少数株主であるということ(上場会社の場合)

会社の株式を取得すると、会社に対する支配権を確保します。しかし、一定数の株式を保有しなければ会社の意思決定に影響を与えることはできません。

しかし、そのような支配株主(グループ)とは異なる少数株主(非支配株主)が株主になるということはどういうことなのでしょうか。何のメリットを期待してなのでしょうか。

そもそも論としての株式会社形態

教科書的には、もともと株式会社という形態は、立ち上げに大きな初期投資(元手)が必要な事業を行おうとする場合に、多数の者から元手(資本金)として財産を集めて事業を立ち上げ、出資者(株主)に事業からの収益を分配(配当)しようというものです。

出資者には出資の額に応じた割合によって株式を発行します。その株式のひとつひとつの単位(1株)には、会社の経営意思決定を行う権利(議決権)や配当をもらう権利などが付与されています。そして、保有する株式の数によってその会社の支配力(会社を運営する役員の選任権など)や配当の額が決まります。

会社の(重要な)経営意思の決定は、株主の多数決ではなく、株主が持つ株式数(議決権数)で決まります。 つまり、株主が100人であった場合、1株を保有する株主が99人反対しても、100株を持つ1人の株主が勝つのです。

所有と経営の分離と所有と経営の一致

一定の株式数を有している株主は、その議決権の数でみずから会社の経営をすることもできます。しかし、そのような余裕はない場合には、出資している関係上会社の重要な方針の決定には関与しても、通常の事業活動については自ら行うよりも経営に通じた者に委ねることで会社がより大きな利益を上げ、より大きな配当を得ることを期待して、経営に通じた者すなわち取締役を選任して経営を任せることになります。これが「所有(株主)と経営(取締役)の分離」です。

もっとも、圧倒的多数の株式会社は、単独で、あるいは、少数の近親者(親類や協力者など)で会社を設立し、すべての株式(議決権)を独占し、みずからが(代表)取締役となって経営にも携わります。つまり、「所有と経営の一致」です。

増資時の株価と支配力

会社の事業が軌道に乗り、事業がどんどん大きくなるにつれ資金が必要になります。

この資金の調達を、元本返済と利息の負担がある借入金によってではなく、増資によって行うことがあります。

増資とは、会社が新たに株式を発行して、その株式を引き受けた者(自然人や法人)から払込みを受けることです。

株式を引き受けた者は、払込みによって株式を取得し新たに株主となります。すでに株式を保有し株主となっている場合には、保有する株式数が増えることになります。

さて、増資における1株当たりの価値(株価)は、その時々における会社の価値によります。つまり、会社を設立した時と、事業がそれなりに実績を挙げつつある時では、後者のほうがより価値が高くなります。これは何を意味するのでしょうか。

出資する側からすると、同じ出資額であっても獲得できる株式数は少なくなります。いっぽう、株式を発行する会社側からすると、増資によって新たに発行する株式数が少なくても多くの資金を調達することができます。

このため、株主(グループ)が増資後もその支配力を維持するためには、それなりの株式を引き受けて資金を出さなければなりません。 ここに、近親者のみでの調達は、資金調達の点で限界が出てきます。

そこで、増資によって近親者以外の第三者に株式を引き受けてもらおうという動機付けが生まれます。その延長線上が株式上場です。

上場前後の少数株主(非支配株主)の登場

株式を上場した時点では、会社は増資を行って市場から資金を調達する(こちらが本来の上場の目的)とともに、既存株主は市場で株式を売却します(売出し)。これにより、既存株主などは株式売却益を獲得する(キャピタル・ゲイン)ことが一般的です。

創業者ほか既存株主だけなく、従業員等が上場後に株式を譲渡してキャピタルゲインを得るようにするためにストック・オプションを割り当てることで、従業員等の業務に対するインセンティブを高めます。

このため、上場をしようとする会社の増資を引き受けようとする者(ベンチャーキャピタルが典型的です。)は、上場後のキャピタル・ゲインを期待して出資を引き受けるのです。上場前の早い段階は(理論的な)株価が低いため、早い段階で株式を取得すればするほど、上場後に大きなキャピタル・ゲインを得ることになります。

ベンチャーキャピタルは、上場前の会社の増資を引き受けて株主になって一定の会社支配力を獲得しますが、その関心はいかに確実に会社が上場し、企業価値を高め、大きなキャピタル・ゲインを得るかにあります。

キャピタル・ゲインは、株式を売却する、つまり、高い株価で株式を取得する買い手がいて可能となります。買い手、この株式を市場で買い取った不特定多数の者が新たに株主となります。そして、会社に対する支配権を獲得します。

創業者等の既存株主は、株式を市場で売却して大きな利益を得るいっぽう、保有する株式数(議決権数)が減少するため会社支配力が低下する(または無くなる)ことになります。

そこで、上場しようとする場合、いわゆる資本政策を行います。資本政策の大きな目的は、上場時の既存株主(創業者)の利益と、上場後の支配力の確保というトレードオフをいかにコントロールするかにあります。

このため、通常の場合は、上場後でも創業者一族などが一定の議決権(支配力)を保有し続けるため、市場でどんどん株式を買い増して一定の影響力は持ちえても、やはり少数株主にとどまることになります。

なぜ株主となるのか

市場で株式を取得して株主となれば、株主としての権利を会社に対して行使することができます。しかし、やはり会社を支配する権利(議決権)が一定以上なければ、少なくとも株主総会の議決において会社の経営に影響を及ぼすことはできません。

それなのに、なぜ株主となるのでしょうか。

一般の投資家にとって、上場会社の少数株主であることの動機付けは、会社支配が目的ではなく、もっぱら経済的理由(配当を求めるいわゆるインカムゲイン、売却時の売買益を求めるキャピタルゲイン、あるいは株主優待など)となります。

また、一般的に有名である上場会社の株主として、株主に与えられている権利を行使することで一定の満足感を得るということもありましょう。

しかし、上場会社の株主、つまり、上場会社の株式を取得する最大のメリットは、その株式を市場で売買でき、いつでも換金可能だということです。

株価は市場で刻々と変動するため、取得(購入)した株価よりも下落している場合には損失が発生しますが、それでも株価が0円でないかぎり、おカネに交換することができるのです。

上場会社の少数株主は、会社の株価が上がったときや会社の株主であることがイヤになったときは、いつでも市場で売却することができます。

( おわり )