( 5 )中長期的な資金繰り予定表の作成と経営計画への展開
ここまでは、ある意味、短期的な日繰り予定表についての説明でした。
今回は、中長期的な資金繰り予定表の作成のヒントを提示し、さらに経営計画へ展開できるようにします。
中長期的な資金繰り予定表への展開
これまでの説明と目的は、ある意味で短期的な日繰り予定をより実践的に行うためのものでした。
これをさらに発展させて、中長期的な資金繰り予定表を作るためのヒントを提示します。
その枠組みは、「銀行口座別の資金繰り予定表」「全銀行口座の予定残高一覧表」とほぼ同じです。すなわち、ひとつのフォルダを作って、その中に次の2つのExcelファイルを作成し、フォルダ内でリンクをするというものです。
- 入金予定と出金予定を管理するExcelファイル
- (中長期的な)資金繰り予定表となるExcelファイル
「入金予定と出金予定を管理するExcelファイル」に将来の入金情報と出金情報を簡単に入力すると、「(中長期的な)資金繰り予定表となるExcelファイル」で数値が集計されるというものです。
短期用と中長期用の違い
預金口座別の管理までは要しない
短期の資金繰り予定表(日繰り予定表)では、たとえば3ヶ月先までの日々の各預金口座の状況を把握する必要がありました。
しかし、年間の資金繰り予定表や数年先までの資金繰り予定表を作ろうとする場合には、各預金口座別の情報までは特に必要ありません。
正確な決済日までは要しない
短期的な日繰り予定表の場合には、いつ入金するか、いつ支払いがあるかについて日付情報を正確に入力しなければなりません。
たとえば、月末に支払い(口座振替による引き落とし)がある場合、月末日が金融機関の休日に当たるときには、翌月の最初の平日に振替が行われます。
短期的な日繰り予定表の場合には正確にこれを反映させる必要があります。
しかし、中長期的な資金繰り予定表の場合では、日々の管理というよりは月単位で捉えることになるため、必ずしも決済日の曜日にこだわる必要性がありません。
むしろ、中長期的にモノゴトを見る場合は、俯瞰してある程度安定的な傾向をつかむ必要があります。
月末が休日かどうかまで把握しすぎると、ある月の月末の支払いが翌月の月初になるため、その翌月は月末と合わせて2ヶ月分の支払いということになるため、月単位の収支の傾向がデコボコしてしまいます。
正確な数値までは要しない
短期的な日繰り予定表の場合には入金額や支払額は正確な数値を入れる必要があります。
というより、ここで使用した数値等は、会計データから流用したり、逆に会計データに流用するなど、使い回さなければなりません。同じ入力をあちらこちらでやっているほどムダな時間の使い方はありません。
中長期的な資金繰り予定表では、ある程度概算値で足ります。
さらに、中長期的な資金繰り予定表から短期的な日繰り予定表へ連続性を持たせようとする場合には、予定値を確定値に入れ替えるなどが考えられます。
入出金の項目を集計できるようにする
短期的な日繰り予定表の場合には、日ごとに銀行口座別の入金予定額や出金予定額を集計していました。
中長期的な資金繰り予定表の場合には、月ごとの集計で足ります。そのかわり、どんな入金や出金があるのか、つまり入出金の内容(種類)について集計する必要があります。
「日ごと&銀行口座別」ではなく「月ごと&内容(種類)別」で集計するのです。
これらの典型的な例が人件費です。
給料は、厳密には「従業員等への給料支払い」「源泉所得税や住民税の納付」「社会保険料の納付」はタイミングは異なります。日繰り予定表の場合はこれらの支出の金額とタイミングを厳密に捉えなければなりません。しかし、中長期的な資金繰り予定表では従業員等への支払いのタイミングと同じにするのが一般的かと思われます。
あまりにも細かいことにこだわりすぎると大局を見失う・・・というより、何のためのお仕事なんですか?となってしまいます。
集計すべき入出金項目の設定
貸借対照表や損益計算書は一般に公正妥当と認められる会計基準に従って作成され、またキャッシュ・フロー計算書も表示については一定のフォーマットで作成しなければなりません。
しかし、この内部的な資金繰り予定表については、従うべきルールは存在しません。ただただ経営に使えるかどうかだけです。
そこから考えれば、中長期的な資金繰り予定表において集計されるべき入出金項目をどうするかについても、もっぱら経営に使えるかどうかで判断すべきことになります。
とはいえ、資金繰り予定(表)に求められているのは、次のとおりです。
- 支払予定に対する入金予定はどうか(金額とタイミング)
- 資金が不足する場合の資金調達(借入れや出資受入れ)の額とタイミング
そして、キャッシュ・フロー計算書でも重要ですが、「営業キャッシュ・フロー」「投資キャッシュ・フロー」「財務キャッシュ・フロー」で区分する必要があります。
各キャッシュ・フローの入金は次のようなものになります。
- 営業キャッシュ・フロー(売上による入金)
- 投資キャッシュ・フロー(設備や投資資産の売却による入金)
- 財務キャッシュ・フロー(借入れや増資)
つぎに、各キャッシュ・フローの出金は次のようなものになります。
- 営業キャッシュ・フロー(下記に該当しない支払い)
- 投資キャッシュ・フロー(設備投資や投資資産の取得のための支払い)
- 財務キャッシュ・フロー(借入金などの有利子負債の元本返済と利息の支払い)
とくに「通常のビジネス(売上入金と仕入・経費の出金)で得た資金(営業キャッシュ・フロー)で、借入金の元本と利息がまかなえているか」を捉えていなければなりません。
おカネに色は付いていないため、ビジネスで得たおカネと他人から借りたおカネの区別が付かず、営業キャッシュ・フローがマイナスなのにおカネを借りて満足してしまい、自転車操業していることに気づかない経営者も少なくありません。
これが悪化すると、おカネを借りなければ成り立たないため、決算の粉飾は当たり前、やむを得ないという発想になってしまいます。
各項目について若干コメントします。
営業キャッシュ・フロー
資金繰りの実績ではなく予定なので、支払い予定から入るほうがよいと考えられます。
支払いの項目については、いろいろな種類に分けられるため、それぞれのコスト構造によって項目を考えればよいかと思います。
項目作成上の切り口は、金額の多寡のほかに次のようなものがあります。
- 売上高の変動に関係なくほぼ一定に支払いがあるもの(人件費や家賃など)かどうか
- 毎月発生する支払いか、たまに発生する支払いか(法人税や労働保険の納付など)
- 経営上の判断で発生する支払いかどうか(広告宣伝費など)
タイミングはあくまで「出金するタイミング」です。手形の場合は決済日ということになります。
入金については、現在の収益構造や取引先との入金条件などによって項目を分けることになると思われます。
投資キャッシュ・フロー
何をもって「投資」かというのは難しく、会計基準や法人税法での固定資産とのなるものの支出と捉えるべきか、会計上で費用になるか固定資産となるかどうかは関係なく、およそ将来のビジネスのために必要な先行支出をすべて含めるか、それぞれのポリシーによって決めてよいと思われます。
財務キャッシュ・フロー
かなり先までほぼ確実に予定が組めるものが借入金の返済予定です。返済予定表などを見ながら固めていきます。
支出では同時点でありますが、元本返済額と利息は分けたほうがよいと思われます。
そして、スコッと抜け落ちがちなのが保証料です。重要な財務支出です。
中長期的な資金繰り予定表の構成
その枠組みは、ひとつのフォルダを作って、その中に次の2つのExcelファイルを作成し、フォルダ内でリンクをするというものです。
- 入金予定と出金予定を管理するExcelファイル
- (中長期的な)資金繰り予定表となるExcelファイル
「入金予定と出金予定を管理するExcelファイル」に将来の入金情報と出金情報を簡単に入力すると、「(中長期的な)資金繰り予定表となるExcelファイル」で数値が集計されるというものです。
具体的には、「入金予定と出金予定を管理するExcelファイル」のデータが、SUMIFS関数によって「(中長期的な)資金繰り予定表となるExcelファイル」に返されることになります。
ひとつのExcelファイルの中のシートでやってしまうと、シートが大量になるとデータの追加や修正に対してその反映状況を同時に確認できずいちいちスクロールしなければならず面倒です。そこでファイルを2つにすれば、データの追加や修正に対する反映状況を同時に確認できるのです。
それに、最終的にフォーマットが固まればピボットテーブルやマクロを最大限活用してもよいかもしれませんが、「何のための仕事なのか」「どこまでやればよいのか」が固まっていない段階では、シコシコ手作業でフレキシブルに作ったほうがよいと思われます。
何も考えずにソフトウェア開発会社に作らせたりすると、要件定義などで膨大な時間や高額な支払いが発生するわりにはあまり使えないことも少なくありません。
中長期的な資金繰り予定表の構成も千差万別ではありますが、次のようなイメージが考えられます。
- タテ(行)には項目
- ヨコ(列)には月
この場合、A列の行の項目の並びは次のようなイメージとなります。
- 前月繰越額(残高)
- 営業キャッシュ・フロー
- (収入)
- (支出)
- (収支差額)
- 投資キャッシュ・フロー
- (収入)
- (支出)
- (収支差額)
- 財務キャッシュ・フロー
- (収入)
- (支出)
- (収支差額)
- 次月繰越額(残高)
(収入)(支出)には、それぞれの実態に応じた項目を付します。
そして、B列以降に月を並べていきます。
日繰り予測のための「銀行口座別の資金繰り予定表」とは異なり、「(中長期的な)資金繰り予定表となるExcelファイル」では「日ごと&銀行口座別」ではなく「月ごと&内容(種類)別」で集計します。
また、「入金予定と出金予定を管理するExcelファイル」では日付(月)がタテ展開ですが、「(中長期的な)資金繰り予定表となるExcelファイル」では月がヨコ展開となるため、リンクさせるときに若干苦労するかもしれませんが、前回までのSUMIFS関数を使って数式をうまくリンクさせていきます。
中長期的な資金繰り予定表の使い方
実績値である決算とは異なり予定値であるため、作ればそれで満足というわけにはいきません。
作り込んでいくと、月末資金残高がマイナスになってしまうことがあります。
この場合は、次の3つの選択肢となります。
- 収入を増やす
- 支出を減らす
- 資金を調達する
どの選択肢を取るかは経営判断となります。
注意しなければならないのは、「収入を増やす」を選択した場合、収入はあくまで入金のため、例えば請求1ヶ月後に入金という取引の場合には、1ヶ月前に請求できること、請求のためには一般的にはモノの納品やサービスの完了が終了しなければなりません。それを踏まえて予定を組むことになります。
「資金を調達する」を選択した場合、金融機関からの借入れの場合は、その金額に応じた返済期間や利率を検討します。とくに返済期間はすなわち月々の元本返済額がいくらかを意味するため、キャッシュ・フローに少なからず影響を及ぼします。
経営計画への応用
よく経営計画というと、ただただ売上高を右肩上がりにして、それに合わせて費用を増やしつつも利益を右肩上がりにすることが一般的です。
ところが、売上高の増加率と同じく家賃が増加していたり、設備投資と減価償却費との対応関係がめちゃくちゃだったりなど、嘲笑せざるをえないものもあります。
先ほどコメントしましたが、資金繰り予定表は収入と支出の予定となっています。会計的にいえば現金主義です。
これを発生主義的に変更すればよいのです。
- 収入予定(のタイミング)を売上計上のタイミングに変換します。
- 支出予定(のタイミング)を費用計上に変換します。
- 減価償却費については、設備投資の支出予定(のタイミング)から設備投資の「取得」「事業供用」のタイミングに変換し、適切な耐用年数を用いて減価償却費を入れます。
- その他、会計的な思考を加えます。例えば保証料を期間配分したり、前受収益を期間配分したりです。
けっきょく経営はとどのつまりキャッシュ・フローなので、資金繰り予定表から経営計画を作り込めば、ある意味で地に足がついたものということができるのです。
( おわり )