みなし解散登記を避けるには(2)株式に譲渡制限を付ける

登記官の職権によるみなし解散登記を回避するためには、失念していた登記申請を行うことが必要です。その中心は取締役と監査役の改選(重任、辞任、選任)の登記です。

さて、旧商法と会社法で劇的に変わったもののひとつに「役員の任期の伸長」と「役員の員数の減少」があります。このことが、ある意味で長期間登記が行われていない事情のひとつともいえます。

ところが、この「役員の任期の伸長」と「役員の員数の減少」は、すべての株式会社に適用されるわけではありません。ズバリ、株式の譲渡に制限(会社の承認)がある会社(公開会社ではない株式会社)であることが必要です。

そこで、失念していた登記申請を行うにあたり、まず何よりも先に確認しなければならないのは、「株式の譲渡制限が付されているかどうか」なのです。

前回のおさらい

前回では、登記簿謄本に記載されている役員の状況と、現在の状況とに違いが生じていない場合の登記についてコメントしました。

この場合は、登記簿謄本に記載されている役員の就任日から改選時期((代表)取締役は2年、監査役は4年)ごとの定時株主総会議事録を添付して役員変更登記を行えば足ります。

ところが、登記簿謄本に「株式の譲渡制限に関する規定」がない場合には、監査役の任期は、会社法施行日(2006(平成18)年5月1日)にいったん終了して退任している(新しい任期はこの日から始まる)ことに注意すべきです。

現状の分析と会社法の規定

ところで、旧商法から会社法となり役員の任期を10年に伸長することが可能になったため、「過去の記録を確認したところ会社の定款を変更して役員の任期を伸長していた」場合には、その後の役員の改選時期は大幅に減ることになります。

ということは、会社法施行日(2006(平成18)年5月1日)以後、会社の定款を変更して役員の任期を10年にしていれば、登記で添付すべき定時株主総会議事録はぐっと減ることになります。

また、長年登記をしていない間に、登記簿に役員として記載されている人が、すでに(当初から?)会社の経営に関与しなくなっていたり、また、死亡していることもあります。

旧商法の時代(2006年4月30日まで)、株式会社はどんなに小規模でも、取締役3名以上、監査役1名以上がいなければなりませんでした。そのため、名前だけ貸していているだけの役員も存在する状況もありえました。

会社法では会社の機関を自由に設計することができ、取締役会や監査役は任意となりました。つまり、会社の役員は取締役1名でも可能です。そこで、「過去の記録を確認した」ところ会社の定款を変更していた場合には、会社の実態に即した機関構成にすることができます。

ところが、役員の任期の伸長にしても、役員の員数の削減にしても、公開会社でない株式会社であることが必要です。

公開会社でない株式会社とは

公開会社でない株式会社、その前に、そもそも公開会社とはどのような会社でしょうか。

株式を上場している会社ではありません。

会社法2条5号によれば、公開会社とは、その発行する全部又は一部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について株式会社の承認を要する旨の定款の定めを設けていない株式会社をいいます。

つまり、どんな小規模な株式会社でも、株式に譲渡制限が付いていない株式会社は、会社法上は公開会社となります。

株式に譲渡制限が付いているかどうかは登記簿謄本で簡単にわかります。

登記簿謄本に「株式の譲渡制限に関する規定」があり、そこに、「当会社の株式を譲渡するには取締役会の承認がなければならない」等の記載があるかどうかです。

小規模な株式会社のほとんどは株式の譲渡制限が付いているとはいえ、ここを確認しないと、法令違反の株主総会決議が行われていたことになり、その議事録を添付して登記申請しても当然のことながら登記は通りません。

株式に譲渡制限を付している株式会社(公開会社でない株式会社)

  • 取締役及び監査役の任期を10年に伸長することができます(332条2項、336条2項)。
  • 取締役会を廃止することができます(327条1項1号反対解釈)。
  • 取締役会を廃止できるため、監査役を廃止することもできます(327条2項反対解釈)。
  • 取締役を1人(代表取締役社長)のみにすることができます(326条1項)。

株式に譲渡制限を付していない株式会社(公開会社)

  • 取締役及び監査役の任期を10年に伸長できません(332条1項、336条1項)。
  • 取締役会を廃止することができません(327条1項1号)。よって、取締役の員数は最低3名が必要です(331条5項)。
  • 取締役会を廃止することができないため、監査役を廃止することができません(327条2項)。

株式に譲渡制限を付ける

謄本に「株式の譲渡制限に関する規定」がない場合、少なくとも会社法施行日(2006(平成18)年5月1日)現在は公開会社となっているため、このままでは役員の任期の伸長も役員の員数の減少もできません。

しかも、前回申し上げたとおり、旧商法時代の小会社で株式に譲渡制限がない会社は、会社法施行日をもって監査役の任期が切れて退任となります。

そこで、役員の任期の伸長や役員の員数の削減をしようとする場合、会社法施行日(2006(平成18)年5月1日)以後に、(臨時)株主総会を開催して株式の譲渡制限を付す手続をした(ことにする)ことが必要です。

株券発行会社かどうかの確認

株式に譲渡制限を付す前に重要なのが、株券発行会社かどうかの確認です。

なぜなら、株券発行会社は、株式に譲渡制限を付すための定款の変更をする場合には、一定の手続きが求められ、しかも、これは登記申請の場合の添付書類となるからです。

さて、株券発行会社かどうかもまた、謄本でチェックできます。株券発行会社の場合には「株券を発行する旨の定め」として「当会社の株式については、株券を発行する」という記載があります。

会社法では株券を発行しない(株券不発行会社)ことが原則ですが、旧商法時代は、株式会社は株券を発行することが原則だったため、株券発行会社の記載があることが一般的です。

株券発行会社の場合の手続と登記申請の添付書類

株券発行会社は、株式に譲渡制限を付すための定款の変更をする場合には、定款の変更の効力が生ずる日までに当該会社に対し株券を提出しなければならない旨を株券提出日の1月前までに公告し、かつ、当該株式の株主及びその登録株式質権者には、各別にこれを通知しなければならないのです(会社法219条1項1号本文)。

しかも、登記申請の添付書類には「公告をしたことを証する書面」が必要です。

「そんなことしていないからダメだ・・・」と思いがちですが、実は同号ただし書には「当該株式の全部について株券を発行していない場合は、この限りでない。」という規定があります。つまり、株券発行会社であっても株券を発行していない、より正確には、株主から「株券を所持しません」という申し出を受けることで株券を発行していない会社も多くあります(会社法217条)。

もし、株券を発行していない場合には、登記申請では、株主名簿(「株券不所持の申出あり」などと記載します。)に、株式の譲渡制限を付す定款の変更を決議した臨時株主総会の開催日現在において「当該株式の全部について株券を発行していないことを証明する」との代表取締役による証明(登記所届出の会社の実印を押します。)を添付すれば足ります。

株式譲渡を承認する機関をどうするか

株式の譲渡制限を付す場合、実際に譲渡を承認する会社機関をどうするかということが問題となります。

会社法施行前の株式会社は取締役会の設置が必須であり、株式譲渡の承認機関は取締役会でした(旧商法204条)。会社法では、会社に取締役会を設置するかどうかは任意ですが、取締役会を設置している会社は株式譲渡の承認機関は取締役会です(会社法139条1項本文)。

ここで、譲渡制限を付して「公開会社でない株式会社」となり、その後で晴れて役員の任期伸長や役員の員数の減少ができるわけですが、この段階ではまだ取締役会が存在しているため、この段階では承認機関を取締役会とすべきです。

その後、取締役会を廃止する定款変更の段階で、株式譲渡の承認機関を取締役会から株主総会や代表取締役などに変更し、株主総会で決議すればよいのです。

たしかに、この株式譲渡制限を付す定款の変更をするのと同時に、役員任期の変更や役員の員数を減らす定款の変更も行ってしまうということも理論上不可能でないと思われますが、登記がスムーズに通ることを最優先させるべきです。

しかも、そのほうが、役員任期の伸長や役員の員数の減少のための取締役会や監査役の廃止については、登記簿に記載されている最後の就任日から起算して改選時期に当たる定時株主総会のときに定款を変更するのが、任期をキチンと使い切って重任という点で「経済性もある」と思われます。

株券不発行にするかどうか

旧商法では株券発行が原則でしたが、会社法では株券不発行が原則です。会社法施行日前に設立された会社はほとんどが株券発行会社となっています。とはいえ、株券発行会社であっても、株券不所持にして現実には株券不発行の状況になっていることが少なくありません。

今回、株式譲渡制限を付すのと同じタイミングで株券不発行会社へ変更する定款変更も考えられます。

ただし、今回の目的は「みなし解散の登記を回避する」ことです。スムーズな登記を心がけましょう。しかも、株券不発行にすることは急を要することではありません。登記は変更後2週間以内で行わなければならないことに鑑みても、あまり調子に乗ることは避けるべきです。

( つづく )