったのです。

役員の員数の削減(取締役会や監査役の廃止)

みなし解散登記を避けるための登記を機会に、会社の機関設計を現在の状況に合わせてしまう(しまったことにする)こともひとつの考え方です。

会社法では、会社の役員を取締役1名のみにすることも可能です。そこで、役員の員数を削減すべく取締役会や監査役を廃止することになります。

注意したいのは、取締役会を廃止しない場合には、監査役を廃止することはできません(会社法327条2項)。なお、会計参与を設置すれば監査役を廃止できますが(同項ただし書)、役員の員数の削減を考えているところでは無意味な議論となります。

取締役会を廃止すれば監査役も廃止できます。もっとも、取締役会がなくても監査役を置くことは可能です。

では、実際の廃止のタイミングですが、役員の改選時期、すなわち、役員の任期が満了する定時株主総会で定款を変更して、取締役会や監査役を廃止することがベターと考えられます。なぜなら、改選時期としたほうがあらためて選任される取締役の任期がそこから始まるため、任期を余すところなく有効に使えるからです。

取締役会の廃止や監査役の廃止を行うときの定款の変更で同時にチェックしたいことは次の点です。

  • 役員の員数の変更
  • 代表取締役の選任方法
  • 株式譲渡を承認する機関の変更

取締役会や監査役を廃止しようとする場合にチェックしたいのは、定款の役員の員数に関する条項です。

役員の員数の変更

取締役会を廃止して取締役の員数を2名にするとします。定款が「取締役を5名以内とする」の場合は1名でもよいので変更の必要はありませんが、「取締役は3名以上とする」では、この条項を変更しないと、取締役会を廃止しても3名以上取締役を選任しなければならず、何のために取締役会を廃止したのかわからなくなります。

代表取締役の選任方法

取締役会を設置している株式会社では、会社を代表する取締役(代表取締役)は取締役会によって選任します(会社法362条2項3号)。

いっぽう、取締役会を設置していない株式会社は、取締役が複数の2人以上の場合には、取締役は各自が会社を代表します(会社法349条1項本文、2項)。ただし、他に代表取締役その他株式会社を代表する者を定めた場合は、会社を代表するのはその取締役となります(会社法349条1項ただし書)。

そして、取締役会を廃止した場合で、取締役が2人以上の場合には、定款、定款の定めに基づく取締役の互選または株主総会の決議によって、取締役の中から代表取締役を定めることになります(会社法349条3項)。

そこで、取締役会を廃止しようとする定款の変更の際に、取締役は2人以上とする場合には、代表取締役の選任方法も定款で定めなければなりません。

取締役会を廃止する定款変更を、役員の改選を行う定時株主総会で行う場合、第1号議案で決算書類の承認、第2号議案で定款の変更(取締役会の廃止と代表取締役を株主総会で選任する)を行い、その後の第3号議案で取締役の選任を行います。

そして、代表取締役を株主総会で選任するとした場合には、第4号議案で取締役の中から代表取締役を選任します。

いっぽう、代表取締役を取締役の互選で選任するとした場合には、株主総会終了後取締役での話し合いで決定します。この場合の登記申請の添付書類は「取締役決定書」となります。

株式譲渡を承認する機関の変更

旧商法時代は、取締役会の設置が必須だったため、株式の譲渡を承認する機関は取締役会でした(旧商法204条)。

このため、定款では「当会社の株式を譲渡するには取締役会の承認を受けなければならない」となっています。

取締役会を廃止する場合には、承認機関を変更しなければなりません。株主総会とか代表取締役などです。

その他論点

会社法施行日(2006(平成18)年5月1日)に公開会社であった株式会社の場合には、会社法施行日に監査役の任期が切れることになります(前回参照)。

そして、前回では会社法施行日に臨時株主総会を開催して監査役を再び選任する(重任)ようなスキームでした。

理論的には、この会社法施行日の臨時株主総会で、「株式の譲渡制限を付す」「取締役会と監査役を廃止する」旨の定款変更を決議すれば、監査役は退任して監査役はそのまま廃止されることになります。

なお、この場合には、「株式の譲渡制限を付す」定款の条項は、株式の譲渡承認機関は取締役会を廃止することから取締役以外の機関を定めることが必要です。

( おわり )