みなし解散登記を避けるには(1)現状分析と「過去の記録の確認」
法務局の「休眠会社・休眠一般法人の整理作業」により、最後の登記から12年経過した株式会社は、職権によるみなし解散が行われます。
これを回避するためには、申請を失念していた登記を行わなければなりません。
登記簿謄本を取得し、現在の状況を踏まえて、「過去の記録を確認」する必要があります。
職権によるみなし解散の登記とは
株式会社のうち最後の登記をしてから12年を経過したものについて、会社法472条の規定に基づく法務大臣の公告があった旨の通知が来ます。
公告の要旨は、「最後の登記後12年を経過している株式会社及び最後の登記後5年を経過している一般社団法人又は財団法人は、まだ事業を廃止していないときは、本店又は主たる事業所を管轄する登記所に、その旨の届出をされたい。 この公告の日から2か月以内にその届出がなく、登記もされないときは、その期間の満了の時に解散したものとみなされる。」です。
もともと事業を停止して休業状態になっている株式会社については、とくにアクションする必要はないのかもしれませんが、バリバリ事業をしている株式会社にとっては驚きの通知ということになります。
なぜ最後の登記から12年経過してしまうのでしょうか。この背景に会社法の規定があります。
会社法の施行(2006(平成18)年5月1日)により、一定の株式会社の役員の任期が10年に伸長されました。 このため、旧商法時代の取締役2年、監査役4年よりも役員変更登記の時期が大きく変わったため、うっかりすると12年経ってしまうのです。
いったんみなし解散の職権登記がされてしまうと、登記簿に残り続けることになります。本店を管轄外の登記所に移転しないかぎり、履歴事項全部証明書を取得するたびに出てくることになります。
会社の登記簿謄本を求められて「解散」となっていると、「この会社と取引していいのか?」になりかねません。法律上は解散した会社はもはや通常の事業はできず、会社を清算する事務しか行えないことになっているからです。また、会社の決算も、事業年度は解散の登記がなされた日でいったん終了し、解散の日の翌日から1年間が事業年度となります(12月〇日決算)。
そこで、何としてもみなし解散登記を避けなければなりません。
スムーズに登記が通ることが最優先
アタマの動かし方としては次のようになります。
- 登記簿謄本はいまどういう状況なのか(特に役員の任期)
- 現在の状況はどうなのか(特に登記簿に載っている役員の状況)
- 現在の状況と登記を合致させるにはどうすればよいか(いかに補正を避けるか)
- せっかくなので直すべきところはあるか(登録免許税が同じため)
今回の目的は、みなし解散の登記を回避し、登記を放置した違法状態を解消し現在の状況を登記により公示することにあります。
最後の登記のある登記簿謄本の状況から現在の状況に至るまではいろいろな道程があった(ことにする)わけですが、事実関係と異なっていたり、法律の規定に即していないと、登記申請で補正を受けてしまいます。
そして、登記がスムーズに行くような登記申請を行うべきです。
難しい登記申請をして登記官と法律バトルするのは間違いではないですが、「補正を受けないためにはどうすればよいか」を最優先すべきです。たとえば、1回の株主総会ですべて決議するのではなく、数回に分けて決議した(ことにする)などです。
登記簿謄本のチェック
まず最初に、謄本を入手します。現在事項全部証明書よりも履歴事項全部証明書のほうがベターです。
さて、12年間も登記がなされていない最大の原因は、役員変更登記を放置していたことです。
そこで、謄本に記載された役員の就任時期をチェックします。ここを起算日として(現在に至るまでの)改選時期を確認することになります。
もうひとつ、絶対に確認しなければならないことがあります。
それは、登記簿謄本に「株式の譲渡制限に関する規定」があり、「当会社の株式を譲渡するには取締役会の承認を得なければならない」等の記載があるかどうかです。
規模の小さいほとんどの株式会社は、登記簿謄本に「株式の譲渡制限に関する規定」があります。
ところが、まれにこれがない株式会社もあります。この場合、登記申請で思わぬ(?)補正を受けることがあります(後述)。
イージーな解決法(ひたすら重任登記)
長年放置されてきた登記簿に記載されている内容と、現在の状況とに何のギャップもない場合には、ひたすら役員変更登記を行えば足ります。
取締役の重任
会社法232条1項本文により、取締役の任期は、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとなります。
最後の登記後、取締役の重任は6回以上行われていたことになるため、これに係るすべての定時株主総会議事録を登記申請の添付書類とします。
代表取締役の重任
旧商法時代に設立された株式会社は、当然に取締役会があります(取締役会設置会社)。登記簿謄本にも登記官の職権で登記がされています。
取締役会設置会社では、代表取締役は取締役会で取締役の中から選任されます(旧商法261条1項、会社法362条2項、3項)。
よって、取締役の改選に合わせて代表取締役の改選も行れます。実務的には定時株主総会後の取締役会で代表取締役の選任が行われます。
このため、取締役の変更(重任)と代表取締役の変更(重任)の登記はセットであり、添付書類としても定時株主総会議事録と取締役会議事録が必要になります。
監査役の重任
会社法336条1項により、監査役の任期は、選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとなります。
最後の登記後、監査役の重任は3回以上行われていたことになるため、これに係る定時株主総会議事録を登記申請の添付書類とします。
重大な落とし穴(監査役の任期)
取締役の重任を決議した定時株主総会議事録、代表取締役の重任を決議した取締役会議事録、監査役の重任を決議した定時株主総会議事録を用意すれば登記申請ができます。
取締役の任期は2年、監査役が4年となると、ある事業年度に係る定時株主総会では取締役と監査役の重任がセットでできそうですが、謄本に記載されている最後の取締役の就任日と監査役の就任日をチェックする必要があります。 もし、取締役の改選時期と監査役の就任日が1年ズレていると、登記申請の場合には10通近くの定期株主総会議事録を添付しなければならなくなります。
ちなみに、かつて旧商法で監査役の任期が3年だった時代に、取締役と代表取締役の重任の際に、監査役が辞任して再び選任するということが盛んに行われていましたが、今回もいったんこれを行った(ことにする)ことで、登記申請で添付する定時株主総会議事録は大きく減ることになります。
ところが、大きな落とし穴があります。
その落とし穴は、登記簿謄本に「株式の譲渡制限に関する規定」がない会社にあります。
実は、株式の譲渡に制限が付いていない株式会社のうち、会社法施行日(2006(平成18)年5月1日)直前に資本金1億円以下かつ最終の決算期に係る貸借対照表の負債額が200億円未満の会社の監査役は、会社法施行日に任期が切れて退任になっていたことです。
「いいじゃんそのまま今まで監査役なんだから」ではありません。
会社法施行日(2006(平成18)年5月1日)に監査役がいったん退任していたということは、その日から新たな任期が始まったということなのです。
ここを押さえずに、監査役の重任を決議した定時株主総会議事録を添付して登記申請をしても、確実に法務局から「改選時期が違う」と補正を求める電話がかかってきます。
しかも、登記簿謄本に「株式の譲渡制限に関する規定」がない会社では、役員の任期の伸長(最大10年)や役員の員数の削減(取締役会や監査役の廃止)ができません。
役員の任期の伸長や員数の削減は、登記簿謄本の内容を現在の状況に直すプロセスで考慮すべき重要なことです。
この点で、登記簿謄本に「株式の譲渡制限に関する規定」があるか確認することと、そして、「株式の譲渡制限に関する規定」がない場合に「株式の譲渡制限の設定」をしておくことは極めて重要です。
(参考)会社法施行日に監査役の任期が切れていた理由
会社の機関としての監査役の監査は、取締役の職務執行の監査(業務執行監査、業務監査)と会計に関する部分の監査(会計監査)があります。
旧商法時代、資本金1億円以下かつ最終の決算期に係る貸借対照表の負債額が200億円未満の会社(小会社)の監査役の監査の範囲は、会計監査に限られていました(株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律1条の2第2項、25条)。
会社法では、監査役は会計監査だけでなく業務監査も行うこととなりました(381条1項)。つまり、会社法施行によって監査役の監査の範囲が拡大することになったのです。
もっとも、公開会社でない株式会社(株式の譲渡制限を設定している株式会社)で監査役会や会計監査人を設置していない会社は、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨を定款で定めることができます(会社法389条1項)。
そこで、旧商法時代の小会社は、会社法施行日(2006(平成18)年5月1日)に会社の定款に「監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する」旨の定めがあるとみなされることになりました(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(以下「整備法」といいます。)53条)。これにより、旧商法時代の小会社で、かつ、株式の譲渡制限を設定している会社は、会社法施行後も監査役の監査の範囲は会計監査に限定されています。
ところが、旧商法時代の小会社でも株式の譲渡制限の設定がない会社は、整備法53条の適用がないため、会社法の施行により監査役の範囲は業務監査まで拡大されました。
ここで、会社法336条4項3号によれば、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めを廃止する定款の変更を行うと監査役の任期が終了します。
つまり、旧商法時代の小会社でも株式の譲渡制限の設定がない会社は、会社法施行により監査役の監査の範囲が会計監査に限定されなくなったことで実質的に会社法336条4項3号に該当することとなるため、監査役の任期が終了するのです。
さて、苦し紛れ(?)に、監査役の任期が会社法施行日に切れていなかったことにするには、どうすればよいでしょうか。
「会社法施行日の前に会社の株式に譲渡制限を付けておいた(ことにする)」ということも考えられますが・・
そんなことよりも、会社法施行日に臨時株主総会を開催して、「会社法の規定により本日をもって監査役が退任となるので・・・」という流れで監査役を選任(重任)した(ことにする)ほうがよっぽど無難です。
登記がスムーズに行くような登記申請を行うべきと申し上げたのはまさにこのことです。
( つづく )