( 1 )「入金前当日残高」という考え
資金繰り、特に日繰りを考える場合、前日の残高に当月の入金を加えて出金を差し引いたものが当日残高となります。
しかし、資金繰りの予定を立てる場合、口座振替(引き落とし)がある場合などは、たとえ当日の入金予定があるとしても、前日の残高では資金が不足するというメッセージになっているほうが実践的といえます。
そこで、当日の入金がある前の残高、すなわち、「当日入金前残高」という残高を用います。
手段が目的に
資金繰り(予定)表というと、様式というかひな型というかフォーマットがネット上でドバドバ出てきます。
しかし、資金繰りで重要なのは、「(人件費や仕入代金の支払いや借入金の返済など)どんな種類の支払いがあるのか」ではなく、「いついくらの支払いがあるのか」「その時に支払うおカネがあるのか」です。
事業所によっては、資金繰り表を作るのにものすごく時間と労力をかけていて、資金繰り表の作成自体が目的化しているのではないかと思うこともあります。
1つのセルの中にたくさん足し算を入れて、たくさんのコメントを付けたりしているのをしばしば見ますが、これでは作成者本人でさえチェックに時間がかかるおそれがあります。
また、実務上資金繰り予定表は最新月のコピペからスタートすることが多いと思われますが、月末が休日で翌月になっていたりすると、その修正で余計な時間を使ってしまうこともあるかもしれません。
とかく事務仕事そのものが好きな方は仕事が苦にならないため、時間がどんなにかかっても気にしない傾向があります。自分の仕事がすべて自己完結するだけならそれもありかもしれませんが、チームの業務の一部を構成している場合は、他のメンバーの仕事へのつながりが悪くなってしまいますし、自分の他の仕事も遅延してしまいます。一刻も早く正確に終わらせるようあくなき効率化を追求すべきです。
また、何がしたいのかもよくわからないまま予算が余っているからといって安易にソフトウェア開発会社に作らせたりすると、膨大な時間や高額な支払いが発生するわりにはあまり使えないことも少なくありません。
本稿の目指すところ
本稿では、特に下記の点を克服することを狙っています。
- 資金繰り予定表を作るのが大変で作成それ自体が目的化しているのを何とかできないか
- 借入金返済などの口座振替(引き落とし)があるので、その前に確実に資金移動できないか
- けっこうな数の預金口座があるが、残高推移を一目で管理できないか
- どの口座がいつ残高がマイナスになるのかパッと見でわかるようにできないか
具体的には、将来の入金情報と出金情報を簡単に入力することで、複数ある銀行口座の残高を日繰りベースで一覧表でチェックできるようにします。
「当日入金前残高」という概念
基本的に資金繰り表というと「前日残高」「当日入金」「当日出金」「当日残高」になります。
で、Excelで管理しようとする場合は次のような数式を入れることが一般的です。
- 前日残高+当日入金-当日出金=当日残高
前日の残高に当月の入金を加えて出金を差し引いたものが当日残高となります。
当然といえば当然ですが、もうひとつの式を考えてみましょう。
- 前日残高-当日出金+当日入金=当日残高
当日残高は同じなのですが、前日残高から当月の出金を差し引くほうが先になっています。
実は、口座振替(引き落とし)がある場合などは、たとえ当日の入金予定があるとしても、前日の残高では資金が不足するというメッセージになっているほうが実践的といえます。
そこで、当日の入金がある前の残高、すなわち、「当日入金前残高」という残高を用います。
- 前日残高-当日出金= 当日入金前残高
- 当日入金前残高 +当日入金=当日残高
「当日入金前残高」を資金繰りに組み込むことによって、たとえば、次のことを明確に意識できます。
- 「借入金の口座振替があるけどこのままだと残高が足りない」
- 「でもこの日は得意先から必ず入金があるからおそらく大丈夫」
- 「とはいえ午後に振り込んできたりするから不安なのでこのくらいの額を資金移動しておこうか」
使える資金繰り予定表の枠組み
銀行口座別資金繰り予定表の枠組みは、ひとつのフォルダを作って、その中に次の2つのExcelファイルを作成し、フォルダ内でリンクをするというものです。
- 入金予定と出金予定を管理するExcelファイル
- 銀行口座残高を管理するExcelファイル
「入金予定と出金予定を管理するExcelファイル」のデータが、SUMIFS関数によって「銀行口座残高を管理するExcelファイル」に返されることになります。
ひとつのExcelファイルの中のシートでやってしまうと、シートが大量になるとデータの追加や修正に対してその反映状況を同時に確認できずいちいちスクロールしなければならず面倒です。そこでファイルを2つにすれば、データの追加や修正に対する反映状況を同時に確認できるのです。
それに、最終的にフォーマットが固まればピボットテーブルやマクロを最大限活用してもよいかもしれませんが、「何のための仕事なのか」「どこまでやればよいのか」が固まっていない段階では、シコシコ手作業で試行錯誤したほうがよいと思われます。
( つづく )